第166回:静寂を得るための忙しい一週間



 悪いことは続くものだ。数年間動き続けた自宅サーバの電源がその寿命を終えたと思ったら、ファームウェアのアップデートにより安定するようになったブロードバンドルータBA-5000Proの調子も悪くなった。

 連日の暑さのせいか、それともVDSLの高速回線に変わったためなのか、2日に1度ぐらいの頻度でハングアップするようになった。元々、不安定な製品だったがアップデート後は落ち着いていたので残念。

 仕事にかかわることなので、すぐに新しいルータを買ってきたが、その中に入っているプロセッサにはPowerPC 603e 200MHzのコアが統合されているのだとか。アップルがCentris(68系Macのシリーズ)向けに配布したPowerPCアップグレードカード(601 66MHz)で原稿を書いていたこともある身としては時代を感じざるを得ない。

 と、そんな事を思いながら久々にPowerbookの電源を入れてみると、あることに気付いた。

●見えないところがこれほど違うとは

 以前も書いたかも知れないが、僕はWindows信望者でもMacintoshマニアでもなく、単に道具として便利な方を使うというポリシーしか持っていない。だからMacだから上質なんてことは話そうと思わないが、環境設定を頼まれた知り合いのPowerbook G3にヘッドフォンを差し込んで音楽を聴いてみたら、想像しているよりも遙かにマシな音が鳴り始めた。

 もちろん、ノートPCからの音だから音質を善し悪しで語るほどではないのだが、ひょっとすると製品によって大きく違うのでは? と思い、その時点で評価機を含めて自宅にあったPCに接続してみると、これが本当に大きく違うのだ。前述したPowerbookに加え、日本の家電ベンダーが作る製品は、おおむね比較的まともな音が出てくるようだ。

 たとえばソニーバイオノートNVや東芝Dynabook G5は、高音質とは言わないが十分に鑑賞できる音が出てくる。普段持ち歩いているDynabook SS S5も、それらよりは歪みを多く感じるものの、PCの動作ノイズ混入が少なく好印象。

 反対にデルInspiron 8200、コンパックEvo N200/N400Cあたりはヘッドフォンで聴いていると細かい音が聞こえなくなるなど全体的な印象が悪いばかりでなく、ハードディスクやグラフィック描画などに同期してノイズが音声出力に乗り、少々耐え難い状況になってしまう。また、高音質化ドライバがひとつのウリ文句になっているハズのビクターInterLinkも、意外なことに音声出力の品質は良くない。

 現在ほどコストダウンが進んだPCにおいて、どこまで音質のことまで気を遣っているかは、各社に話を聴いてみないことにはわからないが、少なくともちょっとヘッドフォンを繋いだだけで明らかに善し悪しを感じるほど製品間の差があることはわかった。

 音の善し悪しは、実際に普段聴いているソース、ヘッドフォンで比べないとわかりにくいため店頭では確認できない。またノートPC全体を評価するとき、音質を高い優先順位で評価する人も少ないだろうことを考えれば、さほどお金をかけていないことも、力を入れていないことも想像はできる。

 もし不満に感じたら、小型のUSBオーディオアダプタを探してみるといい。と、書きかけたものの、コンパクトで安価な、そしてヘッドフォンが接続できるUSBオーディオアダプタは思いのほか見つからない。

 カノープスのMD-Port XPが最も要求に近い製品だが、価格が少々高めなのがネックだ。USB扇風機で知られるイーレッツが発売した「Win-MX」はおよそ4,000円と安さが魅力だが、ラインレベル出力と光デジタルアウトしか持たない。この分野、なかなか決定打がない。

●移動中を静かに過ごすために

 音と言えばオーディオ機器に(ごくごく初期症状だが)凝り始めてしまってからというもの、ヘッドフォン自身の品質が気になって仕方がない。夜中に仕事をしている最中、音楽を聴こうとすると、どうしてもヘッドフォンになってしまうため、STAXという日本のメーカーが販売しているSRS-005という製品を買ってみた。

 この製品、耳の中に挿入して使うタイプであるため、長時間使うと耳が痛くなるのだが、音はすばらしい。もっと高価な製品ならば、さらに上質なものもあるが、ヘッドフォンアンプとセットで3万円程度ならば水準以上の品質と言える。

 もっとも、SRS-005は本体こそ軽量でコンパクトだが、専用ヘッドフォンアンプと共にしか利用できないため持ち歩きには適していない。そこで今度は出張の移動時に、なるべく静かに休め、疲れを軽減してくれるノイズキャンセリングヘッドフォンに手を出してみることにした。

 仕事などで移動を繰り返している人はよくわかるだろうが、移動時に長時間ノイズにさらされることで疲労感はかなり増幅される。飛行機の中で耳栓をするかしないかだけで、到着時の疲れ方はだいぶ違うものだ。

 ところがノイズキャンセリングヘッドフォンは数社から発売されているものの、実際にその効果を確かめられる店はほとんどない。結局普段行き来する地域では、試聴できるところを見つけることはできなかった。それじゃぁ「買ってしまえ」というわけで、手を出してみたのだが、これがなかなか……泥沼状態に入り込む原因になってしまった。

●高音質なノイズキャンセリングヘッドフォンはない?

 最初に購入したのは折りたたみ可能なソニー製密閉型ヘッドフォンのMDR-NC20。実売価格は9,500円程度だったように思う。低域ノイズを1/3にカットするという触れ込みだ。使ってみると、確かに周囲のノイズが低減され、屋外でも小さめの音量で十分音楽を楽しめる。しかしオススメはしない。理由は2つ。

 まず音が非常に悪い。ちょっと聴いただけでガックリと来るような、ただただ鳴っているだけの音で、音楽の表情など全く映し出さない。全体的な作りも安っぽく、ここまで酷い音に1万円を支払う価値はないと思う。また肝心のノイズキャンセリング機能に関しても、ノイジーな環境下で音楽を浮かび上がらせる効果はあるが、移動時に静かな環境を提供してくれるほど効果的ではない。

 次に松下電器のRP-HC100という製品も手に入れてみたが、こちらも基本的にはNC20と同じ感想。価格も同程度だが、品質もやはり同程度だ。1万円程度のノイズキャンセリングヘッドフォンはこの程度が平均的な品質なのかもしれない。

 そこで今度は少し方針を変えて、MDR-NC11を買ってみた。この製品の一世代前にあたるMDR-NC10は、AV Watchにもレビュー記事が掲載されている。

 基本的な性能はほぼ同じらしいが、期待したのはイヤホンというよりも“耳栓”としての効果である。耳栓と同じように耳を塞ぎ、その上でノイズキャンセルもしてくれれば、かなり快適だろうと考えたわけだ。

 実際に使用してみると、ノイズキャンセリングと耳栓効果の相乗効果でかなり期待に近い性能を発揮してくれた。NC20との差は耳栓として機能しているか否かだけであるため、これを「ノイズキャンセリング機能のおかげ」と評価していいものか迷うところだが、少なくとも前者二つよりはかなり“マシ”だ。ただし音質は低域と高域の元気がやたらと良く、全体的な音のバランスはあまり良くない。

 そもそも耳栓効果でノイズが減る、というアプローチでいいのであれば、価格は高いが耳栓型イヤホンで最も音質評価の高いEtymotic ResearchのER-4シリーズの方が投資の価値アリと見る。少なくとも不満を感じながら3機種を短期間に購入したことを考えれば、決して高くはない。

 また、今のところは踏みとどまっているが、1万円前後のノイズキャンセリングヘッドフォンに比べると、BOSEが販売しているQuiet Comfortはずっと高い快適性を提供してくれる。この製品はスタパ斉藤氏がケータイWatchで紹介していたので、そちらで見かけて知っている人も多いはずだ。

 僕はQuiet Comfort自体は使ったことがないのだが、まだ市販される前にほぼ同仕様のノイズキャンセリングヘッドフォンをアメリカン航空が乗客向けに貸し出していたのを利用したことがある。

 国産の製品と比較すると人の声が聞き取りにくくなるものの、ノイズキャンセリング機能自体の効果はかなり高く、飛行機の中で落ち着けるだけの静寂を得ることができたのを記憶している。ノイズキャンセリング機能に満足できるのは、これまで使った中ではこの機種ただひとつだけと言っていい。少々かさばるのが難点だが、それを補って余りある性能的なアドバンテージがある。

 ただ、Quiet Comfortのメーカー直販で39,800円という価格は少々高いと言わざるを得ない。前述のER-4シリーズよりは低価格だが、Quiet Comfortはそれよりもずっと音質が落ちる。NC20などと比べるとQuiet Comfortは高音質だが、さりとて約4万円の価値を見いだせるだけの音を提供してくれることもない。

 高音質なノイズキャンセリングヘッドフォンは今のところ無いというのが、僕の結論。その点にコダワリがないのであれば、Quiet Comfortは非常に良い製品だが、音質を求めるのであれば別の選択肢を選ぶことを勧める。

 どこかに静寂と高音質の両方を得られる製品はないものだろうか?


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【4月2日】【藤原】ノイズキャンセリングイヤフォンの新製品(AV)
前モデルからナニが変わったの?「ソニー MDR-NC11」
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20020402/saki56.htm
【2月18日】ケータイWatch スタパトロニクス(ケータイ)
雑音をオフ!! リスニングを快適に「BOSE Quiet Comfort」
http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/stapa/0,,8266,00.html

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(2002年8月13日)

[Text by 本田雅一]


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