●この夏オススメのビデオカードは?
どうやらこの夏は、ビデオチップが豊作のようだ。MatroxのParhelia、SiSのXabre、そしてATIのRADEON 9000/9000 PROと、次々に新製品が投入されている。「夏」に間に合うかは微妙なところだが、同じくATIからはハイエンド向けのRADEON 9700が8月下旬~9月上旬あたりをターゲットにリリースされるハズだし、TridentもデスクトップPC向けにXP4を発表した。一時はベンダの数が減って、NVIDIAとATIの2社に集約されてしまうのではないかと懸念されたものだが、ここにきて賑わいが戻った感がある。
色々なベンダの様々なチップと、それをベースにしたビデオカードが入手可能になるのは大変結構なことだが、反面、その中から何を選ぶのか、が難しくなる。特に今年のように、何かのイベントをきっかけに一斉に発表されるのではなく、ダラダラ(?)と発表されると、何を買うか非常に悩ましい。
筆者は個人的には、この夏商戦の主役をNVIDIAのGeForce4 Ti 4200だと思っていた。6月中旬から7月上旬の日本の夏商戦に間に合うように新しいビデオチップをリリースできたのがNVIDIAだけであり、そのNVIDIAのラインナップの中ではGeForce4 MXシリーズに魅力が乏しかったからだ(GeForce4 Tiシリーズにはない互換性の問題もある)。その一方で、ゲーム市場は活況を呈しているとは言いがたく、4~6万円もするGeForce4 Ti 4600シリーズの購入を促すようなタイトルに欠ける。となれば、GeForce4 Ti 4200あたりが落しどころとして相応しいのではないか、と考えたわけだ。
ところが、日本の夏商戦が終わったあたりから、冒頭に記したような新しいビデオチップのリリースラッシュとなった。このタイミングで新しいビデオチップをリリースしても、日本の夏商戦には間に合わないが、米国の新学期セール(Back To School Sale)のリテール市場にはギリギリ滑り込むことが可能だ。また、大手PCベンダの年末商戦向けモデルのOEMを獲得するには、そろそろ実製品がなければ間に合わない、というタイミングでもある。ここにきて、ビデオチップのラッシュになったのは、こうした事情を踏まえてのものだろう。
いずれにせよ、これだけ新しいビデオチップが登場してくると、市場の勢力分布図も塗り変わろうというもの。現時点でのベストバイについて見直す必要がでてきた。冒頭で触れたうち、ParheliaやRADEON 9700といったハイエンド向けのチップは、確かに性能は良いし、機能的な目新しさもあるが、一般ユーザー向けのソフトウェアタイトルとなると、当面先のことになりそうだ。現在リリースされているゲームは、ようやくDirectX 8に対応したものが出始めたところで、DirectX 8.1対応ゲームは年末あたりからと予想される。ParheliaやRADEON 9700が真価を発揮するであろうDirectX 9は、それに対応したゲームどころか、ランタイムすらリリースされていない。おそらくはDirectXのベータプログラムに参加しているであろう、ゲームデベロッパはこのクラスのビデオカードを必要とするだろうが、一般ユーザーが5万円近い価格を正当化することは難しいだろう。となると、注目すべきはRADEON 9000/9000 PROとXabreということになるが、Xabreはすこし前に取り上げたので、ここではRADEON 9000/9000 PROについて触れてみることにしよう。
●3モデル? 用意されたRADEON 9000シリーズの違い
RADEON 9000とRADEON 9000 PROは、これまでATIのハイエンドチップであったRADEON 8500の機能の大半を維持した上で、メインストリーム向けに一部機能の簡素化をはかったもの。ハードウェア的にはDirectX 8.1世代に属する。つまり、DirectX 8.0から導入されたプログラマブルシェーダに対応したハードウェアということで、基本的にDirectX 7世代のハードウェアであるGeForce4 MXシリーズより3Dグラフィックスの機能という点で上回る。プログラマブルシェーダのうち、Pixel Shaderのみをハードウェアでサポートした(つまりVertex ShaderがCPUによるソフトウェアエミュレーションである)Xabreよりも機能的には上である。3Dグラフィックス以外の機能という点でも、RADEON 9000/9000 PROがTVエンコーダとTMDSトランスミッタを内蔵するのに対し、GeForce4 MXとXabreは内蔵しないという違いがある(GeForce4 MXは発表時の資料によると内蔵しているハズだったのだが、うまく動作していないようだ)。
一方、RADEON 9000とRADEON 9000 PROの違いは、グラフィックスコアとメモリバスの動作クロックで、機能的な違いはない(具体的なクロックについては後述の表を参照)。さらに、一部ベンダはRADEON 9000よりもさらにメモリバスクロックを下げたバージョンを市販している(台湾のカードベンダであるPower Colorの表記に従えばRADEON 9000 XT)。つまり、現在市場には、RADEON 9000シリーズを搭載したビデオカードとして、3種類のグレードが存在することになるが、今後も増えるかもしれない。
ATI純正のRADEON 9000 PRO搭載カード | SAPPHIRE製RADEON 9000搭載カード | 玄人志向ブランドのPower Color製RADEON 9000 XT搭載カード |
また、カードの実売価格だが、上記3種のうち、RADEON 9000 PROだけは明確に価格面での差別化が図られているが、現時点での秋葉原の実売価格では、RADEON 9000とRADEON 9000 XT間の価格差は必ずしもハッキリとしたものではない。これは流通段階においてRADEON XTの仕様について、若干の混乱があるためとも思われ、今後はある程度の価格差が設けられることになるだろう。なお、表に示した価格のうちRADEON 9000 PROはATIの純正カード(米国版の平行輸入品)のもので、サードパーティブランドであれば15,000円程度で入手可能となっている。この価格はGeForce4 MX 460搭載カードとほぼ同等であり、GeForce 4 Ti 4200搭載カードより5,000円近く安い。現状の価格(差)が維持されるのであれば、RADEON 9000シリーズのお買い得感は高い。
●実際のパフォーマンスは?
SiS Xabre 400搭載ビデオカード |
もちろん、実際のコストパフォーマンスは性能を抜きには語れない。ここでは、3種類のRADEON 9000シリーズカードに加え、以前取り上げた際ベンチマークテストを省略したXabre 400について、簡単なベンチマークテストを実施してみた。
【マシン構成】
・CPU:Pentium 4 2.53GHz
・メモリ:512MB PC800 RDRAM
・HDD:Seagate Barracuda ATA IV
・マザーボード:Intel D850EMV2
・OS:Windows XP Professional
・解像度:1024x768x(32bit/85Hz)
RADEON 9000 PRO | RADEON 9000 | RADEON 9000 XT | Xabre 400 | |
カードベンダ | ATI | SAPPHIRE | Power Color | Joytech |
コアクロック | 275MHz | 250MHz | 250MHz | 250MHz |
メモリクロック | 550MHz | 400MHz | 366MHz | 500MHz |
ビデオメモリ | 64MB | 64MB | 64MB | 128MB |
実売価格 | 2万円弱 | 1万円前後 | 1万円弱 | 1万3000円前後 |
3DMark2001 SE | ||||
3D Marks | 7,827 | 6,786 | 5,557 | 7,609 |
GAME 4 | 39.2fps | 30.9fps | 22.6fps | 25.5fps |
Fill Rate (Single Texturing) |
682.4 MTexels/sec |
537.7 MTexels/sec |
377.5 MTexels/sec |
452.3 MTexels/sec |
Fill Rate (Multi Texturing) |
1,085.4 MTexels/sec |
983.5 MTexels/sec |
979.9 MTexels/sec |
1,668.3 MTexels/sec |
Vertex Shader Speed | 65.0fps | 56.6fps | 48.4fps | 53.2fps |
Pixel Shader Speed | 112.3fps | 93.8fps | 71.8fps | 29.6fps |
Quake III | ||||
Demo002(OpenGL) | 171.0fps | 144.0fps | 110.9fps | 184.7fps |
Dungeon Siege | ||||
(DirectX 8) | 45.15fps | 36.29fps | 33.13fps | 27.82fps |
逆に、Xabre 400は、Multi Texturing時のFill RateとQuake IIIのスコアで優れているのが目につく。ひょっとすると、Quake IIIを意識したハードウェアなのかもしれない。Vertex Shaderのスコアは悪くないが、これはテストマシンが現時点で最も高速なPentium 4 2.53GHzを用いていることが大きく貢献している。CPUのクロックが下がれば、ストレートにこのスコアも低下するハズで、この点に注意が必要だ(ただ、長期的に考えるとVertex Shaderをどちらで処理するべきなのか、という議論はあるかもしれない)。
Xabre 400の弱点としては、以前も述べた通り、Pixel Shaderの性能が振るわないことが挙げられる。DirectX 8対応ゲームであるDungeon Siegeのスコアも伸びないことからすると、今後登場してくるであろう、新しいゲームへの対応性という点で、RADEON 9000シリーズに見劣りする可能性が高い。ただ、現状のゲームについてはXabre 400がRADEON 9000 PROを上回ることもあるわけで、なかなか微妙なところだ。
●気になるアナログ出力性能
このテストをしていて性能以外で気づいたことは、ビデオカードのアナログRGB出力にバラつきが見られたことだ。端的に言ってしまえば、今回使用した玄人志向ブランドのPower Color製RADEON 9000 XT搭載カードは、画面解像度が1,024×768を超えると、著しく画質が低下してしまった。
今回ここで用いたカードは、筆者が普通に秋葉原で購入したものであるため、個体不良や初期不良の可能性も否定できないのだが、アナログ的な画質については、一般にどこまでが良品でどこからが不良品であるかのガイドラインがハッキリしないため、判断がつきかねる。
また、玄人指向というブランド自体が「電話・FAX ・メールでのサポートを一切行わないことで極限までコストを切り詰めました」と宣言している、やや特殊な商品であることも忘れてはならないだろう。
こうした部分での保証、あるいは安心感を考えると、やはりBuild By ATI(ATI純正カード)の存在意義はあると筆者は感じる(どれくらいの人が、そこに5,000円弱の価値を見出すかは難しいところだが)。
ATI RADEON 9000 PRO |
SAPPHIRE RADEON 9000 |
Power Color RADEON 9000 XT |
アナログインターフェイス部 | ||
Power Colorのボードは一部の信号系にCRが入っていないなど低コスト指向が伺える | ||
スクリーンショット | ||
筆者は、アナログの道を極めるより、ディスプレイインターフェイスのデジタル化を推進した方が良いと思っている。デジタルインターフェイスとして、現時点で最もポピュラーなDVIは、シングルチャネルでの帯域の問題、デュアルチャネル以上での価格の問題、さらには互換性の問題など、様々な問題が指摘されており、決してパーフェクトではない。だが、それでも将来的に進むべき道はこちらではないかと考えている。そういう意味でも、RADEON 9000シリーズがTMDSのトランスミッタを内蔵し、1万円を切るようなカードからDVI出力を標準としているのは、望ましい方向性のように思える。
と、話が脱線してしまったが、RADEON 9000 PROおよびRADEON 9000は、この価格帯としては性能と機能のバランスという点で、非常に優れており、近い将来に登場するであろうゲームタイトルへの適応性という点でも不安が少ない。現時点でのベストバイと言っても良いかもしれない(あとは、RADEON 9000 PROの登場でGeForce 4 Ti 4200の価格にどのような影響が現れるか、だが)。
ただ、アナログ的な画質には、ベンダごとにバラつきがある可能性があるので、評判などを聞いたうえでカードを選んだ方が良い。本当は「評判」などというあいまいな基準を持ち出したくないのだが、アナログインターフェイスを使う限りは止むを得ない、ということで了承していただきたい。
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http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0724/hotrev169.htm
(2002年8月9日)
[Text by 元麻布春男]