サードパーティ初のDRDRAM対応チップセット「SiS R658」登場
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SiS R658を搭載したマザーボード |
チップセットベンダのSiS(Silicon Integrated Systems)は、本日台湾で行なわれたRambus Developers Forumの会場において、SiS初のDirect RDRAMサポートチップセット「SiS R658」を発表した。
SiS R658は、1066/800MHzのDirect RDRAMをサポートし、533/400MHzのPentium 4システムバス、AGP 8Xなどの仕様をサポートしている。今回、このSiS R658を搭載したリファレンスマザーボードを手に入れたので、その詳細および性能について紹介していこう。
なお、今回のレビューに利用したのは、筆者が独自に入手した開発中のバージョンであり、SiSが公式に配布しているリファレンスマザーボードではない。このため、実際に出荷されるものとは違う可能性があることをお断りしておく。
●2チャネルPC1066、533MHzシステムバス、AGP 8Xなど最新の機能をサポート
SiS R658は、ノースブリッジのR658とサウスブリッジのSiS963から構成されている。ノースブリッジとなるR658の特徴は、Intel以外のPC向けチップセットとして初めてDirect RDRAMをサポートしていることだ。これまで、Direct RDRAMの弱点の1つとして、Intelのみのサポートで、それ以外の選択肢がないということがあげられていたが、SiS R658の登場で、その壁が破られることになる。
SiS R658のスペックは、PC1066、PC800に対応し、PC1066/800に関してはtRACが-32/40、つまり32/40nsのものだけでなく、-35/45つまりは35/45nsのPC1066/800もサポートしている。また、Direct RDRAMのバンク数を32バンクから4バンクに少なくすることで、ローコストで製造できるようにした4i(4 Independent bank)アーキテクチャのDirect RDRAMもサポートしているため、より安価な構成とすることも可能だ。
ただし、現在4iに関しては積極的に取り組んでいるのはSamsungぐらいであり、実際にPC用として出回るかどうかは不透明だ。なお、システムバスは、533/400MHzに対応している。
また、AGPはAGP 8X対応となっている。既にAGP 8X対応チップセットとしてはP4X400が出回っており、SiSもSiS648、SiS746などで続く予定となっているが、このR658に関してもAGP 8Xモードがサポートされる。AGP 8Xモードは、AGP 4X(266MHz=66MHzの4X)の倍のデータレートである533MHz(66MHzの8X)を実現するテクノロジで、帯域幅がAGP 4Xの倍となる2.1GB/secとなる。
P4X400のレポートでもお伝えしたように、現在のような3DアプリケーションではAGP 8Xである効果はあまり大きくない。だが、P4X400の記事でも述べたように、近い将来、AGPバス帯域を大幅に使うような3Dアプリケーションが登場する可能性もあり、将来への備えという意味では意味がありそうだ。
SiSのSiS R658 | SiSのXabreを挿すと、AGP 8Xモードで利用できる |
●サウスブリッジにはMuTIOL 1Gに対応したSiS963
R658のサウスブリッジにはSiS963が利用される。SiS963は現在SiS645DXなどに利用されているSiS961Bの後継で、USB 2.0への対応、3ポートのIEEE 1394などの機能拡張が行なわれているほか、ノース・サウス間がMuTIOL 1Gと呼ばれる1.06GB/secの帯域幅を実現する専用バスで接続されている。
従来のMuTIOL 533は266MHzで動作していたが、MuTIOL 1Gで533MHz(133Mzの4X)にデータレートが上げられ、より高い帯域幅を実現している。これにより、サウス側に、USB 2.0(480Mbps=60MB/sec)、IEEE 1394a(400Mbps=50MB/sec)などの高速なデバイスを接続しても、帯域幅が足りないという心配がなくなる。
なお、このほか、SiS961Bと同じように、2チャネルのUltra ATA/133コントローラ、SiSのMAC(Ethernetコントローラ)、6バスマスタのPCIバス、AC-LINKなどの機能が用意されており、現在のチップセットのサウスブリッジとして必要な条件をすべて満たしていると言ってよい。
MuTIOL 1Gに対応したSiS963 | SiS963はUSB 2.0、IEEE 1394などを標準でサポートしている |
●パフォーマンスの面では今後のチューニングに期待
今回はR658のリファレンスマザーボードを利用して、R658のパフォーマンスに迫っていきたい。
今回筆者が入手したのは、SiSが自社の顧客などに配布している評価用のマザーボードで、まだ出荷レベルには達していないものだ。このため、今回の結果はあくまで参考値であり、実際の製品では異なった結果となる可能性があることをお断りしておく。
また、今回のリファレンスボードでは、どのモジュールを差しても強制的に1066MHz駆動とされてしまったので、PC1066を利用してテストした。このリファレンスマザーボードはRIMMのSPDを読まずに、BIOSセットアップで設定したパラメータでRIMMのパラメータ設定を行なってしまう仕様になっているようだ。
なお、tRACの設定などの項目は、BIOSセットアップに用意されていなかった。そのため、Direct RDRAMのパラメータがどのような設定になっているのかは不明だが、メモリ自体はPC1066-32を利用した。
結果はグラフ1~グラフ5の通りで、比較対象としてIntel 850E+PC1066、Intel 850E+PC800、Intel 845G、Intel 845E、SiS645DX+PC2700、P4X400+PC2700という組み合わせの結果を掲載しておく。環境は以下の通りで、テスト結果はグラフ1~5の通りだ。
【テスト環境】チップセット | SiS645DX(PC2700) | P4X400(PC2700) | Intel 845E(PC2100) | Intel 845G(PC2100) | Intel 850E(PC800-40) | Intel 850E(PC1066-32) | SiS R658(PC1066-32) |
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マザーボード | ASUS P4S533 | VIA P4PB | Intel D845EBG2 | Intel D845GB | ASUS P4T533-C | ASUS P4T533-C | SiSリファレンス |
チップセットドライバ | SiS AGP 1.10 | 4in1 v4.40 | 4.00.1003 | 4.00.1003 | 4.00.1003 | 4.00.1013 | SiS AGP 1.10 |
メモリ | DDR SDRAM | DDR SDRAM | DDR SDRAM | DDR SDRAM | Direct RDRAM | Direct RDRAM | Direct RDRAM |
メモリモジュール | PC2700(2.5-3-3) | PC2700(2.5-3-3) | PC2100(2-2-2) | PC2100(2-2-2) | PC800-40 | PC1066-32 | PC1066-32 |
容量 | 256MB | ||||||
CPU | Pentium 4 2.40GHz | ||||||
ビデオチップ | NVIDIA GeForce3 | ||||||
ビデオドライバ | NVIDIA Detonator XP(v28.32) | ||||||
サウンドチップ | YAMAHA YMF754-R | ||||||
Ethernet | Intel PRO/100+ マネージメントアダプタ | ||||||
ハードディスク | IBM DTLA-307030 | ||||||
フォーマット | NTFS | ||||||
OS | Windows XP Professional |
【グラフ1】 |
グラフ1はメモリの帯域幅を計測するStream for DOSによる結果だ。テスト結果は順当に、Intel 850E+PC1066に近い結果となった。同じメモリを利用しているだけに、ひとまずメモリ周りに関してはIntel 850Eにかなり近いパフォーマンスを発揮していることがわかる。
R658では、PC1066のtRAC設定は35nsと32nsの両方の設定ができるのだが、今回のテストではどちらに設定されているのかは確認できなかった。そのため、もしかすると35nsの設定になっているかもしれず、きちっとした設定を行なえばもう少しパフォーマンスがあがる可能性があることを追記しておきたい。
【グラフ2】 |
グラフ2、3はBAPCoのSYSmark2002の結果だ。オフィスアプリケーションを利用するときの性能を示すOffice Productivityと、コンテンツ作成系アプリケーションを利用している時のパフォーマンスを示すInternet Contents Creationの2つのテストがある。
ここでは、R658はIntel 850E+PC800-40に若干劣る性能しか発揮できていない。Internet Contents Creationに至っては、Intel 845G+PC2100に若干劣っている。
【グラフ3】 |
【グラフ4】 |
グラフ4、5は3D系アプリケーションベンチマークの結果だ。いずれのテストでも、R658はIntel 850E+PC800よりも劣り、Intel 845G+PC2100と同程度の結果となっている。
【グラフ5】 |
以上の結果から言えるのは、メモリ周りに関してはIntel 850Eに迫る結果を残しているが、実際にシステムとなった時には若干の改善の余地があるということができるだろう。
●普及するかどうかはDRAMベンダのDirect RDRAM価格戦略次第
結論として、システム全体の性能は今ひとつというところだが、これは開発途上にある製品であるためで致し方ないだろう。メモリ周りに関しては、すでにIntel 850Eに迫る性能を発揮しており、今後各部のチューニングなどが進んでいけば、Intel 850Eに迫る性能を発揮するポテンシャルは持っている。パフォーマンスについては、製品版が登場したときに再度評価していきたい。
さて、R658を評価する上で最も難しいのは、今後PCにおけるDirect RDRAMの位置づけがどうなっていくのかという点だ。現在、IntelはDirect RDRAMをハイエンド向け、もしくはワークステーション向けと位置づけており、それを反映してDirect RDRAMを搭載したメモリモジュールの価格も高止まっている。
例えば、先週末付けのAKIBA PC Hotline!によれば、秋葉原におけるDDR266を搭載したPC2100(CL=2.5) 256MB 1枚の平均価格は7,000円だが、PC800-40の128MB 2枚の平均価格は12,158円となっている。実に5,000円程度の価格差がある。
こうしたことから、Direct RDRAMがPCのメインストリームになるのは難しいと考えるのが妥当だと思うのだが、そのため、R658のポジションはどこにあるのかというところが問題になる。
R658を搭載したマザーボードはIntel 850E搭載マザーボードよりも安価となる可能性が高い。だとすると、ターゲットはIntel 850Eよりやや広く、メインストリームユーザーからハイエンドユーザーまでとなるだろう。
だが、既に述べたようにDirect RDRAMの価格は、DDR SDRAMに比べて高いレンジにとどまっており、これがメインストリームのユーザーにもフィットするかと言われれば、難しいところである。これを打破するには、DRAMベンダがDDR SDRAM並にRDRAMの価格を下げるような戦略をとる必要があるだろう。それが、R658のポジションを構築するための大前提と言える。
このように、R658は市場性という意味では、DRAMベンダのDirect RDRAMに対する戦略次第だが、エンドユーザーにとっては、新しい選択肢が増えたという点で歓迎していいだろう。特に、PC800-45も利用可能であるので、既にPC800-45をたくさん所有しているユーザーで、システムバス533MHzのPentium 4を使ってみたいというユーザーであれば、注目すべき製品となるだろう。
□バックナンバー(2002年7月31日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]