第163回:上り速度増加で変わった無線LANアクセススポットの使い方



 洋の東西を問わず、無線LANアクセスの話になると目を輝かせる人が多い。今日も、とある米国人マーケッターに依頼されていた企業向けニューズレターの打ち合わせで無線LANアクセスの話が出たのだが、他の話題の時にはビジネスライクなのに話が無線LANアクセスの方へと向き始めると、爛々と目を輝かせて期待を口にした。

 もっとも、外出先で手軽に高速なインターネットアクセスを行なえるようになることが、それだけでも便利であるとは言え、Webやメールに使うだけなら、安価で高速なワイヤレスWANでしかない。たとえばAirH"がレイテンシの問題を解決し、速度も512KBpsぐらいになったとしたら(レイテンシ問題の解決には時間がかかると思うが)、無線LANアクセスへの期待は今ほどに高まりはしないだろう。ブロードバンドコンテンツが充実したとしても、それをわざわざ出先で積極的に利用するストーリーを描くのは難しい。

 しかし、インターネットのコンテンツを扱うだけでなく、様々な場所へのセキュアなリモートアクセスを可能にすれば、よりその価値は高まってくる。ビジネスはもちろん、自宅での利用に関してもだ。

●VPNの利用価値を高めた無線LANアクセススポット

 本連載の141回目に日本IBMのインタビューを元にしたコラムを書いたが、その中で日本IBMが社内ネットワークへのVPNアクセスを社員向けにサポートし、インターネットを通じてどこでも社内と同じように仕事が進められる環境を運用、顧客にも提案しているという話を紹介した。

 VPNを利用したワークスタイルの変革を目指すマーケティング活動は、日本だけではなく全世界的に行なわれているそうだ。ニューヨーク州の本社などでは、通勤用自家用車の数によって税額が変わるなどの制度もあり「今日は会社に来なくていいから、自宅で仕事をしてくれ」なんてこともあるそうだ。

 無論、出勤しなくともいいワークスタイルを実現するには、PCだけで仕事が進められる職種でなければならないわけだが、用途さえ合えば時間の無駄、エネルギーの無駄など、様々な無駄を省くことができる。インターネットを通じて企業ネットワークにアクセスするには、セキュリティ面での対策も不可欠になってくるが、くだんのコラムにも書いたようにワンタイムパスワードを利用する方法以外に、ハードウェアのセキュリティチップをPC内に埋め込むことでセキュリティレベルを上げる取り組みが既に進んでいる。

 インターネット上を流れるデータのセキュリティさえ確保できれば、無線LANを通じてアクセスしても大丈夫。ということで、一部の日本IBM社員は今日も都内某所にある無線LANアクセススポットでお仕事に勤しんでいるようだ。何しろ家族のフォトフレームやステーショナリーグッズ、ACアダプタなどお仕事グッズ一式を、行きつけのインターネットカフェに預けてあるというのだから、筋金入りのモバイルワーカーたちだ。

 外出することが多いマーケティング担当者にとってみれば、会社と取引先との間を往復するよりも、近くの無線LANアクセススポットで仕事を続ける方がずっと効率がいい。僕も秋葉原周辺に行くときは、そのままガード下にあるNEPPALAで静かに原稿を書いたり、それ以外の場所では様々な無線LANアクセススポットに立ち寄ったり。僕自身はまだ会員になっていないのだが、コクヨが運営するDESK@なども、今後店舗が増加すればビジネスの中継地点として有用な場所になってくるだろう。

 レンタルオフィスやインターネットカフェであれば、通常のLANでVPNを通じて社内ネットワークにアクセスすればいい。しかしこれに無線LANアクセススポットが加わることで、アクセスできる場所の幅と数が拡がり、VPNの利用価値はさらに高まっている。

 と言って、自分勝手に社内のVPNサーバを立ち上げることは出来ない。ボトムアップのムーブメントを起こすためには、とにかく自分で便利さや必要性を色々なところに話すことだろう。トップダウンでの導入を目指したマーケティングも、日本IBMのみならず様々なソリューションベンダーが行なっているから、言い続けていればあなたの会社にも導入されるかもしれない。しかし、何も言わなければ何も変わらないのが世の常だ。

●上り速度の増加で大きく変化した自宅へのアクセス

 今さらこんな話をしたのは、自宅のインターネットアクセスラインが高速化されたためだ。これまで利用していた8MbpsのADSL(実効速度では下り4Mbps、上り850Kbps程度だった)から、NTT-MEが提供するFTTB(Fiber To The Building)になり、構内速度が上り下り対称の15Mbps(スペック上は最大18Mbps)になったためである。

 我が家の場合、このFTTBインフラを約50のインターネットサービス利用世帯で共用している。光ファイバーはBフレッツで、(非公開だが)おそらくは地域IP網からWAKWAKのBフレッツ中継点を通じてインターネットへと接続されているようだ。速度に関してはほとんど期待していなかったのだが、(今のところは)ほとんどの場合でほぼフルスピードの14Mbps、混んでいる時でも9Mbps程度は出ているようだ。このくらいになってくると、アクセス先のトラフィックの方が、アクセスラインの速度よりもよほど快適さに影響する。

 また下り速度は時間帯によって速度の振れ幅は大きいものの、上り速度は非常に速い。フルスピードの15Mbps近い速度が、ほとんど常時出てしまう。この上り速度増加で、外出先での仕事のスタイルを大きく変えることになった。

 元々、Windows 2000やWindows XPに備わっているVPNサーバ機能を用いて、自宅のネットワークにアクセスする環境は作っていたのだが、せいぜい外出している間に入ったスケジュールを確認したり、出張中に届いたFAXデータをダウンロードしたり、といった使い方だった。しかし、上り速度の増加により、無線LANアクセススポットなど高速なインターネットアクセス手段を利用している時は、自宅の作業用デスクトップPCに直接リモートデスクトップで接続する機会が多くなった。数Mbpsも出ていれば、いくらレイテンシがあるとは言え、かなり快適に出先から自分のPCが利用できる。ADSL時代とは大きく異なる可能性を感じる差だ。

 試しにと256Kbps程度の音楽ファイルを再生してみると、ADSL時代は途切れがちだった音楽がスムースに再生される(念のため記しておくが、VPN接続なので音楽を公衆送信しているわけではない)。こうなってくると、ソニーのGigaPocketサーバや東芝のTransCubeなども試したくなる。ワールドカップ開催期間中、この環境があったなら、何かの理由をつけてTrans Cubeを買い、取材先の近くからPCを使ってテレビを見ていたかもしれない。実際、ハードディスク上に記録しておいた2MbpsほどのMPEG-2ファイルをリモートで再生してみたところ、多少の駒落ちはあるもののそこそこの品質では再生できた。これはそのうち、試して見ねばなるまい。

 固定IPアドレスをもらえるFTTB業者がないという問題も、今のところダイナミックDNSと、sarad氏のダイナミックDNS自動更新ツール「DiCE Dynamic DNS Client」で問題なく利用できている。

 自宅に限らず、自分がいつも利用しているPCネットワークの環境へと、ダイレクトに、しかも高速に接続できると様々な使い方が生まれてくる。まるで書斎にある資料や本を、インターネットを通じて手にするような感じだ。バーチャル書斎といったところか。ADSLで下り速度が速くなったが、上り速度は今ひとつ。今後、上り速度も高速化されてくれば、無線LANアクセススポットやインターネットカフェ、レンタルオフィスなどの使われ方も大きく変わってくるのではないだろうか。


□Giga Pocket製品情報
http://www.vaio.sony.co.jp/Misc/Gigapocket/
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http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0520/toshiba.htm

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(2002年7月24日)

[Text by 本田雅一]


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