ATIがDirectX 9に対応したVPU「RADEON 9700」をリリース
~メインストリーム向けのRADEON 9000も同時発表

RADEON 9700はGPU(Graphics Processing Unit)ではなく、VPU(Visual Processing Unit)
7月18日(現地時間)発表

会場:サンフランシスコ Fairmont Hotel

 ビデオチップベンダのATI Technologiesは記者会見を開催し、これまで“R300”のコードネームで呼ばれてきたDirectX 9対応ビデオチップを「RADEON 9700」としてリリースしたことを明らかにした。また、同時にメインストリームからローエンドまでをカバーした廉価版として“RV250”のコードネームで呼ばれてきた「RADEON 9000」も発表された。


●ビデオチップは「GPU」から「VPU(Visual Processing Unit)」へ

 「RADEON 9700は、グラフィックス、イメージ、そしてビデオのすべてを処理するVisual Processing Unit、つまりはVPUだ」。

 RADEON 9700を披露したATI Technologiesのジョウェル・スッキデル-ウェブ氏は、RADEON 9700を「VPU」という新しいカテゴリの製品であると説明した。というのも、今回発表されたRADEON 9700は、今年の秋にもMicrosoftが投入すると言われているDirectX 9でサポートされる新しいファンクションをいくつも取り込んでいるからだ。

RADEON 9700

 DirectX 9では、プログラムが可能なバーテックスシェーダ2.0、ピクセルシェーダ2.0をサポートし、3Dの表現力を大幅に高めているほか、動画の処理などにおいても機能強化が図られている。

 RADEON 9700ではこれらのDirectX 9の機能を先取りして取り込まれている。例えば、SMARTSHADER 2.0と呼ばれるプログラム可能なバーテックスシェーダ、ピクセルシェーダは、いずれもDirectX 9でサポートされる予定のバージョン2.0に対応しており、高い3D表現力が特徴となっている。

 さらに、VIDEOSHADERと呼ばれる新しい機能では、ピクセルシェーダがビデオデータを扱えるようになり、ピクセルシェーダによりリアルタイムに様々なエフェクトをかけたりすることが可能だ。これらのDirectX 9に対応した新機能により、RADEON 9700ではリアルタイムの視覚効果(Visual Effect)を向上させているのだ。それが、ATIがRADEON 9700をVPUと呼ぶ理由だ。

【お詫びと訂正】初出時にVPUという言葉をATIが今回、初めて使ったという趣旨の記述がありましたが、すでに3DLabsなどに前例がありました。ご教示いただいた読者に感謝するとともに、お詫びして訂正させていただきます。


●8パイプの浮動小数点ピクセル演算ユニットを搭載した「RADEON 9700」
  ~4バーテックスシェーダや256bitメモリが特徴

RADEON 9700の特徴を示したスライド

 今回、RADEON 8500の後継として発表されたのが、コードネーム“R300”こと「RADEON 9700」だ。

 RADEON 9700の特徴は、8パイプ化された浮動小数点ピクセル演算ユニット(FPPU)を内蔵し、4つのバーテックスシェーダエンジンを搭載、複数の処理を並列実行することにより3Dグラフィックスの処理を大幅に向上させる。

 こうした強化により、RADEON 9700では1パスで16テクスチャの描画が可能になっている(RADEON 8500は6、GeForce4 Tiは4テクスチャの描画可能)おり、3Dグラフィックスエンジンにおける指標の1つである三角形描画速度は3億トライアングル/Sec以上(GeForce4 Tiは1億3,600万トライアングル/Sec、RADEON 8500は6,900万トライアングル/Sec)で、塗りつぶし速度(フィルレート)は2.4Gピクセル/SecとGeForce4 Tiの1.2Gピクセル/Sec、RADEON 8500の1.1Gピクセル/Secの倍近いパフォーマンスを発揮するまさにモンスターチップだ。

 ピクセルシェーダエンジンやバーテックスシェーダエンジンの並列処理化より、ビデオメモリやメインメモリへデータを読み書きするデータ量が大幅に増えるため、それらの帯域幅も大幅に向上させている。具体的には、ビデオメモリのコントローラは256bit幅とRADEON 8500の倍のデータバス幅になっており、メモリのクロックは600MHz超となる予定(現時点では細かなスペックは未定)なので、20GB/Secを超えるビデオメモリの帯域が確保される。なお、ビデオメモリは最大で256MBまで対応する。メインメモリへのアクセスはAGPを利用して行なわれるが、AGPはAGP Specification 3.0でサポートされる予定のAGP 8X(533MHz、32bit、2.1GB/Sec)をサポートする。

 また、Zバッファの処理を効率化する、HyperZもRADEON 8500に搭載されていたHyperZ IIからHyperZ IIIへと進化した。HyperZ IIIではZバッファをブロックに分け、必要のない部分のピクセルをピクセルシェーダへ入れる前に捨ててしまうHierarchical ZとEarly Z、Zバッファの高速なクリアや圧縮などを行なうFast ZバッファとZバッファ圧縮の機能により、メモリ帯域をより効率よく利用することが可能になっている。

 これらのメモリへのアクセス帯域幅の広帯域化、高効率化により、より高解像度で大きなサイズのテクスチャを利用する3Dゲームにも対応することが可能になっている。なお、コアクロック、ビデオメモリクロックは現時点では未定と言うことだが、発表会ではコアクロックが300MHz以上、ビデオメモリのクロックが600MHz以上とアナウンスされていた。

RADEON 9700のアーキテクチャ RADEON 9700のメモリコントローラ。256bit幅でアクセスする RADEON 9700のバーテックスシェーダエンジン。4つのエンジンが搭載されている
RADEON 9700のピクセルパイプライン。8パイプで、浮動小数点演算に対応 RADEON 9700、RADEON 8500、GeForce4 Ti 4600の機能比較


●ピクセルシェーダ2.0、バーテックスシェーダ2.0に対応したSMARTSHADER 2.0

 これらの強力なハードウェアを利用してRADEON 9700では表現力の向上、つまり3D描画時のクオリティの向上が図られている。RADEON 9700でサポートされるSMARTSHADER 2.0は、DirectX 9に完全対応しており、DirectX 9でサポートされるプログラム可能なバーテックスシェーダ2.0、ピクセルシェーダ2.0に対応している。

 バーテックスシェーダ2.0はDirectX 8.1でサポートされていたバージョン1.1に比べ、命令数が倍になり、フローコントロールが可能になるなどの強化が行なわれている。また、バーテックスシェーダ2.0も、テクスチャの入力数が16に増え、データ形式が浮動小数点演算ユニットに変更、マルチレンダリングのサポートなど大幅な機能強化が図られており、RADEON 9700はこれらの機能を完全にサポートする。

SMARTSHADER 2.0でサポートされる機能。DirectX 9のバーテックスシェーダ2.0、ピクセルシェーダ2.0に対応 バーテックスシェーダ、ピクセルシェーダのバージョン比較

 また、通常の32bitカラーでは青、赤、緑、アルファ(透明度を決定する要素)の4つがそれぞれ8bitづつ(8:8:8:8=32bit)割り振られて色が決定されているが、SMARTSHADER 2.0(そしてDirectX 9)では10:10:10:2=32bitと、常に必要ではないアルファの割り当てを減らし青、赤、緑のそれぞれを10bitで表現する方式もサポートする。これにより、今までよりも表現できる色数が大幅に向上し、10億通りを越える組み合わせが実現できるという。こうしたSMARTSHADERの新機能により、3D描画時の表現力が大幅に向上し、これまでにないリアリティの高い3D描画が可能になるという。

 さらに、アンチエリアシング機能のSMOOTHVISIONも機能強化され、バージョン2.0へと強化された。2X、4X、6XのマルチサンプリングFSAA(Full Scene Anti Aliasing)に対応しており(RADEON 8500と同等)、最大で156億サンプル/Secの処理が可能になるなどの強化が行なわれている。

SMARTSHADER 2.0の機能を利用して描画した例。左側の低解像度に比べて、右側の高解像度の画面は画面のノイズも少なく、色が鮮明になっている SMARTSHADER 2.0でFSAAをかけた時の画面の違い

 RADEON 9700で新たに用意されたVIDEOSHADERの機能ではビデオデータをピクセルシェーダエンジンで扱えるようになる。これまでのビデオチップでは、2D/3Dエンジンが画面をフレームバッファに格納し、DACによりアナログデータに変換する段階で、ビデオデータをオーバーレイしていた。ところが、RADEON 9700では、最初からフレームバッファに画面データを格納する段階で、すでにオーバーレイが完了している。このため、ビデオデータに対してリアルタイムに様々な効果をかけることが可能になるほか、Real、DivX、MPEG4、Windows Mediaなどのストリーミングビデオのハードウェアアクセラレーション機能などが用意されており、動画の再生環境などでも高い処理能力を発揮する。

今後は動画もDACの段階ではなく、3D描画エンジンの段階でオーバーレイする 動画に効果をかけて表示している様子。ビデオカメラよりリアルタイムで入力されている動画をこのように効果をかけて楽しめる



●DirectX 8.1を標準でサポートしたRADEON 9000とRADEON 9000 PRO

RADEON 9000ファミリーの特徴

 同時にメインストリーム向けのビデオチップとして投入されたのが、コードネーム「RV250」で知られてきたRADEON 9000とその上位版であるRADEON 9000 PROだ。

 RADEON 9000ファミリーは、DirectX 8.1のファンクションであるバーテックスシェーダ1.1(CHARISMA ENGINE II、DirectX 7のハードウェアT&Lの機能も兼ねる)、ピクセルシェーダ1.4に対応した廉価版で、機能的にはRADEON 8500にかなり近い製品だと考えてよい。ただし、RADEON 8500の2バーテックスシェーダエンジンで、レンダリングエンジンが4パイプライン×2テクスチャユニット(つまり4P2T)だったのに対して、RADEON 9000ファミリーは1バーテックスシェーダエンジンで、4パイプライン×1テクスチャユニットと若干簡素化されている。このため、同クロックであればRADEON 8500を若干下回るパフォーマンスになるが、それでも他のメインストリーム向けGPUに比べれば高い性能を発揮する可能性が高い。

 RADEON 8500になくて、RADEON 9000ファミリーにある新機能はFULLSTREAMと呼ばれる、ストリーミングビデオのハードウェアアクセラレーションだ。これにより、CPU負荷率を下げることが可能であるほか、高クオリティで再生することが可能になる。このほか、デュアルディスプレイの機能であるHYDRAVISION、FSAAのSMOOTHVISIONなどに対応している。

 なお、RADEON 9000とRADEON 9000 PROの違いはクロックで、RADEON 9000がコア250MHz/メモリ400MHzであるのに対して、RADEON 9000 PROはコア275MHz/メモリ550MHzとなり、ビデオメモリは最大で128MBまでが搭載可能となっている。


RADEON 9000 RADEON 9000 PRO


●DirectX 8世代のベンチマークでもGeForce4 Tiに圧倒的な差をつける

 発表会では、ATIによるデモやベンチマークなどが行なわれた。RADEON 9700とGeForce4 Ti 4600の比較では、3DMark2001の1,600×1200ドット/4x FSAA+8x anisotropic filtering、1,024×768ドット/4x FSAA+8x anisotropic filteringのデータが示され、前者で3.1倍、後者で2.2倍も高速であるというデータが示された。Quake III Arenaに関しても1,600×1,200ドット/4x FSAA+8x anisotropic filteringで2.5倍、1,024×768ドット/4x FSAA+8x anisotropic filteringで2.2倍も高速だという。

RADEON 9700のベンチマーク結果

 RADEON 9000に関しても、GeForce4 MX 440との比較データが示され、3DMark2001で1.2倍、Unrealで1.75倍、Quake IIIで1.25倍などのデータが示された。

 なお、発表会の終わりのほうには、RADEON 9700を利用したデモが行なわれた。昨年のシーグラフにおいて流されたものと同じビデオとのことだが、それは一度レンダリングをさせてビデオにしたものを流したそうなのだが、今回はRADEON 9700を利用してリアルタイムでレンダリングさせ、そのクオリティには会場に集まったプレスからは感嘆の声があがっていた。

動画
RADEON 9000 PROのベンチマーク結果 【動画 2.9MB】RADEON 9700のデモ。昨年であればリアルタイムではレンダリングできなかった高クオリティな3D画面が、リアルタイムに実行できるようになった



●RADEON 9000ファミリーは即日出荷、RADEON 9700は1カ月後に出荷

RADEON 9700は399ドルというこのクラスにしては安価な価格でリリースされる。第4四半期にはRADEON 9500という別バージョン(廉価版か?)も予定されていることが予告された

 今回発表されたRADEON 9700、およびRADEON 9000/9000 PROはATI自身とOEMメーカーより出荷されることになる。RADEON 9000/9000 PROは即日出荷が開始され、RADEON 9700に関しては1カ月以内に出荷が開始されるという。

 ATIによるRADEON 9700搭載ボードはTV出力、DVI出力、128MBのビデオメモリを搭載したモデルで、市場予想価格399ドル(現在のレートで4万円台半ば)となっており、かなり意欲的な価格設定になっている。

 RADEON 9700は1億1千万トランジスタと、Pentium 4の倍にもなるトランジスタ数を搭載し、しかもプロセスルールは0.15μmであるため、ダイサイズは相当大きいことが予想され、価格はもっと高くてもおかしくないのだが、このように400ドルを切るという価格は、戦略的な価格以外の何者でもないだろう。つまり、ATIはRADEON 9700に対してかなり本腰を入れて取り組むのだという姿勢がこの価格に現れていると言っていいだろう。

 なお、RADEON 9000/9000 PROは、それぞれ64MBのビデオメモリのモデルで、RADEON 9000が市場予想価格109ドル(日本円で約13,000円)、RADEON 9000 PROが同129ドル(日本円で約15,000円)となっている。なお、Creative Technology、GIGA-BYTE Technology、Hercules、PowerColor、TyanといったOEMメーカーからも発売されることがあわせて発表されており、それらのOEMメーカーからもまもなく製品出荷が開始される見込みだ。

RADEON 9700を搭載したリファレンスボード。ボード上にはFDDなどに利用される電源コネクタが用意され、PCの電源供給ユニットから電源を供給するようになっていた
RADEON 9000は本日より出荷が開始されている。価格も安価で、OEMメーカーからも同時に出荷が開始される予定 RADEON 9000 PROのボード(上)。メモリは一般的なTSOPパッケージのDDR SDRAMが利用されている

□ATI Technologiesのホームページ(英文)
http://www.ati.com/
□ニュースリリース(RADEON 9700)
http://www.ati.com/companyinfo/press/2002/4512.html
□ニュースリリース(RADEON 9000)
http://www.ati.com/companyinfo/press/2002/4513.html

(2002年7月18日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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