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Itanium 2でハイエンド分野に切り込むIntel


Itanium 2プロセッサの紹介をするIntel エンタープライズ・プラットフォーム事業本部マーケティング・ディレクタのリチャード・ドラコット氏
 7月9日(日本時間)Intelは、これまでMcKinleyの開発コード名で知られてきたハイエンド向けのIA-64プロセッサ、Itanium 2の量産出荷を開始したと発表した。名前でも分かる通りItanium 2は、IA-64プロセッサとしては2世代目にあたるもの。ミッションクリティカルな基幹業務用途向けの大規模サーバや、科学技術用途向けのアプリケーションを想定している。

 現時点でのラインナップは、3MBのL3キャッシュ(オンダイ)を搭載した1GHz版、同1.5MBの1GHz版、同900MHz版の3種類で、1,000個ロット時の価格は順に525,080円、279,190円、166,250円と、ケタ違いである。もちろん性能もケタ違いで、3MB L3キャッシュで1GHz動作のItanium 2プロセッサの性能は、4MBのオフダイL3キャッシュを搭載した800MHz動作のItaniumプロセッサ(Merced)の1.5~2倍に達するという。この高性能を武器に、現時点ではRISCプロセッサが大半を占めるハイエンド分野に切り込みたい、というのがIntelの狙いだ。



●Intel製チップセットは秋

Intel E8870チップセット
 このItanium 2プロセッサ用のチップセットだが、Intelは2プロセッサ~16プロセッサをサポートしたE8870チップセット(旧称i870チップセット)をリリースする予定であると発表しているものの、今回同時に発表されたわけではない(リリースは秋を予定)。現時点で、Itanium 2プロセッサを搭載したシステムをリリースできるのは、独自にItanium 2に対応したチップセットを開発できた大手システムベンダに限られることになる。

 Itanium 2の発表会でシステムを展示したのは、Hewlett-Packard、日本電気、日立製作所の3社。いずれもサーバーがメインだが、Hewlett-Packardのみが、ワークステーション用途に利用可能な、現時点でItanium 2対応チップセット中唯一AGPをサポート可能なチップセットと、それを可能にしたワークステーションを発表していた(シングルプロセッサモデルは100万円を切る価格設定となっており、おそらく最も身近なItainum 2システムだと思われる)。このほかにもIBM、ユニシス、ブルといったベンダがItanium 2プロセッサを搭載したシステムの開発を行なっており、IntelからE8870チップセットがリリースされた後は、さらに多くのベンダがItanium 2プロセッサ搭載システムを発表するものと考えられる。


●Itanium 2用Windowsはまだ使えない

 現時点でItanium 2プロセッサシステムをサポートするOSは、HP-UX、64bit版Windows、Linuxの3種。発表会で展示を行なった3社はすべて、LinuxおよびWindowsに加えHP-UXを採用する。PCのユーザーには一番なじみの深いWindowsだが、このItanium 2の発表に合わせ、64bit版のWindows Serverをリリースしたものの、バージョンはLimited Edition 1.2 日本語版となっており、まだ「Limited Edition」の制約がとれていない。Limited EditionのユーザーにはWindows .NET Server 64bit版への無償アップグレードが提供されることにはなっているが、.NET ServerはIA-32版も含め、正式リリースがいつになるのか分からないのが実情。

 OSが「製品」レベルにない以上、その上で動くアプリケーションもまた、製品レベルとは考えられないというのが現状である。このように1アーキテクチャですら製品レベルのOSがリリースできないのに、AMDのx86-64、さらには一部で噂されたことのあるYamhillなど、複数の64bitアーキテクチャをMicrosoftがサポートすることなど、筆者には現実的とは到底考えられない(当初のWindows NTはx86だけでなく、MIPS、Alpha、PowerPCなどのRISCプロセッサをサポートしていたが、結局はx86に一本化された経緯もある)。

 Windowsのこの状況を考えると、現時点で企業が業務に用いることが可能なOSはHP-UXしか選択肢がない、というのが実情だろう(IBMが展示会に参加しなかったのは、これが理由なのかもしれない)。HP-UX上には、データベースマネージャからエンジニアリングアプリケーションまで、さまざまなハイエンドアプリケーションが用意される。一方、科学計算分野では、Linuxを用いた大規模クラスタシステムが米国エネルギー省管轄下の研究所からの受注を受けるなど、一定の住み分けが行なわれているようだ。価格の点だけでなく、OS、その上で動くアプリケーションまで含めて、一般のPCユーザーが手を出すものでないことは間違いない。

 実際、Itanium 2プロセッサ搭載システムが商業的に成功を収めるかどうかは、米国の景気動向にもかかっており、判然とはしない。民間については、いわゆるドットコムバブルで相当需要を先食いしたとの見方がある上、エンロンやワールドコムの不正会計疑惑とそれに端を発する株安で、景気の先行きが不安視されており、予断を許さないところだ。ただIntelは、Itaniumと異なり、Itanium 2の性能には大きな自信を持っており、性能が優れているのだからたとえ時間が多少かかっても必ず売れる、という確信を持っているようだ。


●Pentium 4に追い立てられた初代Itanium

 Itanium 2の登場で、ますます影が薄くなってしまうのが、最初のIA-64プロセッサであるItaniumである。Intelは頑なにItaniumが失敗であるとは認めないが、どう控えめに見積もっても、商業的に大成功したとはいえない。Itanium 2の華々しいデビューの影で、人知れず消えていく運命にあると思われる。なぜ、Itaniumは成功しなかったのか。その理由を一言であらわせば、性能が低かったから、ということになるだろう。ここでまた難しいのは、何をもって性能が低いというか、ということだ。性能の高い低いは、相対的な評価でしかない。実際、IntelはItaniumの性能を低いとは絶対に言わない。

 ハッキリと言えば、Itaniumが成功しなかったのは、Itaniumと同じ時点で入手可能だったIA-32プロセッサに対して十分な性能マージンがなかったから、ということになる。これならIntelも認めてくれそうだが、それでもIntelは、これがItaniumの性能不足により生じたものではない、という立場を崩さない。Itaniumの性能は、Intelが設計・開発した際の基準をクリアしたものであり、決して悪くないのだという。

 予測を外れたのは、Itaniumの性能ではなく、Itaniumと同時期に入手可能なIA-32プロセッサの性能見積もりの方らしい。つまり、Itaniumを設計していた時点での予想では、今のItaniumの性能で、現時点でのIA-32プロセッサに十分な性能マージンを持つ予定だったのである。ところが、実際にはIA-32プロセッサの性能向上はIA-64設計チームの予想を上回り、Itaniumの性能を超えてしまった。それによりItaniumの商品価値は大幅に下がってしまったというわけだ(加えて、Itaniumの発表時に主流となっていたベンチマークテストプログラムが、アップデートの結果、設計時点で性能予測シミュレーションに用いたものから大幅に変わってしまったのも、不利を招いた一因らしい)。現在、AMDはPentium 4の急速なクロックアップに苦戦を強いられているが、Pentium 4のクロックアップに事業戦略の見直しを迫られたのは、Intelも同じ、というわけだ。

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【5月30日】インテル、Itanium 2発表記者会見を開催
~各社が搭載サーバーを展示
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0709/intel2.htm

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(2002年7月11日)

[Text by 元麻布春男]


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