第161回:実用指向のネットストレージ、InternetDiskに期待すること |
しかし、“シームレス”に“自動的に同期させて”情報を持ち歩くために最適な製品を、未だに見つけられずにいる。Windows 95の時にはブリーフケースに期待し、Windows 2000の時にはオフラインフォルダも活用してみたが、どれも納得できるものではなかった。一時は期待したFusionOneも、商業サービスを開始することなく日本を撤退。
それだけにジャストシステムが本格サービスを開始したInternetDiskには、成功への道を歩んで欲しいと思っている。今のところ、このサービスが自分の使い方にはピッタリ合っているからだ。
●ブリーフケースとオフラインフォルダの困った悪癖
この連載の中でも「自分はオフラインフォルダを使っている」と言い、メールで相談を受けた時もオフラインフォルダの活用を勧めてきた。Windows 2000が登場して以来、My Documentsフォルダをサーバー上のフォルダにしてオフライン設定をしておく、などの運用をしてきたのだが、My Documents下の容量が増えてくると、とたんにオフラインフォルダの中身が保証されなくなってしまう。
というのも、オフラインフォルダはあくまでもファイルサーバーに対するキャッシュであって、ネットワーク上のフォルダの複製をローカルハードディスクに作成する機能ではないからだ。
オフラインフォルダをマイクロソフトが初めてデモンストレーションしたのは、彼らが当時Zero Administration Windows(通称ZAW)を開発していた頃のこと。ZAWの一部として、ネットワークにトラブルが発生した時もネットワークから切り離した時も、それまでオンラインで作業していたファイルに継続してアクセス可能にすることで、ファイル管理の手間を省こうという趣旨だった。オフライン時に更新したファイルは、ファイルサーバーへの接続が復帰すると自動的に同期される。
しかし、あくまでも作業中のファイルに継続してアクセス可能にすることを主眼としており、原本としてファイルサーバー上のファイルが存在するため、オフラインでアクセスしているローカルハードディスク上のファイルは“キャッシュ”という扱いにしたわけだ。これはオフラインに指定したフォルダ内のファイルが、すべて必ずオフラインでも存在することを保証していないことを意味する。
最近作業したファイルがキャッシュから無くなることはほぼないため、実際に困ることは少ない。ところが、滅多に参照することがない過去の情報を引っ張り出そうとすると具合が悪い。ハードディスク容量が十分でない場合、参照したい過去のデータがキャッシュからあふれている可能性があるためだ。資料として過去からのデータを履歴管理している場合、オフラインフォルダはあまり役に立たないことになる。
そこでここ半年ぐらいは、以前利用していたWindowsのブリーフケース機能に切り替えてみた。ブリーフケースはWindows 95で追加された機能で、ブリーフケースフォルダにネットワーク上のファイルやフォルダをコピーしておくと、それぞれの更新状況に応じて適切な同期処理を行なってくれる(ただし同期は手動で行なわなければならない)。ブリーフケースにはアドオンソフトウェア向けに、データベースファイルのレコード単位の同期などを追加するブリーフケースAPIもあるのだが、ブリーフケースが不人気だったため現在はこれを使っているアプリケーションは皆無だ。
不人気の理由は明らかで、同期のパフォーマンスが非常に低く機能的にも今ひとつ使いにくい部分があったためだ。再度利用しようと思った背景には、PCのパフォーマンス向上で使いやすくなったかもしれない、という期待があったためである。
しかし数千のファイルが納められたフォルダを同期させるのは難しいのだろうか? 同期確認の速度が遅く、しかもうまく同期が取れないファイルが出てくることもある。現在、これよりもマシな方法を思いつかないため使い続けているが、到底満足できるレベルではなかった。
●InternetDiskでできること
InternetDisk Pack 500 |
それが6月28日から有償で500MB、1GBなどのメニューが提供されるようになり、Windows上で動作するファイル転送ツール、同期ツールなども充実したのだ。500MB版が月額800円と価格も手ごろと言っていいと思う。日本で行なわれている有償のネットワークストレージサービスには、ソニーのWebpocketもあるが、こちらは動画や画像などのメディアコンテンツをターゲットとしているのに対して、InternetDiskはオフィス系アプリケーションの文書など、実用文書などを置くためのスペースとして考えられている点が多少異なる。
いずれにしても、本格的に使うなら有償サービスの方が信頼性の面で安心できると思っていたから、早速評価してみることにした。500MBと言えば、画像を置くにはまだ十分でないが、仕事の文書を置くぐらいなら十分なサイズだ。たとえばプレーンテキストではあるが、'98年以降に書いた僕の原稿総量はExcelの表などを合わせても250MB程度。グラフィック系のデータはこの中には入っていないが、少なくとも、過去の原稿を預けるだけなら月額800円から始められる。
InternetDiskのツール群には、インターネット上のストレージとの間でファイル転送を行なうIDiskマネージャとフォルダごと同期させるIDiskツールがある。IDiskツールは更新日時による同期管理をファイル単位で行なってくれるため、原稿などの成果物を置いておくフォルダに使う場合にとても便利だ。そして(重要なことだが)ブリーフケースよりも、使い勝手も重さも、InternetDiskの方がずっと具合がいい。
InternetDiskは既存製品に付属する無料サービスを持っているユーザーが追加で500MB単位にスペースを借りることもできるが、現在は店頭で「InternetDisk Pack 500」というパッケージ製品としても販売されている。このパッケージには180日分の使用権とInternetDiskのツール群が含まれている。僕自身は従来からのユーザーであるためその中身を確かめていないのだが、パッケージ版にはNetnoteという、一太郎やWordなど文書のファイルを表示、簡単な修正も行なえるツールが付属するそうだ。
ネットストレージサービスに関して、これ以上あまり説明することもないとは思うが、レスポンスも良く今のところ非常に快適に使用できている。とりあえず、無償サービス対象製品のユーザーで利用していない人は、試しに利用してみてはいかがだろう。
●せっかくだから、こんなことも
もっとも、単に大きなスペースをネット上で有償提供して欲しいだけならば、国外も含めて非常に多くのサービスが存在する。容量あたりの単価も、時間と共にどんどん下がっていくだろう。僕が期待するのはその先、アプリケーションベンダーならではの展開である。
たとえばATOKの設定や辞書を同期させるATOKSyncは、InternetDiskを媒介することを前提に実装されたATOKの機能だ。このほか、一太郎などから直接InternetDiskにアクセスする機能もある。このような例は、マイクロソフトの製品とWebDAVサーバーの連携などにも見られる。
しかし、せっかく容量が1GBクラスになってきたのだから、もっと様々な場面でInternetDiskを活用したい。たとえばメールやスケジュールに関しても、InternetDisk上にマスターとなるデータを置き、複数PCの同期を行なえれば便利だろう。
現在、我が家ではExchange 5.5にメールやスケジュールを置き、デスクトップPCからはオンラインでアクセス、ノートPCではそれらデータの複製をハードディスク上に作成することで、どのPCからでも同じデータにアクセスできるようにしている。このExchangeサーバーはメールサーバーとしては利用しておらず(メールサーバーは外部のレンタルサーバーを利用)、単にメールとスケジュールのリポジトリとして利用しているわけだ。スケジュールに関しては、家族に管理を依頼しているため、そうした意味でもExchangeを使う意味がある。
おかげで新しいPCに移行する際、スケジュールやメールのデータは移行させる必要がないし、海外出張などで長期間出かける時も、外出から帰って同期をさせるだけですべてのPCから出張中に入力したスケジュールや受信メールなどにアクセスできる。その気になればVPNで自宅LANにアクセスし、出先からサーバー上の情報をアップデートすることも可能だ。Exchangeに届いている受信FAXを出先から参照する場合にも便利。
だが個人でPCを使いこなすために、わざわざデータ複製機能を持つクライアントをサポートしたサーバー製品を動かしておく物好きはあまりいないだろう。コスト的にも見合わない。僕だって、好きでこんな運用をしているわけではないのだ。ExchangeとOutlookは個人で使うにはあまりに重いアプリケーションである。あくまでメリットがデメリットを上回っているからこそ使っているだけ。
しかし個人向けのメーラやスケジューラなどが、InternetDiskを前提に設計されれば、こうしたクライアント/サーバーの構成を自宅で構築する必要はない。複雑なサービスをInternetDiskのサーバー上でサポートしてほしいとは思わないが、PC上で動作するアプリケーションが、InternetDiskを意識して設計されればいいのではないか。InternetDiskを単なるファイルストレージではなく、アプリケーションソフトウェアのネイティブのストレージとして設計してしまうのだ。ローカルストレージとネットワークストレージの境目を意識させずに、両者の特徴を活かした運用できるようになれば最高だ。
たとえばShuriken Pro(メーラ)とSasuke(スケジューラ)のストレージをローカルハードディスクとInternetDiskの両方に構築して両者を自動的に同期。どのPCからも同じように同期できるようにする。WebブラウザからInternetDiskにアクセスし、Shuriken Proフォルダに移動するとWebメーラとして動作し、Sasukeフォルダに移動するとWebスケジューラとして動作すれば便利そうだ。
噂によるとマイクロソフトの次期Officeも、ネットワークストレージを意識した製品になるようだが、マイクロソフトOfficeはここ数年の流れとして、企業向けミドルウェアとの連携強化を主眼にこうした機能を実装する傾向がある。パーソナルな使い方からすると、ちょっと遠い感じがするのだ。
僕はこれまでジャストシステム製品とはあまり縁がなく、ATOKは毎回購入するものの、一太郎はバージョン4の時代までで止まっていた。しかし、Shurikenシリーズは個人で使うメーラとしてはとても良い製品だと思う。このような製品がどんどん増え、さらにInternetDiskと共に使えれば、長年の悩みも解決できるかもしれないと期待している。
ジャストシステムに話を聞いてみたところ、InternetDiskを各種アプリケーションソフトウェアで積極的に利用していく計画はあるという。それらが現在のシステム構成から逃れられるものであることを願いたい。
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【5月29日】ジャストシステム、オンラインストレージサービスに500MBと1GBメニューを追加
http://www.watch.impress.co.jp/broadband/news/2002/05/29/i-disk.htm
(2002年7月10日)
[Text by 本田雅一]