●PC機器ベンダーならではのハードディスクビデオレコーダー
Compact Disc(CD)がAVの世界に広くデジタル技術を持ち込んでからすでに20年近くが経過した。この間、デジタル技術は劇的な進歩を遂げ、いまやビデオですら家電製品によるデジタル処理が可能となっている。また、デジタル技術の進歩は、家電メーカーにデジタル化を促すだけでなく、PC系のメーカーに家電製品分野への進出を促す結果にもなっている。極端な例としては、PC用ビデオカードベンダーとして知られたDiamond Multimediaが、Sonic Blueと社名まで変え、MP3を中核としたオーディオ機器メーカーへと変貌した事例さえある。
今回取り上げる「Rec-On」は、老舗のPC用周辺機器ベンダーであるアイ・オー・データ機器が発売したハードディスクビデオレコーダーだ。内蔵するTVチューナーユニット(地上波)、あるいはビデオ入力端子(コンポジットまたはS端子)から入力されたビデオデータを、ハードディスクにMPEG-2データとして記録する、という点では完全な民生機なのだが、記録するハードディスクが分離式のユニットになっているのがアイ・オー・データ機器の製品らしいところ。Rec-Onにはハードディスク容量40GBのモデルと80GBのモデルがあるが、市販の同社製i・CONNECT対応ハードディスクをRec-Onに接続できる(交換できる)、というのがミソだ。ただし、録画予約情報もハードディスクに書き込まれているため、ハードディスクを交換してしまうと、録画予約情報も失われること、常時ハードディスクに書き込むタイムシフト視聴をサポートする関係上、ホットスワップできないという制約もある。
それでも簡単にハードディスクが交換可能というのは非常に大きなメリット。考えようによっては、i・CONNECT対応ディスクユニットを、リムーバブルメディアとみなして使うこともできる。これは一見、高くつきそうな気がするが、現在80GBのi・CONNECTドライブの価格(アイ・オー・データ機器のファクトリストアによる直販価格)は25,800円。バイト単価を計算すると、国産DVD-RWメディアを1枚買いするのと大差ない。しかも、DVD-RWメディアを何枚買おうと、メディア交換なしに数時間の高画質録画はできないのに対し、本機であれば、後述のHQモードで3.5時間、SPモードで7時間、LPモードで14時間まで、連続して記録可能なのである(この最大録画時間は本機の仕様による)。舞台中継など、長時間の番組を、途中で切ることなく、できるだけ良い画質で残して置こうと思ったら、現時点ではこういった方法しかない。
写真1はRec-Onの外観だが、右側がTVチューナーユニットやUSBインターフェイスを備えた本体、左がハードディスクユニットで、本体はi・CONNECT対応のインターフェイスを備えている(写真2)。また、USBインターフェイスを備えていることでも分かる通り、PCとの連携が可能なことも他の(家電メーカー製の)ハードディスクビデオレコーダーと異なる点だ。
写真1 Rec-Onの外観。左側がハードディスクユニット、右側が本体。全体に占めるピンコネクタの大きさで、本機のコンパクトさが分かる |
写真2 Rec-Onの背面。ハードディスクユニットと本体はi・CONNECTで接続されるほか、ハードディスクユニットへの電源供給も本体が行なう |
●PCと接続すれば、iEPGとデータ転送が利用可能に
とはいえ、Rec-Onは基本的にはスタンドアロンで利用できるハードディスクビデオレコーダーであり、PCがなくとも使うことが可能だ。本機を使う際にぜひとも必要なのは、PCというよりTVである(TVなしにPCでのみ利用することも不可能ではないが、後述するように制約が生じる)。TVのビデオ入力に本機の出力を接続し、ACアダプタとアンテナ線をつなぐことが、スタートポイント。後は住んでいる地域に合わせてチャンネルの設定を行なえば、とりあえず準備は完了、ここまででPCは出てこない(画面1)。
この状態で可能なことは、リモコンを使って現在放映中のTV番組の録画やタイムシフト視聴をすることと、画面2のような予約入力画面で番組の録画予約を行なうことだ(ほかにCSデジタルチューナー等からの入力に合わせたシンクロ録画も可能)。残念ながら、本機のみではEPGを使った番組録画予約や、民生機でおなじみのGコードによる番組録画予約はできない。録画の際に設定可能な画質モードはHQ、SP、LPの3種。ビットレートはそれぞれ12Mbps、6Mbps、3Mbpsで、解像度はHQとSPが720×480ドット、LPが352×480ドットになる。40GBモデルの場合、HQモードでの録画時間は約7.5時間、SPで約15時間、LPで約30時間となる。録画したデータはリモコンを使ってリストを呼び出し、再生したり消去することができる(写真でも分かる通り、本体には電源スイッチ以外存在しないため、リモコンなしで操作することはできない)。
ここにPCを加えて(USBで本機とPCを接続して)可能になることは、チャンネル設定、ウィザード形式の録画予約、iEPGを用いた録画予約、Rec-Onエクスプローラによる録画データのPCへの吸い上げ、の4つ(他にreserMailをインストールし、iTVの会員になることでメールによる録画予約も可能)。チャンネル設定はそう頻繁に行なうものではないし、ウィザード形式の録画予約も入力事項そのものは本体とリモコンで行なうものと大差ない(画面3)。PCを接続するメリットは、やはりiEPGの利用とデータの吸い上げということになるだろう。
●PCへの録画データ転送には難あり
iEPGの利用は、他のiEPG対応アプリケーションとおおむね同じ。iEPGに対応したサイト(本機のユーティリティソフトをインストールするとOnTV Japanのサイトへのショートカットが登録されるが、TVガイドでももちろん大丈夫)で録画したい番組のiEPGアイコンをクリックすると、必要なデータがダウンロードされる。本機の場合は録画予約ウィザードにデータが渡され、自動起動した録画予約ウィザードで予約内容を確認すれば予約作業が完了する。
録画データをPCに吸い上げるには、Rec-Onエクスプローラと呼ぶ専用のユーティリティを用いる(画面4)。Rec-OnはUSB接続されるデバイスだが、USBストレージクラスデバイスではない。したがって、PCから直接ハードディスクユニットの中身を参照することができず、専用ユーティリティを用いなければならない、というわけだ。また、本機が備えるUSBポートは最大データ転送速度が12MbpsのUSB 1.1であるため、録画したビデオデータの吸い上げには非常に長い時間がかかる。たとえば、30分の番組をHQモードで録画した場合、その録画データ1.66GBを転送するのに要した時間は34分であった。しかも、データの転送中、Rec-Onはデータ転送にかかりっきりで、予約録画はもちろん、一切の操作を受け付けなくなる。転送時間は、録画品質を落とせば短縮可能だが、最高画質モードで実録画時間より長くかかるというのは、ちょっといただけない(USB 1.1が12MbpsでHQモードが12Mbpsであることを思えば、同じ時間で済みそうだが、USBには1つのデバイスが帯域の90%以上を占有していはいけないという掟があるため、少なくとも10%分だけは余分に時間がかかる)。
しかし、ここであるアイデアが思いつく。i・CONNECTに対応したハードディスクが接続できるのなら、i・CONNECTにUSB 2.0/1.1ポートを加えたディスクユニットに録画し、PCにデータを吸い上げる際は、直接USB 2.0でPCに接続すれば良いではないか、というアイデアだ(Rec-Onに標準添付されているドライブユニットはi・CONNECTのみのサポート)。これなら、Windowsから直接参照可能だし、データ転送レートの制約も大幅に緩和される。そう考えて、早速実行に移してみたのだが、残念ながらRec-Onのディスクフォーマットは独自らしく、Windows XPからはパーティションとしては認識されるものの、ファイルシステムとしては認識されなかった(画面5)。
稼動中の本機のハードディスクユニットに対して、PCの直接参照を認めてしまうと、ファイルの共有の問題、あるいは本体とPCの同時アクセスによる帯域の問題が生じる可能性があるため、このような仕様になっているのかもしれないが、現行のUSB 1.1ではせっかくのPC連携も生きない。USB 2.0への対応が待たれるところだ。また、FAT32やUDFといった標準ファイルシステムの採用があれば、i・CONNECTドライブをメディアにする、というアイデアもより現実味を帯びるのではなかろうか。
このUSB関連のほかにも、本機のPC連携機能にはいくつかの制約がある。その1つは4GB以上のデータをPCに吸い上げられない(4GBを超えるデータは先頭から4GB分しかPCに吸い上げられない)、という問題だ。これはファイルシステムの問題ということらしいが、PCのOSはコンシューマー向けもNTFSをサポートしたWindows XPが徐々に主流になりつつある。これも解消して欲しいものである(これが本機をTVなしで、PCのみで運用する際の最大の制約だろう)。
もう1つ考えて欲しいのは、本機がサポートする画質モードの設定だ。上述した通り、12Mbps、6Mbps、3Mbpsの3種になっているが、これらの設定は必ずしもPCで使いやすいデータレートではない。たとえば12MbpsのMPEG-2ファイルというのは、DVD-Videoの規格を超えているため、どんなソフトウェアDVDプレイヤーでも再生可能というわけではない。また、PC上で一般に利用可能なDVDオーサリングソフトが扱えるデータレートは8Mbps前後が上限で、12Mbpsではトランスコードや再エンコードが必要になってしまう。PCでMPEG-2データを扱う利便性を考えたら、10Mbps、8Mbps、3Mbpsといった設定(あるいは8Mbps、6Mbps、3Mbps)の方が望ましいし、それより何よりユーザーが自由にデータレートを選択可能にするべきだろう。
また、本機でいくつかの番組を録画・再生していて気になったのは、なぜかエッジにジャギーが目立ちやすい、ということだ。特に赤のエッジで目立ちやすく、最高画質のHQでも見受けられた(それに対して、ブロックノイズやモスキートノイズはHQモードではほとんど気にならない)。ところが、同じデータをPCに吸い上げてPC上で再生すると、ジャギーの問題は解消し、非常に美しい映像が得られる。おそらく記録系(MPEGエンコーダー)ではなく、再生系(MPEGデコーダーあるいはTVエンコーダー)に改善の余地があるように思われる。
●PCとの連携機能強化を期待
現在筆者は、カノープスのMTV1000をインストールしたPCを1台、TV録画専用にスタンバイさせている。このシステムのポイントは、非使用時にはS3ステートのスタンバイ状態に置いておき、電源ファンやCPUの冷却ファンもすべて停止させておきながら、予約録画の時だけ自動的に起動し、録画が終了したら元のS3スタンバイに戻る、といった民生用レコーダーと同じレベルの運用にある(これは究極の消音であると同時に、ファンを停めることによるPC内部へのゴミ吸引防止策でもある)。順調に動いてさえいれば、PCによる録画システムは、民生用レコーダーよりも自由度が高く、使い勝手も良い(何せ完全なGUIが使える)。カノープスのMTVシリーズで利用可能なMPEG Cutterソフトは、最も手軽で簡単なCMカットツールだとも思っている。
だが、この状態を保つのはことのほか難しく、ちょっとしたデバイスの追加やアプリケーションのインストールで、スタンバイからの復帰に失敗する不細工なマシンに成り果ててしまう(これについてはまた機会を改めて取り上げようと思っている)。そうした苦労を考えると、本機のような外付けの録画ユニットの魅力は良く分かる。ただ、現時点でのRec-Onは、民生機としての使い勝手という面と、PCとの連携という面の両面で、まだ発展途上にある気がしてならない。今後Rec-Onが発展していく方向性としては、スタンドアロンでEPGの利用を可能にしたり、Gコードをサポートしたり、といった民生機としての使い勝手を高める方向性もアリだと思うが、多くのユーザーがアイ・オー・データ機器に期待しているのはやはりPCとの連携を強化する方向性ではないだろうか。本機がその方向で強化されることを望むばかりだ。
□アイ・オー・データ機器のホームページ
http://www.iodata.co.jp/
□製品情報
http://www.iodata.co.jp/products/video_rec/2002/recon/index.html
□関連記事
【4月18日】アイ・オー、外付けHDD採用のビデオレコーダ「Rec-ON」発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0418/iodata.htm
【5月1日】やっと出たアイ・オー・データのHDDレコーダ
~ じっくり煮詰めたRec-Onは買いか ~(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20020501/zooma57.htm
(2002年5月7日)
[Text by 元麻布春男]