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DRAMは今後もパラレルインターフェイスに留まる
--JEDECのキーパースン、デジー・ローデン氏インタビュー(4)

 DDR IIはいよいよ規格策定の最終段階に入っている。次世代DRAMの開発促進を行なうAdvanced Memory International(AMI)の社長兼CEOで、JEDEC(米国の電子工業会EIAの下部組織で、半導体の標準化団体)のBoard of DirectorsのChairを務めるデジー・ローデン(Desi Rhoden)氏に、規格化の状況をうかがった。その模様を全4回にわたってお届けする。


●レイテンシが重要である限りメモリはパラレルにとどまる

Advanced Memory International デジー・ローデン社長兼CEO

[Q] かなり前になるが、IntelはPCベンダーに対して10年以内にDRAMアーキテクチャがシリアルインターフェイスに移行するとプレゼンテーションをしたことがある。これについてどう思うか。

[ローデン氏] これまで、長年に渡ってDRAM設計の最大の問題はレイテンシだった。まず、これを前提として憶えて置いてほしい。

 今日、メモリ内部は基本的にパラレルアーキテクチャを採っている(メモリセルアレイからはパラレルで複数ビットのデータを転送する)。ここで、もしシリアル系のインターフェイスアーキテクチャを採用するとどうなるか。基本的にパラレルであるメモリ(アレイ)から(データを)引き出して、それをシリアル化するスピンタイムが必要になってしまう。つまり、レイテンシが増えてしまう。

 ところが、顧客にとってもっとも重大な問題はレイテンシだ。私は、Intelもレイテンシが非常に重要だと言うと思う。そうすると、シリアルインターフェイスによるレイテンシの増大は当然、問題となってしまう。私の意見としては、レイテンシがナンバーワンの問題として残る限り、DRAMはパラレルに止まると思う。パラレルインターフェイス以外に、選択肢はない。

 いずれにせよ、この質問はIntelにする方が妥当だろう(笑)。

[Q] 実際、Intelのパット・ゲルシンガーCTOにはこの質問をぶつけたことがある。ゲルシンガー氏は、メモリデバイスが過去20年間、スピードを上げる方向ではなく、集積度を上げる方向に最適化されてきたから、高速なインターフェイスに向かないと言っていた。シリアル化にはメモリのアーキテクチャと方向性自体を変える必要があり、それは難しいので断念したというようなニュアンスだった。メモリセルアレイの構造を根本から変える可能性はないのか。

[ローデン氏] もちろん、メモリセルアレイ自体も変えると言うならシリアル化も可能だ。シリアル化が難しいのは、メモリセルの構造自体が、パラレルアーキテクチャを受け継いでいるからだ。我々はそうした可能性も常に考えている。

 しかし、シリアルインターフェイス化をしようとすると、大変な変更になる。開発に必要な労力やコストは膨大になる。ところが、メモリを実際に買うのはユーザーだ。もし、ユーザーがそんなメモリは買わないというなら、それ(を開発すること)は時間の無駄になってしまう。

 DRAMは進化型のアプローチでこれまで来た。SDRAMとDDRでは、本質的に大きな変化は2~3チェンジしかない。第1世代のDDRと第2世代DDRも同様に2~3チェンジしかない。第3世代のDDRも同じ程度のチェンジになるだろう。あまり大きすぎるチェンジは、DRAMに馴染まない。


●DDR/DDR IIでもローパワーの派生規格を規格化

[Q] 先ほど、レイテンシがもっとも重要だと指摘された。汎用DRAMで、今後レイテンシを減らすことは可能なのか。

[ローデン氏] 第3世代のDDRについては、じつに多くの企業がレイテンシを減らすための研究を行なっている。

 もし、3月のJEDEX(JEDECのカンファレンス)に来れば、第2世代DDRの大きな進歩の1つである、バス利用効率の向上がよくわかるだろう。我々は、Row/Column addressのアーキテクチャを変えずに、バスの効率をずっと高くした。

 だから、我々は同じようなアプローチでレイテンシを下げることができると考えている。多分、第3世代DDRでは、レイテンシに関してはそれなりの進歩があるだろう。それが可能だと証明するためには、いくつか実験をしなければならないが。

[Q] DRAMが高速化すると、熱と消費電力が大きな問題になる。この問題は解決して行くつもりなのか。

[ローデン氏] 第3世代DDRのフォーカスの1つは消費電力だ。

 まず、電圧はもちろん下げる。第1世代DDRから第2世代DDRでは、電圧は2.5Vから1.8Vに下げた。電圧は消費電力に対して二乗に効く。だから、性能を2倍に上げても消費電力は変わらないですむ。SDRAMとDDRを比較すると、DDRの方が消費電力が低い。第2世代では、電力を下げる他にも、様々な省電力の試みをしている。

 また、昨年、我々はローパワーSDRAMの標準を作った。SDRAMの基本的なアーキテクチャをベースに、電力消費を1/4~1/6へと劇的に低減したものだ。我々は、同じようにDDRでも、低消費電力のバージョンの規格を策定しようとしている。SDRAM版と同様な機能を入れて、さらに消費電力を下げたローパワーDDRを実現する。携帯電話など新しい市場が出てきているためだ。

 まだ我々は、第2世代DDRについては、ローパワー版は話し合っていない。それは、第2世代DDRの規格自体を完成させることを第1に考えているからだ。しかし、第2世代DDRでも、継続してこうした低消費電力機能を統合して行くつもりだ。


●汎用DRAMは今後も残り続ける

[Q] 汎用DRAMという考え方自体が、もう今後はなくなるという意見もある。あなたはどう考えるか。

[ローデン氏] 私はこの業界が長いが、ほぼ毎年、誰かが汎用DRAMがなくなるだろうと言うのを聞いて来た(笑)。ところが、私の人生はというと、全てが汎用DRAMとともにある。これが最良の答えだろう。

 一般論で言うと、DRAMサプライヤは、常に特製のDRAMを売りたがる。その方が、より稼ぐことができるからだ。ところが、ユーザーはあまりお金を払いたくないから、特殊なDRAMは欲しくないという。では、特殊なDRAMを安くできるか? 汎用DRAMは膨大な量が生産されているため、スケールエコノミーでコストが安い。それに対して、特殊なDRAMはそういかない。

 実際、DRAMサプライヤの中には、いくつもの種類のデバイスを作っているところもある。しかし、3~4の異なるタイプのDRAMを作ろうとすると、3~4倍の設計エンジニアが必要となり、異なるFabや異なる製造プロセスが必要になったりする。そうすると、スケールエコノミーの効果が減り、実際のコストが上昇してしまう。ところが、ユーザーの方はもっとも低いコストを求める。これを両立させることは難しい。

 フランクに言うと、ユーザーは一種類のDRAMを長期間使えることを望み続けている。もちろん、常に特殊なメモリ技術の可能性もある。しかし、そうしたメモリを使ってペイするアプリケーションは非常に少ない。それに対して、汎用DRAMは膨大な数が生産されている。ほとんどのユーザーは、単純により多くのメモリを求めており、それ以外の事項にはそれほど関心がないと思う。

 ただ、汎用DRAMの価格という点では、確かに昨年12月は難しかった。どのサプライヤもトラブルに陥り、危機感があった。

[Q] 128Mbit SDRAMがスポットで1ドル以下にまで下がった。ところが、今は4ドル、256Mbitが8ドル50だ。

[ローデン氏] そうだ。128Mbitはコストは4ドル。それが1ドルというのは、これまでにない事態だった。幸いなことに、今は価格は回復している。4ドルはスポット価格だが、コントラクト価格も上がっている。メモリの不足状態はまだ続くだろう。2月はまだ市場がソフトだが、3~4月にはデマンドがさらに上がり、DRAM価格もまだ上がると思う。


●DDR333ではリファレンスに沿わないモジュールが登場

[Q] DDRからはJEDEC標準のガーバーデータを提供し始めた。JEDECのメモリに対する活動範囲はどんどん広がっているように見える。

[ローデン氏] AMIがやっているのは、まさにこのガーバー提供の部分だ。今、標準のガーバーと言ったが、それは正確な言い方ではない。我々が提供しているのは、(変更ができないような)標準ガーバーではなくリファレンスだ。我々は、デザインガイドラインの標準化でできる要素を全て盛り込み、よくシミュレーションしてから、実際に規格とガーバーのリファレンスを公開する。すると、それぞれのメモリモジュールサプライヤが、そのガーバーに対して、各社のプロセスに合わせたモディフィケーションを行なう。機能的に完全な互換性のあるものを作れるようにすることが目的だ。

[Q] しかし、ガーバーではまだ混乱がある。例えば、DDR333では互換性の低いモジュールがある。

[ローデン氏] 我々は、DDR333について最適化したモジュールのリファレンスを作る作業を続けてきた。DDR333のモジュールは、PC100からPC133への時と同様に、より高い周波数への最適化を行なったが、それ以外の点では完全に互換だ。多分、時間が経つとともにDDD333モジュールへとシフトするだろう。

 ただし、不幸なことに、我々がリファレンスを提供する前に、台湾で、いくつかのサプライヤがDDR333モジュールを(DDR266モジュールの)オーバークロッキングで出してしまった。これは業界にとっていいことではない。なぜなら、彼らはそれをDDR333として売っているからだ。しかし、これらのモジュールは正確にはDDR333とは呼べない。

 最適化されたガーバーは、安定したシステムのためには非常に重要だ。業界リファレンスデザインをベースにしてないモジュールを使うことは、大きなリスクがある。安いかもしれないが、動かなかったりと、何かしらの犠牲を払う必要がある。


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(2002年2月25日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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