一ヶ谷兼乃の |
前回に引き続き、高スループットをうたい文句にしているルータをいくつか評価してみたい。今回はセンチュリーシステムズ「XR-300/TX2」をはじめ、つい先日発売されたばかりのハイウエストブレインネット「PBR005」、企業向けに販売されているプラネックス「ZIMA FX」を紹介する。
ただし、評価については、Bフレッツがベストエフォートタイプのサービスであること、PCやネットワーク環境の違い、各ルータのファームウェアのバージョンなどによって、筆者とは違う結果がでる可能性もあることを最初に断っておく。また、記事内で記述しているスループットは、PPPoEでプロバイダやフレッツ・スクエアに接続し、NAT/IPマスカレードを効かせた状態で測定している。フィルタリングやポートフォワード機能は一切設定していない。
センチュリーシステムズ「XR-300/TX2」 |
センチュリーシステムズ「XR-300/TX2」は、手のひらサイズのブロードバンドルータだ。見た目はシンプルな金属筐体で、前面に7セグメントのLEDが1つ、背面にLANポート、WANポート、シリアルポート、リセットスイッチ、ACアダプタ用のコネクタが装備されている。
OSはLinuxを搭載し、ネットワーク部分をチューニングすることでブロードバンドルータとして仕上げられている。
「XR-300/TX2」は、一部量販店のみでの扱いとなっているので、あまり店頭で見かけることはないかもしれないが、同社のブロードバンドルータ「CR-110」で培ったノウハウが活かされた、高機能、高性能なブロードバンドルータである。「CR-110」ではWAN側のインターフェイスが10BASE-Tで、どちらかというとADSLやCATVのインターネットサービスを利用している個人ユーザー向けの製品となっていたが、「XR-300/TX2」はWAN/LANポートが100BASE-TX/10BASE-Tに強化され、10Mbpsを超えるサービスでも利用できるようになっただけでなく、より複雑な設定が可能なため、中級者や上級者でも満足できる内容となっている。
同社では、CR-110が個人ユーザー向けの普及機、XR-300が中・上級者/ビジネスユーザー向けという位置づけになっている。そのため、XR-300シリーズの基本モデルとなる「XR-300/TX2」は、実売価格で4万円弱と、一般的な個人向けルータに比べて若干高めだ。
「XR-300/TX2」のパッケージには印刷されたマニュアルは無く、CD-ROMに収められているPDF形式のマニュアルのみ。マニュアルの内容としては具体例が多く、情報量も多い。初心者にはちょっと情報量が多すぎて迷ってしまうかもしれないが、ある程度ネットワークの知識があるユーザーであれば、自分の環境にあった設定を行なうことは容易だろう。
今回、使用したXR-300/TX2は、Ver.1.13のファームを搭載しているものだ。まずほかのブロードバンドルータとの違いを感じたのが、工場出荷時の設定でDHCPサーバ機能がOFFになっている点だ。個人向けの製品であれば、通常はDHCPクライアント機能はオンになっていて、特にネットワークの知識がないユーザーでもクライアントを接続するだけで、簡単にIPアドレスが割り当てられるようになっている。「XR-300/TX2」の場合、初期設定のままでは、クライアント側の機器に手動でIPアドレスを割り当てる必要がある。このあたりからも「XR-300/TX2」のターゲットが、ある程度ネットワークに関する知識をもったユーザーであることが伺える。
「XR-300/TX2」の設定は、Webブラウザから行なえる。PPPoEを利用する場合、接続先の情報を3カ所登録することができ、登録した接続先を必要に応じて切り替えられる。筆者は、プロバイダを介してインターネットへアクセスするほか、NTTのフレッツ・スクエアやブローバといったサービスへ接続するこもあるので、複数の登録先を切り替えることができるのは便利だ。
多くのユーザーは固定IPアドレスではなく、グローバルIPアドレスをランダムで割り当ててもらうサービスを利用していると思うが、何らかの原因でIPアドレスが変更されたときに、その状況を電子メールで送信してくれる機能もある。固定IPアドレスを利用せずにサーバを公開しているユーザーには、ありがたい機能ではないだろうか。
フィルタリングやポートフォワーディングの設定はそれぞれ最大256個の条件で、かつ細かく指定できるため、個人ユーザーで困るようなことはまずないだろう。動作状況のログ機能もあり、Webブラウザから確認できるだけでなく、ログを電子メールで送信することもできる。複数のルータを利用しているユーザーでないとありがたみはないかもしれないが、スタティックルーティングやダイナミックルーティングのRIP1/RIP2にも対応している。
フレッツ・スクエアで計測したXR-300/TX2のスループット |
ルーティング速度に関しても、1万円台の個人向けルータに比べて、格段に高速である。筆者宅の環境ではNATやIPマスカレードを利用して、フレッツ・スクエアにPPPoE接続した場合、30.75Mbpsという速度が確認できた。これは、Windows XP ProfessionalのPPPoE接続機能を使って、PCとBフレッツの回線を直接接続したときと同じ速度である。この数値からは、実質30Mbps程度の速度ではXR-300がボトルネックにならないということになる。非常に優秀な結果だといえよう。
設定の保存やリカバリも可能で、条件さえ揃えばiモードからインターネット越しにXR-300へアクセスして、ルータのサービスを開始・停止したり、再起動することなども可能だ。
スペックや数値ではわからない点であるが、筆者がXR-300を1カ月以上利用してきて感じることは、非常に安定しているということだ。ハングアップするといったことは一度もなく、筆者が利用した状況ではノントラブルであった。筆者にとってインターネットアクセスは空気と同じようなものであり、トラブルは致命的だ。ブロードバンドルータとして最も大切な信頼性という点で、このXR-300は特筆に値する。
すでにセンチュリーシステムズからは、Ver.2.0以降のファームウェアに関しての発表があり、この記事が掲載されるころには、PPPoE Unnumberedやマルチセッション、ISDN回線などを利用したバックアップ機能などが搭載される予定だ。
Bフレッツのベーシックタイプでは、同時に2箇所までPPPoE接続することができるのだが、筆者の環境では今のところあまり活用できていない。ルータでマルチセッションが実現できれば、フレッツ・スクエアでコンテンツを楽しみながら、電子メールなどを利用できるようになる。個人的には、マルチセッション機能がもっとも気になるところだ。
残念ながら今のところ、Universal PnPへの対応に関してのアナウンスはないが、ぜひこちらも対応してもらいたいところだ。
最近使用した製品としては、XR-300は現状でも群を抜いて完成度が高く、今後の機能アップも期待できる製品だといえる。個人向けのブロードバンドルータとしては、安い製品とはいえないが、機能やパフォーマンスを考慮すると、対抗できる製品が存在しないため、信頼性の高い高機能ルータが欲しいというユーザーであれば、購入を検討しても良いのではないだろうか。
ハイウエストブレインネット「PBR005」 |
ハイウエストブレインネット「PBR005」はARM9採用の個人向けブロードバンドルータだ。ARM9を採用したこれまでのルータと同様に、このPBR005も幾度か出荷が延期され、ようやく店頭にならんだものだ。筆者が購入したのは2月17日で、まだ数日しか利用していないが、簡単に紹介したい。
新宿の量販店で購入し、早速自宅のネットワークに接続しようとしたが、この時点でおかしな現象が確認できた。それはWAN側のポートが利用できないことだ。具体的にはWANポートとHubを接続したときに、HubのLINKランプが光ったり、光らなかったりする。もちろん、電源が入っている状態ではLINKランプは光らなければいけないのだが、電源を入れた直後にLINKランプが点灯しても、しばらくすると消えてしまう。
最初はストレート配線とクロス配線を間違えたのかもしれないと疑ったが、どうもPBR005側の不具合のようである。PBR005のLANポートは正常に利用できたのでWebブラウザで設定ページを開いて確認したところ、ファームウェアのバーションは1.04であった。この時点でVer.1.05のファームウェアがホームページ上に公開されていたので、とりあえずバージョンアップしてみると、WANポートの不具合は解消された。
気をとりなおしてPPPoE接続に必要な情報を登録して接続してみたが、うまく接続できなかった。何が原因なのか不明だったので、本体のリセットボタンを使って工場出荷時に戻し、何度か設定をやりなおしているうち、なんとかプロバイダに接続できるようになった。このあたりは、何がトリガーになっていたのか結局分からなかったが、とりあえずそのまま使ってみることにした。
そのままいろいろなホームページにアクセスしてみたが、しばらくは問題ない状態が続いた。しかし今度は、PCを10分ほど放置して、再度インターネットアクセスしようとすると、正常にページが開かないというトラブルに見舞われた。
設定ページで、WANポートの状態をチェックしてみると、プロバイダとの接続が切れていたので、手動で接続を試みたが、なぜか再接続できない。ルータの電源を切り、しばらく置いて再度電源を入れたところ、また接続することができるようになった。この問題がPBR005本体のトラブルなのか、PPPoEの強制切断による再接続時のトラブルなのか、現在のところ不明だ。
ただ、この状態で、LAN側のIPアドレスを変更するなど、WAN側のプロバイダとの接続に関係しない項目の設定を変更すると、なぜがプロバイダに接続できなくなったりする。そのときには、再度工場出荷時の設定にして、一から設定を行なうと、再接続できるようになるのだ。
このように、何が原因で正常に動作しているのかがわかりずらい状態が続くと、製品に対しての不信感が募ってしまう。
また、もう1つ気になったのが、FTPやHTTPプロトコルで比較的大きなファイル(例えば10MB程度)をダウンロードするときに、PBR005がフリーズすることがあるということだ。ほかのユーザーの体験談を見ると、どうやら10Mbps以下のサービスでは同様の現象は起こりにくいようだが、筆者宅のBフレッツ ベーシックコースを使用した環境では確実に再現する現象だ。このあたりも、早急に対処して欲しいところだ。
今回は画面は用意できなかったが、フレッツスクエアへ接続して通信速度をチェックしたところ約26Mbpsのスループットが確認できた。
PBR005の設定項目の特徴としては、PPPoEの接続先が3つまで登録でき、切り替えて使えるようになっていること、LAN内のサーバをインターネットに公開するポートフォワーディング機能や、WAN側からLAN側、LAN側からWAN側の双方向のフィルタリング、NAT/IPマスカレード環境で動作しないネットワークゲームやビデオ会議をLAN側の機器で利用できるようにする「特殊AP機能」、DMZホスト機能などが挙げられる。
特殊AP機能などは、ネットワークに詳しくないユーザーでもネットワークアプリケーションが利用できるようになるための便利な機能だ。また本体前面には、通信のトラフィック量に応じて光るインジケータが装備されている点もPBR005ならではの特徴だ。
こうした特徴を多数備えた意欲的なルータだけに、不具合を修正したファームが提供されることを心待ちにしている。今後の同社のサポートに期待したい。
プラネックス「ZIMA-FX」 |
個人向けではないが、プラネックスから100Mbps対応のブロードバンドルータ「ZIMA-FX」を借りることができたので紹介しよう。
プラネックス「ZIMA-FX」は、ブロードバンドルータといっても参考価格が498,000円ということから分かるとおり、個人向けではなく企業向けの製品だ。400MHz相当CISCプロセッサ、メモリ128M搭載と、業務向けのルータとしても非常に強力なハードウェアスペックとなっている。
ハードウェアスペックだけでなく、プラネックスの技術者がユーザーの元へ出張して設置するサービスや、365日24時間の障害対応などのサービスが用意されている点も、業務向け機器としての特徴が表れている。
ZIMA-FX本体は、19インチラックに収まる大きさで、重量は約4.7Kg。金属製で極めて丈夫な作りになっている。基本的な機能としては、いわゆるブロードバンドルータなのだが、オプションでDMZポートが用意されている点、RIP1/RIP2に加え、OSPFやBGPDといったルーティングプロトコルにもオプションで対応している点、SNMPに対応している点など、個人向けルータにはない機能が数多く用意されている。IPアドレスでのフィルタリング、システムログ、RIPログといった機能に加えて、WAN側/LAN側双方向の通信をIPアドレスやポート番号で制御できるファイヤウォール機能なども搭載する。
実際に筆者宅の環境でZIMA-FXを利用してみた。設定にはWebブラウザから行なう方法と、Telnetでログインして行なう方法が用意されているが、今回はWebブラウザから設定を行なった。
フレッツ・スクエアで計測したZIMA-FXのスループット |
発売されて間もない製品にもかかわらず、運用中に不安定な動作はまったくなかった。さすがに業務用として発売されている機種である。フレッツスクェアでの速度は約24Mbps強というものであったが、あくまでLAN側のクライアントは1台の状態で計測したものだ。この数値だけみると、個人向けの製品と比べてそれほどルーティング速度に違いはないと判断されてしまうかもしれないが、企業のように数十台のクライアントが同時にアクセスするような状況では、個人向け製品との性能差が表れる可能性もあり、一概にルーティング速度を判断するのは難しい。あくまで、この速度に関しては参考程度にとどめておいて欲しい。
今後、IPv6への対応が謳われている点も魅力だ。さすがに個人で購入するには高価な製品だが、ハードウェア自体の持つ潜在的なパワーを考えると、今後さまざまな機能追加の可能性があり、同社がZIMA-FXをどのように強化しているのか気になるところだ。
プラネックス「BRL-04FA」 |
前回紹介したものの、性能の振るわなかったプラネックス「BRL-04FA」だが、2月21日に最新ファームウェア「Ver.2.09」が公開された。そこで、さっそくこのファームウェアを使って、BRL-04FAを再評価してみることにした。
ホームページによると、今回のファームでは3つの不具合が修正された。その中で、筆者宅で頻繁にハングアップしていたという不具合は、「DNSリレー機能が有効に設定(工場出荷時設定)されているときに本製品がハングアップする場合がある不具合を修正しました」という項目で修正されたのではないか、と思われたので、さっそくファームウェアを更新することにした。
念のためルータの設定を工場出荷時の設定に戻してから、新しいファームウェアのファイルをアップロードした。問題なく実行されたことを確認したのち、BRL-04FAの電源を切って再起動。設定画面でファームウェアが更新されていることを確認した後、まずPPPoEの設定を行ないプロバイダやフレッツスクエアへの接続ができるかを確認した。
次にLANポートのIPアドレスを手動で設定し、再起動した。ここで、新しく設定したIPアドレスへWebブラウザからアクセスしたが、なぜか設定ページが表示されなかった。設定前のIPアドレスにアクセスしても表示されず、何度かリセットSWや電源を入れなおししていると、設定した新しいIPアドレスで反応が返ってくるようになり、表示可能になった。戸惑った点はここだけで、それ以外では特に問題もなくBRL-04FAのファームウェアアップデートと設定が終了した。
ファームウェアをアップデートした結果、BRL-04FAの動作は以前の不安定さが嘘のように安定した。ポートフォワーディングやフィルタリングなどの機能は試していないが、ホームページのアクセス、数十MB程度のファイルのダウンロードなどを行なったがトラブルはない。
また、アップデート後、50時間以上連続で動作させているが、今のところ、特におかしなところは見られない。フレッツ・スクェアで通信速度を確認してみると、最高29Mbps強程度の値は確認することができた。新しいファームウェアによる速度低下は、ほとんどないと見てよく、高速ブロードバンドルータとして十分な性能を発揮している。
すべての機能を試したわけではないが、これでようやく高速ブロードバンドルータとしてBRL-04FAが利用できるようになった。すでにプラネックスから発表されているように、PPPoEでのUnnumbered接続のサポートも予定されており、今後の機能追加が楽しみである。
ちなみに、新しいファームが公開されたことを知ったのは、プラネックスからの電子メールによってであった。ユーザー登録を行なった人には筆者と同様のメールが、21日中には届いていたのではないだろうか。この手のお知らせメールはユーザーにとって非常にありがたいアフターサービスの1つである。今後も同社のサポートには期待したいところだ。
今回は2回にわけて、スループットの高速性をウリにしたブロードバンドルータを紹介してきた。あくまで、筆者宅での環境でしか試していないので、これを読んでいる方々の環境でも必ず再現するとは断言できないが、ルータとして最も重要な安定動作という部分だけに着目しても、1万円台で購入できる製品に関しては、コレガ「BAR SW-4Pro」以外は疑問の残るものとなった。
1万円台の高速なブロードバンドルータに関しては、まだまだ安心して導入できるものではないという印象を受けた。安価な高速ブロードバンドルータには、市場に投入されてまだ日の浅いARM9を採用したものが多く、このあたりにも原因があるのかもしれない。
しかし、各メーカーが積極的に改善していけば、問題はすぐにでもなくなるわけで、筆者としても期待したいところである。ただ、“安定した通信”という、最も基本的な能力が保証されないまま、製品が出荷されている現状には戸惑いを感じてしまう。
正直なところ、今回紹介した機種のなかで筆者が手放しでお勧めできる機種はない。ただ、センチュリーシステムズのXR-300に関しては、個人で購入できない価格というわけではないので、安定した高機能ルータが欲しいというユーザーであれば、お勧めしたい機種だ。
余談になるが、筆者がADSLを利用しているときに購入したリンクシスのルータ「BEFSR41」はいまでも現役である。トラブルもほとんどなく、ファームウェアの更新も着実に行なわれている。最近ではUniversal PnP対応のファームも公開されており、最新機種と比較してもまったく遜色のない性能をもっている。
1.5Mbpsや8MbpsといったADSLサービスであればルーティング速度がボトルネックになることも少なく、現在でもお勧めできる製品の1つといえる。
このようにメーカーが積極的に対応している製品であれば、製品寿命も延ばせ、ユーザーにとってもありがたい製品となる。現在、ルータを選択する条件としては、メーカーが製品のサポートに対して積極的であるか否かということが重要な要素ではないだろうか。当初は不安定な動作であった製品でも、メーカーが積極的に対応してくれれば、すばらしい製品となる可能性はある。筆者はそれを期待したい。
(2002年2月22日)
[Text by 一ヶ谷兼乃]