一ヶ谷兼乃の

高速ブロードバンドルータの実力を試す <その1>


■リーズナブルな高速ブロードバンドルータが揃い始めた

 筆者にとって、インターネットは不可欠なものになっている。Webページにアクセスして、さまざまな情報を得たり、安定したPC環境のためにアップデータファイルをダウンロードしたり、ライター業を営むためには欠かせないものだ。最近は電子メールに数MBの添付ファイルが付いていたりすることも珍しくなく、インターネットに高速にアクセスできればできるだけ、仕事の効率化につながる。

 この連載で何度も書いているように、筆者は主なインターネットアクセス用インフラとしてNTT東日本「Bフレッツ」のベーシックサービスを利用している。上り下り共に最高100Mbpsの、いわゆるベストエフォートタイプのサービスだが、ここ最近では筆者宅の環境で約30Mbps程度の速度が確認できている。

 30Mbpsという速度はWindows XP ProfessionalをインストールしたPCに、直接Bフレッツの回線を接続し、Windows XP ProfessionalのPPPoE機能を使ってプロバイダにログオンした時の速度である。通常は、Bフレッツの回線をPCに直接接続することはなく、ブロードバンドルータを接続して利用している。

 ここで気になるのは、Bフレッツ回線とPCの間に入るブロードバンドルータの性能、機能である。

 どのように低速で低機能であっても、安定して通信ができるということがブロードバンドルータに求められる最低条件と言えるが、筆者の場合はそれだけでなく、30Mbpsという回線速度に見合ったスループット、ポートフォワーディングやパケットフィルタリングといった機能も重要だと考えている。

 そのほかにも、運用管理していくためのログ機能や、ログオン先情報を複数登録でき、それらを簡単に切り替えられる機能などが充実していれば、さらによい。将来的には、Universal Plug and Play(UPnP)やマルチセッションといった機能を求めたいところであるが、残念ながら、現時点ではそのような製品は存在していない。

 筆者は、つい最近までBフレッツ用としてマイクロ総合研究所「NetGenesis OPT」を利用してきた。このルータを使って特に複雑なことを行なっていなかったのと、非常に安定した動作であったこと、個人で購入できる価格帯で10Mbpsを越すスループットを持った製品が他に存在しなかったことから、買い替えなどは考えていなかった。しかし、2001年末頃から今年に入ってからというもの、スループットが65Mbps、80Mbpsといった製品が数万円のレンジで発売されるようになったため、より高スループットが望める機種への乗り換えを考えるようになったのだ。

ルータを使わずに計測したBフレッツ・ベーシックコースの速度 NetGenesis OPTを使って計測したスループット

 今回は2回にわたり、筆者が実際に購入したもの、メーカーにご協力いただき、お借りした機種などをまじえて、高スループットをうたい文句にしているルータを評価してみる。ただし、Bフレッツがベストエフォートタイプのサービスであること、PCやネットワーク環境の違い、各ルータのファームウェアのバージョンなどによって、筆者宅以外でも同じような結果になるとはいえないことを最初に断っておく。また、記事内で記述しているスループットは、PPPoEでプロバイダやフレッツ・スクエアに接続し、NAT/IPマスカレードを効かせた状態で測定している。フィルタリングやポートフォワード機能は一切設定していない。



■コレガ BAR SW-4P Pro

コレガ BAR SW-4P Pro

 昨年末に発売開始されたコレガ「BAR SW-4P Pro」は、昨年末から今年にかけて次々に発表されている高スループットブロードバンドルータのはしりとなった製品だ。製品リリースやコレガのホームページにはスループット65Mbpsと記載されており、初めてこの製品を知ったときには、非常に驚かされたのを記憶している。

 余談だが、ブロードバンドルータの内部にはCPUが内蔵され、ネットワーク信号を処理している。そのため、複雑な処理をさせた場合には、当然ブロードバンドルータのスループットは低下する。

 例えば、通信の制限を行なうフィルタリングなどを設定するとCPUへの負荷が増加し、設定していない場合に比べてスループット性能は確実に低下するのである。そのため、筆者が各種設定をした状態で使う場合と、メーカーが測定したスループットでは、その値は変わってしまう。

 話が横にそれてしまったが、筆者が言いたいのは、利用する環境によってスループットは変化するものであり、ユーザーの環境によって大きく影響を受けるということだ。

 コレガ「BAR SW-4P Pro」のスループットは公称65Mbps。さすがに筆者が利用する設定では65Mbpsのパフォーマンスが実現できるとは予想していなかったが、その半分程度でも実効速度があればと考え、購入した。

 まずは、ルータに各種の設定をしてみた。設定はWebブラウザから全て行なうことができる。

 設定メニューは、パケットフィルタリングやポートフォワードといった一通りの機能は持ち合わせているようだ。もちろん、ブロードバンドルータに欠かせないNAT/IPマスカレードやBフレッツで利用するPPPoEといった機能も備えている。PPPoEに設定できる接続先は1つ。ポートフォワーディングは画面上でポート番号1つずつ条件を指定する必要があり、最高10件までしか条件を指定できないが、単にホームページを閲覧したり、電子メールをやり取りするだけであれば機能的に問題となることはないだろう。ただ、ネットワークゲームなどで、大量のポート番号をフォワードしたりするユーザーには、支障がでる可能性は十分考えられる。あとは、動作状態を記録するログ機能が無いところが、筆者個人としては物足りなく感じられた。

 また、設定をバックアップすることができないため、工場出荷状態に戻す必要があった場合には、最初から1つずつ設定をやり直しする必要があることや、工場出荷状態に戻すと、ファームウェアのバージョン自体も1.00に戻ってしまう点なども気になった。

フレッツ・スクエアで計測したBAR SW-4P Proのスループット

 さて気になるルーティングスピードであるが、フレッツ・スクエアの回線速度測定ページで計測したところ、平均して約25Mbps前後、最高で26.01Mbpsという結果がほぼ上限であった。これは最新のファームウェア「Ver.1.01」にアップデートして測定したものだ。

 動作の安定度に関しては、筆者の環境では特に問題は起こらなかった。動作中にハングアップしたり、ルーティング速度が低下することもなかった。

 うたい文句の65Mbpsとはならなかったが、1万円台後半で売られている価格と不自由しない程度の安定動作、NBT(NetBIOS over TCP/IP)程度ならフィルタリングできる機能、4ポートの100Base-TX対応スイッチングHubが装備されている点を考慮すると、十分合格点が与えられる製品だ。ただ、ADSLを利用したサービスであれば、ここまでのルーティング性能は必要とならないので、もっと低い価格帯の製品を選ぶという選択肢も当然ある。

 LAN上の機器をインターネットに公開したりせず、あまりルータの設定をする必要のないユーザーで、Bフレッツベーシックのような10Mbpsを超えるインターネットサービスを利用していのであれば、購入しても損はしないだろう。

 コレガでは、UPnPに対応したファームウェアの公開も計画しているとのことなので、今後の展開が楽しみである。



■プラネックス BRL-04FA

プラネックス「BRL-04FA」

 プラネックス「BRL-04FA」は昨年末に発表された製品で、出荷も2001年中ということであったが、その後発売が延期され、今年1月半ばにようやく正式出荷された。この製品のウリもルーティングスピードであった。

 比較対象としてコレガ「BAR SW-4P Pro」よりも高速であるということであったので、筆者も出荷と同時に購入した。価格は約13,000円で、コレガ「BAR SW-4P Pro」よりも若干安い価格設定であった。

 プラネックス「BRL-04FA」は、プラネックス製品らしいネイビーブルーのボディカラーで、筐体は薄くコンパクトである。設定は一般的なブロードバンドルータ同様にWebブラウザ上で行なう。

 設定項目はコレガ「BAR SW-4P Pro」と比べて、細かな項目が増えている。例えば、RIPやセッション数の上限の切り替え、MSS値なども設定できる。もちろん、ポート番号やLAN上の機器のIPアドレスによるフィルタリングやポートフォワード、PPPoE、NAT/IPマスカレードといったブロードバンドルータの基本的な機能は備わっている。

 PPPoEの接続で設定できる接続先は1件。設定した内容はファイル保存することができるので、PPPoEの接続先を変えたり、ルータを初期化した後の再設定の場合でも、設定画面から保存したファイルを指定するだけで元の状態に戻すことができる。

 ポートフォワーディングは、ポート番号1つ毎に設定を行なうタイプであり、16件まで設定できる。これもネットワークゲームやネットワークアプリケーションで多くのポート番号をフォワードする必要があるユーザーでは、足りなくなる可能性がある。

 4つのLANポートは100Base-TX対応スイッチングHubになっている。ありがたいのは、ストレート配線でもクロス配線でもBRL-04FA側が自動判別して、きちんと接続してくれることだ。最近のスイッチングHubにも装備されている機能だが、ストレート配線とクロス配線が混在することによるトラブルは、ネットワーク初心者がよくつまずくトラブルの1つであり、想像以上に効果があると思う。

 一通りの設定を行ない、早速インターネットへのアクセスを試みたのだが、ここで、頻繁に通信ができなくなるというトラブルに見舞われた。

 メールチェックだけを行なっているときには問題ないのだが、IEなどでホームページを閲覧していると、何かのタイミングでインターネットへの通信ができなくなる。ルータ前面のstatusランプが黄色に点灯し、本体前面にあるリセットスイッチを押したり、電源を入れなおさないと復旧しないのだ。

 PPPoEでプロバイダへアクセスしている場合に強制切断してしまうと、NTT側の認証制限で、すぐにログオンしようとしても再接続できず、数分間はインターネットを利用できなくなってしまう。このトラブルは致命的で、常用には耐えない状況だ。その後、プラネックスからは「Ver.2.08 12」のファームウェアが公開され、すぐに更新をしたのだが、ハングアップするという現象は解消されていない。

 インターネット上でBRL-04FAユーザーの意見を見ると、他でも頻繁にハングアップする現象が起こっているようなので、筆者が購入した製品だけのトラブルではなさそうだ。すでにUnnumbered対応のファームウェアを公開する予定があることが発表されているので、このトラブルを抱えたままの状態ではないと思うが、出荷前にチェックできなかったのだろうか。はっきり言って、現時点では、ブロードバンドルータとして役に立たない製品になってしまっている。

フレッツ・スクエアで計測したBRL-04FAのスループット

 なんとか正常に動作している範囲でルーティング時のスループットを計測したところ、平均して約28Mbps程度、最大で29.29Mbpsという速度が記録できた。ルータを使わない状態では30Mbps強だったことを考えると、なかなか優れた速度ではないだろうか。現在、動作が不安定なので正しい評価をすることはできないが、安定動作するファームウェアが公開されれば、Bフレッツユーザーにとって魅力的な製品になるかもしれない。

 とりあえず、ハードウェアの処理能力は個人向けブロードバンドルータとして高いものを持っているようなので、安定動作するファームウェアの公開が行なわれた後に、もう一度評価してみたい。

【2月25日追記】  2月21日に「BRL-04FA」の不具合を修正したファームウェアが公開されたため、再評価を行なった。本稿で指摘している不具合の多くが修正されているためこちらも参照されたい。

【2月22日】【一ヶ谷】高速ブロードバンドルータの実力を試す <その2>
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0222/dgogo33.htm


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(2002年2月13日)

[Text by 一ヶ谷兼乃]


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