AMDデスクトップ版Trinityベンチマーク【システム編】


 AMDは10月2日、Trinityベースのデスクトップ向けAPUを正式発表した。今回は、前回紹介出来なかったCPUおよびシステムベンチマークの結果を中心に、デスクトップ向け第2世代AMD AシリーズAPUを検証する。

●APU6製品が登場するデスクトップ版Trinity
AMD A10-5800K

 今回発表された第2世代AMD Aシリーズ製品は、AMD FXシリーズの「Bulldozer」を発展させた「Piledriver」CPUコアと、Radeon HD 6800シリーズ以降で採用された「VLIW4」アーキテクチャのGPUコアを備えるAPUだ。製品ラインナップには「Llano」世代と同じ「AMD A8」、「AMD A6」、「AMD A4」のほか、A8の上位に当たる「AMD A10」シリーズがある。この辺りは先に登場したモバイル向けTrinityと同様だ。

 デスクトップ版Trinityでは、新ソケットのSocket FM2を採用している。このソケットはデスクトップ向けLlanoのSocket FM1とは互換性が確保されていないので、デスクトップ版Trinityを導入するためには、新たにSocket FM2対応マザーボードを用意する必要がある。

【表1】デスクトップ版Trinity(第2世代AMD Aシリーズ)の主要スペック
CPUA10-5800KA10-5700A8-5600KA8-5500A6-5400KA4-5300
モジュール数222211
CPUコア数444422
CPU動作クロック3.8GHz3.4GHz3.6GHz3.2GHz3.6GHz3.4GHz
Turbo COREクロック4.2GHz4.0GHz3.9GHz3.7GHz3.8GHz3.6GHz
L2キャッシュ4MB4MB4MB4MB1MB1MB
内蔵GPUコアRadeon HD 7660DRadeon HD 7660DRadeon HD 7560DRadeon HD 7560DRadeon HD 7540DRadeon HD 7480D
Streaming Processor384基384基256基256基192基128基
GPUコアクロック800MHz760MHz760MHz760MHz760MHz723MHz
メモリクロックDDR3-1866DDR3-1866DDR3-1866DDR3-1866DDR3-1866DDR3-1600
TDP100W65W100W65W65W65W
市場想定価格12,980円12,480円9,980円9,480円6,480円4,980円

Trinityのダイ写真デスクトップ版TrinityのラインナップSocket FM1についてはデスクトップ版Llanoのみのサポートとなったが、Socket FM2ではTrinityとその後登場を予定している次世代APUでもサポートを予定しているようだ

【お詫びと訂正】初出時にA10-5700のGPUクロックを800MHzとしておりましたが、760MHzの誤りです。お詫びして訂正させて頂きます。

 最上位のAMD A10シリーズは、2モジュール4コアのPiledriverコアと、384基のSP(Streaming Processor/Radeon Core)を持つ「Radeon HD 7660D」を搭載。L2キャッシュ容量は4MBで、メモリコントローラはDDR3-1866のデュアルチャンネルに対応する。

 下位のラインナップになるに従ってスペックが削られており、AMD A8シリーズではGPUがSP数256基の「Radeon HD 7560D」に変更され、AMD A6シリーズではCPUコアが2コアに削減され、キャッシュ容量は1MBへ、GPUコアはSP数192基の「Radeon HD 7540D」へとそれぞれ縮小される。最下位モデルであるAMD A4シリーズでは、GPUがSP数128基の「Radeon HD 7480D」になり、メモリコントローラの対応メモリがDDR3-1600に制限されている。

 なお、モデルナンバーに「K」のサフィックスが付与されたモデルについては、CPU倍率の上方変更およびGPUコアクロックのオーバークロックをサポートするUnlockedモデルとなっている。

●新チップセットAMD A85X搭載マザーボードが登場

 デスクトップ版TrinityをサポートするSocket FM2向けのチップセットとしては、Socket FM1世代で登場した「AMD A75」、「AMD A55」に加え、新チップセット「AMD A85X」が用意される。AMD A85Xでは、AMD A75の機能に加えてSATA 6Gbpsポートが6本から8本に増加したほか、PCI Express x16レーンをx8 + x8に分割して利用可能となり、CrossFireX動作をサポートした。

 今回、デスクトップ版Trinityのベンチマークテストを行なうにあたって利用したASUS「F2A85-M PRO」は、AMD A85Xを搭載したmicroATXマザーボードだ。このマザーボードは、SATA 6Gbpsを7本とI/OパネルにeSATAを1本備え、2本のPCI Express x16スロットを有しており、AMD A85Xで追加された新機能がしっかり実装されている。

AMD A85X搭載マザーボード「ASUS F2A85-M PRO」新ソケット「Socket FM2」CPUクーラーはSocket FM1やSocket AM3+などと互換性があるSATA 6Gbpsポート。内部ポートは7本用意されている
I/Oパネル側の端子群。eSATAはAMD A85Xによる6Gbps対応ポートPCI Express x16形状のスロットを2本備える。下方の白スロットはx8倍接続

●テスト機材

 それでは、デスクトップ版TrinityのCPUベンチマークおよびシステムベンチマークの結果を紹介する。テスト機材は前回のグラフィックス性能テストと同じものを用い、比較製品も同じくデスクトップ版Llanoの最上位モデル「A8-3870K」と、「Intel Core i3-3225」(以下i3-3225)を用意した。

【表2】テスト機材
APU/CPUA10-5800K
A8-5600K
A8-3870KCore i3-3225
マザーボードASUS F2A85-M PRO
(BIOS:5014)
ASUS F1A75-M PRO
(BIOS:2206)
ASUS MAXIMUS V GENE
(BIOS:1204)
メモリDDR3-1866 4GB×2
(9-10-9-28、1.5V)
VRAM1GB
ストレージWestern Digital WD5000AAKX
電源Silver Stone SST-ST75F-P
ディスプレイ解像度1,920×1,080ドット
グラフィックスドライバCatalyst 12.815.26.12.64.2761
(8.15.10.2761)
OSWindows 7 Ultimate SP1 64bit

●CPU、メモリ、システムベンチマークの結果

 実施したテストは、「Sandra 2012.SP2 18.74」(グラフ1、2、13、14、15、16)、「PCMark05」(グラフ3、4)、「CINEBENCH R10」(グラフ5)、「CINEBENCH R11.5」(グラフ6)、「x264 FHD Benchmark 1.01」(グラフ7)、「Super PI」(グラフ8)、「PiFast 4.3」(グラフ9)、「wPrime 2.09」(グラフ10)、「PCMark Vantage」(グラフ11)、「PCMark 7」(グラフ12)だ。

【グラフ1】Sandra 2012.SP4 18.74(Processor Arithmetic/Processor Multi-Media)
【グラフ2】Sandra 2012.SP4 18.74(Cryptography)
【グラフ3】PCMark05 Build 1.2.0 CPU Test(シングルタスク)
【グラフ4】PCMark05 Build 1.2.0 CPU Test(マルチタスク)
【グラフ5】CINEBENCH R10
【グラフ6】CINEBENCH R11.5
【グラフ7】x264 FHD Benchmark 1.01
【グラフ8】Super PI
【グラフ9】PiFast 4.3
【グラフ10】wPrime 2.09
【グラフ11】PCMark Vantage Build 1.0.2
【グラフ12】PCMark 7 Build 1.0.4

 3.0GHz動作のA8-3870Kに比べ、20%以上高い動作クロックを誇るA10-5800KとA8-5600Kだが、Llanoが持つK10ベースのクアッドコアCPUと、TrinityのPiledriverコアではアーキテクチャが大きく異なることもあり、両APU間で動作クロック差がスコアに反映されていると見て取れる結果は少ない。

 一方、Sandra Processor Multi-MediaのMulti-Media Integerや、CryptographyのEncryption/Decryption Bandwidthでは、TrinityがA8-3870Kやi3-3225を大きく引き離すスコアを記録しており、Piledriverコアで追加された暗号化処理の高速化拡張命令AESのサポートや、4つの整数コアと拡張命令セットをフル活用できる条件では、Llanoを圧倒する。

 ただ、モバイル版Trinityがそうであったように、Super PIやwPrime 2.09のように拡張命令セットの効かないテストでは、A10-5800KですらA8-3870Kより低いスコアに留まっており、拡張命令セットの利点が無い条件ではいまひとつ伸び悩んでいる。

【グラフ13】Sandra 2012.SP4 18.74(Memory Bandwidth)
【グラフ14】Sandra 2012.SP4 18.74(Cache Bandwidth)
【グラフ15】Sandra 2012.SP4 18.74(Cache/Memory Latency - Clock)
【グラフ16】Sandra 2012.SP4 18.74(Cache/Memory Latency - nsec)

 K10ベースのCPUコアでは1コアあたり64KB搭載されていたL1データキャッシュが、Bulldozer系のPiledriverコアでは16KBに減らされている。SandraのCache BandwidthやCache/Memory Latencyで、A8-3870KよりA10-5800KとA8-5600Kの方が早い段階で帯域幅の低下とレイテンシの増大が確認できるのは、このL1キャッシュの削減による影響だろう。

●消費電力測定

 最後は、サンワサプライのワットチェッカー(TAP-TST5)を利用して、各テスト実行中の最大消費電力を測定した結果を紹介する。

【グラフ17】システム全体の消費電力

 今回比較対象としたA8-3870Kやi3-3225は、負荷状況に応じてCPUクロックを自動的にオーバークロックする機能を有していないが、A10-5800KとA8-5600KはTurbo CORE 3.0をサポートしており、負荷に応じてCPUとGPUの動作クロックを調整する。TDPに余裕のある範囲内であれば動作クロックを高めて性能向上を図ることにより、一般的なアプリケーション実行中の最大消費電力はA8-3870Kなどと比べて高くなるようだ。今回のCINEBENCH R11.5のシングルスレッド実行中や、前回のグラフィックス性能テストでTrinityの消費電力が高めだったのはこのためだろう。

 今回あらためて測定した消費電力のうち、AMDやNVIDIAがPower Virusと呼ぶストレステストの1つ「OCCT 4.3.1」による負荷テスト実行時の最大消費電力は、同じTDP 100WのA8-3870KとTrinityはほぼ差が無い数値となっている。APU自体の最大消費電力については、LlanoとTrinityは大差ないと言えよう。

●CPUコアは新サポートの拡張命令セット分の性能向上

 以上、2回に分ける形でTrinityの性能をチェックしてきた。CPU部分については、新たにサポートした拡張命令セットによる性能向上に留まっている印象はあるが、グラフィックス性能と合わせて考えればバランスは取れていると言っても良いだろう。

 今後新規にAPUベースのPCを製作するのであればTrinityを選択しない理由は特に見当らないが、既にLlanoを搭載したPCを持っているユーザーがTrinityに乗り換えるとなると、これまでのベンチマークテストでTrinityが示した性能はいささかインパクトに欠ける感は否めない。Llanoのアップグレードパスとして見るか、単純にAPUとして見るかで評価が分かれることになりそうだ。

(2012年 10月 2日)

[Reported by 三門 修太]