エプソンの「DS-30」は、スティックタイプのドキュメントスキャナだ。クラス最軽量とされる325gのボディを持ち、ACアダプタ不要でUSBバスパワー駆動でのスキャンに対応する。先行するPFUの「ScanSnap S1100」と同様、片面読み取りながらその軽量さゆえ、モバイルユースで利用できることを売りにした製品だ。
昨今、ドキュメントスキャナと言えば「自炊」が話題になることが多いが、身の回りの書類をEvernoteなどのクラウドにアップロードして活用するためのツールとしての用途も、こうしたクラウドサービスの普及とともに需要が増えつつある。モバイルユースのほか、デスクサイドで手軽に使えるパーソナル向けのサブスキャナとしてのニーズもあることだろう。
今回はこの製品について、メーカーから機材を借用することができたので、基本的な使い勝手、およびEvernoteとの連携機能を中心としたレビューをお届けする。
●本体はわずか約325g。スティックタイプでUSBバスパワーで駆動まずは外観周りをざっとチェックしておこう。筐体はいわゆるスティックタイプで、操作系のインターフェイスはスキャン開始のボタンのみ。電源ボタンすらないシンプルさだ。左側面にUSBコネクタがあり、USBケーブルでPCと接続する。
冒頭でも述べたように本体は約325gと、ScanSnap S1100の約350gよりもわずかに軽い。したがってクラス最軽量なのは事実なのだが、スマホや電子書籍端末のように長時間手に持って使う製品ではないので、あまりクリティカルな差というわけではない。一方、サイズは276×50×36.5mmと、ScanSnap S1100の273×47.5×34mmに比べてわずかに大きいが、これも同じ理由で、製品選択時の決め手になるほどの差ではない。手に持った感触からすると、サイズ、重さともに差がないというのが率直な印象だ。
センサーはCIS、解像度は600dpi、読み取りは片面、USBバスパワー駆動といった仕様はScanSnap S1100と共通。対応フォーマットについてはScanSnap S1100がJPEGとPDFだけなのに対し、本製品は加えてBMP、TIFFなどに対応する。
原稿サイズはA4。本製品は別売オプションとしてキャリアシートをラインナップしているが、これはあくまで破損しやすい原稿などを読み取りやすくするための品であり、ScanSnapのそれのように2つ折りにした原稿をA3として合成する機能はない。また、長尺の読み取りにも対応していない。
原稿の給紙はフロント側から行ない、背面に排出される。ScanSnap S1100のように、排紙ガイドを直立させておくことで原稿を手前側にUターンするといった機能はなく、まっすぐに背面に排出される。そのためスキャン時は本体背後に原稿と同じサイズの空きスペースが必要になる。
競合となるPFUのScanSnap S1100(右)との比較。値の上では本製品のほうがわずかに大きいのだが、同等といって差し支えないレベル | ScanSnap S1100(右)は使用時にパネルを手前に開くほか、必要に応じて読み取った原稿を手前に戻すためのUターンパスを開く仕組みになっているが、本製品はこうした可動部はない |
●ケーブルを接続するだけで電源オン。動作音は静か
では実際に使ってみよう。ドライバとユーティリティのインストールを終えてUSBケーブルで接続すると、本体のLEDが点灯して使用状態になる。ScanSnap S1100は本体前面のパネルを開けることで初めて電源がオンになる仕様だが、本製品はUSBケーブルを接続しただけで電源が入る。PCの電源を落とすかUSBケーブルを抜かない限りLEDが点灯したままなのは、若干評価が分かれそうだ。
スキャンの流れとしては、本体前面の給紙口に原稿をセットし、本体のスタートボタンを押すことで読み取りが開始され、本体後部に排出される。スタートボタンに割り当てるジョブ設定はユーティリティ「Document Capture Pro」で設定でき、切り替えることもできる。これらは製品の外観から予想できるごく一般的な挙動で、特に奇をてらったところはない。
原稿は右に寄せ、裏向きにセットする。ボタンを押すとスキャン開始 | スキャンした原稿は背面からストレートに排出される |
【動画】DS-30でスキャンを行なっているところ。300dpiカラーで、その他条件は後述するテストに準じている |
【動画】参考までに、こちらはPFUのScanSnap S1100の動画。上記とは同じ読み取り設定で測定しているが、高速な反面、動作音がやや騒々しい |
原稿をセットする際、印字面は下向きとなる。個人的に、印字面を上向きにセットするScanSnap S1100の方式にいまいち馴染めないのだが(スキャナ製品においては印字面は下向きになるという先入観が筆者にあるのが原因のようだ)、その点で本製品は間違えにくい。まあ、これは慣れにまつわる個人的な問題なので、製品の良し悪しといった話ではない。
読み取りは1枚ずつだが、継続読み取りをオンにしておけば複数ページのPDFを生成できる |
ちなみに読み取りは1枚ずつとなり、複数枚の原稿を同時にセットすることはできないが、PDFを生成する場合などは「継続読み取り」にチェックを入れておくことにより、書類の裏表や複数枚のデータを1つのPDFにまとめることができる。ScanSnap S1100でももちろん可能な機能だが、このあたりは抜かりはない。
実際にスキャンしてみてScanSnap S1100とは明らかに差があるのが、読み取り速度、そして動作音だ。動画をご覧いただければ分かるように、本製品は読み取り速度が遅いぶん音が静かで、ScanSnap S1100は読み取りが高速なぶんモーター音がかなり響く。後で詳しく見ていきたい。
●スキャンの所要時間はScanSnap S1100に比べて若干長め
つぎにスキャンの所要時間について見ていこう。
解像度およびカラーモード別に、具体的な所要時間を計測したのが下の表だ。解像度は200/300/600dpi、カラーモードがカラー/グレー/モノクロ(白黒)で計測している。いずれもフォーマットはPDF、サイズ自動、傾き補正あり、OCRなしという条件である。
原稿は、先日掲載しているES-D350のレビューでも使用したインプレスジャパンの「DOS/V POWER REPORT」最新号の1ページを使用している。所要時間は、原稿挿入から排出までの時間ではなく、本体の読み取りボタンを押してから、Adobe Readerが自動起動してスキャン済みデータが表示されるまでの総時間を計測している。
200dpi | |||
カラーモード | カラー | グレー | モノクロ(白黒) |
DS-30 | 23秒8 | 21秒7 | 21秒2 |
ScanSnap S1100 | 10秒1 | 10秒3 | ※設定なし |
300dpi | |||
カラーモード | カラー | グレー | モノクロ(白黒) |
DS-30 | 24秒5 | 21秒6 | 20秒8 |
ScanSnap S1100 | 11秒0 | 10秒6 | 9秒9 |
600dpi | |||
カラーモード | カラー | グレー | モノクロ(白黒) |
DS-30 | 1分10秒1 | 28秒4 | 23秒3 |
ScanSnap S1100 | 30秒0 | 29秒5 | 11秒2 |
上の表からわかるのは、本製品はカラー600dpi、ScanSnap S1100はカラーとグレー600dpiの時に速度が低下する現象が見られるが、それ以外の解像度およびカラーモードでは、本製品が「20秒台」、ScanSnap S1100が「10秒台」で読み取れるということだ。つまり200/300dpiで使用する限りでは、本製品の所要時間はScanSnap S1100のおよそ倍、ということになる。
本製品について惜しいのは、開始ボタンを押してから実際に読み取りが開始されるまでに、5~6秒ほどのタイムラグがあることだ。ScanSnap S1100はボタンを押せばすぐに読み取りが始まるだけに、スタートダッシュの時点で差を付けられてしまっている格好だ。もちろん紙送りのスピード自体も差はあるのだが、この開始時のタイムラグがなければ差はもっと縮まったであろうことを考えると、つくづく惜しい。
ただ、何十枚もまとめてセットしてスキャンする据置タイプのドキュメントスキャナと違い、本製品は1枚スキャンして給紙、1枚スキャンしてまた給紙という繰り返しなので、実際に作業をしていると上の値ほどの差は感じにくい。所要時間が1分を超えるカラー600dpiだけはさすがに時間がかかりすぎると感じるが、それ以外では致命的な差ではないというのが、率直な感想だ。
またScanSnap S1100は、継続読み取りをオンにしているとボタンを押さずに原稿を差し込んだだけで読み取りが始まってしまうので、誤って斜行状態でセットしてしまった際にあれよあれよと読み取られてしまい戸惑うことがある。その点、ボタン操作で継続読み取りを行なう本製品は、紙送りのスピードこそ速くはないものの、こうしたミスが起こりにくく、差し引きで見るとあまりハンデとは感じない。このあたりは、同じドキュメントスキャナでも、いったん原稿をセットしたらしばらく継ぎ足す機会のないオートシードフィーダタイプの製品とは違う点だ。
●ファイルサイズはScanSnap S1100より小さめ。画質はやや暗めながら許容範囲続いてファイルサイズと画質について見ていこう。まずファイルサイズについては、ほぼすべての設定において、ScanSnap S1100よりもファイルサイズが小さくなる傾向がある。特にグレーモードについては、200/300/600dpiいずれの解像度でもファイルサイズはおよそ6割ほどと、かなりの差がつく。これはScanSnap S1100はカラーとグレーでほとんどサイズの差がないのに対し、本製品はそこそこの差があることにも起因している。
200dpi | |||
カラーモード | カラー | グレー | モノクロ(白黒) |
DS-30 | 266KB | 191KB | 39KB |
ScanSnap S1100 | 340KB | 338KB | ※設定なし |
300dpi | |||
カラーモード | カラー | グレー | モノクロ(白黒) |
DS-30 | 559KB | 387KB | 64KB |
ScanSnap S1100 | 735KB | 668KB | 64KB |
600dpi | |||
カラーモード | カラー | グレー | モノクロ(白黒) |
DS-30 | 2013KB | 1417KB | 144KB |
ScanSnap S1100 | 2417KB | 2166KB | 164KB |
画質については、ScanSnap S1100に比べると背景の地肌の色が飛ばずに残ってしまうことがあるが、実用上支障のあるレベルではない。若干ソフトフォーカスがかっている点などは前回レビューした同じエプソンのES-D350と同様だが、こちらは目に見えない凹凸が再現されてしまって補正が困難といったこともなく、きわめて素直な絵作りに感じられる。ScanSnapで生成したPDFにみられる、シャープネスをかけすぎた場合に発生するカラーのブロックノイズも少ないようだ。
DS-30 | ScanSnap | |
カラー200dpi | ||
カラー300dpi | ||
カラー600dpi | ||
グレースケール200dpi | ||
グレースケール300dpi | ||
グレースケール600dpi | ||
モノクロ(白黒)200dpi | ※設定なし | |
モノクロ(白黒)300dpi | ||
モノクロ(白黒)600dpi |
このあたり、同じメーカーの製品であるES-D350と絵作りの傾向がかなり異なるのは興味深い。CCD/CISといったセンサーの違いか、使用しているユーティリティの違いか、はたまたそれ以外の要因なのかは定かではないが、ひとまずデフォルトのままで使い続けて大きな問題はないように感じる。気になるようであれば、ユーティリティの詳細設定からもう1つのユーティリティ「EPSON Scan」を呼び出し、明るさやコントラスト、アンシャープマスクなどのオプションで補正してやればよい。
前回同じエプソンのドキュメントスキャナ「ES-D350」ではスキャンした際に凹凸が出ていたが(左)、今回のDS-30(右)ではまったく出ていない。同じメーカーの製品ながら読み取りの傾向はかなり異なるようだ |
また、今回使用しているユーティリティ「Document Capture Pro」は、ページの追加や削除、90度単位の回転のほか、傾きの自動補正機能まで搭載している。読み取りの時点で傾きや向きの補正がいまいちだった場合は、これらの機能を用いて修正するとよいだろう。個人的にはトリミング機能も追加してほしいところだ。
●Evernote連携機能を搭載。ノートブック名を指定してのアップロードが可能
さて、本製品はEvernoteやGoogleドキュメントなど、クラウドへのアップロード機能を備えていることがウリになっている。今回はEvernote連携機能について、同等の機能を持ったScanSnap S1100との使い勝手の違いを見ていこう。
「Document Capture Pro」のジョブ設定の画面で、転送先にEvernoteを選んでおけば、スキャン後にEvernoteへのアップロードが行なわれる |
Evernoteにアップロードするには、ユーティリティ「Document Capture Pro」のジョブ設定で、転送先に「Evernote」を選んでおく。この際、PCにはあらかじめEvernoteのクライアントソフトがインストールされている必要がある。要するに生成したPDFデータをEvernoteのクライアントに渡し、あとはそちら側の機能でクラウドへのアップロードを実行するという仕組みだ。
本製品を使っていて便利だと感じたのは、アップロード先となるEvernoteのノートブック名をジョブ設定時に指定できることだ。本製品経由で保存するデータをすべて特定のノートブックに入れたり、あるいはジョブ1が「01領収書」というノートブックへの保存、ジョブ2が「02チラシ」というノートブックへの保存といった具合に複数のジョブを作っておき、設定を切り替えながら使用することもできる。アップロード完了後にどのノートブックに保存されたか分からなくなってしまい、探し回るといった時間のロスも防げるだろう。
ただ1つ残念なのは、アップロード先のノートブックを指定できる一方で、個別のノート名をアップロード前に書き換えられないこと。ScanSnap S1100では「読み取り後、ファイル名を変更します」にチェックを入れておくことで書き替えが可能なので、この点についてはぜひ改善を望みたいところだ。
どのノートブックに送信するか、複数の設定を作って保存しておける | 転送先設定の入力画面。この画面は、領収書をスキャンする時はEvernote上の「01領収書」というノートブックにアップロードするという設定。ちなみに画面上段の「設定名称」はユーティリティ上での識別名にすぎないので、どんな名前をつけても構わない | 「Document Capture Pro」のジョブリスト。複数のジョブを切り替えて利用する |
ジョブリストの1つをスキャナ本体のボタンに割り当てておくことで、ボタンひとつでジョブが実行される | 実際にEvernoteのクライアントソフトに渡されたデータ。ジョブで指定した「01領収書」というノートブック上にPDFが保存されている |
また、Evernoteへのアップロードが完了したデータをローカルから自動削除できる機能も、人によっては重宝しそうだ。ScanSnap S1100では、Evernoteにアップロードした後もマイドキュメント内にデータが残ってしまうため、手動で削除してやる必要があるが、本製品ではアップロード後に自動削除されるよう設定できるので、データが不用意にローカルドライブ内に残ってしまうこともない。もちろん削除されないよう設定することもできるので、個人の使い方に応じて設定してやるとよいだろう。
●高い基本性能でコストパフォーマンスも良好。検討する価値のある製品本製品はキャリングポーチが標準で付属する。ScanSnap S1100は収納したままスキャンが可能な専用ケースが別売で用意されているが、バッグの中に入れた場合の体積が大きくなってしまうこともあり、こうしたキャリングポーチのほうが好まれるシーンは多そうだ |
以上ざっと見てきたが、基本性能は高いレベルにあり、使い勝手もなかなか良好だ。競合となるScanSnap S1100は、原稿のUターンパス機能やA3用紙対応、iOSおよびAndroidアプリとの連携機能、さらに最近のアップデートで追加されたARROWS Tabからの直接スキャンなどの独自機能を備えている。いずれも便利な機能だが、すべてのユーザーが利用する機能かというと少し違う。どちらかというと、利用スタイルに応じて必要な人だけが使う機能といえるだろう。
対する本製品は、Evernote関連機能の使いやすさ、さらには可動部分が少ないがゆえの堅牢性、静音性、また「Document Capture Pro」のさまざまな機能を備える。製品を選ぶ際はおもにこれら機能の比較ということになるが、ともあれScanSnap S1100のライバルとして検討する価値のある製品であることは間違いない。
ところで今回は同じドキュメントスキャナの競合であるScanSnap S1100との比較を中心に見てきたが、身の回りの書類を手軽にデータ化するという意味においては、むしろスマホのカメラ機能もライバルと言えそうだ。名刺や領収書の類をスマホのカメラで撮影し「CamScanner」などのアプリで台形補正してEvernoteに取り込んでいるユーザーにとって、敢えてスキャナの専用機を追加購入するメリットは、スマホのカメラでは取り込みにくいA4などの大判サイズの書類を高画質でスピーディに取り込めること、かつ相応のコストパフォーマンスがあることだろう。その点において、本製品は十分に条件に見合う製品と言えそうだ。
ちなみに価格についてだが、6月13日の時点で価格.comの最安値を比較する限りでは、本製品が13,482円、ScanSnap S1100が12,000円と、ScanSnap S1100にやや分がある。ただし本製品はキャリングポーチが標準で付属しているのに対し、ScanSnap S1100は専用ソフトケースが別売で2,980円(ダイレクトショップ価格)と、ケースを足すと価格差が逆転する。ここに送料などの条件が加わってくるとますます甲乙つけがたくなるわけで、価格面でも同等と見ておいてよいだろう。
(2012年 6月 15日)
[Reported by 山口 真弘]