【特別レポート】アメリカでMicrosoftのZune HDを買ってみた

Zune HD(32GB)

9月15日 発売
実売価格:219.99ドル(16GB)~289.99ドル(32GB)



 携帯型オーディオプレーヤーといえば、AppleのiPodファミリーが一人勝ちといった情勢だが、最近国内ではソニーのWalkmanも盛り返してきている。そんな中、9月15日に米国でMicrosoftが新たなオーディオプレーヤー「Zune HD」を発売した。

 本製品は現時点で、米国でしか取り扱いの予定がないのだが、折しも米国出張中だったので、1台購入してみた。基本的にオーディオプレーヤーはAV Watchの範疇だが、本製品はNVIDIAの組み込み向けチップTegraを搭載しているほか、無線によるネットアクセス機能もあるなど、弊誌読者にも興味深い点が多いと思うので、ここにレビューしてみることにする。ただし、本製品はハードウェア/ソフトウェアともかなり多機能であるので、ここでは要点にのみ的を絞ってお伝えする。

●仕様はiPod touchにかなり近い

 製品ラインナップは容量が16GBと32GBの2モデルがある。16GBは本体色が黒、32GBはプラチナという以外、仕様に違いはない。実売価格は前者が219.99ドル、後者が289.99ドル。ただし、同社の直販サイトでは、本体色について赤と緑を加えた4色から選択でき、本体背面にテキストやイラストを彫り込むこともできる。今回は量販店店頭で32GB(プラチナ)を、合わせて、「Zune HD AV Dock」(89.99ドル)と、ジャケット(14.99ドル)も購入した。Zune HD AV Dockには、HDMI出力の付いたドックとリモコンがついており、TVに繋いで離れた場所からZune HDを操作できる。

 まずは、本体の仕様を紹介しよう。本体サイズは52.7×102.1×8.9mm(幅×奥行き×高さ)、重量は74g。液晶は480×272ドット表示対応3.3型有機ELで、マルチタッチに対応。また、傾きセンサーを内蔵し、縦持ちと横持ちが可能。音楽(WMA/MP3/AAC)のほか、静止画(JPEG)、動画(WMV/MPEG-4/H.264)の再生に対応。このほか、IEEE 802.11b/g無線LAN、FM/HDラジオに対応する。バッテリ駆動時間は、音楽再生時33時間、動画再生時8.5時間(いずれも無線LAN OFF時)。付属品はイヤフォンとUSBケーブル。

Zune HDの化粧箱。コンパクトにまとまっている主な内容物は、本体、USBケーブル、イヤフォン、イヤーパッド3色Zune HD本体正面。Zuneのと書かれたすぐしたにトップボタンがある
本体上部に電源ボタン本体下部は、ドックコネクタとイヤフォン端子本体左側面に、音楽操作画面を呼び出すボタン
本他右側面には特に何もない本体背面。直販で頼むと図柄をレーザー刻印できるiPod touchがなかったので、iPod nanoとの比較

 このように、ハードウェアの仕様は、iPod touchにかなり近い。Zune Marketplaceを通じて、音楽だけでなく、独自アプリケーションやゲームを入手できる仕組みを用意している点も似ている。Microsoftが相当に意識していることは間違いないだろう。

 目立つ違いを挙げると、iPod touchに対する短所としては、Bluetoothがない、対応言語が少ない、Mac OS非対応、最大容量が少ないなど。逆に長所としては、HDラジオへの対応、無線LANによるPCとの同期機能、オプションのドック接続時のHDMI出力などが挙げられる。

Zune HD AV Dockの主な内容物。ドックからはUSBケーブル以外にラジオのアンテナが伸びている。右下はUSB接続のACアダプタまだサードパーティアクセサリはほとんど無いが、シリコンジャケットは入手可能

●英語ユーザー以外には利用に壁

 使用感について話す前に、利用環境について説明する必要がある。前述の通り、本製品は無線LAN機能を搭載する。この無線LANは現時点で米国でしか認可が下りていないため、米国以外では無線LAN機能を利用できない。また、楽曲配信という、より大きな問題もあり、本製品の販売や利用は原則として米国内に制限されている。

最初にファームウェアのアップデートを行なう必要があるが、そのためには基本的にOSが英語版である必要がある

 では、日本のユーザーであっても、米国に行って現地で使う分には問題がないのかというと、それにも問題があった。本製品は利用する前に、ZuneソフトウェアをインストールしたPCにUSB接続する必要がある。その際に、本体のファームウェアがバージョン4.0から4.1にアップグレードされるのだが、日本ユーザーの一般的PCではこれができないのだ。

 というのも、Zuneのサポートフォーラムを読んでみて分かったのだが、ファームウェアのアップデートにあたっては、コントロールパネルの「地域の言語の設定」の「場所」が“米国”に、そしてOS自体の言語ユーザーインターフェイスが“英語”になっている必要があるからだ(いずれもWindows Vistaの場合)。

 前者の場合は誰でも簡単に設定できるが、言語パック(MUI)によってOSの言語を変更できるのはUltimateとEnterpriseだけだ。筆者の場合は、Ultimateを使っていたので、設定を変更し、ファームウェアのアップデートにこぎつけた。しかし、米国市民であっても母国語が英語以外のユーザーは少なくなく、そういったユーザーがZune HDを使えないことはフォーラムでも問題になっている。改善は急務と言えるだろう。

 ちなみに、Zuneの直販サイトは、接続元のIPアドレスが米国以外だと接続できない。ただし、ZuneソフトウェアからのMarketplaceへのアクセスについては、こういった制限をかけていないようだ。

●メディアファイルは転送時ダウンスケール
初期設定では、MP3ファイルなどがZuneソフトウェアに関連づけられるので、インストール時に設定を変えた方がいい

 話が少し前に戻るが、Zuneソフトウェアのインストール時に、初期設定を行なう。デフォルトでは、ユーザーフォルダ下の「ピクチャ」、「ミュージック」、「ムービー」などのフォルダからメディアファイルがメディアのリストに読み込まれる。また、MP3やMPEG-4など一部のフォーマットの規定のプレーヤーがZuneソフトウェアになってしまうので、必要に応じてこれらを変更する。

 続いて、アカウントの設定がある。ユーザーアカウントとパスワードについては、Windows Live IDのものを使えるが、これと別にZuneでのニックネームを設定する必要がある。これは、Zuneのソーシャル機能を使うために必要となる。Zune HDの基本機能を使うだけなら、アカウント設定はここで終えて構わない。

 MicrosoftはZune Passというものを用意している。これは1/3/12カ月という単位で、利用できるサービスで、加入すると、その期間Marketplaceで提供してる全ての楽曲をストリーミング再生でき、毎月10曲までのファイルをダウンロードできるなどのサービスを受けられる。しかし、Zune Passの利用にあたっては、住所などより詳細なユーザー情報を登録する必要がある。今回、1カ月分のZune Passを購入したのだが、米国に住所はないので、この登録は保留している。ちなみに、1カ月のZune Passの価格は14.99ドル。

 Zuneソフトウェアには、「QuickPlay」、「Collection」、「Marketplace」、「Social」の4つの画面がある。

 QuickPlayには、新しく追加されたコンテンツや、直近の履歴などがグラフィカルに表示される。Collectionは文字通り、所有しているコンテンツの一覧が表示される。この時点で、初期設定に基づき、Zuneソフトウェアの「Collection」の中に、各種メディアファイルがリストアップされているはずだ。

 OSの言語は英語である必要があるが、Zuneソフトウェア自体は2バイト文字に対応しているので、日本語の曲名やフォルダ名なども問題なく表示される。

 初期設定ではCollectionの全アイテムが同期されるが、手動設定にしている場合は、Zune HDに転送したいファイル(音楽の場合はアルバム単位も可)を右クリックして、「Sync with Zune」を選べば、転送される。

 さて、この時各種メディアファイルは高精細すぎる場合、その質がZune HDに合わせて下げられる。まず、音楽の場合、初期設定では320Kbpsを超える場合、192Kbpsに下げられる。動画の場合は、720pを超えるものは720pに下げられる。

 音楽の場合、Zune HDがサポートするフォーマットのものはコンバートしない設定がある。動画については、480×272ドットにまで縮小させるオプションもある。静止画は正確な説明がないのだが、表示されるものを見る限り、あらゆる画像は強制的に480×272ドットに縮小されているようだ。

 そのため、同期するにあたっては、単にファイル転送を行なうだけでなく、トランスコードなどが行なわれるので、特にビデオの場合はそれなりに時間がかかることがある。

 Marketplaceは各種コンテンツを購入する場所。音楽は1曲79~99セント前後で売られている。動画の場合、コンテンツによって変わってくるが、あるドラマは購入が1話1.6ドル、映画は購入の場合、SDが12ドル、HDが16ドル、レンタルではSDが3.2ドル、HDが4.8ドルだった。

サポート環境は英語のみだが、日本語も表示は可能初期設定ではこのように音楽/動画ファイルがダウンスケールされるMarketplaceでは新作映画の購入やレンタルも可能

 メディア以外に、Marketplaceではアプリケーションも販売されている。といっても現時点ではカジュアルゲームと簡単なアプリが数個あるのみで、価格もいずれも無料となっている。Tegraにはそれなりの3D性能もあるので、今後さまざまゲームやアプリが登場することに期待したい。なお、Zuneソフトウェアはプレーヤー機能も搭載し、各種ファイルを再生できるが、Zuneアプリは実行できない。

 Zune HDの特徴の1つが、無線LANを使って単体でもMarketplaceにアクセスできる点だ。Zuneソフトウェアを使ってZune HDにアカウントを紐付けておけば、有料コンテンツも購入できる。また、Zune HDでダウンロードしたファイルは、PC本体とUSBでなく無線LANで同期させることもできる。なお、無線LANについて、PCでは電波のアンテナがフルに立つところでも、Zune HDでは3本中1~2本のことが多く、PCよりはアンテナの感度が落ちるようだ。

 Socialは、友人のプレイ履歴などを見たり、共有したり、メッセージの送受信をしたりできるが、今回はその機能を試してないので、説明は割愛させていただく。

Marketplaceには専用アプリもある。現在は簡単なものが無償提供されているZune HD本体からも無線LANでMarketplaceにアクセス可能アカウント設定をしていれば、そのままダウンロードや購入もできる

●軽快な操作感。ブラウザは言語の壁

 Zune HDの操作は、基本的にタッチスクリーンで行なう。項目の選択は指で触れ、画面をスクロールする際は、縦か横に指でなぞる。2本の指を当てて、間隔を変えると拡大/縮小を行なう。また、本体を持つ向きを横にすると、表示も自動的に横画面になる。つまり、iPod touchと同じインターフェイスだ。操作性はすこぶる良く、指の操作に対してスムーズに画面がついてくる感じだ。ちなみに、動画の再生は横画面のみとなっているようだ。

 多くの場面で、親メニューの文字が画面の最上部に表示されており、1階層戻るにはそこをタップする。ルートメニューに戻りたい場合は、本体表面のボタンを押すと一気に戻れる。本体左手のボタンを押すと曲のコントロール画面が表示され、ボリュームの変更と、曲の頭出しが行なえる。

 画像表示時は、2本指の操作で拡大/縮小できるが、ダブルタップすると、元のサイズから最大2段階拡大でき、さらにダブルタップすると元のサイズに戻る。

【動画】操作の様子

 音楽についてちょっとおもしろいのが、一部のアーティストについては、Collection追加時に写真、ディスコグラフィー、略歴、関連アーティストなどの情報が自動的にダウンロードされ、全部ではないと思うが、ローカルにも保存されるのだ。

 今回、テスト用に米国のDream Theaterというバンドと、日本のGO!GO!7188というバンドのアルバムを1つずつ転送してみた。いずれもMarketplaceで購入したものではなく、もとから持っていたものをMP3に変換して転送しただけだ。

 すると、Dream Theaterの方は、Zune HD上で再生時に自動的にバンドメンバーの写真が壁紙として表示された。略歴なども表示できる。どうやらMarketplaceで取り扱いがある曲(アーティスト)は、自動的に関連情報が取り込まれるようだ。

 また、その場合、アーティストを選択した際、画面下部に下矢印が表示され、これを押すと、Marketplaceで販売されているほかの曲が表示され、無線LANが繋がっているなら、Zuneソフトウェア上と同じように視聴や購入ができる。

 このほかにも、HDラジオを聞いている時、音楽が流れていて、その曲がMarketplaceで取り扱いがあれば、ワンタッチでMarketplaceに飛んで、曲を購入する仕組みが用意されている。ちなみに、ラジオの設定には地域として、米国以外に、欧州と日本とがある。

Dream Theaterの曲をCollectionに加えると、壁紙の画像などが自動的に付与されたデジタル放送であるHDラジオでは、流れている音楽の曲名を表示し、そのまま無線LANでMarketplace経由で購入もできる

 Webブラウザは時間が無くてその素性を調べられていないのだが、何かしら(Internet Explorerだとは思うが)のモバイル向けのものが搭載されている。日本語表示については、Shift-JISは文字化けするが、UTF-8ならできるようだ。しかし、検索エンジンに使われているBingは、ローマ字でもある程度の日本語検索が可能となっているものの、日本語IMEはないこともあり、日本語サイトの閲覧や、Webメールなどによるコミュニケーションには難がある。

 もう1つ残念なのがFlashプレーヤーを搭載していない点。試しにと思ってYouTubeとニコニコ動画(ββ)を開いてみたが、いずれもダメだった。

 こういった理由から、Webブラウザについて、Zune HDがサポートする英語、フランス語、スペイン語以外のユーザーは、おまけ程度にしか利用できないと考えて良い。

ブラウザは日本語表示も可能だが、この通りFlashが使えないのが痛い

●日本展開の望まれる製品

 さて、今回は環境などが限定的だったこともあり、かなり駆け足でZune HDの主な特徴を紹介してきた。

 率直な感想としては、小気味良く動作するメディアプレーヤーとして結構気に入った。新しもの好きにとっても、遊べるガジェットに仕上がっていると思う。具体的な数は分からないが、Marketplaceにもかなりの数の音楽や映像が用意されているようで、買ったその日からいろいろ楽しめるだろう。

 ただ、すでにiPodを持っているユーザーが乗り換える価値があるかと言うと、個人的には今あるAppleロスレスの音楽を、WMAロスレスにエンコードし直して取り込む苦労を厭わせないほどのインパクトはないと言える。iPod touchユーザーの場合なら、アプリの少なさも気になるだろう。きつい言い方をするなら、iPod touchに追いつきはしたが、超えてはいないといったところか。

 そういったわけで、1台目のプレーヤーとしてなら、アリだと言える。ただ、それもこれも、日本人ユーザーにとっては、場所と言語の壁をまず取り崩す必要がある。魅力的な製品には仕上がっているので、そろそろMicrosoftには日本展開も考えていただきたい。

(2009年 10月 1日)

[Reported by 若杉 紀彦]