トピック

3Dプリンタで車両を作って競う「第2回 モデ1GP」レポート

~3Dプリンタで生まれ変わった“スーパーカー消しゴム”遊び

 2015年9月12日、アーツ千代田3331にて、3Dモデラボ、Engadget日本版、Precraが主催する「第2回 モデ1GP」が開催された。

 モデ1GPとは、3Dプリンタ活用ワークショップなのだが、1日で「学ぶ」、「作る」、「遊ぶ」の全てを体験できることが魅力だ。モデ1GPは、午前中に行なわれる第1部と、午後からの第2部に分かれており、第1部では3D CAD「Autodesk 123D Design」を用いた3Dモデリング講座が行なわれた。

 ここで、参加者はサイズが3×1.5×1.5cm(幅×奥行き×高さ)内の車両を3Dモデリングする。初めて3D CADを使うという参加者でも講師が丁寧に教えてくれるので、心配はない。3Dモデリングした車両は、昼休みに会場内に設置された3Dプリンタで出力され、午後からの第2部で利用する。第2部では、第1部で参加者が作成したオリジナル車両と第2部からの参加者の持ち込み車両によって、2部門での競技が行なわれた。

 第1回 モデ1GPは、2015年5月16日に同じくアーツ千代田3331で開催され、筆者も子供たちと参加してきたのだが、とても楽しかった。今回は、満を持して私、娘、息子の3人で第2部にエントリーしたので、その様子をレポートしたい。

40代以上の方には懐かしい、スーパーカー消しゴム遊び

 第2部が始まると、まず、モデ1GPのレギュレーションがスクリーンに掲示された。レギュレーションは比較的シンプルで、車両のサイズが3×1.5×1.5cm(同)以内、タイヤ数は4本、タイヤ以外が地面に触れないという条件を満たせば、デザインは自由だ。素材も自由だが、3Dプリンタで出力したものに限られる。第2部は、競技部門とデザイン部門の2部門に分かれており、競技部門は、3Dプリンタで作成した車両をノック式ボールペン「BOXY」で弾き、その走行距離を競うというものだ。

 BOXYで車両を弾くと聞いて懐かしいと思ったのは、40代以上の方であろう。筆者が子どもの頃、カウンタックやフェラーリなどのスーパーカーブームが起こり、スーパーカー型の消しゴムが大流行した。スーパーカー消しゴム(カー消し)の後ろにBOXYのノック部分を押し込んで当て、側面のボタンを押してノックのバネを開放すると、その勢いでスーパーカー消しゴムが弾かれて進む。この走行距離を競うことに熱中した覚えがある。消しゴムのままだと床との摩擦が大きいので、タイヤ部分にセメダインなどを塗って摩擦係数を下げたり、BOXYを分解してバネを手で延ばして強化したり、2つのバネを無理矢理1本のBOXYに押し込むなど、さまざまな工夫をしたものだ。

 モデ1GPの競技部門も、基本的にこのスーパーカー消しゴム遊びと同じで、スタートラインの手前に車両を置いて、BOXYで弾いてその走行距離を競う。ただし、停止時に4本のタイヤが正しく接地していないと無効となる。また、コースのゴールとなるJUMP台を通らずに、コースの左右から落ちた場合も無効となる。ルールは非常にシンプルだが、だからこそ子ども大人も熱中してしまう。

 デザイン部門は、その名の通り、車両のデザイン力を競うもので、参加者全員の投票によって優秀作品が選ばれる。

モデ1GPのレギュレーション。車両条件は、サイズが3×1.5×1.5cm以内で、タイヤ数は4本、タイヤ以外が地面に触れないこととなっている
競技部門とデザイン部門の2部門がある。競技部門は、車両をノック式ボールペンで弾き、その走行距離を競う。デザイン部門は、デザイン力を競う
競技部門の計測方法。停止時にタイヤが接地していないと無効になる(横転したり、上下ひっくり返ると無効)。コースの全長は約180cmだが、そこを超えて床に着地した場合も、転倒してなければ記録となる
車両の素材制限はないが、3Dプリンタで出力したものに限られる。また、重量制限はない
JUMP台を通らずに、コースの左右から落ちた場合は無効となる

XYZプリンティングジャパンが賞品として3Dプリンタやコーティングキットを提供

 このイベントは、第1部からの参加は1名1,000円、第2部からの参加は1名500円と、参加費も格安なのだが、XYZプリンティングジャパンが協賛しており、競技部門の優勝者にはXYZプリンティングジャパンの3Dプリンタ「ダヴィンチ 1.0A」が、デザイン部門の優勝者にはコーティングキットが提供された。

 競技開始までに、出力された車両のサポート部分をラジオペンチで外したり、バリをヤスリで削ったりする作業時間が設けられたが、その時間を利用して、XYZプリンティングジャパンの新井原氏が、同社の3Dプリンタについてのプレゼンテーションを行なった。

 同氏によると、XYZプリンティングのミッションは「3Dプリントをもっと手軽にもっと身近に」することであり、そのミッションのために、中小企業やパーソナル、ファミリー層をターゲットにした製品展開を行なっているという。

 XYZプリンティングジャパンの3Dプリンタは、2014年の国内3Dプリンタ市場(台数ベース)でシェアトップを獲得したが、その理由として「情報が豊富」、「ラインナップが豊富」、「購入しやすい」、「使い始めやすい」「使い続けやすい」という5つが挙げられるとした。

 情報が豊富という点については、雑誌やTVなどさまざまなメディアに取り上げられていること、ラインナップが豊富という点については、低価格でコンパクトな「ダヴィンチ Jr.1.0」から光造形方式のプロシューマー向け製品「ノーベル 1.0」までの製品が揃っていることが解説された。購入しやすさという点については、大手家電量販店やネット通販、直販サイトなどから購入でき、使い始めやすいという点については、製品が組み立て済みで、3Dプリントに必要なフィラメントやメンテナンス用の工具なども全て付属しているため、買ってきてすぐに使い始められることをアピールした。最後のポイントである使い続けやすいという点については、フィラメントやレジンのカラーバリエーションが充実していることやソフトウェアが頻繁にアップデートされ、機能向上やバグフィックスなどが行なわれていること、サポート体制もしっかりしていることが挙げられた。

 最後に、現時点で未発表の新製品「ダヴィンチ Jr.1.0w」についても軽く紹介が行なわれた。ダヴィンチ Jr.1.0wは、ダヴィンチ Jr.1.0の上位となる製品で、新たに無線LAN機能が搭載されており、無線LAN経由での出力にも対応する。また、今年開催されたCOMPUTEX 2015のXYZプリンティングブースで展示されていた製品の写真も公開されたが、こちらはまだ日本での発売時期などは未定とのことだ。

会場にはXYZプリンティングジャパンの3Dプリンタ「ダヴィンチ 1.0」が4台設置され、午前中の第1部の参加者がモデリングした車両を出力していた
第1部からの参加者は14名で、それぞれ分担して出力されていた
出力された車両のサポート部分を外したり、バリをヤスリで削ったりする作業場が用意された。ペイントマーカーで色を付ける参加者も
XYZプリンティングジャパンの新井原慶一郎氏がプレゼンテーションを行なった
プレゼンのタイトルは「XYZプリンティングジャパンの紹介とお客様に選ばれる理由」
XYZプリンティングのミッションは、「3Dプリントをもっと手軽にもっと身近に」することである
それは「3Dプリンターで産業革命を」ということでもある
XYZプリンティング製品のポジショニング。中小企業やパーソナル、ファミリー層をターゲットにしており、利用できる素材はプラスチックである
ダヴィンチシリーズの最新モデルが、2015年9月3日に発表された「ダヴィンチ 1.1 Plus」である。タッチパネル付きカラー液晶を搭載し、無線LAN経由での出力が可能
こちらは最廉価モデルの「ダヴィンチ Jr.1.0」。本体の容積はダヴィンチシリーズの約半分である。PLA専用だが、プラットフォームが熱くならないため安全性が高い
こちらはプロシューマー向けの「ノーベル 1.0」。光造形方式を採用しており、ダヴィンチシリーズよりも精細な造形が可能
2015年9月30日までに、ダヴィンチ Jr.1.0を購入し、XYZプリティングジャパンのFacebookページに「いいね!」をつけ、3DプリントをしてFacebookに投稿、さらには3DモデリングをしてFacebookに投稿することで、フィラメントやコーティングキットなど総額2万円相当の賞品がもれなくプレゼントされるキャンペーンを実施中
XYZプリンティングの3Dプリンタは、3Dプリントに必要なものが全てセットになっているので、買ってきてすぐに3Dプリントを楽しめる
また、完成品なので組立作業も不要で、箱を開けたらすぐ使える
また、XYZギャラリーには2,000以上の3Dモデリングデータが公開されており、無償または有償でダウンロードが可能。自分で作成した作品のアップロードも可能だ
フィラメントやレジン類も充実。ダヴィンチではABSだけで16色ものフィラメントが用意されている
ソフトウェアが頻繁にアップデートされ、機能が向上していることも魅力。XYZware Ver.2では、サポート材の付き方が改良されている
また、サポート体制も充実しており、年中無休でサポートセンターが対応している
今後発表を予定している新製品「ダヴィンチ Jr.1.0w」。ダヴィンチ Jr.1.0をベースに無線LAN対応がなされたものだ
COMPUTEX 2015のXYZプリンティングブースに展示されていた製品。左上はレーザー刻印対応上位モデル、右上はハンディタイプの3Dスキャナ、左下は二足歩行ロボット、右下は3Dペン。全て日本での発売時期などは未定である
XYZプリンティングジャパンから、第2回モデ1GPの賞品として「ダヴィンチ 1.0A」が1台提供された
コーティングキットも1セット、賞品として提供された

参加者が自分の車両をプレゼンするライトニングトーク

 競技を開始する前にライトニングトークの時間が設けられていることも、モデ1GPの特徴だ。このライトニングトークは、参加者が順番に自分がモデリングした3Dデータとその出力結果を見せて、デザインのコンセプトや苦労した点、競技への意気込みなどを語るというものだ。娘は、タイヤを3輪車のように配置したかったのだが、レギュレーションでタイヤは4本と規定されているため、前方に1本、後方に3本配置したことがポイントだとプレゼンしていた。

恒例のライトニングトークの時間に。順番に自分がモデリングした3Dデータと出力結果を見せて、デザインのコンセプトや苦労した点などを語る
娘がライトニングトーク中。タイヤは4つだが、後ろに3つ配置したデザインが特徴。新幹線をイメージしたそうだ

競技部門の優勝はなんと!

 ライトニングトークが終了し、いよいよ競技部門が始まった。出走順はくじ引きで決められ、車両をはじくのに使うノック式ボールペン「BOXY」も抽選箱の中から参加者が1本選び、それを利用する(使ったBOXYは参加賞として持ち帰れる)。1人につき2回チャレンジでき、長い方の距離が記録として残る。その時点までで記録がトップの参加者は、暫定1位として前方のチャンピオン席に座る。筆者たち家族は、娘→筆者→息子の順で競技に参加したが、息子が2回目に90cmオーバーの好記録を叩き出し、そのまま優勝してしまった。今回の参加者は21名であったが、当然息子は大喜びである。

 前回は娘のみ参加で、娘は5位という成績だったのだが、そのときに2位を獲得した小島さんが、好記録を出すにはタイヤの接地面積を小さくすることが重要であり、タイヤの接地面にフィレットをかけて面取りをしたとコメントしていた。それをヒントに、筆者も走行距離を延ばすために、今回は2つのアプローチを行なった。

 1つは、小島さんと同様に、床面との摩擦を減らすためにタイヤの面取りをして、できるだけ接地面積を小さくすること。もう1つは、単純に重量を軽くすることである。BOXYのバネによって弾かれる力が同じだとしたら、ニュートンの運動方程式(F=ma)を持ち出すまでもなく、当然車両の重量が軽い方が遠くまで飛ぶことになる。実は前回も、3Dプリンタで出力する際の充填率を下げたりして、軽くすることに注力していたのだが、今回はもっとアグレッシブに車体を小さくすることにした。レギュレーションでは、車両の最大サイズは決められているが、最小サイズは規定されていない。同じ形状で、縦横高さを2分の1にしたら、体積、つまり重量は8分の1になる。そこで筆者達は3人とも、規定サイズよりもやや小さめにデザインしていたのだが、その中でも息子の車両は特に小さく出力していたのだ。

 レギュレーションの盲点をついた作戦とも言えるが、小さくしすぎると転倒する可能性も増すので、そのあたりは試行錯誤で決めることになりそうだ(今回はあまり時間がなかったので適当に決めたが)。なお、主催者によれば、次回は車両の最小サイズの規定が追加される可能性があるとのことだ。

いよいよ競技部門のスタート。出走順はくじ引きで決められ、車両をはじくのに使うノック式ボールペン「BOXY」も抽選箱の中から参加者が1本選び、それを利用する
【動画】娘の競技の様子。競技部門は1人2回チャンスがあり、長い方の距離が記録となる
このようにメジャーで計測を行なう
暫定1位の人は、トロフィー片手にチャンピオン席に座る。娘はすぐ抜かれてしまったが
今度は息子の番に。2回目に90cmを超える好記録を達成
息子が暫定1位のまま競技が進んでいく
【動画】競技が全て終わり、息子が競技部門の優勝者に決定。喜んで飛び跳ねているところ
子供たちとの記念写真

デザイン部門の審査と懇親会が開始

 続いて、デザイン部門の審査が開始された。参加者が作成した車両を全て並べ、デザインが優れていると思う車両に投票する。投票は1人2票で、自分が作成した車両に投票するのもOKだが、1台に2票投票することはできない。投票の結果、最多票を集めたのが、エントリーナンバー8番の「MAD MAD」であった。MAD MADは、マッドマックスをイメージしたデザインのことで、その完成度の高さは、3D CAD講座の講師からも高い評価を得ていた。

 デザイン部門の審査が終了後、懇親会が始まった。ビールやソフトドリンク、焼き鳥、フライドポテト、お寿司、お菓子などが用意され、主催者の乾杯の合図で、懇親会が開始。作成した車両を前に、参加者同士の活発な交流が行なわれた。

 最後に各部門3位までの車両が表彰台に飾られ、表彰式が行なわれた。前述したように、競技部門の優勝者にはXYZプリンティングから3Dプリンタ「ダヴィンチ 1.0A」が、デザイン部門の優勝者にはコーティングキットが贈られた。

 モデ1GPは、1日で3D CAD入門から3Dプリンタでの出力、出力された車両を使った使った競技までを楽しめるという、非常に素晴らしいワークショップであり、親子連れでの参加も目立った。参加者の満足度も高く、第3回の開催にも期待したい。

続いてデザイン部門の審査を開始。参加者が作成した車両を全て並べて、デザインが優れていると思う車両に投票する
投票は1人2票で、自分が作成した車両に投票するのもOKだが、1台に2票投票することはできない
投票が終了。8番の車が最多票を集めた。2位は17番だ。ちなみに息子の車は18番、娘の車は19番、筆者の車は20番である
懇親会のためのビールやソフトドリンク、焼き鳥、フライドポテト、お菓子などが用意された
乾杯の合図で懇親会がスタート
作成した車両を肴に話が弾む
表彰台に入賞車両が飾られた。左側が競技部門の入賞車両、右側がデザイン部門の入賞車両である。競技部門優勝の息子の車両は明らかに小さい
デザイン部門で優勝したMAD MAD。マッドマックスをイメージした、見事なデザインである
表彰式で新井原氏から、ダヴィンチ 1.0Aの目録を受け取り喜んでいる息子
デザイン部門の優勝者にはXYZプリンティングジャパンからコーティングキットが贈られた
コーティングキットの使用例。奥に並んでいるハムスターは、左がダヴィンチで出力したそのままの状態、中央がコーティングキットを利用して表面を滑らかにコーティングした状態、右がコーティングした上に塗装をした状態

(石井 英男)