イベントレポート

Android Autoは、アプリでクルマを止めない曲がらせない

 Googeは、米・サンフランシスコで開催された開発者会議Google I/O 2014において、自動車向けの「Android Auto」を発表、同日、そのSDKを公開した。今年の後半には実際の自動車に実装されて各社から発売されるというこのソリューションについて関係者の話を聞くことができた。

自動車のプラットフォームをコンピューティングプラットフォームに変える

 Android Autoは、Androidスマートフォンを自動車に接続し、音声認識やスクリーンのタッチによって、運転中にも安全にスマートフォン操作を行なうためのフレームワークだ。接続はケーブル1本だけ。まるでバッテリを充電するかのような手軽さでAndroidを自動車に接続できる。

 これによって、自動車に装備されたディスプレイや、ハンドル周りのスイッチ類からAndroid OSにアクセスできるようになる。Android OSは、Android Autoの存在を認識すると、特別なシェルが起動し、その画面を外部画面、つまり自動車に装備されているコンソール画面に映し出す。通常よりもオブジェクトが大きく、タッチで操作するにしても、自動車の運転の邪魔にならないように考慮されている。安全第一だ。また、音声によるコントロールも可能で、これらの操作によって、既存のハードウェアプラットフォームとしての自動車をコンピューティングプラットフォームに変えてしまおうというチャレンジだ。

スマートフォンをケーブルで接続するだけでAndroid Auto環境ができあがる
コネクションの確立によって、コンソールがアプリを表示する
音声やタッチで音楽再生のコントロールできる
Patrick Brady氏(Director of Android Engineering)

 GoogleのPatrick Brady氏(Director of Android Engineering)は、多くのアメリカ人が自動車にガジェット類を設置してナビやコミュニケーションをインタラクティブに楽しんでいるという。そこにシンプルなUIを持った環境を導入することで、自動車の中でも簡単に楽しく、そして安全にコンピューティングを楽しんでもらおうとしているわけだ。目視しないと操作が難しいタッチのインターフェイスよりも、視線を窓の外からそらさずにいられる音声コントロールが重視されているのも特徴だ。

杉本直樹氏(Honda R&D Americas, Inc. Senior Program Director Honda Silicon Valley Lab)

 ブリーフィングには、Android Auto参入を表明しているパートナーの1社として、日本の本田技研工業の関係者として、杉本直樹氏(Honda R&D Americas, Inc. Senior Program Director Honda Silicon Valley Lab)も出席した。ホンダシリコンバレーラボは、同社がシリコンバレーに3年前に設立した組織で、自動車におけるコネクティング・スマートライフの実現を目指す研究組織だという。

 「技術については今後詳しいことが発表されるはずですが、自動車側はあくまでもAndroidスマートフォンの周辺機器として機能し、主要な処理をするようになっています。例えば、ハンドルについているスイッチで音声認識をスタートさせ、その結果がスピーカーから出てくるというイメージです。我々は、HMI(Human Machine Interface)デバイスと呼んでいるのですが、それを提供しようというわけです」(杉本氏)。

既存システムとの共存を考慮

 自動車には多くのセンサーが実装されている。例えば、カーナビを装備した自動車であれば、GPSやそのアンテナ、場合によってはジャイロセンサーなども用意されているだろう。Android Autoは、すでに自動車にある既存ナビゲーションシステムの共存についても考慮されている。Android OSと自動車のシステムがコミュニケーションすることで、まるで1つの統合システムのように働く。そして、それらが提供する機能をドライバーが選択できるようになっている。

 杉本氏は顧客のプライバシーはとても重要であり、それを顧客がきちんとコントロールできるようにしておくことは必須条件であるともいう。だから、自動車に関して発生する個人情報、例えばどこに行ったか、どのくらい走ったか、どこに立ち寄ったかといったことが、スマートフォンを通じて漏れ出てしまうことはないと断言する。また、スマートフォンで自動車を止めたり曲がらせたりするようなものではないとも。安全は必須であり、自動車のコントロールをするものではないというのが、Google、そしてホンダの間での合意だ。

タッチ対応画面をAndroidに外付けするシンプルさ

 Android OS上で動くアプリは、Autoの存在を検知すると、特別なモードで動く。あるいは、Auto専用のアプリである可能性もある。Googleでは、どんなアプリでも、自動車のコンソールに最適化されて便利に使えるようにしたいとしている(Brady氏)。運転しながらでも安全に使えることが大前提であり、それを音声や画面のデザインで解決していこうということだ。

 ホンダは既に、iOSにおけるCarPlayの採用も表明している。顧客のニーズに応じてどちらでも選択できるようにしておくというのが基本方針だ。自動車にUSB端子が装備されていて、そこにiPhoneを繋げばCarPlay自動車として、AndroidスマートフォンをつなげばAndroid Auto自動車になるというイメージだ。

 もちろん、将来的には特別なアタッチメントなどを使ってスマートデバイスをドッキングさせるような仕組みも考えられるだろうが、種々雑多な構造を持ち、サイズから重量までまちまちなAndroidスマートフォンでは、そのドッキング機構を自動車側に持たせるのは難しいかもしれない。

 このことから分かるように、Android Autoは、自動車側の装備に複雑でインテリジェントな処理系を求めない。極端に言えばタッチ対応の画面を外付けするだけといったシンプルなイメージだ。すでに書いたように、ある程度のコミュニケーション機能は実装されるが、基本的にはスマートフォンへの外部ディスプレイの増設にすぎないと考えていいだろう。

 これによって、自動車の車検にも影響を与えることはなさそうだし、陳腐化の早いITガジェットを、自動車のライフサイクルである5~10年といった長期間使い続けなければならないような不自由もなくなる。また、データ通信のために、自動車側に通信事業者との契約が必要といったこともない。

 心配なのは地下駐車場や山間部などで、場所がいわゆる圏外になってしまった時の振る舞いだ。Googleでは、そのような場合もユーザーに著しい不便がないように、Googleマップのオフラインキャッシュ機能のように、オフラインでも支障なくアプリを使えるようにする方向で作業を進めているという。

お馴染みのGoogleマップもAuto対応になる
年初のCESで発表されたOAA(Open Automotive Alliance)の加盟各社がAndroid Autoパートナーとなると思われる。各社から年内には実車が登場するはず
会場には実車が持ち込まれて派手にデモンストレーションされていた
まるで専用カーナビ
音声認識を前提に操作する
いわゆるホーム画面もオブジェクトが大きく、運転しながらでも操作しやすくなっている

(山田 祥平)