イベントレポート

Build 2015基調講演、開発者へ「共にパーソナルコンピューティングの在り方を変えていこう」と呼びかけたMicrosoft

例年通り米サンフランシスコダウンタウンのMoscone Center Westで開催

 米Microsoftの開発者向けカンファレンス「Build 2015」が、4月29日(現地時間)、米・サンフランシスコにおいて開催された。Windows 10のリリースをこの夏に控え、数々の発表がある見通しではあるが、どうにも一筋縄ではいかなかったのが今年のBuildだ。初日の基調講演は、同社CEO、Satya Nadella氏のステージから始まった。

Microsoftの原点から始まった基調講演

 いつものカジュアルなスタイルでステージに登場したCEOのSatya Nadella氏。最初に紹介されたのがMicrosoft共同創業者Paul Alen氏のツイートだ。

 このツイートは同氏が4月5日に書き込んだもので、1975年版BASICインタプリタのソースコード、そのタイトルページのプリントアウトが添付されている。BASICインタプリタはMicrosoftの原点ともいえる製品だ。Paul Alen氏とBill Gates氏は、Altairに搭載されているIntel 8080プロセッサのマニュアルを頼りに、PDP-10上で走るエミュレータでBASICインタプリタを開発した。それがMITSのAltair BASICであり、1975年4月4日のMicrosoft設立のきっかけとなったソフトウェアだ。

 そんなソフトウェア企業としてスタートしたMicrosoftは、40年の歳月を経てプラットフォーム企業へと成長した。Microsoftが今、学校、企業、そして全ての開発者を支える巨大な企業になっているのはご存じの通りだ。

いつもの通りカジュアルな出で立ちで登場したMicrosoft CEO Satiya Nadella 氏
最初はMicrosoftの共同創業者 Paul Alen氏のツイートが紹介された。同社最初の製品であるBASICインタプリタのソースタイトルページだ

 まず、この日の基調講演が、全体が3つのパートで構成されることが宣言された。

  1. アプリケーションプラットフォームとしてのAzure
  2. プラットフォームとしてのOffice
  3. Windows 10

 すべての礎となるAzure、そして、単なるアプリケーションの領域を超えたところにあるOffice、さらに、新しい世代に、よりパーソナルなコンピューティング体験をもたらすWindows 10や、HoloLensによるホログラフィックコンピューティングなどを系統立てて解説しようということのようだ。いうなれば「ベスト・オブ・Microsoft」がこの日のテーマだ。

 まず、Nadella氏に招き入れられ、Scott Guthrie氏(同社EVP、Microsoft Cloud and Enterprise group)がAzureについて話を始めた。

 Azureは、WindowsだのLinuxだのといった枠組みを超えたところで、さまざまなサービスを提供する巨大なプラットフォームであり、クラウドファーストを推進する同社にとって、極めて重要な位置付けとなるものだ。かつてローコストなストレージやコンピューティングリソースとしてスタートしたクラウドコンピューティングには、今、新たな役割が課せられようとしている。

 Guthrie氏は、Azureがアプリ開発の世界を変えるとし、アプリケーションプラットフォームとしてのAzureを強調。デモンストレーションを挟みながらさまざまな新サービスを紹介していった。

 Azure Data Lake、Azure SQL Data elastic database pools、Azure SQL Data Warehouse、そして無償のコードエディタであるVisual Studio Code、また、Office Graph API website など、この日に紹介された製品サービス群は、全ての開発者に高い生産性をもたらすという。

 また、Officeについては、15億人ともいわれているOfficeユーザーにリーチするための、iPadやOullook向け拡張アドイン機能としてのOffice Graph APIやユニファイドAPIなどが紹介された。これらによって、従来よりも大幅に有用なデータ利用が可能になるという。ユーザーとデータが融合し、インテリジェンスを持ったOfficeは、やはりプラットフォーム色の強いものになっていくという。これまでは、よりリッチな表現が求められたOfficeアプリだが、今後はインテリジェントな機能が求められるようになり、プラットフォームへのシフトが行なわれるということのようだ。

トレードマークともいえる赤いシャツで登場したScot Gathry氏(同社EVP、Microsoft Cloud and Enterprise group)
成長を続けるAzureの実績が紹介された
無償で提供されるソースコード用エディタ「Visual Studio Code」が紹介された
今、Officeは15億人のユーザーを抱える巨大プラットフォーム
Windowsはユニバーサルアプリであらゆるデバイスで同じ環境が得られる
デモで使われていたWindows 10のビルドは10075。10071も見かけた

あらゆる人、あらゆる道具で使いやすく

 ここまで、たっぷり90分間。デモやコードを披露しての解説などが続いた基調講演。だが、それでも5,000人近くの開発者はAzureの話を熱心に聞き入っていた。

 と言ってもNadella氏が、「そろそろWindowsについて話そうか」と切り出したときには、会場は大歓声に包まれた。基調講演はいよいよお待ちかねのWindows 10の話題に入っていく。

 新世代のWindowsであるWindows 10は、よりパーソナルで、モビリティを持ったマルチデバイス対応のOSで、その対話にはタッチ、スピーチ、マウス、キーボード、ホログラフィックなど、どのような利用形態でも使いやすく、あらゆるユーザーに利益をもたらすものになるという。Nadella氏は「Windowsはあらゆるところでコンピューティングを支援する。その中には、ここにいる開発者全員も含まれる」と述べ、HoloLensなどが派手に取り上げられることは多いが、それはこれらの中の1つにすぎないとしていた。

 Windows 10については、それがWindowsユニバーサルアプリのプラットフォームであることが終始強調されていた。シングルバイナリで1つのストア、全てのWindowsデバイスで動くのがユニバーサルアプリだ。Windows 10世代のストアは、90もの事業者がサポートするキャリア決済や、購読システム、アフィリエイト、さらには、ビデオ広告用のSDKが提供されるなど、かつてないほど開発者向けの機能が充実するという。

 また、Window 10搭載デバイスは、今後2〜3年間で10億台に達することが発表された。そのあらゆるデバイスでWindows 10アプリが動くのだ。

 アプリの開発環境としては、Webアプリ、.NET、Win32、iOS、Android向けに書かれたコードを、最小限の修正だけでWindowsユニバーサルアプリにポーティングすることができる、4つのSDKが発表された。これによって、過去に他プラットフォーム向けに開発された既存コードからユニバーサルアプリを生み出すことが容易になるという。

 Windows 10用のブラウザとしては、Project Spartanが新ブラウザとして含まれることは明らかになっていたが、その名称が「Microsoft Edge」になることも併せて発表された。発表している本人がつい「Spartan」と言い間違えてしまうほどだから、命名されたのはよほど最近のことなのだろう。Edgeの中から使える各種APIでは、Cortanaの機能なども利用することができ、まさに世界につながる窓として機能していくことになるという。

 さらに強調されたのはContinuumという考え方だ。たとえば、8型タブレットでフルWindowsが動いている時には、タスクバーなどは表示されないが、それをドッキングステーションに装着すると、これまでフルスクリーン表示されていたアプリはウィンドウとなり、その背後にあった他のアプリのウィンドウもデスクトップに現れる。こうしてPCの利点であるフレキシビリティが活かされるという。

 この考え方はWindows Phoneでも具現化されている。スマートフォンをディスプレイに繋ぐと、ディスプレイには見慣れたデスクトップが現れ、まるでPCのように操作ができる。動いているのはユニバーサルWindowsアプリだ。まさに手のひらの上に乗っかるPCであるかのようだ。スティックコンピュータが今話題になっているが、これならそれさえ携帯せずに、いつものようにいつもの作業ができてしまいそうだ。

 また、HoloLensに関するアップデートもあった。ホログラフィーはシームレスにデジタルと実生活を繋ぐ飛び道具として、発表されてから100日しか経過していないにもかかわらず、教育現場などのさまざまな活用事例が生まれつつあることが報告された。

2〜3年後には、10億台の大台に乗るとされるWindows 10デバイス
Webやデスクトップアプリ、Android、iOSのコードを最小限の作業でユニバーサルアプリにすれば10億台にリーチできる
Project Spartanのコードネームで呼ばれてきた新ブラウザは「Microsoft Edge」と命名された。
スマートフォンを大型ディスプレイに接続すれば、まるでPCのようなデスクトップで作業ができる。デモしているのはJoe Belfiore氏(同社VP、Operating Systems Group)
HoloLensを使ったデモンストレーション。壁には何もないように見えるが……
男性の目には壁に数々のスクリーンが投影されているように見える。男性が立ち上がって歩けばスクリーンが彼についてくる

「新生Microsoft」を実感できた基調講演

 2時間30分の予定だった基調講演は3時間近くもかかり、しかもその前半90分間はAzureの紹介に費やされるなど、今回の初日基調講演は、これまでのBuildでは考えられなかったような構成になっていた。例年通りのMicrosoftであれば、Windows 10に関する発表を前に持っていって派手に盛り上げ、クラウド関連については翌日に回すといった手法をとっていたはずだ。そういう意味では、実に地に足が着いた構成で、「変わったMicrosoft」を実感することができた。もう、Azureなしでは開発は不可能と言わんばかりだ。

 もはや止めることができない激流の中で、パートナーとしての開発者にアプリの開発を促すだけではなく、一緒になってパーソナルコンピューティングの在り方を変えていこうという呼びかけの姿勢。そこかしこに感じられた協調の姿勢は、まさにNadella氏による新生Microsoftを象徴したものなのだろう。

(山田 祥平)