イベントレポート
メッセージ機能を大幅に強化するなど充実を図る「iOS 8」
~「Family Sharing」で、アプリ開発者にも転機
(2014/6/10 13:03)
iOSは、iOS 7においてユーザーインターフェイスの一新を図ったため、「iOS 8」では機能向上に重点がおいたバージョンアップを行なう。iOS 8のプレビューリリースは、登録開発者向けにWWDCの基調講演同日より提供されており、数回の更新を経て、今秋にエンドユーザー向けの正式リリースとなる見通しだ。
iOS 8へバージョンアップ可能なiOSデバイスは、iPhoneであればiPhone 4s以降、iPadはiPad 2以降、iPod touchは第5世代製品となる。2010年に発売されたiPhone 4はバージョンアップ対象から外れ、iOS 7が最後の対応OSになる。iPhone 4とiPhone 4sは形状こそほぼ同じだが、そのスペックにはかなり隔たりがあるので、その時期が訪れたということだろう。Windows XPでも話題になったが、セキュリティ更新が終了したOSは、その後に明らかになった脆弱性などへの対応も行なわれなくなるため注意が必要だ。Appleの場合は、Microsoftのようにサポート終了時期を明示していないためユーザー自身で判断することも必要になる。
iOS 8でも、「OS X Yosemite」と同様に「Notification Center」の機能強化が図られる。iOS 7までは、通知を許可したアプリケーションからのプッシュ通知が表示され、ロック画面からでもスワイプ操作で該当のアプリケーションを起動することができた。iOS 8では、もう少しインタラクティブに通知に対応できるようになる。
「Interactive Notification」と呼ばれるこの機能では、アプリケーションを起動することなく、メッセージへの返信や、スケジュールへの参加依頼への返答などを簡単に行なうことができるようになる。加えて、ウィジェット機能をNotification Centerに統合する。Androidとは異なり、iOSではホーム画面にライブ表示が可能なウィジェットを配置できないため、ライブ表示の可能なウィジェットをここにまとめることにしたようだ。APIはサードパーティ向けにも公開されるため、開発者は上部からのプルダウンで表示できる通知レイヤーに、任意の情報を表示させることができるようになる。
標準アプリのメールやSafariもそれぞれ強化される。メールでは、左ペインのスワイプ操作で任意のメールを未読にしたり、あるいはフラグを付けたりできるようになる。Safariでは、タブブラウジングの一覧性を改善し、iPadではサイトごとにグルーピングするなど、複数ページを閲覧する際の操作性を向上させる。
「Spotlight検索」も、先のレポートで紹介したOS X Yosemiteと同様に端末内に留まらず、インターネットの検索結果も合わせて表示するようになる。これまでのアプリケーションや、連絡先、メールなどに加えて、App Storeで配信されているアプリケーションや、Wikipedia、地図上のスポット情報などが含まれる。ほかにも、iTunesで配信されている楽曲や映画、そして映画のスクリーン情報などもSpotlight検索の対象となる。
文字入力機能も「QuickType」機能を追加して改善される。タイピングを行なう際に、返信対象となるメールやメッセージの文面から、記述する文章の候補となる単語を先読みする形で、推奨ワードが表示される。入力したい単語があれば、選ぶだけの操作でさくさくとタイピングが進むという機能だ。スライドで例示された内容では、「会議が」の後に続く言葉として、「キャンセルされた」、「リスケされた」などが推奨ワードになっている。
この先読み候補は端末内の辞書だけで完結し、インターネットなどに依存しないため、入力した文章のプライバシーが保たれるとしている。当初は、日本語を含む14の国と地域の言語で利用できる見通し。
文字入力に関するもう1つの大きなトピックスは、キーボード入力方式がサードパーティへも開放されることだ。サードパーティが任意のキーパッドや入力方式を使って、システムにテキスト入力を行なえるようになる。これまでは、この機能が開放されていなかったため、例えば日本語入力IMEであるATOKなどは、「ATOK Pad」というメモ入力アプリとして、その日本語変換エンジンを利用していた。
キーパッド入力がどこまで開放されるかは、開発者向けの仕様書次第となるが、ATOKを開発するジャストシステムや、手書き入力のめたMetaMojiは対応に意欲を示している。特にWWDCでのデモでは、Android向けに先行して提供されている「Swype」を例にして入力方法に重きを置いたが、日本語環境においては変換エンジンや辞書機能こそが重要となってくるので、APIがどの程度までサードパーティに開放されるかが注目される。
iOSデバイスでもっとも利用されているアプリケーションは「メッセージ」だと言う。iOS 8では、このメッセージ機能も大幅に改良が加えられる。「Facebookメッセンジャー」や「LINE」などのいいとこ取りをしたように、「グループメッセージング」機能、「ロケーションシェア」機能、添付機能などがある。ほかにもボイスメッセージ、ビデオメッセージなどもメッセージアプリで利用できるようになる。メッセージアプリの起動中に右サイド、左サイドからのスワイプで、ボイスメッセージ、ビデオメッセージのインターフェイスがオーバーレイされる。いずれも便利な機能ではあるが、LINEが高度に発展し、SMSベースのチャットがさほど普及していない日本で、どれだけの影響があるかは未知数だ。
ユーザーにとっても開発者にとっても大きな変更点となるのが「Family Sharing」だろう。iTunesやApp Storeで配信されるアプリや楽曲を家族最大6人までシェアできる機能だ。これはライセンス上の大きな変更になる。支払いを一本化して、同一のクレジットカードで決済する必要があるが、例えばお父さんがダウンロードした楽曲は、設定された家族内の端末であれば同様にダウンロードが可能。アプリケーションも同様である。これにはペアレンタルコントロールも含まれており、例えば子供がゲームのアプリが欲しい場合は、管理者である親の了解を得る必要があり、そのやりとりも相互の端末に表示される。
Family Sharingは、コンテンツの共用だけに留まらず、スケジュールや位置情報の共有も含まれる。位置情報の共有はiOS 7までに提供されていた「友達を探す」が家族向けに最適化されたと考えるといいかも知れない。
こうした機能をiOSに導入することで、家族内の端末を全てiOSデバイスにしてしまうモチベーションを高める狙いもありそうだ。
こうして家族内でシェアされる情報として、写真は重要な位置を占める。アルバム機能もiOS 8で大幅な機能強化が図られる。1つは「Smart Suggestions」で、アルバム内の写真を条件に応じて自動的に分類する機能だ。条件には、撮影場所、人物、風景、時期などさまざまな要素が含まれる。検索機能も同様に、位置情報、タグ付けされた人物名など、さまざまな条件で検索が出来るようになる。写真の編集機能も強化され、アルバム内での簡易編集にさまざな機能が加わる見込みだ。別稿で詳しく紹介するが、撮影を行なうカメラ機能にも、サードパーティ製のフィルタなどが適用できるようになることから、撮影、管理の両面で大きな改良が期待できそうだ。
ほかにも、「Siri」の機能が全般的に向上する。これまでホームボタンの長押しで起動していたSiriだが、「Hey, Siri」と呼びかけることで起動できるようになる。そのほか、「Shazam」と連携した音楽認識機能や、iTunesのコンテンツ購入にもSiriが使えるようになる。言語として日本語はすでに対応済みだが、新たに22の国と地域の言語をサポートする。
ヘルスケア分野とホームオートメーション分野で新しく加わるフレームワークである「HealthKit」と「HomeKit」については、別稿で詳しく紹介する。