イベントレポート
フラットデザインとレイヤー表示の「Yosemite」
~iOSと同じシステムフォントを採用、共通化するデザイン
(2014/6/9 06:00)
本稿では、次期OS Xとなる「OS X Yosemite」の概要を紹介する。2013年10月に正式リリースを開始したMavericksの後継となるOSで、バージョンとしてはMavericksの10.9に続く、10.10が割り当てられている。
Mavericksでは、それまで続いていたネコ科のコードネームから、Apple本社のある米カリフォルニア州の中で、景勝地とも言える地名のコードネームへと刷新が図られた。MavericksはHalfmoon Bayにあるサーフィンの名所で、その波が壁紙などのモチーフになっていた。Yosemiteはシエラネバダ山脈の西側に位置する国立公園。雄大な自然に加えて、Half Domeや花崗岩の一枚岩であるEl Capitanなど、さまざまな見どころがある。WWDCの基調講演で使われたMacの壁紙には、夕日に映えるHalf Domeの写真が使われている。
先のレポートで、Yosemiteの改良点を「Interface」、「Apps」、「Continuity」と紹介したが、ここではInterfaceとAppsについて紹介する。
OS Xのインターフェイスについては、最初のMac OS X(10.0)で採用された「AQUA」から随時変更が取り入れられてきた。途中には「Metal」や「Solid」などが採用された時期もあったが、ウィンドウのボタンなど、さほど手が加えられていない部分もかなり残っていた。今回の方向性としては「iOS 7」以降に採用されているフラットデザインへと移行を始めたというのが大きなトピックとなる。
システムフォントもOS Xとしては初めての変更が行なわれ、従来の「Lucida Grande」から「Helvetica Neue」となることが、同社サイトで明らかにされている。Helvetica Neueは、iOS 7で採用されているフォントでもある。これに併せて全体のルック&フィールもOS Xのインターフェイスを残しながら、iOS 7風に変わった。iOS 7同様のフラットデザインに加えて、磨りガラス調のレイヤー表示が採用されている。AQUAでは半透過だったのだが、磨りガラス調になったことで、後ろの画像はブラー(ぼかし)効果がかかって透過する。
現時点で公開されているのは、システム標準のアプリケーションがほとんどだが、それらのアイコンは全て書き直されて、フラットなデザインになった。印象的なのはiTunesのアイコンで、これまでの青から赤基調へと一新されている。Beats Electronicsの買収が関連しているかどうかは不明だが、Yosemiteに合わせて登場するであろう「iTunes」の次期バージョンにも期待が高まる。ちなみに、WWDCの基調講演ではこのiTunesが起動される場面はなかった。また、Mavericksなどを使っている読者の方は実際にデスクトップを見てもらうと分かりやすいが、MavericksではiTunesと「Mac App Store」のアイコンと色味が非常に似通っている。iTunesを赤系統に移行したのは、iOSと合わせるためと、こうした視認性の低さを改善する目的があるものと思われる。
機能面での変更は「Notification Center」がある。Mavericksと同様にメニューバー右上のアイコンをクリックすると右側からスライドして出てくる。Mavericksでは、壁紙の裏にある感じで、Notification Centerを呼び出すと、デスクトップ自体が左へとスライドして表示されていたのだが、Yosemiteではレイヤーを意識して、デスクトップの上に覆いかぶさるように登場する。
これまでは1列だった表示も、最大2列にできるようになったほか、通知に加えて天気予報やニュースなどのウィジェットもあわせて登録、表示できるようになった。ウィジェットの表示方法については、10.4での実装から紆余曲折を経ており、Yosemiteと同様に、ホットキーでデスクトップにオーバーレイする表示方法からスタートしたが、その後、デスクトップから切り離され、左のスワイプで一覧が表示される「Mission Control」などの導入もあった。Mavericksでは、Mission Controlでの全体表示も残しながら、ホットキーでオーバーレイできるように先祖返りもしていた。ウィジェットを通知センターに統合するというのはiOS 8でもとられているアプローチだが、果たしてここがウィジェットの安住地となれるかは、興味深い。Windowsユーザーにとっては、Vistaで採用されたサイドバーガジェットが任意に表示、非表示できると例えれば分かりやすいだろう。
デスクトップ検索機能の「Spotlight」は、Mavericksまでのメニューバーからのプルダウン表示に検索項目を入力する仕組みから、専用の検索ウインドウが起動する仕組みに改められる。また、デスクトップ検索に留まらず、「Wikipedia」や「Maps」、「News」、「Bing」、「App Store」、「iTunes Store」などWeb上の項目を合わせて検索対象とすることになった。公開されたスライドには、映画の上映スケジュールも含まれている。
操作性の向上や検索対象の拡大は歓迎すべき点ではあるが、日本のユーザーにとってこれがどれだけのメリットになるかは不透明だ。例えばNewsなどがローカル対応していなければ、さほどありがたくはない。映画の上映スケジュールもかれこれ10年に渡ってこうした場面に登場するが、国内のスクリーン情報は反映された試しがない。前述したNotification Centerの機能として、MLBの試合結果を通知する機能はMavericksから導入されているが、残念ながら日本のプロ野球の情報を通知してはくれない。サンフランシスコジャイアンツに興味がないわけではないが、日本人である以上、ジャイアンツは東京読売であり、タイガースはデトロイトでなく阪神でなければダメなのだ。このあたりは、日本国内で関連する組織や情報とどれだけ交渉できるかに係っているので、そろそろどうにかしてほしいところではある。
大型のファイル添付を可能にするMail.app
現時点で、OS X YosemiteのDockに表示されている標準アプリケーションは「Finder」、「Launch Pad」、「Safari」、「Mail」、「カレンダー」、「メモ」、「リマインダー」、「連絡先」、「マップ」、「メッセージ」、「FaceTime」、「プレビュー」、「iTunes」、「Mac App Store」、「iBooks」、「システム環境設定」。同社の公式サイトではこの構成が採られている。
この中で、基調講演においてデモが行なわれたのは、メールクライアントのMail.appと、WebブラウザのSafariである。
Mail.appで大きく手が加えられたのは添付ファイルに関する部分だ。まず、添付ファイルに大容量ファイルが選べるようになっている。一般的には、メールに添付可能なファイルの容量はプロバイダやWebサービスによって制限されている。これは、利用するクライアントによって変わることはない。Mail.appで大容量のファイルを添付できるようになったのは、「iCloud Drive」との連携によるものだ。
大容量のファイルを添付する場合、ファイルはメールに直接添付されずにいったんiCloud Driveへとアップロードされる。添付されるのは、このファイルのリンク先と、暗号化を解除する復号化キーとなる。ファイルのセキュリティは、自分のiCloud Driveを利用する点と、受信者側で利用するのは特定リンクと特定ファイルの復号化キーという部分だろう。
添付扱いにできるファイルの最大容量は5GBまで。全ての添付ファイルがこの仕組みで送られるのか、なんらかの閾値が設定できるのかは不明。利用するアドレスが、iCloudのものに限定されるのか、ほかのプロバイダやGmailなどのアカウントを利用する際でも、Apple IDがあれば同様に利用できるかなど、実際に使ってみないと分からない点は多い。
現在のメールのやりとりでも、大容量ファイルの転送を外部のサービスと併用して行なうケースは多い。一方で法人利用などでは、ファイルの外部委託ができないといったルールを定めているところもあるので、ニーズは少なからず存在する。メールクライアントと一体化したサービスは、「Mailbox」を買収した「Dropbox」がすでに提供しており、目的としては競合する形だ。ただ、OSの標準アプリケーションとして導入することで、こうした仕組みを意識することなく大容量ファイルの添付が行なえるメリットは大きい。
なお、基本的にはファイルのダウンロードリンクとセキュリティキーを送付する形なので、受信側のメールクライアントはMail.appである必要はなく、Windowsであったり、あるいはWebメールでもファイルを受け取ることは可能だ。
添付ファイルについては、もう1つの機能が加えられた。写真やPDF書類などに対する簡易編集機能である。メールに添付したドキュメントに対して、メモや注意書きなどを追記して送ることができる。PDF書類であれば、テキストの入力、あるいはサインなどを付記するといった用途が考えられる。一般的にこうした作業はメールに添付する前になんらかのアプリケーションを使って下準備をするというのがこれまでの作業スタイルだが、簡易的とはいえ添付後に作業ができるようになったことは、メールの推敲と併せて便利に利用できそうだ。
「Safari」はバージョン8に更新される。ツールバーを廃してシンプルな見た目になったほか、タブのサムネールを一覧表示する機能などが追加されている。アドレスバーは検索ウィンドウに変わり、検索では候補のほかにWikipediaの情報なども併せて表示されるようになっている。
機能面では履歴を残さないプライバシーモードなども実装した。ほかに、Webのトレンドにも対応。「WebGL」、「SPDY」、「HTML5 Premium VIDEO」などに対応する。例示されたのはブラウザベースでNetflixの1080p動画を再生する際、CPU負荷を低く抑えることで最大2時間バッテリ駆動時間を延長できるという。