【CES 2011レポート】スモールデバイス編
~コンソーシアム化で普及へと向かう無接点充電

会期:1月6日~9日(現地時間)
会場:Las Vegas Convention Center



●手軽に使えるリモートファイルアクセス「iTwin」

 「iTwin」という名称からMacやiOSデバイス向けの製品と思いがちだが、実際はWindows PC向けのスモールデバイス。インターネットを経由したファイル共有を、簡単に設定して運用が行なえる。ジョイントした状態では、両端にUSBコネクタが見える不思議な形状だが、中央部から分離が可能。

 接続したまま一端を、例えば会社のPCのUSBポートに差し込み、共有したいファイルやフォルダをこのUSBデバイスにドラッグ&ドロップしておく(エイリアス設定ができる)。そして分離したうえ、もう一端を自宅のPCのUSBポートに差し込むと、インターネットを経由して、会社で共有設定してきたファイルにアクセスすることができるという仕組みだ。もちろん同様に自宅側のファイルを会社側からアクセスすることも可能。

 ファイル共有の仕組みやダイナミックDNSなどに関して理解の深い人ならどうということのない作業かも知れないが、デバイスを差し込むだけでダイナミックDNSを設定して、接続相手先を特定するという作業をUSBメモリライクなデバイスのPlug&Playだけでできるのはかなり便利だと思われる。またデバイス自体が一対のセキュリティドングルとしても機能するので、接続相手先をIDやパスワードの設定無しに一対一に特定できる点も魅力。パスワード設定も追加できるので、例えば会社側が共有のPCであったとしても共有したファイルのパスワード保護は可能だという。ファイルそのものはいずれもローカルPCに保存されているので、クラウドサービスのように月額の使用料がかかるわけでもない。

 会社と自宅という関係のほか、例えば自宅と単身赴任先(あるいは実家など)で家族写真の共有などを行なうといった用途でも便利に使えそうだ。なによりユーザーに煩雑な設定や仕組みに対する知識を求めないという点でエンドユーザーには嬉しい製品と言える。価格は99ドルで注文を受け付けている。なお、Mac OS X向けにも対応を検討しているということで「iTwin」という名称もだてではないといったところか。

両端にUSBコネクタがある不思議なデバイス「iTwin」中央部から分離すると、それぞれを2つのPCに差し込めるところがミソだカラーはライムグリーンとガンメタルグレイの2色が用意されている

●NFCとPaypalを連携させた決済シール「Bling Tag」

 2010年末、ソフトバンクモバイルからiPhone 4の裏面に貼るWAON、Edy、NanacoそれぞれのFeliCaシールが発表されたが、こちらは米国におけるNFC版。決済口座にはPaypalを利用している。すでに2010年11月より実験的な運用が始まっており、パロアルト、サンフランシスコ、サンノゼといったいわゆるシリコンバレーエリアでは実際に利用できるようだ。対象地域は2011年も拡大していくという。

 使い方は簡単で、携帯電話などのモバイルデバイスに貼るだけ。シールにはTagナンバーが刻印してあり、そのTagナンバーをSMSで送信することでアクティベートされる(有効になる)。その後、Tagナンバーと所有するPaypalの決済口座を紐付けすると、シールを決済側端末にかざすだけで決済が可能となる。決済側端末は、JR東日本の車内ワゴン販売で利用されているSuica決済端末と似たようなものなので、目にしたことがある人も多いだろう。

 日本のいわゆるフィーチャーフォンにおいて、おサイフケータイが有効に機能しているのは、チャージから支払いまでが端末1つでどこでも完結する部分だ。iモードをはじめとした携帯端末からクレジットカード利用や銀行引き落としなどで入金(チャージ)を行なって支払いができる。冒頭に述べたiPhone 4用のシールでは残念ながらこの部分が実現できず、チャージにはコンビニやスーパーのレジなどを介する必要がある。

 一方こちらのBling Tagは同じシールであるにもかかわらず、Paypalを決済口座とすることで、貼り付けた端末によってはPalpal口座への入金手続きなども手にした端末上から可能になる点は大きな違いと言える。加えて、Facebook、Twitter、Foursquareといった大手SNSと連携して、ソーシャルコミュニケーションや位置情報との結びつきも深めようとしている。例えば、FacebookのSpotやFoursquareのCheck-Inを行なうことでクーポンや割引などと連携させる手法だ。

 実は日本でもFeliCaの決済機能と位置情報、コミュニケーションを連携させた「Tappii Puppii」というコンテンツがあるのだが、残念ながら認知度は今ひとつ。一方でアメリカではNFCを搭載するスマートフォン「Nexus S」が昨年末に登場したばかり。SNS先進国ながらも、おサイフケータイでは後進国とも言える国で、こうした試みが今後どのように機能していくか注目したい。

店頭で販売されるBling Tagのイメージ。最初から10ドルのオマケが付いてるところがいかにもアメリカ風決済側の端末機。JR東日本の車内ワゴン販売などでも同じような端末が使われているので、見たことがある人も多いだろう決済のイメージ。シールを貼った端末を近づけると、紐付けされたPaypal口座から決済される

●コンソーシアム設立で普及する無接点充電のエコシステム

 数年前のCESから目にする機会の多くなった無接点充電システム。電磁誘導式の無接点充電自体は特に新しい技術というわけではなく、例えば日本でも家庭向けのコードレステレホンの一部などに利用されているほか、三洋電機が任天堂のWii向けにエネループブランドのチャージャーとバッテリを販売していることなどを身近な例に実用化されている。

 先日掲載された記事でも触れたが、モバイル端末といえばまずケースと充電(バッテリ)の需要が大きい。この2つがとにかく目立つここアメリカでは、モバイル端末のケースに何らかの充電機能が付くことはもはや必然と言ってもいい。そんな背景から、ここ数年来徐々にモバイル端末に無接点充電を可能とするケースを付けて、チャージャー台と一緒に出展する企業は少しずつ増えてきていた。ただし、いずれも各端末専用のアクセサリという位置づけで、基本的にはケースとチャージャーはセットだったわけである。

「Wireless Power Consortium」が提唱するqiのロゴ。現時点で73社が参加しており、無接点充電システムの相互運用性を図っていく

 しかし2010年7月に「Wireless Power Consortium」が設立され、無接点充電の相互運用性を図るという方向性が生まれたことで流れは変わった。「qi」(Chee、チーと発音するらしい)のロゴの元で、ケースならケースだけ、チャージャーならチャージャーだけでもビジネスが成り立つことになる。コンソーシアムに参加しているのは、先んじてこうしたケースやチャージャーを発売していたアクセサリ系の企業だけでなく、HTCやMotorola Mobility、Nokia、LG、Sony-Ericssonといったモバイル端末自体の開発企業や、Virizon Wirelessといったキャリア、そしてBest Buyなどの量販店も加わり現時点で73社に及ぶ。もちろん日本企業もパナソニックや三洋をはじめとして10社前後が名を連ねている。こうした背景もあって、コンソーシアムに参加している出展者は相互運用性を示すqiのロゴをブースに掲げてアピールするようになっていた。

 これまでケースタイプの場合は、どうしても充電のために必要な電磁誘導式のユニットを搭載する必要があるためサイズが大きくなったり、本体以外のバッテリを積んだりして重くなりがちでもあった。これはチャージャーが限定されていたためで、一度外に持ち出したあとは、もう一度そのチャージャーに戻すまでバッテリが保たなければ実用にならない。しかし、相互運用性が高まれば外出先(特にアメリカでは移動に使うクルマのなかも重要)でも容易に無接点充電ができるようになり、事情はそれなりに変わってくる。とくにHTCなどの端末製造企業自体がそれを前提に開発するようになると、さほどオリジナルとサイズの変わらない裏蓋レベルでの交換も可能になってくる。実際、Powermatが出展していたHTC 4G EVO用の交換用ユニットなどは、ほとんどオリジナルの裏蓋に近い薄さを実現するレベルだった。

 将来的には端末メーカー自体が、最初から無接点充電を前提とした製品を開発する可能性も高い。今回は改造品だったが、iPhone 3GSに内蔵されているバッテリ部分を無接点充電ユニットとバッテリ(もちろん純正に比べて容量は減る)に置き換えたデモ機を展示しているブースもあった。裏蓋にはテスト機という記載があったものの、外観上はまったくオリジナルのiPhone 3GSである。

iPhone 3GS改造機によるデモ。外観上はまったくオリジナルのiPhone 3GS。内蔵のバッテリ部分を電磁誘導ユニット+バッテリとすることで無接点充電に対応。展示は第三者によるもので、Appleは現時点でコンソーシアムに参加しているわけではないEnergizerの展示。充電台やパッケージにqiのロゴを表示しているEnercellの展示。こちらの製品はRadioShack専売とのこと
Powermat USAの展示。左側に並んでいるカラフルなケースはiPhone 4対応の無接点充電対応ケース。ケース内で30ピンコネクタに接続していて充電台に置くと充電が行なわれる同じくPowermat USAの展示。こちらは車載用のチャージャーと、2製品を同時に充電可能な充電台。一般的な3台の充電台は、すでにBestBuyなどで99ドルで購入可能だHTC EVO 4Gを無接点充電対応にさせる交換用の裏蓋。オリジナルとさほど変わらない薄さ。価格は39.99ドル

●組み込み機器に使われるAndroidやユニークな製品群

 iPhoneやiPod touchなどiOSデバイスを使って操作するクアッドリコプター「AR.Drone」を2010年のCESで披露したParrotだが、2011年は1DINサイズに収まるAndroid搭載のカーナビシステム「ASTEROID」を発表した。音楽ソースにiPhoneを利用できることもあって、AppleによるMade for iPod/iPhoneのロゴ認証も取っているというユニークなAndroid搭載製品である。

 Androidのバージョンは明らかにされていないが、カーナビらしく地図情報はもちろんのこと、駐車場、ガソリンススタンド、レーダー検知、レストランなど、各情報を検索できるアプリケーションがインストールされている。音楽ソースには前述したiPhone/iPodをはじめ、FMラジオ、Webラジオ、SDメモリ、USBメモリなどが利用可能。

 そのほか興味深い出展とあわせて紹介しよう。

1DINサイズのおよそ半分となる3.2型のディスプレイ。インストールされているアプリケーションには、地図情報はもちろんのこと、駐車場、ガソリンススタンド、レーダー検知、レストラン検索など音声コントロールによる音楽再生や、ハンズフリー通話にも対応する。インターネット接続に必要な3G回線へのアクセスは携帯電話機を接続するか3Gデータスティックを利用する。「ASTEROID」自体に3G接続機能はない
JOWTONG TECHNOLOGYの「cideko」。Android2.2をベースとするSTB。モニタとはHDMIで接続して、Googleプラットフォームで、インターネットブラウズや映像、音楽再生などが行なえる
Home Server Technologiesの「Wireless Media Stick」。PCやMacをソースとして映像や音楽をPS3やホームシアターシステム、あるいはUSB入力のあるBlu-rayプレイヤーなどにストリーミングで再生させる。Android対応のアプリケーションも用意されており、Android端末を入力ソースにすることもできる。119.99ドル
honestechの「Smart Recorder」。Winodows Phone 7やAndroid端末を車載ビデオにするハードウェアとソフトウェアのセット。運転状況を常時モニタリング、万が一の事故発生時には衝撃を感知して事故状況の記録を行なうという

(2011年 1月 14日)

[Reported by 矢作 晃]