Intel Developer Forum 2010が、9月13日(現地時間)に米国カリフォルニア州サンフランシスコで開幕した。次々に登場するIntelの幹部の中で、トップに登場したのが同社社長兼CEOのポール・オッテリーニ氏だ。
オッテリーニ氏は、最近同社が買収したMcAfeeやInfineon Technologiesの無線事業の買収の目的や、Intelが2010年後半に出荷開始する予定の次世代プロセッサSandy Bridgeに関する話題などを紹介し、よりダイナミックに進化していくIT業界に向けて、すべての市場に適した、高速で省電力な製品をリリースしていくべく“Intelは進化する”と呼びかけた。
●変わり続けるIntel、進化するコンピューティング体験とスマートコンピューティングへ対応Intel社長兼CEO ポール・オッテリーニ氏 |
オッテリーニ氏は今回の基調講演のテーマとして3つの言葉を挙げた。「今回の基調講演ではIntelの自己革新、より優れたコンピューティング体験、スマートコンピューティングの進化という3つのテーマについて語っていきたい」とそれぞれのテーマに沿った話を始めた。
オッテリーニ氏が最初に語ったのは、Intelの自己革新についてだ。オッテリーニ氏はまず、Intelのコア事業であるPC事業について話した。「PC市場は現在も成長を続けている。今年(2010年)は1日に100万台のPCが出荷されている計算になり、来年、再来年はさらに大きな成長を実現する」と述べ、2010年は予想として3億5,000万台、2011年には4億台超、2012年には5億台の出荷が期待できるというスライドを示しながら、PC市場は今後も堅調に成長を続けていくのだとアピールした。
その上で、今後成長が望める新しい市場として、Intelがスマートデバイスと呼ぶ、ハンドヘルドやタブレット、自動車などへの組み込み機器など、PCではないがコンピューティングの機能を持つ機器について話題を移した。オッテリーニ氏は「今後スマートデバイスは急成長を遂げるだろう。それに合わせてIntelも変わっていっている。2000年にはシリコンを提供する会社だったが、現在はそれに加えてプラットフォーム、ソフトウェア、さらにサービスをソリューションとして提供している」とし、Intelが単なるシリコンベンダーから、ソリューションを提供するベンダーに変革を遂げたのだとアピールした。
その具体的な例として挙げられたのが、2009年にIntelが買収したWind Riverで、「Wind Riverは今後もオープンなクロスプラットフォームにソフトウェアとサービスを提供する会社として存続する」と、今後もIntelがさまざまな手段でソフトウェアとサービスの強化に努めていくとした。
●2つの大規模な買収がIntelプラットフォームの強化につながる
次いで、オッテリーニ氏はコンピューティング環境の進化という話題に触れ、現在のコンピューティング環境に求められている進化の方向性として「セキュリティ、接続性、パフォーマンスの3つが重要だ」と述べ、それぞれに関する説明を行なった。
セキュリティに関しては、モバイル機器などの普及などによりセキュリティの重要さが従来より増していると指摘。それを解決するにはソフトウェアだけでも、ハードウェアだけでも駄目で、それらが協調して動作することが重要だとした。そのハードウェア面としては、すでにIntelがビジネスクライアントPC向けに提供しているvProを挙げ、ソフトウェア面としてIntelが先日発表したMcAfeeの買収を紹介した。
接続性に関しては、すでにIntelが長年取り組んできたWi-Fi(無線LAN)と数年前から提供をしているWiMAXを挙げ、2010年末に向けてWiMAXの提供エリアも増えていき、WiMAXに接続できるユーザーも増えるだろうという見通しを明らかにした。さらに、こちらも先日Intelが発表したInfineon Technologyの無線部門を買収したことのメリットについて「今回の買収で、3GやLTEなどで接続したいユーザーのニーズに応えることができる」と述べた。
セキュリティに関しては、ソフトウェアを持つMcAfeeの買収で、ハードウェアのvProを組み合わせて総合的なセキュリティを提供 | Infineon Technologyの無線部門の買収により、3GやLTEの無線ソリューションを入手。それらをIntelプラットフォームと一緒に提供可能に |
●Sandy BridgeのiGPUの性能は2006年のそれに比べて25倍の性能を実現
Intelの強力な武器である他社より先を行く製造技術。すでに32nmプロセスルールを大量出荷中で、来年の後半に22nmの生産も開始される |
パフォーマンスという観点では、Intelの十八番とも言える“ムーアの法則”について説明し、ムーアの法則によりプロセスルールが微細化していくことで性能が向上するだけでなく、消費電力の効率がよくなるとアピールした。「Intelはすでに32nmプロセスルールを大量出荷しており、High-Kメタルゲートに関しては実際の製品に採用できている唯一の会社だ。2011年の後半には22nmプロセスルールも生産を開始する」と、Intelの製造技術が依然として他社を上回っていることを強調した。
その上で、そうした製造技術でのアドバンテージを生かした製品として、Intelが2011年に発表を予定している次世代プロセッサ「Sandy bridge」(サンディーブリッジ、開発コードネーム)に関する説明を行なった。
オッテリーニ氏は「2007年のIDFで、2010年のiGPU(Integraed GPU)性能は2006年のそれの10倍になると予想した。しかし、実際には25倍の性能を実現した」と、Sandy bridgeのiGPUについての話から始めた。オッテリーニ氏は現在のCore iシリーズ+dGPU(Discrete GPU)とSandy BridgeのiGPUの比較を見せ、Sandy BridgeのiGPUがdGPUにも匹敵するような性能を持っているとアピールした(ただし、そのdGPUが何であるかは公開されなかった)。
さらにもう1つのSandy Bridgeのデモとして、Sandy Bridge-EP(サンディブリッジイーピー)と呼ばれるDPサーバー向けのSandy Bridgeを利用したデモを行なった。現在のWestmere世代で導入されたAES-NIと呼ばれるAESの暗号化、解読のアクセラレーション機能を利用して、256bitのAESにより暗号化されてやりとりができる安全なビデオカンファレンスを行なえる様子が公開された。
2007年のIDFでは、2010年のiGPUの性能は、2006年のそれに比べて10倍になると予想したが、実際には25倍の性能を実現したという | Sandy BridgeのiGPUと、現行のCore iシリーズ+dGPUを比較しているところ。見た目では大きな違いは感じられなかった |
Sandy Bridge世代の新しいCore iシリーズのロゴ | Sandy Bridge-EP(Sandy Bridgeのサーバー/ワークステーション版)のブレードサーバーを利用したデモ。AES-NIを利用して256bit AESによる暗号化を利用しながらHD動画でテレビ会議 |
●ソニー、Googleとの協業で開発中のSmart TVをデモ
最後のテーマであるスマートコンピューティングに関してはオッテリーニ氏は、「我々はスマートコンピューティングに向けさまざまなソリューションを用意している。1月のCESではソフトウェア配信のサービスであるIntel AppUpを発表したし、業界の多くのOSのサポートを実現している」と、Intelが組み込み向けにここ数年で体制を整えてきたことをアピールした。
その具体的な成果としては、Googleとソニーとの協業が発表されたSmart TVのデモが行なわれた。Smart TVは、Intel Atom CE4100と呼ばれるAtomベースのSoCが使われ、OSにはGoogleのGoogle TVが利用されている。リモコンやキーボードなどを利用してテレビを見るだけでなく、インターネット上のコンテンツをシームレスに楽しめる様子がデモされた。
なお、オッテリーニ氏は同時にLogitech(日本ではロジクール)が開発しているSmart TVデバイスも紹介し、聴衆に公開した。
スマートコンピューティングと呼ばれるスマートフォン、スマートタブレット、スマートTVなどにはIntel AppUpのアプリ配信システムや数多くのOSをサポート | Smart TVのデモ。表にはブランドにシールが貼ってあってわからなかったが、講演終了後裏に回ってみたら“SONY”の文字 |
Logitech(日本法人ロジクール)のSmart TVデバイス |
●Intelはこれからも進化し、新しい市場のニーズに応える製品を投入する
まとめとしてオッテリーニ氏は2020年のコンピューティングの予想について触れ、「50兆GBのデータ、2兆のオンライン金融取引、310億のインターネットに接続できるデバイス、40億のインターネットに接続できる人口、2,500万のアプリケーションという世界が現実になる」とし、詰めかけた開発者に向かって、そうした世界に対応した製品を開発して欲しいと呼びかけた。
そして、最後に「Intelはこれからも進化し続ける、そうした新しい世界に対応した製品をこれからも出していきたい」とまとめて、基調講演を終えた。
(2010年 9月 14日)
[Reported by 笠原 一輝]