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注文翌日出荷実績98%を誇るドスパラのPC製造拠点を見る
~受注、生産、サポート、物流を一極集中で運営
(2014/7/24 06:00)
東京・秋葉原を中心にPCショップを展開するドスパラで販売されているゲーミングPC「GALLERIA」などのオリジナルPCは、同じサードウェーブグループのサードウェーブデジノスが企画・製造。その9割をデスクトップが占め、さらにそのほとんど全てがBTO構成となるが、ほぼ全ての注文について翌日出荷を行なうという、驚異的な短納期を実現している。今回、そのPC製造拠点がある綾瀬事業所を見学する機会を得たので、レポートをお届けする。
サードウェーブデジノスでは、元々千葉県松戸市に製造拠点を構えていたが、2012年2月に神奈川県綾瀬市に移転した。同社取締役社長の松野康雄氏によると、綾瀬は新幹線を含む6社の鉄道が乗り入れているのに駅が存在しないということで不便な土地という印象もあるが、香港からの部材が羽田経由で1日で届き、直近ではすぐそばに圏央道の海老名ICが開通し、千葉県木更津まで結ばれるなど、実は物流に適した立地であるという。実際、この綾瀬事業所は、日本通運の物流センターの施設であり、ドスパラを含むサードウェーブグループが移転する前は日本IBMの物流センターだった。
この綾瀬事業所は、ドスパラの倉庫およびPC製造・修理拠点としての機能以外に、2013年秋には上海問屋を含めた通販受注センター、そしてアフターサポートのコールセンターも統合された、一大拠点となっている。
松野氏によると、PC事業は非常に薄利で、勝ち残るためには、品質を維持しながら、コストを徹底的に引き下げることが肝要であり、同社ではあらゆるサプライチェーンを一元管理することで、利益を確保していると言い、綾瀬事業所の物流コストは世界一安いと豪語する。
前述の通り、発注をかけた部材は、中国から1日でこの綾瀬に届く。そして、注文を受けたPCは、そのほとんど全てを翌日には発送するという迅速な製造体制と併せ、必要な部材を必要な分だけ確保し、すぐに顧客に届けることで、他社が3~4カ月、大手PCメーカーでは8~10カ月程度と言われる在庫回転率を1カ月にまで短縮しているのだ。
この在庫回転率の良さも特筆すべきだが、中1日で出荷というPCの組み立ては、半完成品を仕入れて、メモリやHDDなどだけを取り付けるのではない。全て一から組み立てを行なっている。と言うも、同社の注文はほとんどがBTOであり、1品生産とも言えるバリエーションになっているからだ。部品は海外で製造されているが、組み立てについては100% Made In Japanとなっている。現在同社の翌日出荷率は98%に達するが、これは企業からの注文などで納品日が指定されたものがあるからで、個人向けについてはほぼ100%を翌日に発送している。午前中の注文であれば、当日出荷すらあるという。
ラインとセル方式を組み合わせた独自の組み立て工程
この超短納期実現のため、同社ではライン方式とセル方式の2種類の組み立て工程を採用している。例えば、小型PCの場合、グラフィックカードの増設や、HDDを多数積むことはできないため、必然的に似通った構成となるので、ラインで流れ作業で組み立てを行なう。一方、ハイエンドのフルタワー型などでは、最新のグラフィックカードなどを搭載することが多く、高度なノウハウが必要となってくるため、セル方式で熟練したスタッフが1台ずつゼロから組み上げていく。
ちなみに、ノートPCについては、もう1つ別のラインに別れており、細やかな作業が必要なため、多くの場合、女性が組み立て作業を行なっている。
これ以外にも、スピード化のため、いくつかの工夫を盛り込んでいる。その1つは、ピッキング。受注が確定すると、その部品の製作指示書が印刷される。コの字型に配置された部品棚には、約700種20万点もの部品が並ぶが、明細に印刷されたバーコードをスキャンすると、その置かれた場所が端末に表示され、担当者は順次、棚からパーツをカートに詰め込んでいく。このシステムは自社開発したもので、担当者はものの1~2分でケースを除く全てのパーツを集める。その後、組み立て、インストール、検証、配送となるが、「動線」と呼ばれる、物理的にものが動いてく行程も工夫し、他社の10分の1程度にまで短くしているのだという。
製造時になんらかの不具合が見つかった場合、その個体は対策セクションに回される。最新パーツで構成されたマシンの場合、企画・開発段階でも検証を行なうが、製造段階で初めて相性などの問題が出ることもある。そういった場合、不具合対策セクションが原因の究明を行ない、その情報を即座に製造ラインに共有させることで、その後の製造の効率化に役立てている。
ちなみに、パーツレベルの不具合の場合、ファームウェアの更新や、取り換えのほか、半田付けレベルの対策を行なうこともあるという。修理についても、この事業所で行なっているが、こちらは平均3日で作業を完了しているという。
もう1つ、迅速な製造に一役買っているのが、柔軟な人材配置だ。綾瀬事業所では、9時から22時まで2シフトによる運営体制を敷いている。日本通運の施設ということで、搬出入には日本通運のスタッフが携わっているが、それだけでなく、ピッキングなど組み立てに関わる作業についても一部業務を委託している。また、繁忙期には注文が通常の4~5倍に達することもあるが、そういった際は、上海問屋を含めた他の部門のスタッフの配置も入れ替え、一時的に生産能力を引き上げるなどして対応している。
組み立てが完了したマシンは、6~7台をセットにして、一括でOSのインストールを行なう。同時にこの工程では、各種検証も行なわれる。圧倒的な短納期ではあるが、検証には数時間をかけている。
このシステムも独自に開発したものだ。多くのテストは自動化されているが、画面の表示具合や、音声出力に異常がないかなどは、1台1台人の手で検証を行なっている。また、県の技術センターを利用し、振動、電磁波、ノイズなどの検査も適宜行なっている。これらにより松野社長は、具体的な数字こそ明かせないが、初期不良率は日本一少ないと明言する。
実はドスパラがこういった製造拠点を報道関係に公開するのは今回が初だ。松野社長が表舞台に出てくることもほとんどなかった。今回、綾瀬事業所が公開されたのは、一元管理の体制が整ったタイミングだったというのもあるだろうが、物流から製造までの効率と品質に対する自信の現われと言えるだろう。
それでは、綾瀬事業所の中身を、実際の業務の流れに沿って、搬入、ピッキング、組み立て、検証、梱包、出荷の様子を写真で紹介する。