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ヒューマンエヌディー、furoと共同で子供向けロボット博士養成講座を開講

9月 開講

 ヒューマンエヌディー株式会社は、fuRo(千葉工業大学未来ロボット技術研究センター)と共同で、2013年9月から小中学生を対象としたロボット博士養成講座「ロボティクスプロフェッサーコース」を開講する。開講に先立ち、7月8日、新カリキュラムの発表会が開催された。

4年前に開講した小学校低・中学年向けロボット教室が急成長

 ヒューマンエヌディーは、ヒューマンホールディングス株式会社の事業子会社であり、キッズスクールの直営教室、およびフランチャイズ事業などを展開している。同社は、高橋智隆氏監修による小学校低/中学年向けロボット教室「ヒューマンキッズサイエンス ロボット教室」を2008年12月から開講しており、4年目となる今年は、全国約530教室で、約4,000人の生徒が受講するまでに成長した。その中で、より高度な技術や知識を身につけ、将来ロボット博士を目指したいという要望が多く寄せられるようになり、上級編としての新カリキュラムを開発することになったという。

 このカリキュラムは、教材の企画/開発からテキスト製作、授業内容立案にいたるまで、fuRoとその所長である古田貴之氏が総監修および総製作していることが特徴だ。古田氏といえば、日本有数のロボット開発者であるだけでなく、将来のロボット博士を育てるための教育啓蒙活動にも熱心な人物であり、過去には高校生対象の講演などを1年に200回も行なったこともあるという。古田氏は「教育は日本の未来」であり、fuRoの活動目的である「未来を創ること」は、「ロボット博士を創ること」にほかならないとする。つまり、fuRoの活動目的と、ヒューマンエヌディーの新カリキュラムの目的が合致し、このカリキュラム開発に協力することにしたという。

ロボット教材の開発を担当した千葉工業大学未来ロボット技術研究センター所長の古田貴之氏
ヒューマンエヌディー株式会社代表取締役の山本昌人氏
未来ロボット技術研究センター(fuRo)の沿革。fuRoは2003年に設立され、福島原発での調査用ロボットや日本科学未来館のロボットなど、さまざまなロボットを開発してきた
fuRoがヒューマンエヌディーの教育プログラム総監修を受けた理由。fuRoの活動目的である「未来を創ること」は、「ロボット博士を創ること」にほかならないからである

「数学」や「物理」は楽しいことをするためのアイテム

 古田氏はさらに、自分の少年時代を振り返り、「自分はロボット博士になりたかったが、どうやったらロボット博士になれるか分からなかった。また、図工や体育は好きだったが、数学や物理は嫌いであり、ロボットに数学や物理は関係あるのか?」という疑問を持っていたと語った。実際は、ロボットの開発に数学や物理は欠かすことができないのだが、少年時代、そうしたことを教えてくれる人は誰もいなかったという。

 そこで、このロボット講座では、「数学・物理は楽しいことをするためのアイテムである」という少々ユニークなコンセプトを掲げる。ロボット製作を通じて、数学と理科の凄さを実際に体験し、数学/理科好きになってもらうことが目的なのだ。教材は、古田氏らfuRoメンバーが書き起こしたオリジナルテキストとロボット用組込コンピュータセット(Arduinoベース)、ロボットキットから構成。ロボットキットは1つではなく複数の種類が用意される。

 それぞれのロボットを製作するカリキュラムは、中学の数学や理科と密接な関係を持っている。例えば、多脚リンクロボットでは、中3数学の「図形と相似」や「三平方の定理」、中3理科の「摩擦と力学」について学習する。

古田氏の少年時代の疑問。ロボット博士になりたかったが、どうやったらロボット博士になれるのか分からない。古田氏は、図工や体育は好きだったが、数学や物理は嫌いであり、ロボットに数学や物理は関係あるのか? という疑問を持っていたという
この講座のコンセプトは、「数学/物理は楽しい事をするためのアイテム」であり、数学と理科の凄さを実体験し、数学/理科好きになってもらうというもの。教材は、オリジナルのテキストとロボット用組込コンピュータセット、ロボットキットから構成される
現在想定中のカリキュラムの例。例えば、多脚リンクロボットでは、中3数学の「図形と相似」や「三平方の定理」、中3理科の「摩擦と力学」について学習する

数学と物理の力でオムニホイールロボットをパワーアップ

 ロボティクスプロフェッサーコースでは、オムニホイールロボット、多脚リンクロボット、ロボットアームの3種類のロボットキットを使う予定となっているが、発表会では、このうち、オムニホイールロボットのデモが行なわれた。

 オムニホイールとは、小さな車輪が組み合わされて1つの車輪となっている特殊な車輪であり、全方向に移動できることが特徴だ。このオムニホイールロボットでは、3つのオムニホイールが互いに120度ずつ角度をずらして取り付けられている。普通の4輪車のように、車輪が平行に並んでいるわけではないので、何も考えずに動かそうとすると、前進後進やその場での旋回くらいしかできないが、数学と物理の力を借りれば、まるでUFOのように全方向に自由自在に動かすことが可能になる。

 ポイントは、中3数学で習う力の釣り合いと合成だ。平行四辺形を書いて、力のベクトルを合成するというものだが、紙の上だけで考えるよりも、実際にオムニホイールロボットを動かしてみれば、実感として理解できる。数学や物理を理解することで、自分のロボットがパワーアップしていくという体験は、従来の教材では得られなかった体験だろう。

古田氏が手に持っているのが、教材として使うオムニホイールロボット
オムニホイールとは、全方向に移動できる特殊な車輪である。このロボットではオムニホイールを3つ使っており、全方位に移動することが可能だ
車輪が120度ずつの角度で取り付けられているため、単純に動かそうとすると、前進後進や旋回くらいしかできないが、数学や物理が分かれば、全方向に自由自在に動かすことが可能になる
オムニホイールロボットをうまく動かすポイントは中3数学で習う力の釣り合いと合成である
オムニホイールロボット編のカリキュラム。全4章のうちの1章がオムニホイールロボット編で、その中身は6つに分かれている。数学や物理を理解することで、ロボットがどんどん進化していく

ロボット講座用にArudinoオリジナルシールドを開発

 この講座で用いられるテキストは、古田氏らが書き起こしたものだが、その中に「現代の魔法使い、そう、それがロボット博士です。」という1文がある。古田氏のロボット博士への想い、そして子供たちに期待する想いが、この1文に込められている。この講座では、制御用組込コンピュータとしてArduinoを利用しているが、そのArudinoに装着するシールド(拡張基板)は、fuRoがオリジナルで開発したものであり、DCモーターポート×4、DIOポート×4、ADCポート×4、IICポート×1、SCIポート×1が用意されている。

 このシールドにより、さまざまな拡張が可能である。例えば、オムニホイールロボットにPSDセンサーを追加すれば、障害物を自動的に避けることが可能になり、迷路脱出ロボットに進化する。

テキストの一部は、古田氏が自ら書き起こしているという。左の文章はその一部。「現代の魔法使い、そう、それがロボット博士です。」という文に、古田氏の想いが込められている
オムニホイールロボットと同じような仕組みの全方位移動ロボットは、NEDOの次世代ロボット知能化技術開発プロジェクトでも開発されている
ロボット教材として使われる組込コンピュータやセンサー、モーター類
今回のロボット講座のために、新たにfuRoがArduinoオリジナルシールドを開発した。このシールドには、DCモーターポート×4、DIOポート×4、ADCポート×4、IICポート×1、SCIポート×1が用意されており、さまざまなデバイスを接続できる
その他の教材採用予定ロボットの例。素早い動きが可能な多脚リンクロボット
教材のオムニホイールロボット。こちらはシンプルな構成で、周りにPSDセンサーは付いていない
オムニホイールロボットは、ゲームコントローラを使って無線操縦することも可能だ
これがfuRoが開発したArduinoオリジナルシールド。入出力の拡張ボードである
サーボモーターを制御することも可能だ
オムニホイールとDCモーター部分
こちらはPSDセンサー。赤外線を利用して、障害物までの距離を計測することができる
ロボット講座で用いられるテキスト(ドラフト版)。図や写真が多用されており、中学生なら十分理解できるように作られている
【動画】オムニホイールロボットの動作の様子。縦横無尽に動き回る
【動画】周囲に取り付けられているPSDセンサーを利用して、障害物を自動的に避けることが可能で、迷路をクリアさせることも可能だ
【動画】複数台のロボットを同時に動かしたところ。それぞれのロボットは、障害物を避けるようにプログラミングされている
【動画】多脚リンクロボットの動作の様子。脚を素早く動かして、自由自在に走り回る

当初はロボット教室修了生を対象としてスタート

 ロボティクスプロフェッサーコースは、現在開講中のロボット教室の上級編という意味合いがあり、対象は小・中学生となるが、当面、小学生はヒューマンキッズサイエンス ロボット教室の修了生に限るという。

 また、開講は2013年9月の予定だが、当初の教室数は10教室程度で、受講者は150人程度を想定している。当初の150人は、一般募集ではなく、ヒューマンキッズサイエンス ロボット教室の修了生となるが、1年後には教室数を50教室程度まで増やし、受講者は一般募集を含む500人程度に、3年後には200教室、受講者3,000人を目指す。

 当初のカリキュラムは2年間で全てを修了する予定になっているが、最終的には内容を増やして3年間のカリキュラムにしたいとのことだ。

 受講費用は、まだ確定ではないものの、授業料が毎月12,000円程度、教材費が毎月1,300円程度、入会金が15,000円程度を想定しているという。内容を考えると、十分リーズナブルだといえるだろう。

 これまでも、小学生を対象としたロボット教室はあったが、内容的には、学校の授業や受験とはやや乖離しているものが多く、ロボット製作を通じて、楽しみながら数学や物理を理解できるという本講座は、子どもを持つ親御さんにとっても魅力的だ。

 なお、本講座が目指すロボット博士の「博士」は、狭い意味での博士(ドクター)ではなく、ロボットに詳しい人という意味の「ハカセ」なので、くれぐれも誤解なきよう。

現在開講中のヒューマンキッズサイエンス ロボット教室のベーシックコースのカリキュラム。このロボット教室は、高橋智隆氏が監修している
ベーシックコースで製作するロボットの例
こちらもベーシックコースで製作するロボットの例
ベーシックコースを修了すると、ミドルコースに移る
ミドルコースで製作するロボットの例
ミドルコース修了生向けのアドバンスコース。光センサーや音センサーなどを使った、より高度なロボットを製作する
最後に、古田氏と山本氏が契約書へのサインを取り交わした

(石井 英男)