ニュース

パナソニック、ダムの中の壁面を4Kカメラで点検するロボットを開発

水中インフラ点検ロボット

 パナソニックは、ダムのインフラ点検を行なう「ダム水中点検ロボットシステム」を開発。2016年度内に事業化する計画を明らかにした。

 パナソニックが持つ家電や自動車関連製品、電動自転車などの技術を活用。画像鮮明化技術、均一照射照明、自律制御技術、損傷自動抽出技術などにより、水中での近接目視点検をロボットで行なえるようになるという。

 パナソニック AVCネットワークス社事業開発センター先行開発部・九郎丸俊一部長は、「建設後50年以上を経過するダムは、2012年には59%を占めており、さらにこれが、2022年には70%にまで拡大。今後、ダムの老朽化が大きな問題になる。だが、ダイバーによる点検では、ダムの全ての壁面を検査することは事実上不可能であり、スポットでの点検に限られる。そのため、水中壁面の俯瞰マップが作れないという問題もある。さらに、水深が深いため、潜水士にとっても危険な作業であること、点検費用は約1,600万円に達し、1回の作業に7人の潜水士が必要な場合もある。また、水中における点検作業時の映像撮影は水の濁りなどで視界が悪いこと、撮影映像が安定しないこと、前回点検作業をした場所に戻れず、経年比較が難しいなどの問題があった」と指摘する。

ダム水中点検ロボットシステムの特徴
パナソニック AVCネットワークス社事業開発センター先行開発部・九郎丸俊一部長
パナソニック 生産技術本部ロボティクス推進室の本間義康室長

 今回、パナソニックが開発したダム水中点検ロボットシステムは、水面からの遠隔操作で安全な撮影を実現するとともに、センサーによる場所位置推定により位置を把握。壁から1mの距離に沿った形で横移動して、画像を撮影する。壁は湾曲した形でも1mの距離を維持したまま、1秒間に30cmずつ横移動。撮影時は、自律制御により映像を安定化できるという。

 「4つのスクリューを使用するとともに、3軸の姿勢制御、9軸センサーによる水平維持、深度計による深度維持のほか、距離や方向を水中でも維持するための超音波センサーを搭載して、壁面撮影時に安定した並行移動ができる」という。

壁面を並行移動できるのが特徴
小型のスクリュープロペラがついており、これによって水中を移動する

 本体は、バッテリ駆動であり、2時間の連続稼働ができる。撮影用のカメラは、4Kカメラを搭載しているが、2K画質で録画する。「水中点検において、壁面の傷を確認するために必要な精細さは、2Kで十分であると考えている」という。

バッテリ。電動自転車のバッテリを使っているという
中央部のカメラは監視カメラを応用している
下部にあるカメラはウェアラブル4Kカメラを使用。オレンジの枠が見える

 撮影時には、新規に独自開発した照明ユニットを使用。1.1×1.6mの画角に均一照射行ない、最大450lxの水中照度を実現するという。

 また、撮影した画像は、画像の鮮明化技術により視認性を向上。さらに、点検データ分析技術により、傷の自動計測を行なうほか、同一座標を用いた傷の経年変化を可視化。堤体俯瞰マップの制作も可能になるという。計測結果から「何cm以上の傷を抽出する」といった検索も可能になり、効率的な分析を実現する。

照明装置。汚れた水中でも的確に壁面を照らすことができる
照明をつけた状態。最大450lxを実現しており、かなりの明るさがある
均一に壁面を照らすことができる

 実際の点検作業は、ロボットをボートに乗せて、点検場所に移動。そこで水の中に本体を投入することになる。

 「船を操作する人、ロボットを操縦する人、ロボットを昇降機で投入する人、そして、ロボットに繋がったケーブルをウインチで操作する人の4人が必要。将来的には、ロボットを昇降機で投入する作業と、ウインチでケーブルを管理する作業を1人で行なえるようにして、3人体制で作業を行なえるようにしたい」という。

 ダムの大きさにもよるが、数日で、水中壁面全体の点検が完了するそうだ。パナソニックでは、点検に使用するためのウインチや昇降機についても、ダム水中点検ロボットシステムに専用化した治具を自ら開発することで、少ない作業者数で済ませたり、簡便な取り扱いが行なえるようにする予定。また、ロボットの操作方法を習得できるシミュレータも開発。実際の操作用プロポを使って操縦ノウハウを学習できる環境も提供するという。

 「今は操縦する訓練が必要だが、半自動化と言えるところまでは来ている。人間が要所要所での動きを判断することになるが、むしろ微妙な操作が必要になる場合には自動で行なえるようにしている。点検対象が想定できれば自動化はしやすい。だが、異なるダムなどへの対応では、自動化のハードルが上がることになる。将来的には人工知能を利用して、自動化を図ることもできると考えている」とする。

作業は4人で行なうことになる。パナソニックでは作業用の専用装置も開発する
ロボットの操作環境。TOUGHPADで状況を確認しながら操作できる
水中インフラ点検ロボットの操作を学習するシミュレータも開発した

 ダム水中点検ロボットシステムの本体試作機は、550×550×680mm(幅×奥行き×高さ)であり、重量は30kgを超えるという。水深200mの水圧にも耐えられる設計としており、ダイバーが潜って作業が難しい水深の深い場所でも利用できる。

 ユニークなのは、パナソニックが持つさまざま技術を活用して試作したという点だ。

 例えば、本体部に搭載されているカメラは、セキュリティ監視カメラとともに、ウェアラブル4Kカメラが応用されている。パナソニックのウェアラブル4Kカメラは、ネイマール選手を起用したプロモーションが人気だが、同製品のイメージカラーであるオレンジのレンズ枠部分が見えたりする。

 そして、画像の鮮明化においては、画像からの降雪や水滴などを除去する監視カメラで培った技術ノウハウが活用されている。それによって、水の中でも鮮明な画像によって壁面の傷などを確認することができる。

画像鮮明化技術によって、傷も発見しやすい
点検結果からさまざまな分析が可能になる

 また、自律制御のためのセンサー技術では、自動車向けに開発したバックソナーセンサーを応用。これによって、壁面と本体との距離を測るという。さらに、搭載したバッテリは、電気自転車で使用していたものを応用しているという。

壁との距離を測るセンサー。自動車が後方にぶつからないようにするバックソナーを応用した

 そのほかにも、画像から壁面の傷などを発見する損傷自動抽出には、TVの製造工程において、液晶画面の傷を発見する技術を使用。また、均一に照射する技術には同社の照明事業のノウハウを活用。水の中の光の屈曲も計算して、最適な照明を実現。ここにはレンズ設計技術を応用したという。パナソニックのさまざま技術が組み合わさっていることが分かる。

 ダム水中点検ロボットシステムの価格は現時点では未定。

 「ダイバーによる点検とはまったく違う水準の点検ができるようになる。直接コストを比較することはできない」としている。

 同社では、ダムでの点検を目的として、電力会社などに導入を図る一方で、「ダム以外の大規模水中設備にも応用でき、水中における点検が必要な領域に導入提案をしていきたい」とする。また、将来的には海外への販売も視野に入れる考えだという。

 パナソニックでは、今回の「ダム水中点検ロボットシステム」を、社会インフラ維持管理ロボットと位置付けており、橋梁やトンネルなどの打音検査を代替する装置の提案などにも繋げていく姿勢を見せている。

 「日本の高度成長期に集中整備された社会インフラが老朽化し始める一方で、少子高齢化による労働人口の減少といった問題がある。今後増大するインフラ点検需要の省人化や自動化に向けた提案を行なっていきたい」とする。

 パナソニック 生産技術本部ロボティクス推進室の本間義康室長は、「パナソニックでは、モノづくり分野からサービス、介護・医療、農業、インフラまで幅広い分野に対して、ロボットの開発を進めている。センサー、バッテリ、アクチュエータといったデバイス、これらを活用して実現する手や脳、目、足といったロボティクス要素、パナソニックが持つ安全技術をベースに、ICTおよびIoT技術を融合させ、さまざまな分野へロボティクスを拡大していきたい」とした。

パナソニックのロボティクスの広がり

(大河原 克行)