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東大、有機分子ワイヤ中の電子移動速度を高速化

~常温駆動する単分子トランジスタ実現に寄与

OPVとCOPVの比較

 東京大学大学院理学系研究科の助川潤平博士、辻勇人准教授(JSTさきがけ研究者兼任)、中村栄一教授らと、ドイツのフリードリヒ・アレクサンダー大学のグルディ教授らの国際共同研究グループは25日、新開発の有機分子ワイヤ中の電子移動速度が既存の分子ワイヤより840倍程度速くなることを発見したと発表した。常温駆動する単分子エレクトロニクス素子などの早期実現に貢献すると期待される。

 情報機器のさらなる高密度化や省電力化には、1個の電子でスイッチングや演算ができるナノ~ピコメートルサイズの分子素子の開発が求められている。一方、その素子同士の配線には、π電子共役系有機分子などの「分子ワイヤ」が有望視されている。

 π電子共役系有機分子としては、オリゴ(フェニレンビニレン、OPV)などが研究されているが、中村教授らの研究グループは、OPVを炭素原子で架橋した構造を持つ「炭素架橋フェニレンビニレン」(COPV)という有機分子を2009年に開発した。今回、これを分子ワイヤとして電子の移動速度を評価したところ、OPVを分子ワイヤにした場合より、電子移動速度が840倍程度速いことを発見した。

 これは、分子ワイヤで連結された電子供与体・受容体間の電子的相互作用の増大に加え、COPVが剛直な平面構造をしており、それに起因する電子的性質によって非弾性トンネリングを引き起こす要因となる電子-振動カップリング(e-vカップリング)が大きくなったためとみられる。

 e-vカップリングはこれまで、明確な単一構造を持つ有機分子ワイヤでは、金属基板上に置かれたπ共役分子を-270℃程度の極低温にした場合など、非常に限られた条件でのみ観測されていたが、今回初めて、常温・溶液中でe-vカップリングの寄与が示唆された。

 COPVのような単一構造を持つ有機分子は、さまざまな組成や性質のものの混合物であり、構造的欠陥が多く存在するカーボンナノチューブなどと異なり、均一性があり設計・合成が容易となるため、1分子で用いた場合でも歩留まりも高くなる。

自由エネルギー(横軸)と電子移動速度(縦軸)の関係

(若杉 紀彦)