ロジクール創業者のダニエル・ボレル氏が、創業30周年を振り返る
~危機とは危うさでもあり機会でもある

ダニエル・ボレル氏

10月17日 開催



 株式会社ロジクールは17日、この10月で本社が創業30周年を迎えたことを記念するイベントを開催。この中で、創業者の1人で、非常勤取締役会メンバーであるダニエル・ボレル氏が講演を行ない、同社の過去30年の紆余曲折と、そこから学んだ教訓、また今後の方向性などについて語った。

 弊誌読者はご存知の方も多いと思われるが、ロジクールの日本以外の社名はLogitechであり、日本法人も1988年の設立当初はロジテック・パシフィックという商号だったが、すでに日本にはロジテック株式会社(Logitec)が存在していたため、1996年に今の株式会社ロジクールへと社名変更した。今回30周年を迎えるのは、スイスに本拠を構えるLogitech本社であり、本稿でも基本的に以下でLogitechの呼称を用いる。

会場には年表とともに歴代の製品が並べられた
これは世界初のマウスLogitechは1981年にスイスの小さな村の「ガレージ」ならぬ「牧場」に事務所を構えて始まった

 ボレル氏は、1981年10月2日に、当時の人口800人というスイスのApples(アプレ)村でLogitechを2人の同僚とともに立ち上げた。同社は最初ソフトウェアの開発会社で、その社名は、Logi=Logiciel=ソフトウェアを意味するフランス語+tech=Technologie=技術を意味している。

 海外のメーカーの要人が来日した際、「日本は当社にとって非常に重要な市場である」というのは、ある種の常套句でもあるが、Logitechにとって日本はもっとも思い入れの深い国であるという。というのも、同社が最初に獲得したビジネス案件はリコーにグラフィカルエディタを提供することだったからだ。また、ハードウェアを手がけるようになってからも、オムロンから部材供給を受けることで、適切な品質と価格を両立でき、それによって、1987年にAppleから初めてマウスOEM生産を受注した際に、Appleの要求を満たすことができたのだという。ボレル氏は、その後も、富士通、東芝、日立、ソニーといった日本の大手企業と長年にわたる業務を行なうことで、さまざまな教訓を受けたと語った。

 ボレル氏の座右の銘は「賢くあるより幸運であれ」というもの。この30年は必ずしも全てが順調だったわけではないが、幸運に加え、情熱と勤勉さを社員が共有しながら事業にあたってきた結果、1984年のHewlett-Packardとの初めてのマウスOEM契約が年5万台だったものが、今では年に1億台を出荷するに至った。

製品にとって必要なもの

 ボレル氏が考える、製品にとって必要なものは何か? それは、革新性、パーソナルで感情に訴えかけるものであること、良いデザインとライフスタイルに合致すること、そして価格と性能と品質といったもの。だが、それにもまして重要なのが、時代に即した柔軟性だ。

 ボレル氏の説明によると、ラジオが発明されてから5千万台が出荷されるまでには38年かかった。同じ台数のTVが出荷されるには13年がかかった。しかし、iPodは3年、iPadは1年、そしてこれはハードウェアではないが、Google+に至っては1カ月半という期間で、それを達成した。このように、変化の激しい現代では、ユーザーが欲しているものを理解し、新技術にチャンスを見いだし、新しいものを開発し、自分たちが提供しようとしている変革をうまく説明することが成功の秘訣だという。それを成し遂げたのがAppleだ。

 1997年にボレル氏は故スティーブ・ジョブズ氏と会う機会があったという。当時、ジョブズ氏はAppleに復帰したばかりで、Appleは資金の面でも製品の面でもどん底の状態にあった。当時、マイケル・デル氏は1ドルでもApple株は買わないと言ったほどだという。また、その頃はコンシューマエレクトロニクス業界では、日本のメーカーが世界を牛耳っていた。

 しかし、当時立ち上がりつつあったインターネットとソフトウェアをうまく製品に組み込むことで、AppleはiPodやiPhoneといった製品を世に送り出し、今の成功を築き上げた。

危機=Risk(危うさ)+Opportunities(機会)

 変化というのは、一種の危機でもある。ボレル氏はこの「危機」という漢字には「危うさ(リスク)」と「機会」の2つの意味が含まれると指摘。しかし、スイス、特に同国の銀行ではリスクのみを見て、損失を恐れ、挑戦することに足踏みしてしまうと言う。一方、シリコンバレーでは、その危機における機会を真っ先に考え、形を変えて挑戦してみよう、と発想する。こういった考え方こそが、Appleの今の成功の礎であり、ボレル氏自らもLogitechで実践し、危機を乗り越えるのに役だったのだという。

 今後の展開についてボレル氏は、具体的な製品内容については開示しなかったが、これまでPCを中心とした製品だったものを、それに限らずスマートフォンやタブレットTVなど、さまざまなデジタル機器をよりパーソナルなものにすべく、幅広い製品展開を行なっていくとした。

 また、アインシュタインの言葉を引用し、「未来こそ自分の人生を費やすときめたところなのだから、未来にだけ興味がある」と述べ、Logitechのこれからの30年にも期待してもらいたいと講演を締めくくった。

 ボレル氏に続いては、ロジクールの代表取締役社長である竹田芳浩氏が、国内市場での戦略について説明した。

 竹田氏は、同社がマウス、キーボード、Webカメラのイメージが強いが、それ以外にもゲームコントローラや、スピーカー、タブレット用アクセサリなども手がけているほか、取り扱い店舗数も、1年半前のの700店舗から、2倍以上の1,500店舗にまで増えていることを説明。また、マウス、キーボード、Webカメラについては、市場が伸び悩む中、堅調な成長を遂げていることをアピールした。

 しかし、ブランドイメージはまだ低いことが課題であり、その解決のため、徹底した品質管理の下、自社工場で生産を行ない、他社が1年程度の中、3年から長いもので5年の保証期間をつけるなど、品質が優れていることを訴求していきたいとした。

 また、現在30~40代の男性ユーザーが多い点についても、品質を維持しながら価格を引き下げたエントリー製品の拡充や、デザイン/カラーバリエーションの増強によって、若い世代や女性層の獲得に意欲を見せた。

竹田芳浩氏自社工場生産による品質の高さを強調今後は女性層の獲得にも励む

(2011年 10月 18日)

[Reported by 若杉 紀彦]