国立大学法人大阪大学のサイバーメディアセンターとマイクロソフトは、ITを使って大学でのエネルギー消費量を可視化する実証実験「大阪大学CMCグリーンITプロジェクト」を開始した。
大学は24時間、365日体制で稼働する必要がある研究部門を持っているため、通常の企業に比べ電力消費量が多くなる傾向にある。大阪大学の場合、研究部門に加え医療施設も持つことから、地域の中でも電力消費量が多くなっているという。
今回の実証実験では、2010年12月1日から2011年6月30日までの期間、大阪大学サイバーメディアセンター内の豊中教育研究棟内における電力消費を、照明や空調といった物理的な属性、所属研究室別、行動時間帯別などのユーザーの属性などに合わせ、マイクロソフトの技術を利用し、柔軟に可視化できる情報システムを構築する。電力消費の状況は、ポータルサイトやガジェット、デジタルサイネージなどを通じて共有することで、学生や教職員の意識や行動の変化を分析し、今後の消費電力の削減の取り組みに活かす計画だ。
今回の実証事件を担当する、大阪大学のサイバーメディアセンター・竹村治雄センター長は、大阪大学、サイバーメディアセンターがこの取り組みを行なう意義を次のように説明する。
「大学におけるグリーン化への取り組みは、一般企業に比べ、遅れているというのが私の認識。大阪大学のグリーン化への取り組みとしては、毎年、環境報告書を作成して、発表している。その結果、CO2排出量の8割が電力消費に使われていることが明らかになった。内訳としては空調、照明、コンセントからの消費の大きく3つに分別できる。ほとんどのコンセントには情報機器が繋がっているのが現状。
大阪大学のサイバーメディアセンターは、旧計算センターが改組して2000年に誕生し、それ以来、大阪大学における情報通信基盤の中核組織として位置している。これまでにも電力消費削減への工夫は行なってきたが、取り組みをさらに強化していくためには別途なんらかの工夫が必要であると考えていた。サイバーメディアセンターの豊中研究棟が、今回のプロジェクトに取り組むことによって、大学の特徴的な電力消費の現状を獲得することが可能となる。さらにそれを可視化し、利用者にアピールできる見せ方を研究することで、電力消費における行動パターンの変化を起こすことが可能になるのではないか」。
サイバーメディアセンター豊中教育研究棟は、地下1階、地上7階建ての建物で、サーバー室、スーパーコンピュータシステムなど情報機器専用ルーム、一般学生が語学の講義に利用するなどマルチメディア教育にパソコンを利用するCALLシステム端末教室、情報教育システム用のパソコン教室、サイバーメディアセンターに所属する7研究部門のうち5研究部門の研究室、会議室、事務室などが設置されている。
通常の教室、情報機器教育用の教室、事務部門、研究部門、情報端末専用室など多彩な教室が設置されていることから、大学内での電力消費を研究する場所として最適との判断から、今回の実証実験での利用が決定した。
すでに9月から試験的に、電力計測のためにパナソニック電工製のエコパワーメータ32台、多回路エネルギーモニタ、センサーが85カ所に設置されている。
こうした計測機器で計測されたデータは、ユビテック製の設備制御システム「BX-Office」を通じて、構内LANを活用し、10分周期で収集される。このデータをSQL Serverに蓄積し、照明、空調といった物理属性、所属研究所や行動時間帯などユーザー属性に基づき、電力消費データを分析することができる。
今回のセンサーなどの設置費用はおおよそ300万円程度だという。
分析したデータは、SharePointServer上の「エネルギー消費可視化ポータル」上に表示し、さらにガジェットを使っての表示やメールマガジン、デジタルサイネージなどさまざまな表示媒体の活用を検討している。
「消費電力量を可視化するだけでは十分ではないので、可視化したデータをどのような見せ方をすることが消費者の行動を変えていくのに有効的なのかも、検討材料としていきたい」(竹村センター長)。
また、電力消費量が多い研究室等が明らかになることで、「大学では毎年、電力会社と消費電力量に関する契約を結ぶが、消費電力が増えると契約する容量を増やさなければならなくなる。どこの部分の電力消費量が多いのかが明らかになれば、それを是正する努力ができる」(竹村センター長)と、大学としてコスト削減につながる可能性もあるという。
マイクロソフト側では社会貢献活動の一環として今回の取り組みを行なうが、「グリーン化に対してはどこの大学も興味を持っているので、今回の取り組みを他大学に利用する横展開も検討したい」(マイクロソフト株式会社パブリックセクター業務執行役員 文教ソリューション本部長マニッシュ・ミシュラ氏)とビジネスとして活用することも検討しているという。
(2010年 12月 7日)
[Reported by 三浦 優子]