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産業向けVR市場は2025年までに700億ドル超へ
~NVIDIA、NVIDIA Pro VR Day 2017を開催
2017年1月26日 19:39
エヌビディア合同会社は26日、業務向けVRソリューションベンダーと共同で、産業界でのVR導入支援を目的としたイベント「NVIDIA Pro VR Day 2017」を、都内にて開催した。
本稿では、米NVIDIA プロフェッショナルビジュアライゼーション事業副社長兼ゼネラルマネージャーのボブ・ペティー氏によるキーノートセッション「NVIDIA QuadroグラフィックスによるVR最適構成とVR導入の最新情報」と、会場に用意されていたVR体験/展示コーナーの様子をお届けする。
登壇したペティー氏は、産業分野での現在のトレンドとして、「巨大なデータセットの利用」、「深層学習を用いた人工知能」、「仮想現実(VR)」、「フォトリアリズム」という4つを挙げ、5年前にはSFとして扱われ、2年前でも「まだ何年も先の技術」として語られてきたVR(仮想現実)だが、今では既に実用化され、あらゆる業界で使われており、未来が現実になっていると説明。加えて、派生してAR(拡張現実)やMR(複合現実)といったものも登場しているが、それらもVRの実現なくして実現できるものではないとした。
個人向けのエンターテイメントVRでは、ゲーミング、スポーツ中継、映画、コンサート、旅行、ショッピングといった用途が主となっている。VR/AR市場は、2025年までに800億ドルまで市場規模が拡大すると見られているが、その内、個人向けのエンターテイメント分野は10%程度になるとほとんどの専門家が予想しているという。残るおよそ700億ドルはエンタープライズ向けVR/ARで、映画などのコンテンツ制作、医療、建築、製品デザイン、製造、コラボレーションといった用途で使われているという。
自動車メーカーでは製造だけでなくマーケティングのシーンでもVRが活用されていると述べ、それは他業種でも同様で、売上を伸ばすためマーケティングで使われていると述べた。
同氏は、「一番大きなVRのチャンスはどこか」という質問をされると「製品デザインと建築だ」と答えているが、それは製造プロセスの話ではなく、自動車や家など製品を売っていく、マーケティングの部分に大きなチャンスがあると考えているという。
エンタープライズでのVRの活用は、実寸大という「スケール」、実際に触れているかのような「自然なインタラクション」、別の場所にいても同じ空間で実際に対面しているかのような体験による「効率的なコラボレーション」という3つの価値を得られると述べた。
しかし、プロフェッショナルの世界において、VRは決して新しい技術ではないと述べ、事実、氏も30年以上VRに携わってきたという。だが、それはヘッドマウントディスプレイ(HMD)ではなく、「CAVE」(複数のスクリーンとプロジェクタでユーザーを囲んだしシステム)や、対象を実寸大で表示するPowerwall型といった大型のシステムだったとした。
同氏はHMDがVRにとって大きな変曲点になったのは間違いないとしながらも、CAVEやPowerwallがHMDで代替されていくとは考えておらず、むしろそれによって新しい形のCAVEやPowerwallが生まれ、プロフェッショナルVRは、HMD/CAVE/Powerwallという3つのレンジで考えるべきとの考えを示した。
ペティー氏は、VRの課題として「グラフィックス/ディスプレイ」、「オーディオ」、「タッチ」、「キャプチャ」4つを挙げた。
まずディスプレイについては、HTCなど各メーカーの努力により一部は解決済みと言って良いと述べたが、残る問題の1つは視野角の狭さで、現在では110度程度まで実現できているが、人間の視野角と同等までは至っていないという。そのほか、焦点深度や左右の目の距離の調整などが課題であるとした。
自然なVR体験には、広視野角、高解像度と高いフレームレートが必要となるが、HTC Viveの仕様でいえば、左右の目それぞれで90fps動作が必要となり、従来のデスクトップ環境と比較すると7倍の演算負荷になると説明。さらに、VR酔いを防ぐためには120fps程度が必要であるとした。
加えて、研究により頭を動かしてから20ms以上描画が遅延すると気分が悪くなるという結果が出ており、遅延の対策とピクセルスループットの高速化が必要とされるという。
VRのレンダリング時にはHMDのレンズに合わせ、映像は光学的に歪ませて伝送されるが、その際に生成されたものの実際には表示されなくなるピクセルが存在する。同氏は、NVIDIAではレンダリング時に端のエリアが歪むことをあらかじめ計算し、低解像度で描画するマルチ解像度シェーディング機能を備えるとアピールした。
また、従来は左右の目をそれぞれレンダリングしてからマージしているが、シングルパスステレオ機能により、Pascalでは同時に1回のドローパスで左右分の描画を行なえるという。
オーディオについては、音質だけでなく、音の方向や空間に合わせた残響音の再現などが必要とされると述べ、NVIDIAでは、光の反射をシミュレートするレイトレーシングを音にも適用した「VRWORKS Audio」をSDKとして用意しているとした。
タッチについては、物理演算により「何に触れているのか」というフィードバックに必要な要素をPhysX APIを通じて提供するとした。
ペティー氏は、「エンタープライズVRはゲームの世界ではない」と述べ、実際に使われている例として、6,700万ものポリゴンを使用し、エンジンのネジ1つまで再現された自動車のモデルや、シンガポールでの高層ビルを建設した場合の景観や交通量への影響などをVRで再現し、複数人で同じ空間へアクセスしてディスカッションを行なうといったユースケースを紹介。
そのほか、建築などで要求される、現実と瓜二つのフォトリアリスティックなモデルの再現には、NVIDIA IrayのVRソリューション「Iray VR」を紹介。プリレンダされたモデルのライトプローブと、HMDの視点に合わせた深度バッファのラスタライズからイメージを再構築することで、リアルタイムなフォトリアリスティックVRを実現するという。
ハードウェアの紹介では、HP/Dell/Lenovo/BOXXといったPCベンダーと協力し、VRプラットフォームを提供していると述べ、「VR Ready」認証について紹介。デスクトップだけでなくモバイルワークステーションでもVR Ready製品が登場しているとアピールしたほか、Pascal世代のQuadro GPUである「Quadro P6000/P5000」についても紹介を行なった。