笠原一輝のユビキタス情報局

インサイド VAIO Z



8月13日より販売開始されるVAIO Z、量販店モデルは25万円前後

 ソニーが13日より発売する「VAIO Z」シリーズは、従来筐体の内部に内蔵されていたdGPU(単体型GPU、NVIDIAやAMDなどが提供するPCI Express接続のGPU)を、LightPeakで外部接続する「Power Media Dock」(以下、メディアドック)に移動し、本体の薄型軽量化に成功。かつ、メディアドック接続時にはdGPUを利用した高い処理能力も利用でき、モバイル時の薄型軽量性と、会社や自宅に帰ってきたときの高性能という、相反する2つの使い方を実現しているところに大きな特徴がある。

 本レポートでは、そうしたVAIO Zの内部構造などについて、ソニーのエンジニアにインタビューした結果などを元に解説していきたい。実際に内部を開けてみて見えてきたことは、VAIO Zの内部アーキテクチャが他のノートPCには見られないほどユニークなモノであるということだ。

●リテール向けのモデルが25万円という価格設定は高いか安いか?

 VAIO Z(以下本製品)の内部構造について語る前に、まず最初に語っておくべきなのは、その価格についてだろう。メディアドック付きの量販店向けモデルが実売25万円前後という価格設定は、低価格化が著しいノートPCの世界では“ハイエンド中のハイエンド”と形容してもいい。例えば、13型液晶とCore i5、256GB SSDを搭載しているAppleのMacBook AirがAppleの直販価格で138,800円という価格設定であることを考えると、実に10万円近くも高い計算になる。ただしVAIO Zも、VAIOオーナーメードの最小構成ならば144,800円だ。

ソニー株式会社 コンスーマープロダクツ&サービスグループ VAIO&Mobile事業本部 企画戦略部門 企画1部 Product Portfolio Management課(PPM課) 金森伽野氏

 この点についてソニー株式会社 コンスーマープロダクツ&サービスグループ VAIO&Mobile事業本部 企画戦略部門 企画1部 Product Portfolio Management課(PPM課) 金森伽野氏は「我々がやりたかったことは、究極のモバイルをお客様に届けると言うこと。このため、最先端の技術を常に投入しており、その結果としてやや高めの価格設定になっているが、お客様のニーズに見合った機能を投入していけば、お客様に受け入れていただけるのではないかと考えている」と説明する。つまり、より尖った製品が欲しいユーザー向けに作ったのだからこそ、価格も尖ってしまったのだというのだ。

 これについては、さまざまな考え方があることは筆者も理解している。まず第一に言っておきたいのは、PCビジネスにおいて常に価格は王様だ。だから、PCを単にPCとしてしか見ていない人に、値段が倍だということを理解してもらうのが難しいことは否定できない。この点で本製品を万人に勧められる製品か、と言われれば、そうではないと言わざるを得ないだろう。

 だが、こう考えてみて欲しい、このVAIO Zは車でいうところのスポーツカーなのだと考えれば、この価格もありなのではないか。例えば、日産自動車にはフェアレディZとGT-Rという2つのスポーツカーのラインナップがある。このうち、GT-Rは非常に高い性能を持ち、欧米のスーパーカーにも匹敵するような超高性能車なのだが、値段は800万円前後と1,000万円を切る価格が高く評価されているのだ。それでも標準的なスポーツカーであるZの倍の値段設定だ。

 これをどう捉えるかだろう。GT-Rの性能で800万円は安いと考えるのか、それともZが2台分と考えるのか、あるいは普及価格帯の車であるマーチ8台分と考えるかは人それぞれだ。ただ、欲しいと思う人が居て、メーカーの損益分岐点を超えるぐらい売れ、ビジネスとして成り立っているのであれば、メーカーにとってもアリだし、ユーザーにとってもハイパフォーマンスなスーパーカーを量産スポーツカーの倍程度の価格で買うことができるのであれば、それは幸せなことではないかと思う。

●“他の製品と比較して唯一無二な存在になる”という設計思想

 筆者はVAIO Zも、まさにこの例に近いのでは無いかと考えている。確かに、VAIO ZはMacBook Airの2台分に近い価格であることは事実だ。しかし、MacBook Airやその他のモバイルノートPCにはない特徴を備えており、他のモバイルノートPCが全く追いつけていない部分がある。そこに価値を見出すユーザーにとっては、この製品を買うことで幸せになれる、そういう種類の製品ではないか、と。

ソニー株式会社 コンスーマープロダクツ&サービスグループ VAIO&Mobile事業本部 VAIO第1事業部 設計1部1課 プロジェクトリーダー 笠井貴光氏

 「今回のVAIO Zでは、他の製品に比較して唯一無二な存在になることが重要だと考えて設計した。他社はやらないような機能を積極的に搭載していきたいと考えた」(ソニー株式会社 コンスーマープロダクツ&サービスグループ VAIO&Mobile事業本部 VAIO第1事業部 設計1部1課 プロジェクトリーダー 笠井貴光氏)と、ソニーの開発陣もそこは重視して設計したようだ。

 では具体的にはどこが他社の製品と比べて“尖っている部分”なのか。笠井氏は大きく言うと以下の4点がポイントだと説明してくれた。

(1)dGPUがドック側に乗っているメディアドックのデザイン
(2)薄型のボディに通常電圧版の第2世代Coreプロセッサーを搭載したこと
(3)13.1型のノートPCでおそらく世界で唯一フルHD液晶を搭載可能であること
(4)RAID 0構成のSSDである“第3世代SSD RAID”を採用していること

 今回のVAIO Zの設計のキモは、dGPUと光学ドライブをメディアドックと呼ばれるドッキングステーション側に搭載したことだ。従来のVAIO Z(VPCZ1x、Z1シリーズ)では、dGPUは本体側に内蔵されており、スイッチを利用して切り換える仕様になっていた。このデザインのメリットは必要に応じて低消費電力なiGPU(CPU内蔵のIntel HD Graphics 3000)と、高消費電力だが強力な処理能力を持つdGPUをシーンに応じて切り換え可能なことだ。

 しかし、そうしたGPU切替技術には熱設計の観点で課題もある。というのも、熱設計を行なう段階で、CPU+チップセットに加えて、GPUの分の熱も計算に入れなければならないため、どうしても本体を厚くするなどして対処しなければならないからだ。しかも、最近のGPU切替技術は、iGPUとdGPUを切り換えるだけでなく、iGPUとdGPUが同時に動くシーンがある(iGPU、dGPUにそれぞれ2つのディスプレイをつないで4ディスプレイで使うシーンなど)。このため、両方のGPUが動いていることを前提に設計のマージンを見る必要がある。つまり、放熱機構を強化しない限り、難しいと言うことになる。AMDやNVIDIAが提供するGPU切替技術をそのまま利用すると、現状よりも薄くするのはかなり難しい。

 そうした現状の中、本製品のようなデザインを採用すると、本体側の熱設計は図1のようになる。

【図1】旧世代のスイッチャブルグラフィックスと現世代のスイッチャブルグラフィックス、VAIO Zの熱設計消費電力(筆者作成)

 つまり、最も低い状態で熱設計が可能になり、iGPUのみのノートPCと同じレベルの熱設計でよくなる。dGPUはメディアドック側にあるので、メディアドック側で独自に熱設計を施すことで対応可能なのだ。かつ、本製品ではZ1シリーズで本体側にあった光学ドライブもメディアドック側に移動しており、その点でも薄型化に大きく寄与している。

 つまり、このデザインは薄型かつハイパフォーマンスの両方を実現する上で最も理にかなったデザインだと言っていいだろう。

●IntelのLightPeakのデザインにより、dGPUを外付けに

 理想のデザインと言ったが、ではそれをどう具体的に実現するのかの道筋をつけなければ、単なる絵に描いた餅になる。というのも、dGPUを外部のボックスに移すというアイディア自体は古くからあるのだが、これまでほとんど普及した例はなかった。というのも、PCI Expressのバスをケーブルで通そうと考えれば、コネクタ自体が大きく、モバイルPCには向かないソリューションになってしまっているからだ。

 そこで本製品の開発チームが選んだのが、Intelが開発したLightPeak(ライトピーク、開発コードネーム)だ。LightPeakは、2009年のIDF FallにおいてIntelが発表した技術で、光ファイバーケーブルを利用して高速なデータのやりとりが可能だ。このLightPeakは、3月にIntelとAppleが共同で発表したThunderboltのベースになっているが、ThunderboltとLightPeakでは以下のような点が異なっている。

【表1】LightPeak(オリジナル)とThunderboltの違い(筆者作成)
  LightPeak(オリジナルプラン) Thunderbolt
ケーブル 光ファイバー 光ファイバー/銅線
コネクタ USBを共用 Mini DisplayPortを共用

 元々のIntelの計画では、LightPeakはコネクタはUSB、ケーブルは光ファイバーのみとなる計画だった。本製品に採用されているソリューションがまさにこれだ。しかし、IntelでThunderboltのマーケティングを担当するジェーソン・ジラー氏は「OEMメーカーなどのニーズを聞いた結果、Mini DisplayPortのコネクタに変更し、銅線の規格も追加した」と説明するなど、明らかにオリジナルのプランに追加されている部分がある。このOEMメーカーがどこを意味するかはジラー氏は何も言わなかったが、Thunderboltの立ち上げパートナーがAppleであることを見れば、それがAppleであることは明白だろう。

 元々は同じLightPeakであるのに、ThunderboltではなくオリジナルのLightPeakの仕様を採用した理由について笠井氏は「光ファイバーの規格は、現時点、業界標準として確立されていない。故にVAIOとしては、使い勝手と機能面の両立という観点から元々の仕様を採用した」とだけ述べた。

 事実としてあるのは、LightPeakの概要が発表された2009年のIDF Fallで、LightPeakに対しての賛同メッセージを出した唯一のOEMメーカーはソニーだった(IDFレポート記事参照)ということだ。この段階でソニーがLightPeakに対して賛同のコメントを出しているということは、この段階ですでにIntelからの説明があり、将来的に採用する計画があるか、少なくともリサーチは始めていたということになるのではないだろうか。笠井氏も「確かに2009年のIDFの前後に説明があり、その時からIntelとやりとりを始めて将来製品への採用を検討してきた」と、ソニーとしてはかなり早い段階からLightPeakに取り組んでいたことを認めている。

2010年7月にIntelが報道関係者に公開したLightPeakの試作品。この時点では今回のVAIO Zに採用されたUSBコネクタと光ケーブルによる構成になっていた(2010年、Intel本社にて撮影) 2009年のIDFにおいて、ソニーはいち早くLightPeakを支持するコメントを出していた。

●壊れやすい光ファイバーをどうやって量産品に載せるかの試行錯誤

 重要なことは、光ファイバーを民生用PCの汎用インターフェイスとして、おそらく世界で初めて採用したことだ。というのも、光ファイバーは、非常に折れやすい素材のため、ノートPCのように持ち運ぶことを前提にした製品に採用された例はないからだ。

 今回のVAIO Zではメディアドックとの接続のケーブルの中を、光ファイバー、電源線という2つの線が通っており、それをビニールで包み込むという形状になっている。電源線に関しては、ACアダプタの線などと一緒であるため問題ないが、光ファイバーの方はある角度以上に曲げるとポキッと折れてしまうのだ。「正直最初は何度も折れた。そのうちにケーブルの極性や曲げ角度などを調節することができるようになり、最終的には折れないようなケーブルに仕上げることができた」(笠井氏)と、試行錯誤を繰り返した結果、曲げても大丈夫なケーブルが完成したのだという。笠井氏によれば、ある程度手荒に扱われても大丈夫なように設計してあるとのことで、ACアダプタのケーブルのように折り曲げられてまとめられても大丈夫な設計になっているということだ(もちろん大事に扱った方がいいのは言うまでも無いが)。

 メディアドックにとってもう1つのチャレンジだったのは、工場で組み立ての時の扱いも課題だったという。「ケーブルになっている部分は保護されているのでよいが、組み立てるときには剥き出しの光ファイバーがあり、組み立て作業者の部品の扱いにも注意を払ってもらっている。部品レベルでの管理も重要になる。具体的には検査工程で、何重もの通信品質の検査に加えて、光学顕微鏡でのチェックを入れるなど多くのステップを踏んでいる」(笠井氏)とし、実に多くの課題があったのだという。

 そうした時に役立ったのが工場との近さだったと笠井氏は説明する。「ファイバーの取り回しを量産でやることには当初不安があった。正直に言って外部に委託する工場では恐くてやれなかったが、自社の工場であるならばそうした細かな指示を出してもきっちりと対応してくれる組み立て作業者が揃っており、最終的にいけると決断した」と、ソニーの自社工場(ソニーイーエムシーエス 長野テクノロジーサイト)で製造しているからこそ、こうした新しい技術へも取り組めるのだということを強調した。

メディアドックのケーブルには折れやすい光ファイバーが入っているが、このようにある程度曲げても問題が発生しないように設計されている 本体側のLightPeakコントローラを搭載したサブ基板 LightPeakのケーブルと光を銅線に変換する変換モジュール。モジュールの先に見えるのがファイバーで、簡単に折れてしまうので取り扱いが注意

 このように数々の課題を乗り越えてでもLightPeak、特に光ファイバーの量産化に取り組んだことは、今後のVAIO開発にとって大きな財産になる可能性があると筆者は思う。本来のLightPeakの理想は、銅線の伝送速度の限界が来ると考えられていたため、光ファイバーに換えることでより高い伝送速度を実現するということにあったはずだ。確かに銅線の技術も進化しているため、ThunderboltでIntelとAppleが見せたように光ファイバーと同じ10Gbpsを実現することができている。しかし、今後より高い伝送速度を実現しようとすると、どこかのタイミングで銅線を諦めて光ファイバーに完全に移行する時が来るはずだ。

 その時になれば「光ファイバーに積極的に取り組むことでその技術が蓄積されていくメリットがある」(笠井氏)との言葉の通りで、先行して投資しておいたことが必ず将来のVAIOに活かされるだろう。

●LightPeakのコントローラを2つ内蔵、1つはGPU、もう1つはUSBなどを接続

 そのメディアドックだが、中を開けてみると実にユニークな設計であることがわかった。まず、一般的なドッキングステーションと異なるのは、各種ポートのリプリケータ機能はなく、ドック側の機能(dGPU、USB、SATA、Ethernet)はすべて、ドック側にコントローラICが実装されていることだ。

 ソニー株式会社 ネットワークプロダクツ&サービスグループ VAIO事業本部第1事業部設計1部 1課 片瀬泰幸氏によれば「コントローラは本体側に1つ、メディアドック側に2つという構成になっている」になっているのだという。実際、メディアドックの基板を見ると、LightPeakのコントローラが2つ搭載されている事がわかる。こうした構成になっているのは、LightPeakのコントローラのPCI Expressのレーンが4レーンまでとなっているからだという。どのように接続されているかは非公開ということだったが、筆者がデバイスマネージャで確認した結果を見る限り、以下のように推測できる。

【図2】VAIO ZにおけるLightPeakの構成(筆者作成)

 メディアドックにはdGPUの他に、USB 3.0コントローラ、Ethernetコントローラ、SATAコントローラという3つのコントローラが搭載されている。それぞれ接続するのにPCI Express x1が必要になるが、これだけで少なくとも3レーンが必要になる。仮にLightPeakのコントローラが1つだけでここにdGPUを接続すると、GPUはPCI Express x1で接続されることになり、性能的に十分かと言えばそうは言えないだろう。そこで、LightPeakのコントローラを2つ搭載したということなのだろう(LightPeakはコントローラをデイジーチェーン接続できる)。なお、LightPeakのピーク時帯域幅が10Gbpsになるので、それにあわせてdGPUもPCI Express x4(Gen1)で接続され、ちょうどLightPeakの帯域幅を活用できるような仕様になっている。

 ユーザーにとって気になるのは、dGPUがPCI Express x4(10Gbps)接続しているのが十分な帯域幅がどうかという点だろう。この点については「確かにx16接続している場合に比べれば性能が落ちるのは否定できないが、多くのアプリケーションでは問題の無い性能を発揮できる」(笠井氏)という。

 dGPUがPCI Express x16で接続されているのは、必要だからこそx16であって、それがx4に制限されるとなれば、性能低下があることは否定できないだろう。例えば、いわゆるGPUコンピューティングのようなアプリケーションで、メインメモリから大量のデータを取ってくるような処理をさせる場合、その間GPUはストールすることになるので性能に影響がでる可能性が高い。ただし、コンシューマのGPUコンピューティングのメイン用途であるエンコードやトランスコードの場合は、CPUに内蔵されているIntel HD Graphics 3000のハードウェアエンコーダを利用した方が高速である場合が多いので、それほど気にするような問題ではないだろうと言えるのではないだろうか。

 また、3Dゲームの場合には、PCI Expressの帯域よりは、ビデオメモリの帯域が描画性能に大きく影響することになるので、性能低下がないとは言えないが、影響はさほど大きくないと言えるだろう。

ソニー株式会社 ネットワークプロダクツ&サービスグループ VAIO事業本部第1事業部設計1部 1課 片瀬泰幸氏 メディアドックの蓋を開けたところ メディアドックの基板を取り出したところ。なおメディアドックの基板は10層基板
メディアドックのヒートシンクを外したところ。左側に見えるテープで覆われているチップがGPU、中央に2つ並んでいるチップがLightPeakのコントローラ2つ このようにLightPeakのコントローラは2つ搭載されている メディアドック側基板の裏側。SATA、USBコントローラ、ビデオメモリなどが実装されている
メディアドック側基板とメディアドック用のヒートシンク Windowsのデバイスマネージャで確認できる、メディアドック上のデバイス接続

●メディアドックの取り付け、切り離しにはAMDのATI XGP Technologyを利用

 前世代のVAIO Z(Z1シリーズ)では、dGPUとしてNVIDIAのGeForce GT 330が採用されていたが、本製品ではdGPUにAMD Radeon HD 6650Mが採用されている。前世代、さらにはMontevinaプラットフォームの前々世代でもNVIDIAのGPUだったのに、今回AMDになったというのはどのあたりが影響しているのだろうか?

 これについてソニー株式会社 コンスーマープロダクツ&サービスグループ VAIO&Mobile事業本部 VAIO第1事業部 設計1部 1課 統括課長 井口昭氏は「弊社としては各社の提供する製品の中からその時々にコストと性能に優れたものを採用している」と説明する。このあたりは、半導体メーカーとの関係にも配慮をしなければいけないPCベンダーとしては歯切れが悪くなることは致し方ないところだが、今の世代のVAIOではdGPUにAMDが採用されている例が多く、実際兄弟機と言ってもよいVAIO Sに関してもAMDのGPUが採用されている。半導体の購買は、数が多ければ多いほど購入時の価格も下がることになるため、そうしたことをトータルで考えてAMDになったと考えるのが正しいのかもしれない。

ソニー株式会社 コンスーマープロダクツ&サービスグループ VAIO&Mobile事業本部 VAIO第1事業部 設計1部 1課 統括課長 井口昭氏 AMDのCatalyst Control Centerでは、PCI Express Gen2 x4と表示されるが、実際にはPCI Express Gen1 x4であるという GPU-Zを利用したRadeon HD 6650Mの詳細情報

 なお、今回のメディアドックの取り付け、切り離しのソリューションには、AMDのATI XGP Technologyが利用されている。ATI XGP Technologyは、AMDが用意するGPUを外付けボックスにしてノートPCに接続するソリューションで、GPU標準の仕組みとしてGPUをPCI Express上でホットドック/アンドック(通電したまま接続、切り離し)ができるようになっている。今回のVAIO Zではこの機能を利用して、ドッキングケーブル上に用意されているボタンを押すことで、通電中であってもメディアドックを取り外すことが可能だ。また、dGPUのフレームバッファの内容を、iGPUのフレームバッファにコピーして出力することができる機能も用意されており、それを利用することでメディアドック側にあるdGPUを利用して本体側の液晶ディスプレイの描画をdGPUで行なうことも可能になっている。

●非常に高速な起動やハイバネーションからの復帰、BIOSなどにも手を入れる

 筆者が本製品を触って最も感心したことは、その起動時間の短さだ。以下の動画は本製品のCTOモデル(Core i7-2620M、8GB、256GB SSD)で、起動と終了、ハイバネーションおよびハイバネーションからの復帰を実行した様子を撮影し、手元のストップウォッチで計測した結果だ。

【動画】Windows起動 【動画】Windows終了
デスクトップ表示まで 約15秒
Windowsの起動 21.97秒
Windowsの終了 14.41秒
(筆者手元計測)
【動画】ハイバネーション 【動画】ハイバネーション復帰
ハイバネーション 21.42秒
ハイバネーションからの復帰 16.91秒
(筆者手元計測)

 結果は、起動とハイバネーションが21秒台、終了が14秒台、復帰が17秒弱と非常に高速だ。特に筆者が感動したのは、ハイバネーションからの復帰が非常に速いことだ。ハイバネーションは、メモリの内容をすべてストレージに書き出して、システムを完全オフに近い状態にするもので、メモリなどには通電したままのサスペンドに比べ、待機時の電力を圧倒的に低くすることができる。一方で、最近のPCのように大容量のメモリが搭載されている場合、ストレージからメモリにデータを書き戻す時間がかかるので、PCによっては非常に時間がかかる。しかし、それが20秒かからず使える状態になってしまうのだから、非常に驚きだ。

ソニー株式会社 ネットワークプロダクツ&サービスグループ VAIO&Mobile事業本部 VAIO第1事業部 設計1部1課 ソフトウェアプロジェクトリーダー 藤井康隆氏

 これについてソニー株式会社 ネットワークプロダクツ&サービスグループ VAIO&Mobile事業本部 VAIO第1事業部 設計1部1課 ソフトウェアプロジェクトリーダーの藤井康隆氏は「起動時間の短縮は今回のモデルの中で最も重要視して取り組んだうちの1つだ。Sシリーズで取り組んできた工夫をさらに発展させた。具体的にはBIOSのPOSTにかかる時間を短縮し、Windowsの起動に関しても工夫を加えた」と説明する。

 これに関しては若干の説明が必要だろう。基本的にはPCの起動は下図のような順番でOSが立ち上がる仕組みになっている。

【図3】Windowsの起動の仕組み(筆者作成)

 ユーザーが電源ボタンを押すと、BIOSと呼ばれるソフトウェアがまず起動される。このBIOSは起動時に、自分がどのようなハードウェアを持っているのかをチェックし、簡単なテストを行なう仕組みであるPOST(Power On Self Test)を実行する。一般的なPCではこのPOSTに10秒〜20秒程度の時間がかかるため、ユーザーが遅いと感じる原因になる。従ってここをどのように高速化するかが、PCの起動時間を短くするためのポイントになる。

 藤井氏によれば「前モデル(Z1シリーズ)では10秒近くの時間がかかっていたのに対して、今回はPOSTだけで4秒に短縮している。さらに、VAIO機能設定で起動時にロゴを出さない設定にすれば3秒台で終わるように設計している」とPOSTにかかる時間を大幅に改善することで、ユーザーが起動が速いと実感できるようにしているのだという。このPOSTにかかる時間の短縮は非常に地道な作業だったそうで「シリアルポートで出力できる機器を利用して、POSTで時間のかかっている部分を1つ1つ削り取っていった」(藤井氏)と、何か1つというよりは、全体でちょっとずつ削っていくことで、3秒台という驚くほど高速なPOST時間を実現したのだという。

 さらに、Windowsの起動時にも工夫が施されている。藤井氏によれば「例えばデバイスドライバのロードでも、ドライバが初期化して応答が返ってくるまでの時間が長いモノが中にはあった。それらをベンダーになぜ時間がかかっているのかと問い合わせ、修正できる場合は修正してもらった」とこちらもやはり地道な作業で起動時間の短縮を実現しているのだという。

 ただ、本製品の場合は基本的にはプリロードイメージレベルでの短縮にフォーカスが置かれており、ユーザーがカスタマイズしたあとでの最適化ということには重きは置かれていない。これについては「起動時間に最も効いてくるのはデバイスドライバ。ユーザーがカスタマイズした後、起動が遅くなる要因はレジストリの肥大化などだが、ストレージが高速であれば影響は小さい」(藤井氏)とのことなので、ユーザーはスタートアップで起動するアプリケーションをできるだけ減らすなどユーザーレベルでできることだけを気にすればいいということだろう。

●SATA 6Gbps対応コントローラを2つ内蔵している第3世代SSD RAID
中央やや左上にあるのが第3世代SSD RAID。新たにSATA 6Gbpsをサポートし、より高速化されている

 その気になるストレージだが、本製品はすべてのモデルでSSDを採用している。かつ、単なるSSDではなく、1枚のカードでSSDコントローラを2つ搭載し、PCからは2つのSSDがあるようなカスタマイズされたモジュールを採用しており、それをチップセットのRAID機能でRAID 0(ストライピング)構成にしているのだ。

 なお、ソニーでは本製品に採用されているSSDを第3世代SSD RAIDと呼んでいるのだが、この“第3世代”という定義はなんなのだろうか? 笠井氏によれば、「CalpellaプラットフォームのVAIO Z(VPCZ1)に搭載されたクアッドSSDが可能な構成が第1世代、そして今回のVAIO Z(VPCZ2)店頭モデルに搭載された構成が第2世代、今回のVAIO ZのCTOモデルから搭載された構成が第3世代になる」と説明する。

【表2】VAIOのSSD RAIDの世代
  第1世代SSD RAID 第2世代SSD RAID 第3世代SSD RAID
コントローラ数/モジュール 2 2 2
デュアル時利用モジュール 1 1 1
クアッド時利用モジュール 2 - -
インターフェイス SATA 3Gbps SATA 3Gbps SATA 6Gbps
コントローラ 第1世代用 第2世代用 第3世代用

 ユーザーとして気になるのは、第2世代と第3世代で何が違うのかということではないだろうか? 実は第3世代になって削られた機能もある。それがCTOで選ぶことができたクアッドSSD構成が、第3世代では用意されていないことだ。すでに述べたようにVAIO Zでは1つのモジュール上に2つのSSDコントローラが搭載された特注品を利用しているのだが、前世代のVAIO Z(VPCZ1x)では2枚のモジュールを利用することで2×2で4つのコントローラを利用したらRAID 0構成を取ることが可能になっていた。しかし、本製品ではそれが削られている。

 この点について笠井氏は「第3世代SSDではコントローラが新しくなり6GbpsのSATAに標準で対応しているなどの機能強化、性能向上が実現されている。IntelのHuron Riverプラットフォームでは6GbpsのSATAポートは2つまでしか用意されておらず、仮にクアッドSSDにする場合には3GbpsのSATAに接続しなければならなくなり、せっかくの6Gbpsの機能を活かすことができない。実際にベンチマークで計測してみると、第3世代SSD RAIDはデュアルでも第2世代SSDのクアッドと同等の性能を実現しており、デュアルでも圧倒的な性能の実現と薄型化の両立が可能だと判断した」と説明した。なお、第3世代SSD RAIDと第2世代SSD RAIDのモジュールの違いは、性能向上のためにコントローラが6Gbpsになっていることだけでなく、フラッシュメモリ自体のプロセスルールも32nmから27nmへと微細化されているとのことだ。

 クアッドでなくなって残念という向きもあると思うが、筆者はこれはこれでよいのではないかと思っている。というのも、コスト面ではモジュールが2枚になるクアッドよりも、モジュールが1枚で済むデュアルの方が圧倒的に安くつくからだ。実際、前世代のVAIO Z(VPCZ1x)ではSSDの構成を128GB(64GBx2)から512GB(128GB×4)の構成に変更すると9万円近いアップになっていたが、今回は128GB(64GB×2)から512GB(256GB×2)にしても6万円程度のアップで済んでいる(価格は原稿執筆時点でのソニーストアでの調査)。それでクアッドに近い性能がでるのであれば、ユーザーにしても歓迎していいことなのではないだろうか。

●ハイパフォーマンスを重視したからこそ標準電圧版CPUを採用

 第3世代SSD RAIDと共に、本製品の“ハイパフォーマンスなモバイル”として特徴付ける部分になるのが、超低電圧版(ULV)ではなく標準電圧版(SV)の第2世代Coreプロセッサー・ファミリーを搭載しながら、16.65mmという薄型のボディを実現していることだろう。

 具体的にどういうことかと言えば、PC向けのCPUには熱設計消費電力(Thermal Design Power、TDP)と呼ばれるスペックが設定されている。このTDPとは、CPUがピーク時に消費する消費電力の値で、電力に比例してCPUの発生する熱は増えていくので、PCメーカーはCPUにこのTDPの電力が発生している状態でも安定して動作するようにPCの熱設計をする必要がある。現在のIntelのノートPC向けCPU(第2世代Coreプロセッサー・ファミリー)には5つのTDPの枠が設定されている

(1)エクストリームクアッドコア(55W)
(2)クアッドコア(45W)
(3)デュアルコア・標準電圧版(35W)
(4)デュアルコア・低電圧版(25W)
(5)デュアルコア・超低電圧版(17W)

 現在の薄型ノートPCの多くはこのうち超低電圧版(17W、以下ULV版)のプロセッサを採用している。COMPUTEX TAIPEIで明らかにされたUltrabook構想に準拠した薄型ノートPCや、現行Macbook AirはいずれもULV版を採用した製品になる。これに対して本製品ではTDPでその倍のデュアルコア・標準電圧版(以下SV版)が採用されている。ULV版が1GHz台であるのに対して、SV版は2GHz台になるため、性能面で有利なのが特徴と言える。

 ULVではなく、SV版を選んだ理由について笠井氏は「何よりもパフォーマンスを重視した。また、以前のプロセッサであればULV版とSV版ではバッテリ駆動時間に差があったのだが、今の世代ではほとんど差が無い。これもSV版を選択した理由の1つだ」と説明する。

 誤解があるといけないので解説しておくと、TDPが高いCPUはバッテリが持たないのかと言えば、実際にはそうではない。もし仮に、エンコードのようなずっとCPUの処理能力が100%に達するような処理をやらせれば差は出るが、実際の環境ではCPUは常に負荷がかかっているわけでなく、多くの時間はアイドルと呼ばれる待機状態にある(実際の消費電力は、ピーク時電力×時間+アイドル時×時間なのだ)。アイドル時の消費電力はSVでもULVでも差が小さいため、トータルで見ればSV版とULV版のバッテリ駆動時間に与える影響は小さいのだ。

 このため、笠井氏の言うように、バッテリ駆動時間の観点からはSV版でもULV版でも差が無いのだから、性能が高いSV版を選ぶというのは理にかなっている。

本体の裏蓋を外したところ 放熱機構がついた状態のマザーボード(表)
VAIO Xと同じように基板の片面だけにICが実装されている片面実装基板になっている 本体を構成する全部品

●薄く小さくなったのに、風量は従来モデルよりも確保した放熱機構

 “理にかなっている”と述べたが、それには1つだけ条件がある、それはSV版の35Wを確実に放熱できるような熱設計のソリューションがあれば、の話だ。なぜほかのモバイルノートPCがULV版を採用しているのかと言えば、それは薄型の筐体では熱設計が難しいからだ。あるいは可能であっても設計や製造にコストがかかってしまい、民生用のノートPCとしては売れないような価格になってしまうのだ。従って、コストと薄型、高性能、そうした相反するパズルをどのように解いていくかがメーカーとしての腕の見せ所になる。本製品でそれらを解決してSV版を採用しているということは、そこに何らかの“マジック”があるということだ。

 この“マジック”としてVAIO Zの開発チームが活用したのが、VAIO Xでも採用されていた片面実装基板、新設計の放熱機構、そしてそれらを可能にするシミュレーション技術だ。

 今回のVAIO Zの熱設計にあたり、新たな放熱機構の設計を行なった。ソニー株式会社 ネットワークプロダクツ&サービスグループ VAIO&Mobile事業本部 VAIO第1事業部 設計1部1課 大池新氏は「従来のVAIO Zと比較して厚さで4.5mm、体積で-27%を実現しているが、放熱のパフォーマンスという意味では従来製品と同じレベルを確保している」と説明する。大池氏によれば、本製品の放熱機構はヒートシンクに採用されているヒートパイプそのものも薄型化されているほか、ファンのブレードの形状を工夫し、さらに2つのファンの羽根をそれぞれ数が異なる素数にしてうなり音を押さえるなどの工夫を加えているという。さらに、キーボード自体や、キーボードの両脇に用意されている小さな吸気口から吸気し、筐体レベルで効率良く風を流す設計とした。それらの改善により、従来のVAIO Zとほぼ同等か、むしろ上回る風量を確保し、確実に放熱するようになっている。

ソニー株式会社 ネットワークプロダクツ&サービスグループ VAIO&Mobile事業本部 VAIO第1事業部 設計1部1課 大池新氏 放熱機構の設計思想について説明しているスライド。従来製品に比べて厚さで-4.5mm、体積で-27%を実現するために、デュアルファン構成にして、それぞれを素数の羽根数にしてうなり音を防止するなどの工夫を加えている(提供:ソニー) 排気だけでなく、吸気の方も改善することで、システム全体としての放熱性能を向上させている(提供:ソニー)
キーボードの両脇にも薄く広く吸気口が用意されている シミュレーションのデータを元に実機を作成し、それを利用して計測して、細かな改善をしていくことで、ファンの騒音を押さえる工夫がされている(提供:ソニー)

●7年前から取り組んでいるシミュレーション技術で設計完成度向上と開発期間短縮

 筐体が薄くなったのに放熱のパフォーマンスが上がっているということに大きく貢献したのが、VAIO開発チームがこれまで取り組んできたシミュレーション技術だ。シミュレーション技術とは、基板設計や放熱設計などにコンピューターを利用して行なう仮想設計技術で、基板の配線、反り、熱設計、筐体設計などのパラメータを入れながらコンピュータ上でさまざまな設計を行なうことができる。

 こういうと、じゃあ設計もコンピュータで完結するんじゃないかと思うかもしれないが、実際にはそうではない。コンピューター上で行なうシミュレーションを元に、実際に基板や放熱機構を起こしてみると、現実にはコンピュータでは起こりえなかったような問題が発生することが多々あるのだ。つまり、大事なことはシミュレーションの結果と、実際に作ってみた結果をすりあわせて、そのすりあわせをシミュレーションに常にフィードバックしてシミュレーションの精度を上げていかないと使い物にならないのだ。

 VAIOの開発チームはコンピュータ上で設計した基板やファンを実際に起こしてみて、それとコンピュータ上の違いを補正していくという。例えば、ファンの設計に関しては、コンピュータで起こしてみたままでは風の流れが乱れて騒音の元になっている部分が見つかり、それを修正することで現物では騒音の発生をさらに抑えることが可能になったのだという。

 笠井氏によれば「シミュレーションは有効だが、大事なことは現実とのすりあわせ。すでに我々はシミュレーションを使った設計を2004年頃から行なっており、設計者がシミュレーションでこうなれば現実はこうだろう、という当たりをつけられるようになってきている。それが大きな財産になっている」とのことで、ある程度までをシミュレーションで設計でき、それをエンジニアが調整し現物を起こして、その結果をさらにフィードバックするという循環ができあがっているという。笠井氏によれば、シミュレーションを利用しない場合よりもさまざまな設計が短期間でできるようになっているという。

●さまざまな課題を乗り越えて実現した35Wプロセッサでの片面実装基板

 シミュレーションは放熱設計だけでなく、基板設計にも利用されている。ソニー株式会社 ネットワークプロダクツ&サービスグループ VAIO&Mobile事業本部 VAIO第1事業部 設計1部1課 片瀬泰幸氏によれば、「基板設計にもシミュレーションを活用している。具体的には片面実装時のインピーダンスの改善や基板の反りのシミュレーションなどをコンピュータで行なっている」ということだった。

 一般的にはノートPCのマザーボードには、基板の両面にCPU、チップセット、各種コントローラ、メモリなどのチップを貼り付けるようになっている。しかし、その場合には、基板の両面に筐体からの衝撃を吸収するための余裕を見たスペースが必要になり筐体自体を薄くはできない。そこで、片面だけにチップを実装、裏側は配線のみの片面実装基板にして、筐体をより薄くすることを可能にした。

 この手法は、VAIO Xですでに利用されており、本製品はその2例目となるのだが、VAIO Xでできたからといって本製品でもできるかと言えばそう簡単な話ではなかったという。「VAIO Xの時に採用していたAtom Zと、VAIO Zで採用されている第2世代Coreプロセッサー・ファミリーでは電流の変動量が大きく違っており、簡単ではなかった」(笠井氏)との通り、CPUのTDPが5Wを切るようなAtom Zシリーズと、35WのCoreプロセッサ・ファミリーでは、難易度が全然違っていたのだという。

 実際、VAIO Xでの経験を元に前モデルの基板を片面実装で作ってみたところ、電気設計の仕様(具体的にはインピーダンス)がIntelが規定する仕様の範囲に収まらなくなってしまったのだという。また、通常基板というのは、裏にも、表にもチップを実装することで、反りが発生しないようになっているのだが、そのままの状態では圧力をかけると基板に張り付いているチップが取れたりというトラブルの元になってしまうのだという。我々が目にする基板というのは、平らなように見えるが、実際には若干反っているものなのだ。それに関しても何らかの対策が必要になると予測していたという。

 片瀬氏によればインピーダンスの問題はビアと呼ばれる基板の穴の作り方に工夫を凝らしたり、反りに関しては前述のシミュレーションを最大限活用し、例えば、最初は別の場所にあったチップセット(PCH)の場所を変えるなどをやってみた結果、より反りを減らすことが可能になったりしたのだという。また「基板の表面にある銅の量を減らしたり増やしたりしながらバランスを取るなどの工夫も凝らしている。それでも従来のVAIO Zでは10層基板を採用していたのに、今回は8層基板にすることに成功しており、約10gぐらいの軽量化に成功している」(笠井氏)と地道な基板設計を行なった結果が、約1,150gという軽量化の実現にもつながっているのだろう。

 なお、この片面基板のマザーボード、VAIO Xの時もそうであったように、キーボードの真裏に部品が実装されていない側を表にして本体に固定する形状になっている。つまり、マザーボードを筐体の裏面に固定する形になっているほか、マザーボードとハーネス(ケーブル)類を接続するコネクタが組み立て作業者からは見えない向きにあり、組み立ての難易度は非常に高い。

 これを本体が傷つかないように組み立てなければならないため、工場では本体を斜めに設置する特殊な工具を自製し、そこに本製品を組み付ける形でマザーボードのネジ止めを行なっているという。こうした行程を外部に製造を委託した場合には断られるのがほとんどだそうだが、自社工場ということで、工場側の協力もありこうしたデザインが実現したのだという。

 現在のVAIO製品ではほとんど唯一の安曇野産となっているVAIO Zだが、こういうところにも自社工場で製造していることの大きなメリットと言えるだろう。

工場でのVAIO Zの組み立ての様子。この工程では、マザーボードをハーネス類と一緒に筐体に取り付けるのだが、ネジ穴が斜めに切ってあるため、ネジ止めが非常に難しい。そこで、専用の台を自製し、それを利用することでこうした工程の割には容易に作業ができるように工夫している 当初シミュレーションで落下衝撃にどれだけ耐えられるかをテストしたところ、クリアできないことがわかった。そこでPCH(チップセット)の場所を移動することで、落下などの衝撃でもICがはがれないようになることを確認した(出典:ソニー) 電気の流れは水の流れのようなもの。うまく流れないと電圧の降下などが発生して正しく動作しない。そうしたこともシミュレーションで確認して、パターンを改善することで、電圧をきちんと稼働領域にもっていけることを確認することができた(出典:ソニー)

●追加のコストを払っても高性能モバイルが欲しいユーザーにこそお奨め

 以上のように、新しいVAIO Zは、モバイルとハイパフォーマンス、使い勝手の3つがそろっている点は大きく評価していいだろう。

 さて、では本製品は25万円だして買うだけの価値があるかどうかだが、筆者はその内部構造などを詳しく見てきた結論として、むしろその価格よりは安いのではないかと感じている。つまり、これだけの突き詰めた設計を、ワンオフの特注品ではなく、大量生産向けの製品で実現できていることは賞賛に値すると思う。

 おそらく本誌の読者の多くはそうだと思うが、せっかくPCを使うなら、いつでもどこでも快適に使いたいと思っているユーザーは少なくないだろう。そうした、本当にハイパフォーマンスで、バッテリが持ち、薄型軽量なモバイル性が高いノートPCを、多少の追加コストを払ってでも欲しいという“違いがわかる”ユーザーにこそ、本製品をお奨めして、この記事のまとめとしたい。

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(2011年 8月 12日)

[Text by 笠原 一輝]