iPad 2とSony Tablet、タブレットに関する2つの話題



 ゴールデンウィーク直前の今週、「Pad 2」が日本で発売されることは、業界内では暗黙の了解となっていたが、ここに「Sony Tablet」が絡んでくることを予想していた人はほとんどいなかっただろう。Sony Tabletの発表は、日本向けではなくワールドワイドに向けたものだった。最近のソニーとしては、やや珍しいパターンだろう。Sony Tabletの戦略は、今年1月のCESで発表されたクラウドを活用して新たなデジタルエンターテイメントの世界を築くという路線に沿ったものだが、実際に製品を見て担当エグゼクティブの話を聞いてみると、そこには新鮮な驚きもある。

 すでに両製品とも、公開されている範囲では多くの情報が出ているので、ここではいくつかのポイントをかいつまんで、両製品について話を進めたい。もっとも、方やすでに米国では販売されていた製品、方や今年の秋に出る将来のモデル。それぞれ異なる視点で書いた。

●過度の期待は禁物。しかし確実に良くなったiPad 2

 まずiPad 2だが、すでに発売後、各所で絶賛されている。CPUはデュアルコアになり、GPUも大幅に性能向上……と、これらは発表時のコラムにすでに書いた通りだ。では実物はどうか。誤解を恐れずに言うならば、現状のソフトウェア環境において、iPad 2の速度面でのアドバンテージはさほど大きくはない。CPUはApple A4からA5への進化となるわけだが、コア数が2倍になったものの、単一コアあたりの速度はほぼ同程度と言われている。過度の期待は禁物だ。

iPad 2

 A5の気持ち良い速度を感じられるのは、ブラウザのページレンダリング速度や入力言語の切り替えなど、今のところはごく一部。もちろん、レスポンスよくシャキシャキと動くので気持ち良いが、両者の速度を積極的に比較をしない限り、iPad 2がすごく速いと感じる事はないと思う。

 iOSデバイスの観点から言えば、iPhone 3GとiPhone 3GSの差よりも、新旧iPadの間にある差は、“現時点では”小さいと思う。ただし将来も見据えれば、徐々にiPad 2の方が有利にはなっていくだろう。ブラウザのSafariが高速に動くように、デュアルコアを活かせるアプリケーションが増えれば、A4とA5のパフォーマンス差は広がっていくと考えられるからだ。一部に高速性を活かせるソフトウェアがあるとはいえ、“近い将来への投資”と考えるのがいい。

 使いやすさの面では、圧倒的にiPad 2の方が優れている。初代iPadでの経験をきちんと活かしてきている。背面が膨らんだ形状を廃止し、同じ厚みで統一された筐体は、パッと見の造形は初代機の方が高級感を感じるかもしれない。だが、15%軽量化され30%薄くなったボディは、圧倒的に持ちやすい。

 日本では通称「風呂の蓋」と言われるスマートカバーの機能として紹介されている、自動スリープ、復帰機能などを含め、確実に使いやすさは増している。iPadに対してiPad 2の性能が突き抜けているかと言えば、私はそうは思わない。しかしながら、持ち歩く道具として検討すべきかという点について、私個人の見解としては、以前はノーだったが、イエスと答えたい。

 ところで米国のWi-Fi+3G版を入手し、個人的に感じた事を以下にいくつか書いておきたい。

・3G版は実質負担が少ないソフトバンクモバイルの定額契約に目が行きがち。しかし、端末代金が高く見えてもプリペイドの方がお薦めだ。ソフトバンクモバイルのiPad専用契約は4,410円で1GB。月額固定と同金額と思うと高く感じるかもしれないが、バイト単価は日本の3G料金としては圧倒的に安い。縛りがない事を考えると個人的には悪くないと思う。自宅や勤務先、あるいは友人宅などで積極的に無線LANを使えるなら、1GBの通信容量で1カ月の通信量はカバーできる人が多いだろう。

・3G版を検討する場合、携帯電話とは用途が違うことも意識した方がいい。携帯電話はエリア外の頻度や、エリア内なのに混雑で接続できない事があるととても困るが、iPadはそこまでの常時接続性は必要ではない。私自身はb-mobile FairでNTTドコモの回線を普段用いているが、iPhone 4用のSIMカードを転用して使ったが、携帯電話として使っているときほどネットワークによる違いは感じなかった。

・価格は高いが一括払いのプリペイドで使う予算があるなら、Wi-Fi版よりWi-Fi+3G版がお薦め。軽量で持ちやすく、薄くなったため、以前よりも出先で使う端末としての能力は上がっている。もちろん、自宅内で使うだけと割り切るなら3Gは不要。

・カバーガラスは初代モデルより、やや指紋が付きにくくなっている模様。実は初代モデルに対する改善点としてもっとも気に入った点。ただし、指紋を完全に弾くわけではなく、拭き取りやすいという程度。

・HDMI出力ケーブルを求める人も多いようだ。iPad 2では一部のアプリケーションが出力する映像だけではなく、画面全体が外部ディスプレイに接続できる。しかし目的が映像やプレゼンテーションを見るだけならば、Apple TVを購入する方が楽しめるのでは。アダプタを購入し、さらにある程度長尺のケーブルも買って手元でiPad 2を操作すると考えると、どんどんApple TVの金額に近付いていく。

・スマートカバーは良くできているが、角度調整は、2種類しかできない。片方は立ちすぎてテーブルの上では使いづらく、もう片方は寝過ぎていて天井の照明が映り込みやすい。連休明けには角度調整豊富で、かつスマートカバーと同様の自動スリープ機能対応のサードパーティ製アクセサリも揃ってくるので、買うなら低価格な方がお薦め。

・これまで存在しなかった白ベゼルが人気。しかし携帯電話よりもずっとサイズが大きくベゼル面積も広いため白い部分はかなり目立つ。それに映像作品を見る事もある、などを考慮すると、黒の方が画面が見やすい印象だった。パッと見の印象も大切だが、長く使うことも考えて冷静に選んだ方が良い。

●Sony Tabletで再定義するソニーのホームエンターテイメント
Sony Tablet S1(左)とS2(右)

 一方のSony Tabletは、今週発表され、iPad 2の発売に当てたのではと訝しむ声もあるようだが、今回の発表は日本だけでなくワールドワイドに向けての発表イベント。震災の影響でiPad 2の発売が遅れた事で、たまたま重なってしまったというのが真相のようだ。

 Sony Tabletは、昨年秋のIFAに始まり、1月のCESと続いた、一連のソニーによるデジタルエンターテイメントワールドの再構築に関する発表をひとまとめにする製品だ。OSとしてはAndroid 3.0を用いるが、重要なのは、その上に載せているレイヤーへとアクセスするアプリケーションやその先にあるサービスの方だ。

 発表直後にID登録情報へのクラッキング、情報流出が発覚してミソを付けてしまったが、ゲーム、音楽、映像といったデジタルエンターテイメントをクラウドの中に取り込み、サービスレイヤーと端末レイヤーを分離して、Appleのデジタルコンテンツ配信による囲い込みに対抗したいというのが、ソニーの最終的な目標であることは今後も変わらない。

 たとえばMusic Unlimitedでは、iTunesなどで購入した楽曲やCDからリッピングした曲のカタログを収集しておき、任意の端末からインターネット内のライブラリへのアクセスするといった使い方を提案している。

 「デジタル配信はもう古い。これからはクラウド。ゲームも含め、ネットワークとハードウェアとソフトウェアをシームレスにつないでいく時代だ」というわけだ。この考え方自体は正しい方向だ。

 余談だがそれだけに、コンテンツのクラウド化を進める上でもっとも重要な、膨大な数のユーザーID流出事件はソニーにとって痛手であった。オンラインエンターテイメントを楽しむアクティブなユーザーアカウントのデータは、ソニー最大の強みだったからだ。クラウド化において、ホスティングする側への信頼感は何にも代え難い必要条件だ。今後のセキュリティ対策に関して詳細な声明が出されるだろうが、クラッキング集団との対決姿勢を強めるほど攻撃は厳しくなると予想され、米国で始まりつつある消費者からの集団訴訟、情報公開が遅れた事による信頼感の低下と共にソニー全体のエレクトロニクス事業を全体への影響は計り知れない。

ソニー鈴木国正氏

 さて、大河原氏による業務執行役員SVP兼コンスーマープロダクツ&サービスグループデピュティプレジデントの鈴木国正氏へのグループインタビューには筆者も同席していたが、ここで尋ねたのも、サービス+ハードウェア+ソフトウェアの枠組みの中でのSony Tabletの位置付けについてだ。

 スマートデバイスは、iOS、Androidを問わず、ホストになるコンピュータを置くことで、スマートデバイス自身の運用を簡素化している。iOSの場合、現時点でそれはiTunesがインストールされたPCであり、Androidの場合は部分的にはクラウド上のサービスであり、部分的には各社が独自に提供しているユーティリティだ。iOSはホストへの依存度を強くすることでシンプル化している側面が強いので、Androidの方が端末としての独立性は高い。

 ではSony Tabletは、ホスト側も含めたシステムの構成を、どのように整えようとしていたのか。鈴木氏は「これからはクラウドでしょう。あらゆる価値がクラウドにあるというわけではありませんが、さまざまな価値がクラウドの中に入っていっている。クラウドの中に構築するサービスと端末を、どれだけ一体化していくかが重要」と話した。

 そのために、Sony Tabletのチームには従来のVAIOを開発していた部隊だけでなく、社内のさまざまなリソースを集め、ハードウェアだけでも、ソフトウェアだけでも、サービスだけでもない“最終的にユーザーが感じる体験”を最前面に置いた開発体制を取っているという。

 「出遅れと言われるが、まだまだこれから。iPadは大ヒットしているとはいえ、まだ5,000万台程度、来年には7〜8,000万台を達成するとの予想もありますが、スマートフォンが5億台、ノートPCが2億台という規模感からすると、まだタブレット端末はこれからの市場。そこを作っていく」(鈴木氏)。

 もう1つ私がソニーに対して聞きたかったのは、Androidのベースバージョン更新に対する追従性だ。これはXperiaの時にも苦労した事だ。最新版ではGoogleと連携しながら開発を進めることでタイムラグを最小化したものの、Sony Tabletのカスタマイズはさらに一歩踏み込んでいるように見える。

 Sony Tabletの独自性を出すためのソフトウェアとサービスを摺り合わせた同時開発を行なうとして、どのようにして追従していくのか。たとえば今回の場合、2月にAndroid 3.0のタブレット版がリリースされ、すぐに他社からは製品が登場した。ソニーが9月に発売したとして6カ月の遅れとなる。

 「確かにAndroid 3.0の場合で、数カ月の遅れにはなっている。ユーザーから見れば、同じAndroidのバージョンなのに、ということになるかもしれない。ソニーもAndroid 3.0に対して何も作業しなければ、他社と同じタイミングで出せますが、一方でどの製品を買っても同じという事になります。ここは経営判断ですが、ソニーとしては独自の機能やサービスとの統合を行なうべきという結論です。

 Androidのバージョンがいくつかというところに、強く反応するユーザー層が多いことは認めますが、Androidの上に載せているソニーが作り込んでいる部分の価値が十分に高ければ、ベースバージョンの違いや提供の遅れもカバーできると考えています」(鈴木氏)。

 ただし、鈴木氏は次のようにも話している。秋の出荷という、異例なほど発表から間を開けた製品提供スケジュールに関して「震災には、日本だけでなく、あらゆる業界、企業が大きな影響を受けています。ソニーも直接的に事業拠点の被害を受けましたが、それ以外にもパートナーの被災など間接的影響もあります。スケジュールは当然、震災の影響を考慮した上でのものです。しかし、秋以降は順次、全世界へと出荷できる体制を整えることができるでしょう。」と発言した。

 つまり、今回のAndroid 3.0リリースから半年以上の遅れは、部品供給の問題がなければもう少し縮まっていた、という事だと筆者は受け取った。

 というのも、本来のリリーススケジュールはもっと早かったからだ。これはインタビューの中で出た話題ではないが、Google I/Oが5月に開催され、その中でAndroid 3.0に関するさまざまな話題が出てくる。この中でSony Tabletも主役の1つとなり、明かされていない機能や要素を発表するというシナリオだったようだ。

 製品出荷も当初は7月で、日本の夏のボーナスシーズンに間に合う予定だったようだ。他社を3月と起算するなら、リリースは遅れは4カ月以内となる。これならば、Androidのメジャーバージョンアップのタイミングが年の前半になるなら、商戦期を逃がさずに済む。

 実際にどうなるかは来年以降になってみなければわからないが、XperiaのOSバージョンアップに対する積極姿勢などを見れば、かなりアグレッシブに開発を行なうつもりであることは想像できる。

 実際のハードウェアについてだが、まだ試作段階ではあるが、いくつか印象を伝えておきたい。

・S1は想像するよりも遙かに軽量。重量が厚みのある側に集中しているためだろう。9.4型のディスプレイを縦に使った場合の重量感は、iPad 2に比べ半分近い印象だった(実際の重量はそこまではいかないと思う)。裏面にはディンプル状の滑りにくい印刷がされており、手へのフィット感もいい。

・S1の液晶パネルはIPSを用いているとのことで視野角が広く、ガンマカーブが安定していてちらつかない、安定した見え味。

・S2もとても軽量で重量感はあまり感じない。2つの液晶はかなり近づけてあるため、2画面をつなげて表示する場合の見え方はなかなか良い。

・S2のアプリケーションは2画面に最適化されており、たとえばメーラーは下にメールボックスを表示し、メッセージ内容を上画面に表示していた。アイコンをワンタッチすると上下にメッセージ内容が拡がる。このほか音楽再生ソフトなどもユニーク。

・S2の2画面アプリはハードウェア仕様をプラットフォームとして固定した上で、デベロッパーに対して最適化したアプリケーションの開発を促すよう開発情報を出していく。

・画面エフェクトのスムーズさやタッチ操作への追従性、遅れの少なさなどは、Tegra 2を使った他のタブレットに比べて、かなり良好。特に応答性や画面エフェクトのスムーズさは明らかに他端末より良い。

・日本でのMusic Unlimitedの展開など、どのサービスが、どのような形で日本市場に提供できるかについては、まだ具体的な話は出ていない。

 ハードウェアとしての仕上がりは、昨今のソニー製品の中でももっとも良いものになりそうだが、日本のユーザーにとって気になるのは、Sony Tabletと組み合わされるサービスがどうなるかだ。発売までには徐々に内容が明らかになっていくのだろうが、日本のメーカーが作る製品だけに、米国におけるQriocityと同等のサービスが展開されることを今は期待したい。

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(2011年 4月 28日)

[Text by 本田 雅一]