森山和道の「ヒトと機械の境界面」

しなやかに人間によりそえる人工知能を

~産総研 人工知能研究センター(AIRC)始動へ

産総研 人工知能研究センター(AIRC)ロゴマーク

 2015年9月30日、東京・大手町にて「産総研 人工知能研究センター設立記念シンポジウム」が開催された。主催は国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)/日本を元気にする産業技術会議。後援は日本経済新聞社。一般社団法人電子情報通信学会、一般社団法人 情報処理学会、一般社団法人 人工知能学科、一般社団法人 言語処理学会が協賛に名前を連ねている。

 産総研 人工知能研究センター(AIRC)は、2015年5月に発足した組織だ。既に発足して5カ月経っており、共同研究を行なうコンソーシアム会員も一部は公開されている。だがここまでは「助走期間」であり、これからいよいよローンチするという。経済産業省が推進する人工知能研究の拠点のキックオフとなるシンポジウムであるため、経済産業大臣をはじめとした多くの人が挨拶に登壇した。ここでレポートしておきたい。

AIRCセンター長 辻井潤一氏(左端)、宮沢洋一経済産業大臣(中央)、産総研理事長 中鉢良治氏(右端)

 経済産業大臣の宮沢洋一氏は「人工知能は第4次産業革命の中核技術」と語り、次世代工場によるものづくり、健康長寿社会/きめこまやかな医療サービス、自動運転や交通事故低減などモビリティ、防災など社会インフラ分野での活用を期待すると述べた。

 産総研理事長の中鉢良治氏は「ビッグデータは適切な解釈を加えることで大きな価値を生み出せる。産総研は人工知能の基礎研究から応用研究、人材育成を一体と進めることが重要だと考えてセンターを設立した」と述べて、センター長で自然言語処理の権威である辻井潤一氏を紹介した。

 経済産業省 産業技術環境局局長の井上宏司氏は「第4次産業革命とも言われる産業の変革を見通して官民あげて戦略的に取り組んでいく」、「日本の産業をはじめとする実社会に役立つ研究開発と基礎研究の橋渡しを期待する」とした。

 文部科学省研究振興局局長の小松弥生氏は「新聞に人工知能の記事が載っていない日はない」と話を始めた。「文部科学省にも人工知能の研究センターを作る話があり、産総研のセンターと役割分担と連携を進めることが重要だと考えている」と述べた。2016年度から国立研究開発法人理化学研究所と国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)を中心に進められる予定の「AIPプロジェクト(Advanced Integrated Intelligence Platform Project)」のことを指していると思われる。AIPはIoT、ビッグデータ、人工知能、サイバーセキュリティといった研究を進めることと、概算要求額が100億円であることも話題になった。小松氏は、文部科学省側ではより基礎的な研究を行なうことになるだろうと述べ「AI駆動科学」を作っていきたいと語った。

 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)理事長の古川一夫氏は、NEDOプロジェクトの「次世代ロボット中核技術開発事業」について紹介した。このプロジェクトは革新的ロボット技術開発と次世代人工知能技術の2つの柱を中心としており、「日本が勝てる技術の創出を狙ったもの」だという。これまでのロボット技術の延長線上ではない知的な情報処理やセンサやアクチュエータを開発することを目標とし、人工知能はロボットの要素技術の1つとして捉えられている。「次世代人工知能技術分野」についてはAIRCが拠点採択されている。

「情報化」から「知能化」へ あらゆる産業に知能化が進行する

AIRCセンター長 辻井潤一氏

 まずはじめに、AIRCセンター長の辻井潤一氏が「自然知能と親和性の高い人工知能」と題して、AIRC設立の背景や組織概要、研究開発例について講演した。キーワードはAIクラウド、脳型AI、データ・知能融合型AI。自然知能というのは要するに人間のことである。「データ・知能融合型AI」とは、最近伸びてきたビッグデータによるAIと論理に基づくAIの融合モデル。「脳型AI」は動物の脳のアーキテクチャに学ぼうというアプローチである。

 人工知能業界では近年、IBMの「Watson」、コンピュータ将棋、デイープラーニング(深層学習)の本格的実用化や強化学習への適用などの進展があった。脳科学の進歩によって自然知能に関する研究も進んできた。一方、ビッグデータ、データサイエンス分野でも大規模グラフのマイニング、深層学習、それを可能にするハードウェア、最適化学習などの進展があり、人間は苦手とする領域を得意とする計算技術も進んできており、これらは人間が不得手な分野で発展しつつある。

 このように「人間に迫る」、そして「人間を超える」、2つの異なる流れの人工知能技術がインタラクトし、マージしてきていると辻井氏は語った。機械はデータで考えるが人間は知識で考える。両者がお互いにオーバーラップする部分が大きくならないと理解できない。ここをどう繋げていくかが「データ知識融合AI」の課題だという。一方脳型AIにおいては、既存とは異なる、よりしなやかな計算原理への革新が期待される。

近年の人工知能の進展
ビッグデータ、データサイエンスからの人工知能

 辻井氏は、今世界ではあらゆる産業で「情報化」から「知能化」が起きていると述べた。デジタルデータの量が爆発的に増えており、そのデータを価値化していくことが重要になっている。そしてあらゆる産業に知能化という波が押し寄せていて、産業が大きく変わろうとしている。データ、ニーズ、シーズの3つが揃ってきて、この後10年はさらに革新が早くなる。米国では大企業が内部にデータを蓄えているが、一方、日本はいろいろな会社の中に散らばっている。それを統合しないと日本は負ける、というのが基本的な認識だという。

 これに対してAIRCでは、プラットフォーム、技術の集積点となる人工知能共通基盤を作り、人を集め、産業に展開する、この2つを核にしてセンターを組み立てる予定だ。国内外の拠点と連携し、確率モデリングやベイジアンネットワークによる構造化などのモデルの各産業への応用を検討する。辻井氏はリテール、観光、自動運転などの例を挙げた。

世界と日本のAI研究の現状
米国のIT企業と日本との比較

 ポイントは「説明できるAI」だという。機械学習によってデータをブラックボックスで処理しているだけではなく、透明にして検討可能なモデルにしていく。自動運転においては多様なデータから全てのモデルを作るのは不可能だが、センサーなどによる反射的な能力と、データ駆動型AIと理論知識型AIの組み合わせによって危険予測/回避の推論過程を説明できる形にすることで実用化を目指す。

 ロボットにおいてもロボット自身のセンサーによる認識と行動とを結び付けた形で言葉を理解させることで、いわゆる記号接地を行なう。社会インフラ保守もターゲットの1つで、インフラからの知識データから共通部分を抽出してコア技術のモジュール化を目指す。このほか、医療画像診断支援も行なう。

研究開発と実用化の循環を回す
国内外との連携体制
データ駆動型と理論知識型AIの組み合わせで自動運転の実用化を
認識と行動、言語を結びつけて記号接地を目指す
インフラ保守への応用
画像診断への適用

 辻井氏は、記号の世界と連続量の世界、構造の世界と非構造の世界、それぞれの世界の相互変換、すなわち意味解釈が重要で、それができるようになれば、AIが人間の欲しい情報を欲しい形で出してくれるようになるのではないかと述べた。

 一方、脳型人工知能において期待されるのは、計算原理の革新である。人間のしなやかな知能は、どんなアーキテクチャに支えられているのか。深層学習はその1つとして期待されているものの、今の深層学習はデータが大量に必要だ。だが、人間はそんなに大量のデータを必要としない。大量の画像を見て学習しなくても、これは猫だ、リンゴだと判断できる。なぜ人間は簡単にできるのか。それを脳のメカニズムから明らかにしていこうというのが脳型人工知能である。辻井氏は、言語を言語としてみているだけではなく、視覚モジュールと言語モジュールが非常に緊密な連絡を持っていることに注目することが重要だと述べた。

 実際の研究テストベッドのイメージも示された。AmazonやAzureの一般的なクラウドサービスと、新設する「AIセンタークラウド」をスムーズに連携することが重要だと考えているという。

記号の世界と連続量の世界、構造の世界と非構造の世界の相互変換
脳型AIの実現も
研究テストベッド。ハードウェア仕様詳細は仮

学習の汎化の困難は未解決

株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)脳情報通信総合研究所所長 川人光男氏

 続けて登壇した、株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)脳情報通信総合研究所所長の川人光男氏は「計算論的神経科学と機械知能」と題して講演。今の人工知能ブームについて、1980年代の第2次ニューロブームのときのことを思い出さざるを得ないと述べて、これまでの人工知能研究の歴史を振り返り、警告を発した。今の人工知能技術の基礎はいずれも当時出てきたもので、そこから本質的な飛躍はないという。

川人氏によるATRとニューラルネットワークの歴史

 川人氏は、DARPAロボティクスチャレンジ(DRC)でロボットが転倒する動画を示した。最初は笑ってしまうが何度も見ていると涙が出てくるという。多くの研究者たちの努力やコストの結晶が壊れる瞬間でもあるからだ。また、ヒューマノイドであっても転け方はまったく人間らしくない。「人間の4歳の子供でも、海辺に連れて行ったら1回2回はコケるかもしれないが、すぐに慣れる。だがもっとも進んでいるロボットがそういうことがまったくできていない」のが現状なのだ。ネットワークを大きくすればできるかというと、そうではない。

【動画】DARPAロボティクスチャレンジ(DRC)でロボットが転倒する様子

 川人氏は、ニューラルネットワーク学習の最大の困難は、オーバーフィッティング、汎化能力の欠如、次元の呪いだと改めて指摘した。実世界では、ちゃんとラベルの付いたデータが大量に転がっているなんてことはない。そして、データのないところではひどい汎化が起きてしまうことがある。モデルを複雑化すると学習データ自体に対する誤差は小さくなるが、学習対象データにはない、それ以外のデータに対してはひどいことになる。川人氏らが研究を進めているスパース推定は過学習を避ける1つの手法である。

 川人氏は、今はいろんな業界が人工知能に興味を持っているようだが「周回遅れのトップランナーになっていないか」と警告を発した。今日の人工知能はヒューベル&ウィーゼルによる線分の傾きに反応する細胞の発見、その後のパーセプトロン、そして80年代に第2次ニューロブームが起きて、そこでさまざまな技術開発が行なわれた。現在のGoogleそのほかによるアルゴリズムも当時に端を発しており、そんなに技術は変わってないという。50年代からの研究が積み重なっていて今日に至っているのだ。今浮かれている人たちは「甘い」、そして「学問と技術の流れを勉強していない人は危ない。もうちょっと昔をちゃんと勉強していただきたい」と警鐘を鳴らした。脳科学とその応用であるニューラルネットワークの研究は30年前から循環しており、片方だけではだめだという。

「周回遅れのトップランナーになっていないか」と警鐘
神経科学と人工知能技術の循環
「人工知能」の発展に必要なこと

 今の人工知能ブームは、ニューラルネットワークが無償のビッグデータで花開いたことによるものであり、脳と現実世界の複合ビッグデータをいかに取得するかが今後のブレイクスルーの鍵だという。川人氏らはNEDO「計算神経科学に基づく脳型データ駆動型人工知能の開発」において、人工視覚野の開発を進めている。人との脳のアルゴリズムを人工知能の世界に持ってくることが目的で、そのほか、人工運動野とも統合して、ロボット「CB-i」に実装することを目指している。

 川人氏はGoogleが買収したDeepMindによるDeep Q-Network(DQN)は実機ではないし、高次元空間での学習の汎化の困難は今も解決していないと強調。「ブームの時に一緒に騒ぐのもいいけど、だめだよと冷水を浴びせる人も必要だ。研究が正しい方向に進んでいくといいなと思っている」と締めくくった。

人工視覚野と人工運動野等を組み合わせてロボットで再構成

実機とシミュレータを組み合わせることで現実にも対応可能に

株式会社Preferred Infrastructure 岡野原大輔氏

 株式会社Preferred Infrastructureの岡野原大輔氏は「実世界における人工知能」と題して、「人工知能を現実世界にアプライするものとして何が変わったのか」という視点で講演した。これまでは実世界ではなかなか使えてなかったが環境が変わってきたとし、自動運転、ロボティクス、バイオ/ヘルスケアが対象分野として挙げられるという。使えるようになった理由としては、IoTとネットワーク、モバイル機器の性能向上、低価格の高性能センサー、それらを実装して動けるアクチュエータの登場を挙げた。2020年代の車は10個以上のカメラが搭載されると予測されるという。

 では例えば交通システムは人工知能でどう変わるのか。発展途上国では交通事故は増えている。交通事故の9割は人の不注意に起因する。それらの事故は防げるようになる可能性がある。既存の事故が減らせるだけでなく、事故パターンからの学習もできる。交通コストが劇的に減らせると期待される。

人工知能が実世界で使えるようになった理由
人工知能が変える交通システム

 同社では産業用ロボットメーカーであるファナックのロボットに人工知能を入れる研究も進めている(ファナックによるプレスリリース)。安全な製造現場の実現、計画メンテナンスや故障にも堅牢な止まらない工場の実現、柔軟な生産ライン、ティーチングコストの低下によるより広いタスクの完全自動化などが目標だ。

 また岡野原氏は「バイオヘルスケアはもっともデータが集まっている分野」だと見ているという。深層学習とIoTによって医療は、薬効の予測や疾患や健康状態を把握できるようになり、劇的に変わる可能性がある。

製造業への応用
バイオヘルスケアでの応用

 最後に岡野原氏は、分散深層強化学習による複数ラジコンの協調走行のデモ動画を示し、実機とシミュレーターをうまく組み合わせることで、実機だけでは取得困難なデータを使って学習させることで、たとえば床滑りなど実機にしか起きない問題にもうまく対応できると語った。今までは考えられなかったアプリケーションが実現できるという。

【動画】分散深層強化学習による複数ラジコンの協調走行

日本でもエリートがエリートを育てるエコシステムが必要

国立情報学研究所(NII)ビッグデータ数理国際研究センター長 河原林健一氏

 国立情報学研究所(NII)ビッグデータ数理国際研究センター長の河原林健一氏は、数学者の立場からビッグデータやAI時代の基礎理論研究の重要性を強調した。河原林健一氏は巨大なネットワークを解析できる実用的な高速アルゴリズムの開発を目指す「JST ERATO 河原林巨大グラフプロジェクト」研究統括でもある。

 ビッグデータ時代とは要するにデーターの増加量がコンピュータの進歩を凌駕し始めた時代なのだという。つまり、現在処理できないと今後はさらに処理できなくなる。だから基礎研究が大事だという。「理論分野の先端研究者が参入してITを強くした。それが現在も続いている。MicrosoftとGoogleが勝ち組なのは基礎研究でもトップだから」と河原林氏は語った。今は大手IT企業が大学を凌駕しつつあるという。理論研究に基づくサービス改善が絶えず行なわれており、世界最先端のデータがただで得られることで、論文には書かれていない99%の情報を得ることができ、研究者にとっても実データに触れられる意味は大きいと述べた。

ビッグデータ時代とはデータ増加量がコンピュータの進歩を凌駕する時代
巨大IT企業が大学研究を凌駕しつつある

 河原林氏が強調したのは、世界最先端の研究を行なっている現場では、「スーパーエリート」による次世代のエリートの養成が行なわれているということだ。「エリートがエリートを育てるエコシステム」と、現場としても最先端であることから「研究課題をくれる」ということが研究者にとっては大きいのだという。その結果、現在の情報分野のトップ論文は、IT企業から発表されることが多くなっているという。一方、トップの論文数を見ると日本のvisibilityは2%くらいと惨憺たる状況になっており、AIRCでもそのようなシステムが必要だと述べた。今後10年でやらないといけない課題は、エリートをどうつくりあげていくかだとし、ERATOでも重視して若手を採用しているという。

 河原林氏は「日本にもすごい若手はいる。大学院単位で言うとまだまだ強い。その彼らをどうやって10年後に業界を引っ張っていく人材を作るかが重要。研究課題は企業が潜在的にたくさん持っている」と述べた。

日本の理論・基礎研究の現状
JST ERATO 河原林巨大グラフプロジェクトの研究組織
国際的な若手育成を難しい研究課題で

『知能化』で加速する社会変化

(左から)東京大学大学院工学系研究科 松尾豊准教授、辻井潤一センター長、産総研 情報・人間工学領域 領域長 関口智嗣氏

 当日はプレスブリーフィングも行なわれ、人工知能研究センターの辻井潤一センター長のほか、並列処理の研究者である産総研 情報・人間工学領域 領域長の関口智嗣氏、AIRC企画チーム長で東京大学大学院工学系研究科の松尾豊准教授が並び、短時間ながら記者たちの質問に答えた。

 今日の人工知能研究は整合性が重要であり、単一のアイデアで1つの問題が解けるといったものではない、と辻井氏は強調した。そこで先進モジュールをチューンし、規格化して、プラットフォーム上でインテグレートすることが重要だという。人工知能研究センターのロードマップや分かりやすいマイルストーンについては、各研究が平行に進んでおり、それぞれの領域ごとの目標はあるが、トータルでのマイルストーンはないとのこと。

 また、人工知能が自分と同じ性能を持つ人工知能を自力開発できる時点とされる、いわゆる「技術的特異点(シンギュラリティ)」に関する質問も出た。辻井氏は「人間を超える越えないという問いはナンセンス」だと答えた。今日の「機械」という言葉が単一の機械ではなく、多くのさまざまな用途の機械全体の総称であるように、「人工知能」という言葉も、知的な作業をするソフトウェア全体を指す言葉として用いられている。「結局はある機能を知能化したときに使えるものになっているかどうかが重要であり、それを使いことなすことが大事で、あたかも人間とAIが競争しているような捉え方は間違っている」と答えた。

 一方、今後のAIの発展に伴い、知的労働の一部が排除される可能性はあるし、大きな変化はあり得ると語った。そして「『情報化』が『知能化』になることで社会の変化が加速される。これまでの『情報化』が僕らの生き方を変えてきた以上の変化が起こるのは確かであり、社会に対して何をやっていったらいいかという議論はすべきだ」と述べた。

 また、人工知能ブームは世界的なものであり、多くの企業が既にビジネスとして動かしている。予算も人員も限られているセンターが、IBMのワトソンなどに代表されるようなパッケージもある中でどのように存在感を出していくのかといった質問に対しては、「プラットフォームは1つではなく、かなり違ったプラットフォームがあり得る」と答えた。リアルタイム性が必要なものもあればそうでないものもある。1つのプラットフォームで勝つか負けるかといった競争にはならないだろうと述べた。

 さらに、大手IT企業は閉じたエコシステムを作ろうとするが、産総研人工知能研究センターでは「基本的には開いたプラットフォームを作っていきたい」と述べた。そうしてないと人材面で負けてしまうと考えているという。東大の松尾氏も、企業のニーズを聞き取る作業を同時に進めており、具体的な話も進めていると補足した。

人を幸せにする人工知能はできるか

パネルディスカッションにはリクルート、トヨタ、日立、富士フィルム各社が登壇

 パネルディスカッションでは、リクルート、トヨタ、日立、富士フィルムの4社からそれぞれの会社の人工知能技術への取り組みと考え方、コンセプトがプレゼンされ、簡単な議論が行なわれた。詳細は割愛するが、各社の共通の認識は、人がどのように人工知能技術を使いこなすかがカギであり、現場の人を理解することの重要性と、ビッグデータのみならずスモールデータ、それも非構造化データの領域に踏み込んでいかないと、これからの大きな進展は望めないという点にあるようだった。

 人工知能技術というと、今はクラウド上のエージェントのようなソフトウェアや、ロボットのアタマの中身を想像する人が多いかもしれない。それもあるだろうが、筆者個人はむしろ、モバイルなどの組み込み機器類にこれまでよりもレベルの違う賢い、知能化技術が実装されることの方が身近な領域で、だが計り知れないくらい大きな影響を与える可能性が高いと思っている。なんにしても少なからぬ影響を与える汎用性の高い技術だけに今後の動向に注目しておこう。

(森山 和道)