後藤弘茂のWeekly海外ニュース
Intelの今後を左右するファウンダリ戦略
(2014/12/25 06:00)
ファウンダリビジネスが必須のIntel
Intelはファウンダリビジネスを軌道に乗せなければならない。これまで、ほぼ自社製品しか製造して来なかった同社の半導体工場(Fab)で、他社のチップを受託製造するファウンダリ業務を拡大する必要がある。なぜなら、膨大な自社Fabのキャパシティを埋め続けるには、今後は他社の製品の製造が必要になる可能性が高いからだ。
PCクライアントの市場は伸び悩む一方で、一般的なユーザーのPCへの性能要求は飽和している。そのため、PC向けのCPUのダイサイズ(半導体本体の面積)は縮小傾向にある。このことは、Intel自社製品の製造に必要となるシリコンウェハの枚数が縮小しつつあることを示唆している。
Intelの強みは膨大なFabで製造することによる量産効果と先端プロセス開発費の償却だ。それがあるから、Intelは常にプロセス技術開発レースで先頭を走り、コスト競争でも打ち勝つことができる。だが、自社チップ製品が必要とするウェハ数が頭打ちになったり減ったりして行くと、この利点が活かせなくなってしまう。Intelは常に80%以上のFabキャパシティを維持しようとしており、そのためには、将来的にはファウンダリビジネスが欠かせないと見られる。ちなみに、Intelは今年(2014年)頭に、米アリゾナのチャンドラーのFab 42のオープンを延期している。
しかし、ファウンダリビジネスを軌道に乗せることは並大抵ではない。
Intelのファウンダリ戦略の要は、セミカスタムモデルを差別化のポイントとしていること。ほかのファウンダリは、基本的には顧客のカスタム設計のチップを製造するフルカスタムモデルが主軸だ。それに対して、Intelは自社のIPを顧客が利用してセミカスタムで設計したチップを製造するセミカスタムモデルも重要な柱とする。セミカスタムとフルカスタムの両輪でファウンダリビジネスを立ち上げる「デュアルアプローチ」がIntelの戦略だ。例えば、Intelのセミカスタムモデルでは、IntelのAtom系CPUコアを使った製品を顧客が作ることができる。
言い換えれば、「IDM (Integrated Device Manufacturer)」の強みを活かしながらファウンダリビジネスを始める道を選んだことを意味している。IDMとファウンダリのいいとこ取りを狙うことで、TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)などファウンダリ専業大手と差別化しようとしている。Intelにとって、IoT(The Internet of Things)戦略とファウンダリ戦略の2つが、今後の行方を決める重要な2柱となりそうだ。
IDMからの半転換を狙うIntelのチャレンジ
半導体メーカーのビジネスモデルは、かつてはチップ上に載せるCPUなどのIPの開発からチップ設計、製造、販売まで全てを垂直統合で行なう「IDM (Integrated Device Manufacturer)」モデルが主流だった。それに対して、現在の多くの半導体メーカーは、水平分業化したファブレス-ファウンダリ型のモデルを取っている。ファウンダリモデルの元では、半導体メーカー側は受託製造に集中する。
しかし、IDMからファウンダリへの転換は、痛みを伴う。同じ半導体製造であっても、IDMとファウンダリでは、モデルが全く異なるからだ。IDMは自社設計の製品だけを製造するため、プロセス技術もセルライブラリもEDAツールも全て自社に最適化する。それに対して、ファウンダリでは、プロセス技術やライブラリ、EDAツールの全ての面で、顧客のニーズに合わせられるように豊富な選択肢を用意しなければならない。
TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)を見ると、プロセス技術だけでもしきい電圧(Vt)やチャネル長、メタルスタック(配線層)の構成、多種のSRAMセルなどさまざまなオプションがある。ロジックスタンダードセルのセルハイト(セルの高さ)も、通常は高性能と高密度、超高密度の3種類から選ぶことができる。ところが、通常のIDMにはこうした豊富な選択肢はないか、自由に使うことができない。そこから変革しなければならない。
特に高性能CPUばかり作っていたメーカーの場合は、高性能ライブラリが充実していても、密度の高いライブラリが欠けている場合がある。例えば、IBMのFabでソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)らがCell Broadband Engine(Cell B.E.)を設計しようとした時、最初にしなければならなかったのは高密度セルライブラリの設計だったという。
またIntelは、従来製造品種が極端に少なく、それぞれの製造ボリュームが極端に多いという特殊なIDMだった。そして、製造する製品はダイ当たりのASP(平均販売価格:Average Selling Price)が極端に高いx86 CPUがほとんどを占めていた。そのため、ファウンダリを行なうには、Intelは製造体制を多品種少量生産に合わせ、プロセスドウェハコストも下げなければならない。越えなければならないハードルは高い。
さらに、Intelは自社製品も大量に生産しながら、ファウンダリビジネスもスタートさせた。そのため、自社向けの製造体制と、ファウンダリビジネスのための製造を両立させる必要がある。顧客は、自分のIPをIntelに預けるわけで、そこにも不安が生じかねない。
トランジスタや配線のオプションも用意
プロセスや設計のオプションについては、Intelはファウンダリサービスでは網羅するとしている。トランジスタはHP(High Performance)、SP(Standard Performance/Power)、LP(Low Power)を用意。配線も高性能から高密度、ローコストまで。セルライブラリも高性能と汎用と高密度の3タイプを提供することになっている。
もっとも、Intelは22nmプロセスではこうしたオプションやライブラリの準備は充分にはできていなかったと言われている。14nmプロセスでは、オプションやライブラリを充実させる見込みだ。ライブラリについては、内容がどの程度充実しているのか、その点が問われることになる。そうした意味では、Intelのファウンダリビジネスは22nmが助走で、14nmから本格スタートと言ってよさそうだ。Intel自身も、クライアントはコンシューマ向けのローパワープロセスの提供は14nmからとしている。
EDAツールについても、ファウンダリの顧客向けには外部の大手EDAベンダーのツールがIntelプロセスに対応する。Intel自身はカスタマイズしたツールも使っているが、ファウンダリサービスで提供するのは一般的なEDAエコシステムとなる。各種IPもIntelプロセス向けに揃える。
最後の自社製品の製造とファウンダリサービスの両立については、Intelは社内の組織体制としてファウンダリビジネスを切り分けることで対応すると説明している。社内のIntel Business Unitsのための製造と、社外の顧客向けの製造はプランニングのプロセスから全て分離することで対応する。多品種少量生産とコストモデルについても、対応できるとIntelは説明する。
こうしてみると、Intelのプレゼンテーション上では充分にファウンダリビジネスの準備が整っているように見える。内容をもう少し詳しく見て行くと、さらにファウンダリサービスの全体像が見えてくる。