山口真弘の電子辞書最前線

シャープ「PW-AC21」
TOEICテストの全パートに対応したコンパクトモデル



PW-AC21。実売価格は20,000円前後。座学用ではなく、移動中などに使うことを想定したボディ。本体カラーはブラックのほかホワイトが用意される

発売中
価格:オープンプライス



 シャープの「PW-AC21」は、TOEIC学習向けを謳うコンパクトな電子辞書だ。TOEIC学習に適した多数のコンテンツを片手で使える小ぶりな筐体に搭載し、通勤中や就寝前のスキマ時間を用いて効率的な学習を行なうことを目的としたモデルである。

 いわゆる「TOEIC学習用」とされる電子辞書は多いが、単語学習を中心とした機能だけを搭載している製品から、本番そっくりの模擬テスト機能を搭載している製品まで、テストの内容の網羅性にはかなりの差がある。TOEICのとあるパートには対応しているが、ほかのパートには直接対応していない、といった場合があるわけだ。

 今回新たに登場した「PW-AC21」は、TOEICの全パートに対応したコンテンツを搭載しており、従来モデルに比べて高い網羅性を誇るのが特徴だ。またタッチ操作に対応するほか、新たにスピーカーを搭載したことで、イヤフォンなしでも音声を聞けることが大きな特徴として挙げられる。さっそく見ていこう。

●手が小さなユーザーでも片手で持てるサイズ。新たにタッチ操作に対応

 まずは外観と基本スペックから見ていこう。

 筐体はいわゆるストレートタイプ。従来モデル「PW-AC20」に見られたBlackberryのような扇状のキー配置ではなく、すでに中国語/韓国語モデルで採用済の直線的にキーが配置されたレイアウトを採用している。ただし後述するスピーカーの搭載により、キーボードの上部、決定キーの左側に「戻る」、「前見出/次見出」キーが集約され、右側はスピーカーのみというレイアウトになっている。左手のみで基本操作が完結するレイアウトは従来よりも使いやすいと感じる。

 サイズはワイシャツの胸ポケットに十分収まるレベルで、手が小さめのユーザーでも十分に片手で持てる。競合となるキヤノンのストレート辞書「wordtank A502」が幅広である上に厚ぼったく、胸ポケットに収めたり片手で操作するにはやや難があるのに比べて、本製品は収納性・携帯性の面で有利だ。

 本体重量は120g。従来モデルが98gと、100gの大台を割っていただけに、わずか20gとはいえ差は大きく感じられる。それでもキヤノンの競合製品(125g)に比べるとわずかながら軽量ではあるのだが、すこし残念なところではある。重量増加の要因は、おそらくスピーカーの搭載だと推測される。

 本体カラーはホワイトとブラックをラインナップする。従来のTOEICモデルがホワイトを基調にしたピンク、ブルー、シルバーの3色展開だったのと比べると、色味を抑えたラインナップだ。同時に発売された旅行向けモデルの「PW-AC11」のバイオレット/ピンクの2色展開とも対照的で、ターゲットユーザー層を見直したことで色にも変化があったということなのかもしれない。

 画面サイズは従来と同じ2.4型カラーで、タッチ操作にも対応している。すでに発売中の中国語/韓国語モデルはタッチ操作に対応しており、手書きでハングル文字などの入力が行なえたが、TOEICモデルとしては今回が初搭載となる。このタッチ操作は後述するように模擬問題でA~Dの選択肢から回答を選ぶ際に使えるなど、本製品のコンテンツと密接に結びついたインターフェイスになっている。

 その他の仕様は基本的に従来モデルを踏襲しており、キーボードはQWERTY配列、SDカードスロットやコンテンツの追加機能は非搭載、単4電池×2本で駆動する。なお、約120時間という駆動時間については、従来モデル(110時間)よりもやや伸びている。

戻るキーと前見出/次見出キー(この写真では親指で隠れている)が本体の左側に集約されているため、左手のみで操作しやすいCD-Rとのサイズ比較本体中央、向かって左に戻るキーと前見出/次見出キーがあり、右はスピーカーのみという配置
上部から見たところ。ストラップホールを備える。裏面に電池を収納しているためやや厚みがある下部から見たところ。従来モデルでは側面にあったイヤフォンジャックがこちらに移動した左側面から見たところ。イヤフォンジャックがなくなり、本体を左手で握りやすくなった
右側面から見たところ。タッチペン収納口がある本体背面上部に単4電池×2のボックスを搭載。重量バランス的にはやや頭でっかちだが、持ちにくいわけではない伸縮式のタッチペンは本体右側面に収納する
下部のキーボードは従来モデルのような扇状ではなく横一線のレイアウト。キーはかなりのクリック感があるタイプキーボード上部と下部にそれぞれ5つのファンクションキーを備える。とくに機能ごとの色分けなどはない
文字サイズは、スーパー大辞林では4段階で変えられる
ジーニアス英和辞典では文字サイズは3段階可変と、コンテンツごとに異なる。このあたりの仕様は従来と同じだ

●TOEIC関連コンテンツが大幅増。写真描写問題など全パートに対応
広辞苑はスーパー大辞林に差し替えられた。パーソナルカタカナ語辞典、漢字源は従来通り

 続いてメニューとコンテンツについて見ていこう。

 コンテンツ数は17。従来は12コンテンツだったので若干増えている。内訳を見ていくと、増えたコンテンツはいずれもTOEIC関連であり、それ以外では広辞苑がスーパー大辞林に置き換わった程度でコンテンツの総数に変動はない。つまりTOEIC関連の機能に集中して、大幅な進化を遂げたことになる。

 具体的には、まず「キクタン」はこれまで600と800だけだったのが、さらに上位である990が追加された。「キクジュク」は1800と3600の2つで変化なし。「新TOEICテスト 文法特訓プログラム」「1日3分 TOEIC Test Part5」も変わらず。ここに新たに「新TOEICテスト スーパー模試600問」「新TOEIC TEST リスニング出るとこだけ!」「新TOEIC TEST 文法・語彙出るとこだけ!問題集」「はじめて受ける 新TOEICテスト 全パート入門」の4つが加わり、標準的な英和・和英・英英辞典と合わせて14のコンテンツを取り揃える形になっている。


TOEIC関連コンテンツその1。キクタンのScore990が追加になったTOEIC関連コンテンツその2。「1日3分~」以外はすべて新規搭載コンテンツで、そのうち4コンテンツは音声対応英和、和英、英英辞典のラインナップは従来通り

 傾向としては、大きく2つが見て取れる。1つは冒頭にも述べたように、TOEICの全パートに対応したコンテンツを取り揃えるようになったこと。例えば従来モデルは、写真を見て4つの説明文から正答を選ぶリスニングセクションの写真描写問題には対応していなかったが、今回のモデルでは「新TOEICテスト スーパー模試600問」「はじめて受ける 新TOEICテスト 全パート入門」「新TOEIC TEST リスニング出るとこだけ!」の3つのコンテンツがこの写真描写問題をサポートするようになった。名実ともに本製品だけでTOEIC受験の基礎学力向上から模試にまで対応できるようになったわけだ。

「新TOEICテスト スーパー模試600問」。3回分の模擬問題が用意されている。個人的にはもう少し回数が多くてもよいかもしれないと感じた写真描写問題の画面。画面下部のA~Dをタッチ操作で回答する。キーボードの該当キーでも回答可能

 もう1つはタッチ操作との親和性。従来モデルでは、4つの選択肢から正解を選ぶ際にキーボード上の「A」、「B」、「C」、「D」それぞれのキーを押さなくてはならず、手元のQWERTY配列のキーボードからそれぞれのキーを探さなくてはいけないわずらわしさがあった。本製品はタッチ入力に対応したことで、この「A」、「B」、「C」、「D」の選択肢が画面下部に表示され、タッチで簡単に回答できるようになった。キーボードに気を取られることなく、模擬テストの内容に集中できるようになったというわけだ。

「はじめて受ける 新TOEICテスト 全パート入門」。その名の通りTOEICのPart1から7まですべてのパートの練習問題を収録している写真を見てA~Dの説明文から正解を答える「写真描写問題」のパートにも対応。音声は画面左下のマークをタップして再生するこちらは「新TOEIC TEST リスニング出るとこだけ!」。リスニングセクションのパターンチェックと練習問題、およびテストを収録している
音声を聞き、タッチ操作でA~Dの選択肢から回答するこちらは「新TOEIC TEST 文法・語彙出るとこだけ!問題集」。リーディングセクションのエクササイズ(練習問題)およびテストを収録している文章を読み、タッチ操作でA~Dの選択肢から回答する。ちなみにタッチ操作で回答した場合、選択肢を選んだあと検索/決定キーを押さないと次の画面に進めないのはやや面倒

 使ってみた限り、操作性に関しては多少改善の余地はあるのだが(後述)、各コンテンツを用いた学習のしやすさとボディの携帯性が、高い次元で両立していることは間違いない。従来モデルとは雲泥の差で、競合製品であるキヤノンの「wordtank A502」よりも直感的に操作できる。

 余談だが、従来モデルでは、1日の目安学習時間を掲げることで「(TOEICの目標スコアが)およそ2カ月でマスター可能」などとアピールしていたが、今回のモデルではそうしたややキャッチーな表現は抑え気味になっている。これも裏返せば、質量ともにそれだけ充実したコンテンツを取り揃えたことで、長きにわたって使うことが可能になった証だと言えるだろう。

従来モデルで搭載されていた「新TOEICテスト 文法特訓プログラム」も健在。品詞別に詳細な説明および練習問題が用意されているこちらも従来モデルから引き続きの搭載となる「1日3分 TOEIC Test Part5」。パート5に特化した問題集だリズムに乗せて単語・熟語学習が行なえる「キクタン」「キクジュク」。キクタンは従来モデルよりも単語が拡充されている

●イヤフォンに加えてスピーカーを新たに搭載。キー配置も合理化

 もう1つ、本製品の大きな特徴である、イヤフォンに加えてスピーカーを搭載したことにも触れておこう。ストレートタイプの初代モデルに当たる「PW-AC10」では音声出力機能そのものがなく、TOEICモデルの初代に当たるPW-AC20では初めて音声出力機能が搭載されたものの、イヤフォンのみの対応でスピーカーは搭載されていなかった。本モデルでは初めてスピーカーを搭載し、イヤフォンがない場合でも音声を聞くことができるようになった。

 スピーカー機能については、同じくTOEIC学習用モデルであるキヤノンの「wordtank A502」が搭載していることから、競合機種への対抗という意味合いも強いと思われるが、スピーカーの搭載によって本体中央の決定キーの左側に「戻る」「前見出/次見出」キーが集約されるレイアウトになり、結果として左手の親指のみでこれら主要操作キーすべてに指が届きやすくなった。スピーカーの追加が期せずして合理的なキー配置を実現させたわけで、個人的にはこちらのほうがむしろ従来モデルからの改善点として大きいと感じる。

 唯一ネックなのは、スピーカーの搭載によって音量をすばやく調整したいというニーズが高まったにもかかわらず、音量大小キーはキーコンビネーションで操作する方式のままであること。昨今の電子辞書は同社製品に限らず、音量キーの使い勝手はあまり重視されない傾向にあるわけだが、急にスピーカーから大きな音が出た際にすばやく下げられずに慌てがちな現行の仕様は、できれば一工夫欲しいところだ。これについては現状ではダイヤル式を採用しているキヤノン製品のほうが有利だと言える。

スピーカーが向かって右に配置されたことで操作性が左側に集約され、左手の親指で操作しやすいレイアウトになった。実際に使ってみると、左手で握った際のフィッティングのよさには驚かされる音量大小キーはキーコンビネーション(本体下部の機能キー+決定キー周囲のリング状のキー)で操作する方式で、瞬間的に音量を上げ下げしたいと思った時の操作性はいまいち

●TOEICの単語学習から模試までオールラウンドに使えるモデル

 以上ざっと見てきたが、従来と同じTOEIC学習モデルでありながら「スキマ時間にTOEICの単語学習ができるモデル」程度のスタンスだった従来モデルに比べて、「単語学習から模試までオールラウンドに使えるモデル」へと劇的に進化していることが分かる。価格帯が違うので一概には言えないが、TOEIC対策として紙の問題集のどれを買うかあれこれ悩むのであれば、本製品を1台買っておき、繰り返し長く使うという選択肢は十分に現実的だろう。

 ただし操作性については、さらなる改善を求めたい箇所もある。例えば前述の「写真描写問題」における写真の表示。写真が画面内に収まっていないため縦スクロールが必要なことが稀にあり、その場合、写真左下の音声再生ボタンを押すと写真の上端が隠れたまま音声の再生が始まってしまう。実際に隠れているのはほんの数mm程度ではあるのだが、写真を見て回答するタイプの問題でありながら写真の一部が隠れているのは、やはり気持ち悪さが残る。このあたりの最適化はもう一歩徹底してほしいものだ。

「新TOEICテスト スーパー模試600問」で写真描写問題を表示したところ。右上にしたスクロールが必要なことを示す緑の矢印が表示されている下にスクロールすると左下に音声再生ボタンが表示され、これにタップすることで選択肢A~Dの音声が流れるが、写真の上端が切れてしまっており写真の全体像が見られない。ちなみに音声再生中はスクロールもできない

 また、タッチ操作によるインターフェイスも完全にタッチのみで完結しているわけではなく、たとえば切替キーなど、物理的なキーを押さなくてはいけないケースが存在する。本製品に限らず昨今のクラムシェル型の電子辞書にも言えることだが、タッチ操作とキー操作のどこで折り合いをつけるかは難しいところで、本製品も例外ではない。本製品の場合、タッチ操作を行なう画面サイズが小さいことから、この問題はどうしてもつきまとうことになる。

 これらの問題点を突き詰めていくと、解像度を上げるか画面サイズを大きくするかで1画面あたりの情報量を増やす必要があり、そうなると本体サイズ的にもスマホとの差別化要因がなくなってくる…といったジレンマがあると推測される。また今回のモデルは実売価格が約20,000円と、実売約12,000円前後だった従来モデルに比べると大幅に単価がアップしており、これらの問題を解決しようとすることで、コスト面へのさらなる影響も懸念される。全体的には確実に進化しているだけに、うまく解決策を見出してほしいところだ。

【表】主な仕様
製品名PW-AC21
メーカー希望小売価格オープンプライス
ディスプレイ2.4型カラー
ドット数320×240ドット
電源単4電池×2
使用時間約120時間
拡張機能なし
本体サイズ(突起部含む)71.0×128.0×21.5mm(幅×奥行き×高さ)
重量約120g(電池含む)
収録コンテンツ数17(コンテンツ一覧はこちら