山口真弘の電子辞書最前線

シャープ「PW-AC110」
50コンテンツ/カラー液晶搭載のコンパクトモデル



PW-AC110。筐体色はホワイト。ちなみに液晶をガードする「インナープロテクト」は非搭載とされる

発売中
価格:オープンプライス



 シャープの電子辞書「PW-AC110」は、50コンテンツを搭載したカラー液晶搭載の電子辞書だ。スタンダードサイズの電子辞書と比べて二回りほど小さいサイズの筐体を採用しており、持ち運びやすいことが特徴だ。ジャンルとしては生活総合モデルに分類されるが、他モデルに比べるとビジネス・旅行系のコンテンツに重点が置かれている。

 今春カシオがスタンダードサイズの電子辞書市場においてカラー液晶モデルを投入してきたことにより、いまや量販店店頭の電子辞書の半数以上がカラー液晶モデルという状況になっている。モノクロ液晶と比べた場合のカラー液晶の訴求力というのはやはり強く、将来的にコンパクトサイズのモデルにおいてもモノクロからカラーへの移行が起こるのはほぼ確実とも言える情勢だ。

 こうした流れを受けて今回登場したシャープのPW-AC110は、コンパクトモデルでありながらカラー液晶を搭載した、現状では直接の競合機種が存在しない異色のモデルである。これまで同社の電子辞書は、カラー液晶モデルがBrain、モノクロ液晶モデルがPapyrusというブランド名を冠していたが、コンパクトモデルはこれまですべてPapyrusブランドで投入されており、本製品はBrainとしては初のコンパクトモデルだ。

 ただしタッチ操作に非対応であるほか、インターネットからのコンテンツダウンロードが行なえる「Brainライブラリー」には対応しないなど、位置付けは限りなくPapyrusに近く、筐体サイズやコンテンツのラインナップなどは、Papyrusブランドのコンパクトモデル「PW-AM700」に近い仕上がりになっている。

●筐体はコンパクトだが厚みはそこそこ。カードスロットやUSBは非搭載

 まずは外観と基本スペックから見ていこう。

 筐体色は清潔感のあるホワイト。本体サイズは従来のコンパクトモデル「PW-AM700」の流れを汲んでおり、一般的な電子辞書に比べて二回りほど小さい。ワイシャツの胸ポケットにも十分に収まるサイズだ。

 ただし、本体の厚みについては約20.8mmと、スタンダードサイズのPW-AC910とまったく同じで、手に取ってみると意外にボリュームがある。底部に近づくにつれ絞り込まれていく筐体デザインであることから、据え置き状態の写真ではあまり厚みがあるように見えず、実際に見て初めて驚くことになる。前出のコンパクトモデル「PW-AM700」の厚みが約17.8mmであるのに比べると、その差は顕著だ。

 キーボードはQWERTY配列。キーボード手前に手書きパッドを搭載しないこともあり、コンパクトモデルながらそこそこ余裕のあるキーサイズが特徴だ。ストロークはスタンダードモデルに比べると浅いが、キーの面積が広いことで逆にぐらぐらして押しにくいスタンダードモデルに比べると、むしろ押しやすいと感じる。

 液晶はカラーで、画面サイズは4.3型、解像度は480×272ドット。従来のモノクロモデルPW-AM700が画面サイズ4.5型、480×240ドットだったのに比べると、タテ方向の解像度はかなり健闘している。実際に使っていても、スタンダードサイズに比べて思ったよりハンデは感じない。

 液晶画面はスタンダードサイズのモデルと違ってノングレア加工が施されているため、反射がなく目にやさしい。スタンダードサイズのPW-AC900/910と異なり、ベゼル部も含めて指紋がつきにくい点は、個人的には好印象だ。

上蓋を閉じたところ。PW-AC910と同じく天板がフラットなためポケットやバッグからの出し入れがしやすい左側面。USBコネクタやmicroSDスロットを持たないためスッキリしている右側面。イヤフォン端子と電源ジャック、ストラップホールを備える
コンパクトサイズではあるが、重さは約225gとヘビー級で、スタンダードサイズの軽いモデルと同クラスリチウムイオン充電池で駆動し、乾電池などには非対応キーボード盤面。手書きパネルがないためややゆったりしたレイアウト
上下左右キーと決定キーが分離して配列されたキーレイアウトは、現在主流のスタンダードモデルPW-AC900/910よりも従来のコンパクト液晶モデル「PW-AM700」に近いファンクションキーは1列

 SDカードおよびmicroSDスロットは搭載しない。そのため、テキストデータやMP3ファイルの読み込みは行なえず、これらの再生機能もない。またUSB端子も備えないため、コンテンツを追加することは一切できない仕様となっている。冒頭に書いた通り、本製品はBrainブランドの製品ではあるものの、インターネット経由でコンテンツをダウンロード購入できる「Brainライブラリー」は利用できないので注意が必要だ。

 重量は約225gと、いまや300gの大台を超えることが多いスタンダードモデルに比べると軽量だが、コンパクトモデルとしては重い部類に入る。事実上の従来モデルに相当するPW-AM700が約172g、こちらも競合になると考えられるセイコーインスツルのコンパクトモデルSR-G7001Mが約152gであることを考えると、かなりのヘビー級だ。本体が軽量であるという理由で本製品をチョイスするというのは、ちょっと考えにくいかもしれない。

スタンダードモデルのPW-AC900(左)との比較。サイズは二回りほど異なるが、厚みはほぼ同等だ
事実上の従来モデルとなるコンパクト液晶モデルPW-AM700(左)との比較。フットプリントはほぼ同様だが厚みはかなり異なるiPhone(右)とのサイズ比較。光沢のある天板の質感はiPhone背面のそれに非常に近い

 電池方式はリチウムイオン充電池で、乾電池は非対応。このクラスのコンパクトモデルで乾電池に対応しないのは異色だ。電池寿命も約40時間とそれほど長いわけではないので、旅行や出張で持ち歩くのであれば、ACアダプタは携帯する必要があるだろう。

●50コンテンツを搭載。持ち運びやすさを生かしビジネス・旅行用途に向く

 続いてメニューとコンテンツについて見ていこう。

 メニュー画面については、スタンダードモデルと共通の、一般的なヨコ向きタブ切り替えのインターフェイスが採用されている。タテ方向の解像度が狭いことから、一括検索時などは表示行数の少なさがやや気になるが、ことメニュー画面に関してはそれほど支障は感じない。なお、PW-AC900/910ではメニュー画面の1つ上の階層に「HOME」という画面があり、これが初期画面の役割を果たしていたが、本モデルではメニュー画面が最上位に表示される。

メニュー画面。スタンダードサイズのPW-AC900/910に比べると天地が狭いぶん表示行数は2行少ないが、それほど窮屈さは感じない国語系や生活系のコンテンツが少ない反面、ビジネス系の用語辞典を多数収録している旅行会話系のコンテンツも多い

 コンテンツ数は50。スタンダードモデルに搭載される100コンテンツから内容を厳選した格好だが、広辞苑第六版やブリタニカ国際大百科事典などボリュームのあるコンテンツはほぼ網羅されており、省かれたコンテンツはその多くが雑学系であることから、実際に使っていてあまり100コンテンツモデルとの差を感じない。多少注意しなくてはいけないのは、古語辞典や百人一首など国語系のコンテンツがかなり少ないこと、またTOEIC系のコンテンツがなくなっていることくらいだろうか。

 全体的には生活総合モデルらしいオールマイティなコンテンツ編成だが、経営・株式・金融などの用語辞典や、ブルーガイドわがまま歩き旅行会話などの搭載に見られるように、ビジネスおよび旅行ユースを意識した編成になっている。コンパクトモデルという点からも分かるように、家庭に常備して使うような生活系のコンテンツはあまりなく、持ち運んで使うことが前提の構成だ。ただしビジネスマン向けのモデルにありがちな資格試験系のコンテンツは搭載していないなど、いわゆる社会人向けモデルとも異なる、独特の構成だ。

文字サイズは5段階で可変する

●タッチ非対応だが動作はキビキビ。辞書以外の付加機能は少なめ

 本製品はタッチ操作に対応しないため、スタンダードサイズのモデルに搭載されているタッチ関連の機能が省かれている。具体的には、漢字の手書き入力やなぞって&タッチ機能、かなタッチ入力機能などだ。カラー液晶を生かしたマーカー機能は搭載こそされているものの、タッチペンで入力できないことから、使い勝手の差は歴然としている。スタンダードサイズのモデルでこれらの機能を使い慣れている人にとっては、かなりの違和感を感じることだろう。

 また、テキストメモ機能や会話アシスト機能、字幕リスニングなど、PW-AC900/910の特徴となっている付加価値的な機能の多くは、本製品には搭載されていない。前述のようにカードスロットやUSB端子を搭載しないことも含めて、全体的に付加価値には乏しく、結果的に電子辞書本来の機能が目立つ製品に仕上がっている。

 だからというわけではないだろうが、本製品はPW-AC900/910にあった動作のもっさり感がなく、非常にきびきびと動作する点が目を引く。手元にあるPW-AC900と比較してみたが、メニューの切替時などの挙動はあきらかに高速でストレスが溜まらない。限られた時間の中でポケットから引っ張り出してすばやく検索する、というシチュエーションにも十分対応しそうだ。

カラー液晶を生かした画像を豊富に搭載。これは広辞苑第六版の「画像から探す」画面を上下に分割してのW検索も可能だが、さすがに窮屈な印象
ブリタニカで国名の検索結果にある「図」アイコンにタッチすると地図にジャンプする。PW-AC910ではさらに地図の中にあるスポットにタッチすることで別ページにジャンプできたが、本製品はタッチ操作に対応しないこともあり、地図の表示止まりカラー液晶を生かしたマーカー機能も備えるが、色選択機能はないようだ
ブリタニカに収録されている動画コンテンツ。内容はPW-AC910のそれと同等だが、解像度の天地サイズに制限があるせいか、インターフェイスなど細部は異なる設定画面。タッチ機能関連の設定項目がないほか、My辞書機能も省かれている

●コンパクトモデルらしからぬ実力派。タッチ入力が不要であれば買い

 タッチ操作を省いてスリム&コンパクト化したモデルという位置付けの本製品だが、搭載されるコンテンツのラインナップは、決してスタンダードサイズのモデルに見劣りしない。一般的にコンパクト設計のモデルというのは、フルサイズのモデルに比べると機能やコンテンツに制限があるものだが、本モデルはコンテンツ数が上位モデルの100から半減しているにも関わらず、広辞苑など柱となるコンテンツにはほぼ変化がなく、コンパクトモデルらしからぬ実力派だと言える。

 難があるとすれば、持ち歩きを前提としたコンパクトモデルでありながら、乾電池駆動に対応しないことだろうか。もちろんユーザーの好みの問題もあるだろうが、コンパクトモデルで充電池対応というのはあまりなく、異色といえば異色の存在だ。約40時間という駆動時間も、まるまる1週間充電せずに使うにはギリギリの値で、やや心もとない。本体重量にACアダプタの重量が加わることも考えると、スタンダードサイズのモデルとそう変わらなくなってしまうのが悩ましい。実際に使った限りでも、電池の減りはかなり早いと感じた。まめな充電が苦手な人は要注意だろう。

 また、本製品はキーボード入力にしか対応しないことから、すでにタッチ入力対応の電子辞書に馴染んでしまっているユーザーが使うと、入力のまどろっこしさを感じる可能性が高い。セカンドモデルとして購入するならいざ知らず、タッチ対応のスタンダードモデルから本モデルへ全面的に移行するというのは、あまりおすすめしない。これまでタッチ対応の電子辞書の利用経験がないか、もしくはタッチ入力は不要と割り切ったうえで、駆動時間の短さに目をつむってでも可搬性を優先したいユーザー向けの製品だといえるだろう。

【表】主な仕様
製品名PW-AC110
メーカー希望小売価格オープン
ディスプレイ4.3型カラー
ドット数480×272ドット
電源リチウムイオン充電池、ACアダプタ
使用時間約40時間
拡張機能なし
本体サイズ(突起部含む)130×85×20.8mm(幅×奥行き×高さ)
重量約225g(電池含む)
収録コンテンツ数50(コンテンツ一覧はこちら)