■石井英男のデジタル探検隊■
この新連載「石井英男のデジタル探検隊」では、筆者が個人的に興味を持った製品やニュース、技術などを取り上げていきたい。今回は、わずか4,000円程度の出費で、iPhoneやiPod Touch、iPadがガイガーカウンター(厳密にはガイガーミュラー管を使っていないので、ガイガーカウンターではない放射線測定器だが、ここでは便宜的にそう呼ぶ)になる「ポケットガイガーKIT」を紹介したい。
●放射能と放射線、放射性物質の違いとは?
3月11日の東日本大震災とそれに続く福島第一原発の事故により、放射能に関するニュースが毎日のように流れてくるようになった。筆者も含め、ほとんどの人が、これまで放射能という言葉を聞いたことはあっても、対岸の火事というか、自分の生活には直接関係ないものだと思っていたのではないだろうか。しかし、原発事故が起こってしまった以上、我々はもう無関心ではいられない。特に、原発に近い地域の方は、放射能について不安に感じている人が多いことだろう。iPhoneなどのiOSデバイスをガイガーカウンターとして使うためのキットが今回のテーマだが、ガイガーカウンターを正しく使い、その結果を理解するのは、放射能に対する基本的な知識が必要になる。
ネットなどを見ていると、放射能に対する誤解も多々あるようなので、最初に放射能についての基礎知識を解説したい。もちろん、筆者は放射線の専門家というわけではないので、もし間違っている点があれば、twitterなどで指摘していただきたい。
まず、「放射能」と「放射線」、「放射性物質」という言葉の区別だ。これらの言葉の違いをあまり意識せずに混同されていることも多いようだが、それぞれの意味は異なる。放射能とは、文字通り、「放射」線を出す「能」力のことで、その放射能を持つ物質が「放射性物質」と呼ぶ。放射線を出している物質の実体は元素なので、放射性元素や核種などとも呼ばれる。例えば、ウラン235やセシウム137、コバルト60などが代表的な放射性元素だ。放射性元素は、基本的に不安定であり、ある確率で壊れて他の元素になる。これを崩壊と呼ぶが、このときに放射される、目に見えない高エネルギーの粒子や電磁波が放射線の正体だ。つまり、放射線というのは総称であり、その主なものとして、「アルファ線」(α線)、「ベータ線」(β線)、「ガンマ線」(γ線)の3種類が挙げられる(他にも中性子線などがある)。アルファ線の正体は、中性子2個と陽子2個から構成されるアルファ粒子(ヘリウム4の原子核でもある)で、透過能力は小さく、紙1枚や数cmの空気層で止められる。ベータ線の正体は、電子または陽電子で、数mmの金属板や1cm程度のプラスチック板で止められるが、空気中の飛距離は数十cmから数m程度と比較的長い。ガンマ線は、ごく短い波長の電磁波(X線よりも短い)であり、性質はX線に近く、透過能力が高い。ガンマ線を遮蔽するには、10cm以上の鉛板などが必要になる。
放射性元素によって崩壊の仕方が異なり、出す放射線も違ってくる。アルファ線を出す崩壊をアルファ崩壊、ベータ線を出す崩壊をベータ崩壊、ガンマ線を出す崩壊をガンマ崩壊と呼ぶ。
●半減期と単位次は、半減期だ。半減期とは、放射性元素が崩壊して、元の数の半分になるまでの時間を意味している。放射性元素の崩壊は、あくまで確率的な事象であり、放射性元素を1個だけ持ってきても、これがいつ崩壊するかは、誰にもわからない。しかし、その確率は一定なので、非常に多くの放射性元素があれば、統計的に半分になるまでの時間もほぼ一定となる。例えば、1万個の放射性元素があり、この元素の半減期が1日だとすれば、1日後にはその元素は大体5,000個になるのだ。さらにもう1日経てば、その半分の2,500個になる。つまり、半減期ごとに半々になっていくので、半減期の10倍経てば約1,000分の1に減少することになる(2の10乗は1,024)。半減期は、放射性元素によってさまざまであり、1秒未満という短いものから、数十億年という長いものまである。ちなみに、今回の事故で問題となっているセシウム137の半減期は30.07年である。
放射能や放射線の強さを表す単位もわかりにくい。これは、純粋に物理的な現象としての崩壊の数やエネルギーの強さを表す単位と、人体に与える影響を推し測るための単位があり、混同されがちだからだ。放射性物質の活動量を表す最も基本的な単位が、ベクレル(Bq)である。1ベクレルは1秒あたり1個の崩壊を意味している。ここで1個といっているのは、原子1個という意味なので、1ベクレルというのは非常に小さい値だ。このあたりは、電流の単位「アンペア」や電圧の単位「ボルト」などとは感覚的に全く異なる。ごま粒のような大きさの物質でも、兆や京をはるかに超える数の原子が含まれているからだ。そのため、10億倍の補助単位である「ギガ」をつけたギガベクレル(GBq)や1兆倍の補助単位である「テラ」をつけたテラベクレル(TBq)などが用いられることも多い。ベクレルは、あくまで放射性崩壊の数を表す単位であり、放射線の種類やエネルギーなどは一切含まれていない。それに対し、グレイ(Gy)は、放射線の吸収エネルギー(吸収線量)を測る単位で、1キログラムの物質に1ジュールの放射エネルギーが吸収されたときの吸収線量が1グレイと定義されている。こちらは逆にかなり大きな単位で、1000分の1の補助単位である「ミリ」をつけたミリグレイとして用いられることが多い。
さて、ここで我々が知りたいのは、放射線が人体に与える影響だ。放射線が人体に与える影響の大きさを示す単位が、今最も耳にするであろうシーベルト(Sv)だ。シーベルトは、線量当量とも呼ばれ、吸収線量に放射線の種類によって異なる係数(人体への影響を加味した係数)を掛けたものになる。例えば、アルファ線は人体への影響が大きいので、係数は20となるが、ベータ線とガンマ線の係数は同じ1となる。つまり、ベータ線とガンマ線に限れば、グレイとシーベルトの数値は同じになる。こちらも、ミリをつけたミリシーベルト(mSv)および100万分の1の補助単位である「マイクロ」をつけたマイクロシーベルト(μSv)が用いられることが多い。シーベルトで誤解しやすいのは、単位時間あたりの線量と、累積線量は異なるということだ。前者は、主に1時間あたりのシーベルト/時(Sv/h)で表される。単位時間当たりの線量は線量率とも呼ばれるが、一般的なガイガーカウンターでも、マイクロシーベルト/時(μSv/h)で線量率が表示される製品が多い。線量率と累積線量はちょうど速度と移動距離の関係になる。例えば、1マイクロシーベルト/時の環境に10時間いたとすれば、1×10=10で、累積線量は10マイクロシーベルトになる。人体への影響は、トータルの累積線量で決まるといわれているので、線量率が高い場所には長時間いないようにすることが望ましい。
●放射線計測の難しさいよいよ放射線の計測の話に移るが、放射線は、他の物理量、例えば、電圧や電流、温度などに比べて、原理的に厳密な計測が難しい。最初に解説したように、崩壊はあくまで確率的な現象なので、短時間で計測しようとすると、どうしてもバラツキが大きくなる。例えば、サイコロをたくさん振れば、1が出る確率はほぼ1/6に近づくが、何百万回もサイコロを振って出た数を記録していけば、その途中では1が5回続けて出ることがあるかもしれない。そこの部分だけを取り出して、1が出る確率は100%という結論を出すのはおかしいということは、誰でも理解できると思う。しかし、ガイガーカウンターを使って、線量を計測しているときに、たまに高い値が出ることがあるが、その瞬間的な最大値を取り出して大騒ぎするのは、これと同じ間違いなのだ。
また、放射線が出る方向もランダムなので、検出器が小さいと、それだけ取りこぼしも大きくなり、長時間計測して平均値をとるようにしないと、誤差が大きくなってしまう。ガイガーカウンターとは、厳密にいうと、放射線を計測する機器の一種で、放射線の検出にガイガーミュラー管を用いる機器のことだが、一般的には、ガイガーミュラー管を使っていないものでも、「放射線測定器=ガイガーカウンター」のように使われているので、この記事では、ポケットガイガーもガイガーカウンターと呼ばせていただく。筆者自身は、有機ELを「液晶」と呼ぶようなものなので、本来は望ましいことではないと思っている。
ガイガーカウンターで、本来計測できるものは、放射線(ベータ線とガンマ線)が何回、ガイガーミュラー管を通過したかというものだ。通常、1分間あたりのカウントとして計測を行い、CPM(count per minute)という単位で示される。ここで注意したいのは、同じガイガーカウンター同士なら、CPMの値を直接比較できるが、機種が違えば、利用しているガイガーミュラー管のサイズや形状も異なり、同じ放射線の強さの場所で計測を行なっても、当然CPMの値は変わってくる。そのため、CPMだけでは、同じ機種を使っている場合の相対的な強さはわかっても、実際の人体への影響である線量当量を知ることはできない。そこで、放射線の強さが分かっている放射線源を用い、CPMからシーベルトへの変換係数を決める作業が較正(キャリブレーション)である。個人が気軽に購入できるクラスのガイガーカウンターは、基本的に特定の放射性元素(セシウム137など)を用いた較正が行なわれており、その放射性元素からの放射線なら、正しく線量当量を知ることができるが(ベータ線遮蔽をしないと線量当量が正しく測れない場合が多い)、違う放射性元素では正しく計測できないものが多い。もちろん、高価な機器では、ガイガーミュラー管を使わずに、放射線の数と同時にエネルギー自体の計測を行ない、そのエネルギーを加味した線量当量の計測が可能なものもある。
●誰にでも簡単に組み立てられるポケットガイガーKITさて、ようやく本題に入ろう。福島第一原発の事故を受けて、放射線(正確には線量当量あるいは線量率)を計測したいというニーズが急激に増え、以前は専門家のためのものであったガイガーカウンターを個人でも購入する人が増えている。ガイガーカウンターの多くは海外製であり、事故以前に比べて値段もかなり上がっている。ネット通販で、ガイガーカウンターを販売する業者も増えたが、低品質で計測精度が低いものや初期不良率が高い製品も流通しているようだ。価格は、安いものでも3万円くらい、高いものでは20万円を超えるような製品も多く、気軽に購入できるとはいいがたい。
今回紹介するポケットガイガーKITは、非営利プロジェクト「radiation-watch.org」が開発・配布している簡易サーベイメーター(空間線量計)である。ポケットガイガーKITは、PINフォトダイオードを放射線センサーとして利用し、演算や表示にiPhoneなどのiOSデバイスを利用することで、iOSデバイスを持っていれば、わずか4,000円程度の追加投資で、空間線量率を計測できることが魅力だ。radiation-watch.orgのWebサイトには、彼らのミッションが「子供やお母さん、お年寄りまで、あらゆる人は自分の暮らしている場所の放射線量を正しく知る権利があります。天気予報を聞いたり、温度計を見るのと同じくらい、放射線の情報を身近なものにすること。これが私たちの目標です。そのためには、簡易サーベイメーター(空間線量計)の開発と、市場への安価で安定した供給が必要です。」と書かれているが、筆者も同感であり、このミッションに賛同する。リスクを減らすという観点からも、自分の居住地域や行動範囲の空間線量を知りたいというのは、当然の要求であろう。
ポケットガイガーKITの現時点での対応機種は、iPhone 3G/3GS/4(iOS 4.0以上)、iPod Touch(第2世代~第4世代)、iPadであり、iPad 2については、次回のアプリバージョンアップで対応予定とのことだ。測定線種はベータ線とガンマ線で、測定単位は放射線数(CPM)と線量当量率(μSv/h)である。測定範囲は、放射線数で0.01cpm~300000cpm、線量当量率で0.05μSv/h~10mSv/hであり、それほど線量率が高くはない関東地方でも十分役に立つスペックだ(医療用の線量計では、最低測定範囲が1μSv/hからといった製品もあり、関東地方ではあまり意味がない)。線量当量率については、セシウム137で較正されている。
ポケットガイガーKITは、8月上旬にファーストロットの出荷が開始され、すぐに売り切れたものの、その後何度か追加販売が行なわれている。筆者は運良く8月半ばに購入できたが、現在は9月中の追加販売に向けて準備中とのことだ。8月31日以前に出荷されたキットでは、ユーザーの手によって回路基板に遮光テープとアルミテープを巻き付ける加工が必要であった。テープの加工はそれほど難しい作業ではないが、失敗するとやり直しがきかないので、注意深く行なう必要があった。しかし、8月31日以降に出荷されたキットでは、テープが加工済みとなり、ユーザーはFRISKケースの穴開けのみを行えばよくなったので、さらに組み立てのハードルが低くなった。価格は、本体が3,500円だが、8月31日以降は加工手数料の200円が追加されている(別途、代引き送料として550円が必要)。
以下に、組み立ての様子を写真で紹介するが、前半のテープ加工は、これから購入する人は必要はない。ハンダ付けなどの作業は不要で、radiation-watch.orgのWebサイトに、丁寧な組み立てマニュアルが用意されているので、誰でも簡単組み立てられるだろう。
なお、ポケットガイガーKITでは、ケースが付属しておらず、FRISKケースを加工して使うように設計されている。FRISKケースと電池(006P)は付属していないので、別途用意する必要がある。また、FRISKケースの加工にはニッパーやヤスリなどが必要で、FRISKケースと電池ボックスを貼り合わせるための両面テープも必要だ。
ポケットガイガーKITのPINフォトダイオードは、ベータ線とガンマ線の両方を検出できるが、空間線量率を知りたい場合は、ベータ線をなんらかの方法で遮断する必要がある。厚さ1~2mm程度の金属板があればベータ線を遮蔽できる。組み立てマニュアルでは、10円玉を使う簡易遮蔽と家庭用アルミフォイルを利用する方法が紹介されているが、筆者は、10円玉を使うことにした。
●線源を利用して動作を確認
ポケットガイガーの組み立てが完了したら、専用アプリケーションをApp Storeからダウンロードする。アプリケーションは、高機能な有償版の「ポケットガイガーPro」(450円)と無料の「ポケットガイガーLite」の2種類があるが、きちんと計測したいのなら、時定数などの設定やログ表示が可能なPro版をお勧めする。また、両アプリとも比較的頻繁にアップデートが行なわれているので、最新版を利用するようにしたい。
ポケットガイガーの利用方法は簡単だ。まず、ポケットガイガーのフォンプラグをiPhoneなどのiOSデバイスのフォンジャックに接続する。iPhoneなどをケースやカバーに入れて使っている人は、ケースやカバーから外すこと。ケースに入れたままだと、フォンプラグが最後まで刺さらず、正しく計測できないことがある。次に、ポケットガイガーの電源スイッチをONにして、アプリを起動する。
計測中には、ポケットガイガー本体を机や床の上などに置いて、本体に手を触れないようにする。屋外で置く場所がない場合は、手に持ったまま使うことも可能だが、振動を与えると信号にノイズが載るので、動かさないようそっと持って使うとよい。Pro版では、閾値(Threshold)と時定数(Time Range)の設定が可能だが、閾値は機種に応じた最適な値が自動設定されるので、基本的に変更する必要はない。時定数を長くするほど、計測の精度が上がる。デフォルトでは10分に設定されているので、最低でも10分は計測を続けよう。バージョン1.04では、時定数は最大20分までの設定が可能だ。一番下に表示されているのが、ログ画面で、計測中は青い縦線が左から右に移動する。時定数と、この線が左端から右端まで移動するのにかかる時間が同じになっているので、青い線が右端まで移動して、再び左端にジャンプするまで計測を続ければよい。
なお、線量当量率を測る場合は、必ず10円玉やアルミホイルを使ってベータ線遮蔽を行なうこと。振動などのノイズを拾うと、ログ画面の左上に「NOISE」という文字が表示されるので、「Clear」ボタンをタップして計測結果を破棄し、再度計測を開始する。バージョン1.04からは、アプリ実行中にスリープに移行しないようにする機能が追加された。
ポケットガイガーが正しく動作しているか確認するには、何らかの放射線源が必要だ。較正用放射線源は高価で購入も難しいので、ここではradiation-watch.orgのWebサイトでも紹介されているガスランタン用のマントル(通称アトムマントルと呼ばれる)を用意した。マントルは、ガスランタンのフィラメントの役割を果たす消耗品である。ただし、マントルならなんでも放射線を出すというわけではなく、現在販売されているマントルは、放射性元素が含まれていない製品のほうが多いようだ。筆者が試したところ、Colemanのマントルでは放射線は検出されなかったが、CAPTAIN STAGの「M-7910」やEPIgasの「A-6301」は放射線源として利用できた。これらの放射性元素(トリウム232だといわれている)が含まれているマントルの上にポケットガイガー本体を置くと、数値が跳ね上がり、マントルからポケットガイガーを離して数値が下がれば動作は正常だ。ただし、このマントルを使ったテストで表示される線量当量率は正確ではないことに注意して欲しい(前述したように、セシウム137で較正されているので、他の放射性元素からの放射線では正しく線量当量率を計測することはできない)。
【動画】トリウム232が含まれるマントルにポケットガイガーを近づけると、放射線カウント数が増える(このテストはβ線遮蔽なしで実施)。このμSv/hの値は正しくはないが、ポケットガイガーが正常に動作しているか確認できる |
●福島や茨城で実際に計測、精度は予想以上に高い
ポケットガイガーが正常に動作していることを確認できたので、実際に、空間線量率を計測してみた。今回は、精度に定評のあるSE International製のガイガーカウンター「Inspector+」を試用できたので、一緒に計測して値を比較してみた。Inspector+は、ガンマ線だけでなく、アルファ線やベータ線の計測も可能だが、オプションのワイプテストプレートを装着することでアルファ線やベータ線を遮蔽し、ガンマ線のみの計測が可能になる。
福島第一原発から約60km離れた地点の草むらの上にポケットガイガーとInspector+を置いて計測したところ(こうした汚れが付きやすい場所で計測する場合は、放射性物質がガイガーカウンターに付着することを防ぐために、必ずビニール袋に入れて計測し、使ったビニール袋は廃棄すること)、ポケットガイガーでの計測値が2.4μSv/h前後だったのに対し、Inspector+での計測値は2.3μSv/h前後であった。その差は5%未満で、原理を考えるとなかなか高精度だといえる。
次に、コンクリートで舗装された道から高さ50cm程度の場所で計測したところ、ポケットガイガーでの計測値は0.3μSv/h前後だったのに対し、Inspector+での計測値は0.4μSv/h前後となった。線量率が低くなると、Inspector+との誤差がやや大きくなるようだが、空間線量率の大体の値を知りたいという用途には十分であろう。
また、筆者は茨城県守谷市に住んでいるが、9月11日に庭の土の上で計測したところ(こちらはポケットガイガーのみで計測)、0.2μSv/h前後、同じくコンクリートの上で計測したところ0.08μSv/h前後、室内の床の上で計測したところ0.04μSv/h前後であった。土にはセシウム137などが吸着されやすく、線量が高くなるようだ。守谷市が毎週公開している空間線量率は、小学校の校庭で0.1~0.3μSv/h程度であり、こちらも妥当な値といえるだろう。なお、小学校の側溝のフタを開けて、中にたまっていた泥の上で計測したところ、1μSv/h近くの値となった。TVなどの報道でも、側溝や雨樋などの雨水が流れて濃縮されるような場所の線量は高いとされているが、それを身をもって実感できたのは、ポケットガイガーを入手できたからだ。
事故前に比べれば空間線量率が上がっているとはいえ、室内で0.1μSv/hを下回っている現状はそう心配するほどではないだろう。ただ、子供を持つ親としては、やはり線量率の高い側溝などにはあまり近寄って欲しくない。筆者個人としては、過度に放射線を恐れる必要もないと考えているが、自分なりの判断材料を持てるようになったのは、ポケットガイガーのおかげだ。
●アプリによって進化するポケットガイガーの魅力
福島第一原発からの大量の放射性物質の放出があった3月15日以降、各地のモニタリングセンターの計測結果を見ると、多少の上下はあるものの、基本的には放射性物質の量や空間線量率の値は減少の一途をたどっている(例えば、高崎CTBTのレポートを参照)。東京23区の室内の空間線量率はポケットガイガーやその他のガイガーカウンターの計測下限を下回っている可能性も高い。また、本製品のような簡易サーベイメーターやガイガーカウンターで、食品に含まれる放射性物質の量(Bq/kgといった単位になる)を計測することは不可能だ(10万円クラスの製品でも、基本的には無理)。そのため、都内在住の人が、通販サイトなどで数万円で販売されているガイガーカウンターを購入しても、その価値があるか微妙なところだ。
しかし、iOSデバイスを持っている人という条件はつくものの、4,000円程度の投資ですむポケットガイガーの費用対効果は悪くないと考える。さらに製品として完結している一般のガイガーカウンターとは異なり、ポケットガイガーは、アプリの進化によって機能が追加される可能性があるのだ。
radiation-watch.orgのWebサイトによると、現在のポケットガイガーはフェーズ2であり、最終のフェーズ3での目標は、キットではなく完成品として配布し、iPhoneだけでなくAndroidもしくはPCでの利用を可能にするとされている(目標価格は9,800円~19,800円程度)。また、スマートフォンに搭載されているGPSを利用して、測定時の状況写真とGPS位置情報、日時およびコメントをサーバへ送出し、世界各地の空間線量率や積算被曝量を可視化することが最終成果品の目標とされており、今後の進化に期待したい。