Hothotレビュー

インテル「Compute Stick」

~半年待ってようやく登場した純正のスティックPC

 インテルのスティック型PC「Compute Stick」のWindows 8.1搭載版がようやく発売となった。

 スティック型PCは、マウスコンピューターが「m-Stick MS-NH1」を2014年11月に投入して以来、新たに切り拓かれたジャンルである。Intelは1月のInternational CESでスティックPC(つまり本製品)の3月投入を予告し、国内でも4月30日の発売を予定していたのだが、十分な供給量を確保できない状況や不具合の発覚などで発売延期が度重なり、このほど6月12日にようやく発売開始となった。

 その間、マウスコンピューターの64GBモデル「MS-NH1-64G」およびファン付きモデル「MS-PS01F」、ユニットコムの「Picoretta」、ドスパラの「Diginnos Stick DG-STK1」などが相次いで投入され、インテル純正スティックPCがどうしても欲しかったユーザーにとって、この半年間は待ち焦がれる状態にあったと言えるだろう。

 今回、製品版に相当する製品を、代理店でもあるアイ・オー・データ機器よりお借りできたので、外観写真とともに使用感やベンチマークなどのレポートをお届けする。

小さな筐体にファンを内蔵

 まずはパッケージを見ていこう。さすがスティックPCだけあって、パッケージは83×143×72mm程度と非常にコンパクト。引き出し式で、梱包は2層。上にCompute Stick本体、下にACアダプタやUSB給電ケーブル、HDMI延長ケーブルなどを収納している。小さいながらもなかなかこだわっている。

 まず気になる本体サイズだが、37×103×12mm(同、HDMIコネクタ含まず)で、USBメモリを2~3回り大きくしたような印象だ。天板は光沢があり、底面は梨地のプラスチック。また後部は緩やかな四角錐のカットで、筐体デザインも少し凝っている印象だ。

製品パッケージ
側面にはインターフェイスの説明が印刷されている
パッケージは引き出しで、2段となっている
付属品など。各国のコンセントに対応するプラグが4種類入っているのがユニーク
アイ・オー・データ版は日本語のガイドが付属する

 天板には2カ所、左右側面にも2カ所ずつ通気口が開いており、通気口からは小型ファンが覗ける。うち3カ所は吸気、1カ所は排気口となっており、小さいながらもエアフローに配慮していることが伺える。本体を眺めながら、「ファン付きのWindows搭載PCもついにここまで小型されたか~」などと感慨深くさせられる。

 本体左側面は、手前から電源ボタン、Micro USB給電ポート、USB 2.0ポート、ケンジントンロックポートと続く。一方右側面はmicroSDカードスロットのみ。手前はTVに直結できるオスのタイプのHDMIとなっている。通信はIEEE 802.11b/g/nとBluetooth 4.0を内蔵しているので、“デスクトップ”PCとしてのインターフェイスは最低限だと言えるだろう。

 ちなみに、インテル純正のマザーボードやNUCなどは、有線LANのMACアドレスを調べることでOEM元が分かる、というのが定番であったのだが、本製品は有線LANを備えておらず、MACアドレスは無線LANのものとなっている。記載されている“40-E2-30”は、無線LANモジュールを製造することで有名なAzureWave Technologiesが所有するものである。

Compute Stick本体
本体左側面。電源ボタン、Micro USBによる給電ポート、USB 2.0、ケンジントンロックポートを装備
本体右側面はmicroSDカードスロットのみだ
底面のシール。MACアドレスは44-E2-30から始まっており、AzureWave製の無線モジュールを搭載する

4コアのAtom Z3735Fでメモリ2GB

 筐体こそ小さいが、Windowsを動作させられるだけのスペックをきちんと備えているあたりがスティックPC製品の面白い点である。

Bay Trailのダイ

 CPUには4コアのAtom Z3735F(1.33GHz、ビデオ機能内蔵)を採用する。スティックPCのみならず、近年の非常に安価なWindowsタブレットでも採用されているSoCなのだが、位置付け的には、1世代前のWindowsタブレットで採用がメジャーだったAtom Z3740の下位モデルに当たり、コードネームは(非公式だが)“Bay Trail-Entry”である。

 一見、両モデルともにCPUは同じ4コアで1.33GHz、最大1.86GHz駆動、TDP 2.2Wと同じように見えるのだが、Z3740はメモリがLPDDR3-1066のデュアルチャネル対応、バンド幅が17.1GB/secであるのに対し、Z3735FはDDR3L-RS 1333のシングルチャネル対応、バンド幅は10.6GB/secに留まる。またGPUの最大クロックも前者が667MHzであるのに対し、後者は646MHzと低い。

 ただし、パッケージは前者が“UTFCBGA1380”であるのに対し、後者は“UTFCBGA592”とピン数が大幅に減り、基板設計をより簡素にでき、製品全体の低価格化に貢献する。それもあってSoCの価格も抑えられており、Z3740が32ドルであるのに対し、Z3735Fは17ドルと約半分となっている。

 2014年の第1四半期の終わり頃に入ってから、2万円台の低価格Windowsタブレットが多数発売されたのだが、これはZ3735Fという低価格SoCの登場による功績が大きいと見ていいだろう。Compute StickもそのZ3735Fを搭載することで、OS付きでなおかつ新ジャンルを切り開く製品ありながら、2万円台という低価格を実現しているわけだ。

 確かに性能はZ3740と比較すると低いのだが、それでもCPUコアSilvermontと、Intel HD GraphicsをベースとしたGPUコアによる高い基本性能により、Windows 8.1などの最新OSをストレスなく動作させられるだけの実力は備えている。具体的な性能は後述のベンチマークで述べるが、これまで小さいフォームファクタのPCは実用する上で何かと性能に不満を覚えることが多かっただけに、技術の進歩によって随分と進化したと感じるものだ。

モバイルバッテリでの駆動も可能

 PCのユーザーインターフェイスの要となるキーボードとマウス、ディスプレイなどが別売りなので、これといった使い勝手云々でほぼ述べることはない。しかし、ACアダプタが各国のコンセントの形状にフィットするよう、プラグを変えられるようになっており、4種類のプラグが付属する点は評価できる。出張などの際に、行き先のコンセント形状を予め調べて対応プラグを携帯しておけば、繋がらないというトラブルに見舞われることはない。

 ただ本製品はMicro USBによるUSBバスパワーで駆動するようになっており、5V/2Aの出力が可能な環境さえあれば利用できる。また、この仕様からも分かる通り、大半のUSBモバイルバッテリでも駆動可能だ。本製品はノートPCとは異なり、USB給電を受けているバッテリの残量を管理する仕組みがないため、バッテリ側のインジケータでおおよその残量を見計らいながら利用することになるだろう。

 ところで本製品はファンを搭載しているのだが、PCMark8ベンチマーク中でも気になるノイズを発するようなことは一切なく、非常に静かだった。また筐体も熱くなることはなく、エアフローに配慮した筐体設計の良さが窺える。

 先述の通りAtom Z3735FのTDPは2.2W程度であり、メモリやeMMC、無線LANなどの周辺部品などを含めてもかなり低消費電力で、そのため2A/5V、つまり10W以下で動作できると見られる。合計10W程度であれば確かに、全ての部品がフル稼働でもしない限り、このサイズでもさほど熱くなるようなことにはならない。

 ちなみにAtomを搭載するタブレットの多くには、「Intel Dynamic Platform & Thermal Framework」(DPTF)が入っており、CPUのみならずメモリや無線LANモジュール、バッテリ、液晶の温度を常時監視し、それによってCPUクロックを制御する仕組みを搭載しているのだが、Compute Stickでは搭載されておらず、シンプルにCPU温度のみでバーストクロックを制御していると見られる。

 試しに負荷テストの「OCCT」も動作させてみたが、Linpack動作中の最大CPUクロックは1.583GHzでコア温度は70~75℃、GPUテスト動作中の最大CPUクロックは1.333GHzでコア温度71℃前後(室温26℃前後)、Power Supplyテストでは72~78℃で推移した。低負荷時の突発的な負荷動作に関しては、バーストクロックの上限である1.833GHzに達しており、この辺りはほぼ仕様通りである。こうした小型フォームファクタは性能を制限することが多いのだが、この辺りは純正ならではの安心感がある。

 さすがにPCMark8ベンチマーク中と比較して発熱が増え、排気口からも暖かい空気が出ているのが分かるが、先述の通りSoCの温度は80℃以下に抑えられており、ファンノイズについては最小限に抑えられており、気になることはなかった。

モバイルバッテリで駆動可能だ。その気になればコンセントがない場所でもPCが使える
ファンを搭載しており、動作中一定の温度にならないと回らないが、回っても静かだ
microSDカードスロット(実際は奥までツライチで入る)
OCCTでPower Supplyテスト中

 既に述べた通り、本機のUSB 2.0ポートは1基のみだ。BIOSやWindows初回起動時の段階では、Bluetoothのキーボードやマウスが利用できないため、初回のみどうしてもUSBのマウスまたはキーボードが必要となる。2つ同時に使用したい場合はUSB Hubを介すことになるが、どちらか片方あればBluetoothキーボード/マウスのペアリングまでは辿り着けそうなので問題はないだろう。

 もちろん周辺機器をさらに繋げるとなればHubが必要となるが、バスパワーも限られるため、ポータブルUSB HDDなどの接続は別途セルフパワーのHubが必要になると思われる。ただ用途を考えればさほど問題ではないだろう。無線LANとBluetoothが同じアンテナを共有していると見られるため、筆者としては、無線LAN通信の安定性を確保する意味でも、ポインティングデバイスが一体化したキーボードをUSBで常に接続しておくことをおすすめしたい。

USBポートは1基だけとなっている
このようなポインティングデバイスと一体化されたキーボードをおすすめする

 一般的にHothotレビューではBIOS画面までを紹介しないのだが、自作ユーザーのために参考までに掲載しておこう。設定できる項目は少ないが、Bluetoothや無線LAN、SDカード、USBポートの有効化/無効化などが選べるほか、インストールするOSを「Ubuntu 14.04 LTS 64-bit」または「Windows 8.1 32-bit」のいずれかから選択できるようになっている。Compute StickのLinux版は未発売で、搭載するOSも不明のままだが、説明書によればこれ以外のOSはサポートされないので、Linux版は間違いなくUbuntu 14.04が搭載されると見ていいだろう。

 ユニークな項目としては「Power Mode」が挙げられる。「Low Power」、「Balanced」、「Performance」の3項目から選択できる、性能重視か省電力重視かを選べるようになっているのだが、このうちバスパワーの4ポートUSB HubをサポートするのはLow PowerとBalancedのみで、PerformanceモードではシングルのUSBデバイスかセルフパワーのUSB Hubを利用する必要があるという。

 しかしいずれに設定してもCPUクロックや温度、電圧にさほど影響がないようで、ベンチマークの結果も大差なかった。気休めに設定する程度だろうか。よって後述するベンチマークは全てデフォルトのBalancedに設定して行なっている。

BIOSのメイン画面。時間などが設定できる
詳細設定画面。各種インターフェイスの有効/無効化などが選択可能
インストールするOSの選択
起動時の設定など
Secure Bootの設定
ログを残すことも可能だ
Power Modeの設定。3種類のモードから選択できるのだが、性能に大差はなかった
Performanceに設定しようとすると、4ポートのUSB Hubでもセルフパワー製品を使うよう警告される

EeeBook X205TAなどと横並び

デバイスマネージャーを見たところ。SSDはKingston製、無線LANはRealtekのRTL8723BSであった

 それでは最後に性能を見ていこう。正直なところ、本製品は現代的なWindowsタブレットとなんら変わったところがないため、ベンチマークをしても面白みに欠けるのだが、この小型筐体でもちゃんと性能が出ているのかをチェックする意味では重要だ。

 計測したのは総合テストの「PCMark8 v2」、軽量級3Dベンチマークの「ファイナルファンタジーXIオフィシャルベンチマーク3」(FFXIベンチ)、および基礎テストとなる「SiSoftware Sandra 2014」の3種類。なお、接続したディスプレイの解像度は1,920×1,080ドットである。

 比較用として、同じAtom Z3735Fを搭載したASUSの11.6型モバイルノート「EeeBook X205TA」、および2コアだがより高クロックで高性能なBay Trail-MのCeleron N2830を搭載した日本HP「Stream 11」の結果を並べてある。

【表】ベンチマーク結果

Compute StickEeeBook X205TAStream 11
CPUAtom Z3735FAtom Z3735FCeleron N2830
メモリ2GB2GB2GB
ストレージ32GB eMMC32GB eMMC32GB eMMC
OSWindows 8.1Windows 8.1Windows 8.1
PCMark8
Home accelerated103711101082
Web Browsing-JunglePin0.591s0.592s0.527s
Web Browsing-Amazonia0.19s0.196s0.169s
Writing12.23s10.72s8.56s
Photo Editing v22.816s2.688s2.993s
Video Chatv2/Video Chat playback 1 v230fps30fps20fps
Video Chat v2/Video Chat encoding v2324ms316ms578.3ms
Casual Gaming5.3fps6.8fps6.6fps
Benchmark duration1h9min13s1h7min43s1h8min27s
Creative Accelerated9419521027
Web Browsing-JunglePin0.591s0.591s0.518s
Web Browsing-Amazonia0.190s0.193s0.167s
Video Group Chat v2/Video Group Chat playback 1 v230fps30fps30fps
Video Group Chat v2/Video Group Chat playback 2 v230fps30fps30fps
Video Group Chat v2/Video Group Chat playback 3 v230fps30fps30fps
Video Chat v2/Video Chat encoding v2337ms331.7ms472ms
Photo Editing v22.696s2.693s2.579s
Batch Photo Editing v2199.2s199.7s151.8s
Video Editing part 1v258.2s57.9s51.6s
Video Editing part21v2179.1s177.4s210.9s
Mainstream Gaming part 11fps1.2fps1.3fps
Mainstream Gaming part 20.5fps0.5fps0.6fps
Video To Go part 118s17.2s15.1s
Video To Go part 227.8s26.9s24.4s
Music To Go59.21s59.37s54s
Benchmark duration2h44min55s2h42min52s2h33min59s
ファイナルファンタジーXIオフィシャルベンチマーク3
Low363636784970
High247024633212
Sisoftware Sandra
Dhrystone16GIPS17.1GIPS14.82GIPS
Whetstone9.22GFLOPS8.61GFLOPS8.25GFLOPS
Graphics Rendering Float28.79Mpixel/sec37Mpixel/sec44.91Mpixel/sec
Graphics Rendering Double7.09Mpixel/sec7Mpixel/sec8.47Mpixel./sec

 結果を見れば分かる通り、同じくZ3735Fを搭載したEeeBook X205TAとほぼ同等のスコアが出た。多少スコアが低い部分もあるのだが、これは筐体設計のみならず画面解像度の違いなども影響していると見られる。

 ちなみに既に何度か述べているが、筆者が未だ古い設計のFFXIベンチを登場させているのは、こうしたエントリー向けCPU/GPUの性能計測において未だ有効であると考えているからである。FFXIベンチが意味をなさなくなるのはHighのスコアが7,000以上、Lowのスコアが1万を超えてからだ。

 ただし3Dベンチマークとは異なり、実の3Dゲームおいては、通信や多くのサウンド処理、さらにはキーボード/マウスなどによる割り込みが増加する。このため、多くの場合ベンチマーク数字より実体験性能の方が低下する可能性がある点は考慮する必要がある。

 FFXIベンチで言えば、本機のLowのスコアは3,600程度であり、スクウェア・エニックスの指標で言うところの「とてつよPC」に当たり、“FINAL FANTASY XI for Windowsをデフォルト状態でとても快適に動作させることができるマシンだと予想されます”となるわけだが、実際のところ上位のAtom Z3740を搭載した筆者手持ちの「VivoTab Note 8」でも快適動作には程遠い状態だった。本機はeMMCの容量が少ないため、今回FFXIのインストールをしなかったのだが、同様に動作が厳しいと想定される。よってWebブラウジングやオフィスソフト、オンライン動画視聴など、負荷が軽い処理が本機の主な用途となるだろう。

Linux版の登場にも期待

 というわけで簡単に紹介をしてきたが、スペックが横並びのスティックPCの中で、唯一“Intel純正”ブランドである点が本製品の特徴であると言える。フォームファクタ的にはほかの製品と同様、HDMI入力とUSBバスパワーさえ取れればどこでもすぐに設置できるので、活用の幅は非常に広い。

 HDMIパススルーを備えたASRockのZ87シリーズマザーボードや、デルの「ALIENWARE Alpha」に接続すれば、まさにIntelが謳っている究極のデスクトップ2-in-1を作り出せる。“変態構成”が好きな筆者としてはたまらない。

 ただ筆者のみならず、おそらく熱心な読者の多くもそうであろうが、Windowsデバイスの超低価格化、すなわちWindows 8.1 with Bingの登場により、身の回りがすっかりWindows PCで溢れ返っていることであろう。もちろんフォームファクタが異なれば用途も変わってくるため、本製品の魅力は変らず素晴らしいと思うのだが、新鮮さという意味では、現在販売されているWindows 8.1版のCompute Stickではなく、Linux版の発売にも期待したいところである。

(劉 尭)