Hothotレビュー

東芝「dynabook Tab S80/S68」

~新たなワコムのペン技術「アクティブ静電結合方式」を採用

アクティブ静電結合方式のペン入力に対応した東芝「dynabook Tab S80」(奥)と「dynabook Tab S68」(手前)

 東芝の新「dynabook Tab S」は、ワコムと共同開発した新たなペン技術「アクティブ静電結合方式」を採用した最初のタブレットだ。電磁誘導方式に近い精度と、2,048段階の筆圧検知を可能としており、これまでの各方式の利点を融合した快適な手書きを実現する。

 今回お借りしたのは、8型液晶の「dynabook Tab S68」および10.1型液晶の「dynabook Tab S80」だ。価格はオープンプライスで、税別店頭予想価格は前者は5万円台前半、後者は6万円台半ばが予想されている。ちなみに、dynabook Tab S80のキーボード付属版となる「dynabook Tab S90」もラインナップされているが、今回はキーボードなしの純粋なタブレットとして検証する。なお、製品前のサンプル版であり、実際の製品と細部が異なる可能性がある点はご了承いただきたい。

「アクティブ静電結合方式」採用も筐体側のトレードオフはわずか

 今回のモデルのデザインは、dynabook Tab S80もS68も、基本的に7月登場モデルの「dynabook Tab S38」および同「S50」と酷似しており、新方式のペンに対応するとともに、外観上ではそのペンを収納するための仕組みが追加された格好になる。製品サイトを確認すると、dynabook Tab S38/S50も併売されるようで、dynabook Tab S68/S80がペン対応、S50/S38がペン非対応、そして若干スペックが異なることで、住み分けをするようだ。

 まずは外観をチェックしていこう。どちらのモデルも、液晶パネルの解像度は1,280×800ドット。タッチ操作にも対応する。高視野角を謳っており、確かに浅い角度から見ても色味の変化は少ないが、表面のコートのためか、映り込みはそこそこ気になる。

 裏蓋のカラーは引き続き「サテンゴールド」。側面はベージュに近い色味であり、このちょっとした色分けが好印象だ。

 カメラは両モデル共通で、背面が約800万画素、前面が約120万画素となっている。dynabook Tab S38/S50と比較すると、背面側が約500万画素から向上している。

 サイズは個別に見ていこう。まず8型のdynabook Tab S68は、132×210.7×9.6mm(幅×奥行き×高さ)となっている。dynabook Tab S38と比較すると、フットプリントは同じだが、厚みが0.1mm増えている。おそらくこれは新しいペン技術への対応によるトレードオフではないだろうか。とはいえ、0.1mmのことであるので、その差を体感できるほどの違いとは言えない。重量は約395g。実測してみると376gだった。平澤寿康氏によるdynabook Tab S38レビューでの実測値が373.5gだったので、2.5gほど重い計算だが、誤差とも言える範囲だろう。なお、ペンの重量が17gだったので、これを足せば393gとなり、仕様上の395gにほぼ符合する。

 dynabook Tab S80は、258.8×175×9.1mm(同)。こちらもdynabook Tab S50と比べると同じフットプリントのまま0.1mm厚くなっている。重量は約565gで、実測では553g。こちらはペンを足すと570gになるので、仕様より若干重い。また、dynabook Tab S50レビュー時の実測値と比べると15gほど重い結果となった。

8型液晶搭載モデル「dynabook Tab S68/NG」。右上には“wacom feel”のロゴシールもあった
dynabook Tab S68
本体背面はマットな触り心地だが、サテンゴールド塗装で渋い光沢がある
dynabook Tab S68の重量は実測で376g
dynabook Tab S68の背面カメラは約800万画素。dynabook Tab S38よりも画素が向上した
dynabook Tab S68の前面カメラは約120万画素
10.1型液晶搭載モデル「dynabook Tab S80/NG」
dynabook Tab S80
本体背面の感触はdynabook Tab S68と同様。2モデルの違いとして、TOSHIBAロゴの向きが、dynabook Tab S68では縦持ち時に下となる辺に、dynabook Tab S80では横持ち時に下となる面にあるというほか、dynabook Tab S68にあったステレオスピーカーがdynabook Tab S80にはない
dynabook Tab S80の重量は実測で553g
dynabook Tab S80の背面カメラも約800万画素。dynabook Tab S50よりも画素が向上した
dynabook Tab S80の前面カメラも約120万画素
ペンの重量は約17g
付属のACアダプタは共通。刻印によると5V×2Aの出力10Wタイプ。付属の充電用USBケーブルは、Micro USB端子側がL字になっている
USBケーブル込みのACアダプタの重量は、実測で74gだった

dynabook Tab S38/S50世代から若干強化されたインターフェイス

 インターフェイスのレイアウトも、dynabook Tab S38/S50世代と基本的に同じだ。dynabook Tab S68では、長辺の一方が端子なし、もう一方にmicroSDカードスロットと音声ボリュームボタン、電源ボタンを配置、短辺の一方にペンホルダーとストラップホルダー、もう一方にヘッドフォン用端子、Windowsボタン、Micro USB端子を配置している。

 dynabook Tab S80では、長辺の一方がストラップホルダーのみ、もう一方にWindowsボタン、音声ボリュームボタン、電源ボタンを配置、短辺の一方にペンホルダー、ヘッドフォン用端子、microSDカードスロット、Micro HDMI端子、Micro USB端子を配置している。

 インターフェイスにおける両製品の違いは、dynabook Tab S80側のみMicro HDMI端子を備えている点だ。TVやプロジェクターに繋いで活用したいというニーズであれば、dynabook Tab S80の方が便利だろう。なお、小型で、Micro USBを1つしか持たないタブレットでは、充電しながらほかのUSB機器を接続したいというニーズも多い。今回は試していないが、「USBデバイスアンドチャージケーブル」が用意されており、これを活用すればそれが実現できる。

 なお、dynabook Tab S38/S50と異なる点で(地味ながら)重要なのが、内蔵マイクがステレオになった点だ。よく見ると、マイク用の穴が2つになっているのが確認できる。

 無線はIEEE 802.11a/b/g/nおよびBluetooth 4.0に対応している。dynabook Tab S38/S50は、IEEE 802.11b/g/n対応だったので、11aが追加された格好だ。センサー類は、dynabook Tab S38/S50同様にGPS、電子コンパス、加速度センサー、ジャイロセンサーを搭載している。GPSに対応しているのは大きなポイントになるだろう。

 CPUやメモリなどのハードウェア仕様は両モデル共通だ。CPUは、Bay Trail Refresh世代のAtom Z3735Fを採用している。これはdynabook Tab S38/S50と同様。4コア/4スレッド対応のCPUで、定格クロックは1.33GHz、バーストクロックは1.83GHzとされる。また。グラフィックス機能は、CPUに統合されたIntel HD Graphicsを利用する。メモリは2GBで、DDR3L-1333を採用している。メモリの交換や追加はできない。ストレージは、eMMCの64GBとなる。容量ラインナップはなく、合わせてdynabook Tab S38/S50の継続販売モデルがeMMC 32GBモデルのみとなり、64GBモデルがカタログから消えた。

 ほか、ソフトウェア仕様は、OSがWindows 8.1 with Bing(32bit)で、統合ビジネスソフトとしてOffice Home and Business 2013がバンドルされている。

dynabook Tab S68の下部側面。高さは9.6mmで、dynabook Tab S38より0.1mm増えた
dynabook Tab S68の上部側面
dynabook Tab S68の左側面。こちらの面は何もない
dynabook Tab S68の右側面。マイク用の穴が2つに増えた以外はdynabook Tab S38と同じだ
dynabook Tab S68にペンを収納すると、ほぼ本体の短辺と同じ長さであることが分かる
dynabook Tab S80の下部側面。高さは9.1mmで、こちらもdynabook Tab S50より0.1mm増えた
dynabook Tab S80の上部側面。主要なボタン類がまとめられている。ボタンは上、端子は左と覚えやすい
dynabook Tab S80の左側面。端子類がまとめられている
dynabook Tab S80の右側面。左側面と同じ高さの位置にスピーカーが確認できる。dynabook Tab S80では左右側面にスピーカーが配置されているため、若干だが背面にスピーカーを置くdynabook Tab S68より音がよく聞こえる印象だ
dynabook Tab S80にペンを収納すると、3分の1ほど余る印象

高精度でありながら強弱自在で手書きが捗る

 目玉機能であるアクティブ静電結合方式は、ペン入力とタッチ入力用のコントローラとセンサーを共有した構成とされる。ペン入力もタッチ操作にも対応しており、2,048段階の高精度な筆圧検知や、優れた追従性により電磁誘導方式に迫る自然な書き心地を実現できるという新方式だ。

 ここからは専用ペン本体およびペン入力の感触について紹介しておこう。まずペン自体は2モデル共通。8型のdynabook Tab S68に収納するとちょうどピッタリの長さだ。前述のとおり重量は17gでやや重いが、これは単6電池を必要とするためだ。ペン側にも位置検知や筆圧情報送信のためのコントローラを装備しているとのことで、そのための電源となる。単6電池であるため、特筆するほど太いと感じるほどではない。

 ペン先の保護のためにキャップが付いており、使用する際はこのキャップをクリップのある後部に付け替える。ペン先はワコムのペンタブレットと同じ程度という印象。写真の通り、根元は爪楊枝と同じくらいで、徐々に細くなり、先端は丸みを帯びている。ワコムのペンタブレットを仕様したことがあればご想像のとおり、細かな入力をする際でもかなり快適だ。今回の評価機には替芯も1個付属しており、製品版でも同様であるとのことだ。

 このペンを活用できるアプリケーションとして、「TruNote」がプリインストールされている。手書きメモであり、それをさまざまな形に加工できるアプリケーションだ。まず、TruNoteは、ログインしていない状態からも、ペンの横にある消しゴムボタンを押しながら画面をタップすることで起動できるため、とっさにメモを取りたい時などでも活用できる。

 また、アプリケーション本体でページとして保存できることに加え、OCRのようにテキストデータ化したり、あるいはPowerPointやWordといったOfficeソフトにコピー&ペーストすることでビジネスに役立てることもできる。ペンの機能からは離れるが、OCR機能という点では、「TruCapture」というアプリケーションもインストールされており、こちらではホワイトボードや黒板の文字をテキスト化できるとのこと。また、キャプチャ機能ではホワイトボードや黒板を斜めから撮影した写真を台形補正で正しく四角形にできる(dynabook Tab S38/S50でも導入されているので、詳しくはそちらのレビューを参考にしてほしい)。ほか、「TruRecorder」というボイスレコーダーアプリケーションもインストールされており、これら「Tru」シリーズアプリケーションによってビジネスに活用できる環境を揃えている。

 実際のペン入力の感触は、かなりいい。TruNoteで試したところ、力を弱めれば、か細いボールペンのような線が、力を込めれば鉛筆のように力強く太い線が描けた。ペンを斜めに傾けて入力するクセのある筆者だが、ペンの精度が高いこともあり、位置ずれの印象は少なかった。色やペン種も変更できるので、表現力もよい。腕のある人なら、絵画のような表現もできそうだ。

 また、手をついて書くクセもあるのだが、「パームリジェクション」機能によってペン入力の際はこれが自動的でキャンセルされるようで、ペン先以外の誤入力が抑えられていた。なお、これは保護フィルムを貼っていない評価機での検証の印象だ。フィルムを貼ってしまうと、保護という観点では良いかもしれないが、ペンを傾けて入力する際の精度が落ちてしまう可能性があるほか、ほかの機能の誤操作に繋がる可能性もある。その点で、表面コートなどへの言及がない点はやや心配だ。

細いペン先を守るキャップ付きの構造。ちょうど親指のあたりに消しゴムボタンを搭載
ペン使用時は、キャップをクリップのある後部に付け替える
ペン先は根本部分が爪楊枝と同じ程度。先に行くにしたがって若干細くなり、先端は丸みを帯びている
ペンには単6電池1本を使用。クリップのある後部がネジになっており、これを回して開閉する
ペンの収納は、ペンホルダーにクリップを差し込むだけ。とは言え、かばんの中でペンが行方不明になるようなことを防ぐという意味では十分に効果がある
dynabook Tab S68に付属していた替え芯。東芝に確認したところ、両製品とも1本の替え芯が付属するとのことだ。替え芯は、軸部分が一段細く、筆者の手持ちのワコム製ペンタブレットの替え芯とは異なる形状だった
TruNoteは、ペン入力用のメモアプリ
カレンダーなど、テンプレートも用意されている
同じペン種のまま強弱をつけて文字入力してみた。強弱と濃淡はかなりしっかり表現できる。筆者の字が下手くそで申し訳ないが、習字などでも活用できそうだ
双方の端末でペン入力してみた。同じ解像度だが、やはり10.1型のdynabook Tab S80の方が書きやすさという点では若干ラクな印象

Atom Z3735Fとして標準的なパフォーマンス

 このように、dynabook Tab S68/S80は内部スペックは共通のため、ベンチマークはdynabook Tab S68を用いて行なった。

 今回利用したベンチマークソフトは、Futuremarkの「PCMark 8 v2」、「PCMark 7 v1.4.0」、「PCMark Vantage Build 1.2.0」、「PCMark05 Build 1.2.0 1901」、「3DMark Professional Edition v1.3.708」の4種類。dynabook Tab S50/23Mの結果は、平澤寿康氏執筆のレビュー記事より引用した。

 結果を見ると、dynabook Tab S50/23M時のスコアを少々下回っているが、仕様上同じであることから考えると、計測時の微妙な差異が影響したのかもしれない。

 ベンチマーク中に表面温度を計測してみても、もっとも高かった裏蓋カメラ周辺でも32℃程度だったので、熱が絡む問題ではなさそうだ。計測条件、あるいは個体の問題ではないだろうか。また、3DMarkにもおかしな結果が現れた。Graphics ScoreとPhysics Scoreは妥当なのだが、なぜかOverallが通常考えられるスコアの10分の1くらいの値になっている。前者のスコアが妥当なことから、Overall算出になんらかのエラーが出ていることが原因と推測されるが、本体の問題というよりソフト側の不具合と思われるので、前者で比較をして欲しい。


dynabook Tab S68dynabook Tab S50/23M
CPUAtom Z3735F(1.33/1.83GHz)Atom Z3735F(1.33/1.83GHz)
ビデオチップIntel HD GraphicsIntel HD Graphics
メモリDDR3L-1333 2GBDDR3L-1333 2GB
ストレージ64GB eMMC64GB eMMC
OSWindows 8.1 with BingWindows 8.1 with Bing
PCMark 8 v2
Home accelerated 3.0 score1155N/A
Creative accelerated 3.0 score961N/A
Work 2.0 score1199N/A
PCMark 7 v1.4.0
PCMark score23792418
Lightweight score13771457
Productivity score9771014
Entertainment score15711623
Creativity score45964656
Computation score58965901
System storage score38453962
Raw system storage score13531545
PCMark Vantage Build 1.2.0
PCMark Suite47804874
Memories Suite25802697
TV and Movies SuiteN/AN/A
Gaming Suite38513789
Music Suite48685464
Communication Suite55885597
Productivity Suite47524935
HDD Test Suite1092712429
PCMark05 Build 1.2.0
PCMark Score3301N/A
CPU Score35203278
Memory Score30492881
Graphics Score1167N/A
HDD Score1261312985
3DMark Professional Edition
Ice Storm148015701
Garaphics Score1538116487
Physics Score1310313456
Ice Storm Extreme9309555
Garaphics Score85778870
Physics Score1319513102

 バッテリ駆動時間は、公称値ではdynabook Tab S68が約7.5時間、S80が約7時間(双方ともJEITAバッテリ動作時間測定法Ver2.0)とされている。Windowsの省電力設定を「バランス」、バックライト輝度をおよそ40%程度に設定し、無線LANおよびBluetoothを有効とした状態で、BBenchでキー入力とWeb巡回にチェックを入れて計測した場合では、dynabook Tab S80が7時間41分、dynabook Tab S68が8時間24分となった。ともに、暗めの室内でも十分に視認できる輝度でありつつ、公称値を上回る値となった。Windows、特にBay Trailタブレットとして見ると、長いわけでもないが、短すぎることもない。ビジネスタイムをカバーできるだけのバッテリ駆動時間を有していると言えるだろう。

with Bingモデルとしては高価、「アクティブ静電結合方式」の魅力が光る

 dynabook Tab S68/S80の“手書き”感は、従来のペン入力方式とはちょっと違った次元と感じた。精度が高く、筆圧検知もできるため、従来のペン入力で違和感を感じていた方には是非試してみてもらいたい。手書きメモがかなり捗る印象だ。加えて、これと連動するアプリをプリインストールしているため、これまでiPadなどでペン入力していた方であれば、その入力内容をそのままMicrosoft Officeに貼り付けたり、あるいは文字認識機能で整形したりできる。ビジネス文書に活用する際の手間が省けるという点で、Windowsタブレットのメリットが生まれてくる。

 もちろん個人向けの用途でも、お絵かきタブレットとして魅力的だと思う。特に推したいのは、子供用のお絵かきタブレット用途だ。従来の、ちょっと精度が落ちる、あるいは筆圧検知のないタブレットでも同じじゃないかと思うかもしれないが、子供でもより精度の高い道具でお絵かきすることで感性が育まれるかと思う。逆に、大人のお絵かきにはちょっと厳しいスペックでもある。1,280×800ドットのパネルなので、メモやちょっとしたアイデアを図形化するには適しているのだが、本格的に絵を描こうとなると、もっと大きな液晶やもう少し高解像度が欲しくなるだろう。dynabook Tab Sシリーズに、13.3型モデルや、フルHD以上の液晶パネルを搭載したモデル、あるいは画像処理の向上を目的にCoreシリーズを搭載したモデルが登場すれば、大人のお絵かきが捗るのかもしれない。

 なお、予想価格の範囲では、dynabook Tab S38/S50のリリース時と同じ程度に受け止められるが、Windows 8.1 with Bing採用モデルではかなり低価格の製品が登場しており、それらと比較をしてしまうと尻込みしてしまうのも事実だ。とは言え、これはdynabook Tab S38/S50の際と同様。むしろdynabook Tab S68/S80で新たに新方式の精度の高いペンが導入されたことで、それら低価格なWindows 8.1 with Bingタブレットとの違いが明確になったと言える。単に似たようなスペックなのに高い国産タブレットとなれば悩んでしまうが、「アクティブ静電結合方式」と、それを活用した新しい活用法があることが、本製品を選ぶ理由として浮上してくるだろう。

(石川 ひさよし)