元麻布春男の週刊PCホットライン

価格とライセンスが見直された新MIFESを試す



●MIFESが一世を風靡した理由

 Windowsのメモ帳、Mac OS Xのテキストエディット(TextEdit)など、ほとんどのOSにはテキストエディタが付属する。テキストベースの設定ファイルを更新したり、メモ書きを作成したりと、テキストエディタはほぼ不可欠なアプリケーションだと考えられているからだ。それは今も昔も変わらない。

 MIFESは、日本のパーソナルコンピュータの主流がNECのPC-9801シリーズで、OSがMS-DOSだった時代に一世を風靡したテキストエディタだ。当時の製品名は「MIFES-98」だった。というより、現在ある日本語テキストエディタの原型を作ったソフト(の少なくとも1つ)と呼ぶべきかもしれない。

 冒頭でも述べたように、もともとOSには何かしらのテキストエディタが付属する。MS-DOSにもEDLINが付属していた。にもかかわらず、サードパーティ製のエディタ(有償)が重宝されたのは、付属するエディタ(無償)が非力であることが多かったからだ。たとえばMS-DOSに付属したEDLINは、多くのユーザーがフルスクリーンディスプレイ(この言葉を使わなくなって久しい)を利用してたにもかからず、行エディタ(1度に編集可能なのは1行のみ)であったため、決して使い勝手が良いとはいえなかった。

 特に当時、テキストエディタの主要な用途の1つであるプログラミングにおいて、OSに標準で添付されるエディタの多くは、本格的なプログラミングに対して非力であった(1つの例外はUNIXのviだろうか)。それは日本だけの問題ではなかったから、さまざまなプログラミングエデイタ(テキストエディタの中でも、特にプログラミングを志向したもの)が登場している。こうした海外製のエディタの多くは、そのままでは日本製のパーソナルコンピュータでは動作せず、2bytes化を含む移植が必要だった。

 国産のテキストエディタとして登場したMIFESは、当然のことながら日本語を完全にサポートしていただけでなく、数多くの特徴を持っていた。中でもMIFESが決定的な人気を獲得する要因となったのは、行を折り返す機能だ。海外製のプログラミングエディタでは、1行はあくまでも改行記号(MS-DOSの場合CR/LF)までであり、エディタ上の表示もそれに準じる。MIFESでは、CR/LFまでを1行として数え表示するだけでなく、論理的な行末をCR/LFまでにしたまま、表示だけ特定の文字数で折り返し表示することが可能だった。そして、この見かけ上の行による行番号表示も可能だった。MIFESはあくまでも日本語をサポートした国産のプログラミングエディタとして登場したが、この折り返し表示機能のおかげで、プログラミングと無関係の日本語入力ソフトとしても人気を博すこととなった。指示した文字数による折り返し表示と、見かけ上の行数表示は、その後登場したVZ Editor(MS-DOS)、秀丸(Windows)、JEdit(Mac OS)などでも広くサポートされており、日本語テキストエディタでほぼ欠かせない機能となっている。

 ご存じのように日本語の原稿は、何字詰め×何行で依頼されることが多い。特にメディアの主流が紙だった時代は、何字詰め×何行で原稿を書くのは当然のことだった。これは海外、特にパーソナルコンピュータが発祥した欧米にはない文化であり、海外製のプログラミングエディタには実装されていない機能だった。現在の日本語化されたWordでも、ワードプロセッサとしての成り立ちが、何字詰め×何行でないことは、利用したことのある方なら容易に理解してもらえると思う。

 当時、すでに日本語ワープロソフトは存在していたが、8086やV30といった16bit CPU、フロッピーディスクベースの運用という環境には、必ずしも快適とはいえなかった。また、多機能なワープロソフトには、ユーザーが必要としていない機能も多い。もっと少ない機能で(ただし必要な機能はカバーした上で)、動作の軽い日本語テキスト作成環境がほしいと考えていたユーザーに、MIFESは支持されたのである。軽快な動作が求められるあまり、ひたすらカーソルスクロールの速度をアピールする製品さえ登場したほどだ。

 その後、MS-DOSベースのテキストエディタの市場には、RED++、VZ Editorなど、より低価格な製品が登場し、MIFESは一時ほどの存在ではなくなる。Windows時代の初期にはDOS版と同じ操作性にこだわりすぎて、損をした面も否めない。また、ユーザーに活用されていたマクロ言語が完全な形で引き継がれなかったのも痛かった。

 各言語処理系が、統合開発環境(IDE)に力を入れたことも、プログラミングエディタとしてのMIFESには辛いことだったに違いない。IDEでの開発は、ビルトインのエディタを使うのが基本になるからだ。

 だが、そうした時代をもMIFESは生き延びた。1996年にWindows 95対応の「MIFES for Windows Ver. 3.0」をリリース後、おおむね3年おきに新バージョンをリリースしてきている。

●発売直前のβ版を試す
MIFES 9の起動画面。テキストエディタらしいシンプルな画面だ

 そして2011年7月にMIFES 9が発売されることになったので、このリリースに先駆けて公開されたβ版(MIFES 9β2)を今回使ってみた。現在、普段はMac上で原稿を書く筆者だが、今回の原稿はWindows 7上のMIFES 9β2で作成している。

 ダウンロードしたβ2をインストールして、早速起動してみる。起動したMIFES 9β2は、濃紺の背景に何となく昔のMIFESを思わせるところがある。

 デフォルトのキーアサインは、インストール時に「標準設定」を選んだため、昔のMIFES(WordMaster互換)とは似ても似つかぬものになっている。が、「旧MIFES風設定」を選ぶことで、DOS版等の古いMIFES風のキーアサインを選ぶこともできる。筆者は元々Wordstar系のキーアサインに慣れている、というかそれしか使えないので、とりあえず標準設定を選んだ後、自分の手が覚えている範囲でWordstar風のキーカスタマイズを行なった。

 MIFES 9のキーカスタマイズは、設定メニューの「キー操作のカスタマイズ」から行なう。作業は右に用意された「機能」を左に設定されたキーにドラッグ&ドロップするだけ。Ctrl+Q R(Ctrlキーを押しながらQキーを押した後にRキーを押す)のような2キーストロークにコマンドを割り当てることも可能なため、非常にカスタマイズの自由度は高い。時間さえかければ、大抵のキーアサインは実現できるだろう。マクロ言語が強力なことは、DOS版以来の伝統だが、MIFES 9にはこのマクロを使って実装されたemacs風キーバインドまで用意されている(筆者はemacs使いではないので、その忠実度まではわからないが)。

 カスタマイズ項目は、キーアサイン以外にメニューバー、ツールバー、MIFES上で右クリックした際に表示されるメニューなど幅広い。カスタマイズした設定は、すべて設定ファイルとして書き出すことができるし、キーアサインについては一覧をエディタのウィンドウに出力することも可能だ。カスタマイズ機能の使い勝手という点で、MIFESは自由度と扱いやすさの両面において優れていると思う。

基本的なキーアサインは、初期設定時に選択する。現在のWindowsの操作体系と整合性のとれた標準設定のほか、従来のMIFESの操作性を踏襲した旧MIFES風から選ぶことができる 各種のカスタマイズは設定メニューから行なう キーカスタマイズは、右にある機能を左のキーアサインにドラッグ&ドロップするだけ。2キーストロークの設定も可能だ

 伝統のあるソフトだけに、エディタとしての機能はきわめて充実している。強力なマクロ言語では、Perlの構文チェックやCSVファイルをhtmlへ書き出すといった機能も記述可能だ(いずれもビルトインマクロとして用意されている)。キーボードマクロ、バージョン管理、正規表現をサポートした検索と置換、ほぼ制約のないUndoなど、単体のエディタに求められる機能はほぼ完備しているといって間違いない。唯一、見当たらないものがあるとしたら画面表示上での禁則処理やワードラップだが、印刷時や印刷プレビュー時にはいずれも利用することができる。

 最近のソフトとして珍しいのは、SDI(Single Document Interface)に加え、MDI(Multiple Document Interface)をサポートしていることだろう(推奨はMDI)。1つのアプリケーションの中で、複数の文書ウィンドウを扱うMDIは、Windowsの開発元であるMicrosoftが推奨しなくなったことで、採用するアプリケーションが少なくなっているが、MIFESではMDIを比較的うまく利用している。2つのテキストファイルを左右、あるいは上下のウィンドウで開いて、片方だけをスクロールする(マウスホイール)、両方を同時にスクロールする(シフト+マウスホイール)といったことを随時切り替えることができるのは、MDIならではないかと思う。

MDIとSDIのどちらで起動するかは、あらかじめ設定しておく ウィンドウ一覧から2つの文書を選び、左右スプリットを選ぶと2つの文書が横並びで表示される。この状態でShiftキーを押しながらマウスホイールを回転させると、2つの文書が同時に同方向にスクロールする
文書は上下にスプリットさせることも可能 同様に3つの文書を並べることもできるが、同時スクロールできるのは2文書まで

 もう1つこの新バージョンから加わったのは、CSVモードと呼ばれる編集モードだ。Comma Separated Valusの略であるCSVは、表計算ソフトのデータをほかのアプリケーションへエクスポートしたりする際に使われる。その名前の通り、値をカンマで区切ったテキストファイルだから、基本的にテキストエディタで扱うことは可能なのだが、必ずしも編集しやすいものではなかった。MIFES 9に搭載されたCSVモードは、CSVファイルをまるで表計算ソフトのようにセル単位で表示、編集することを実現したモードだ。インポートするアプリケーションに合わせて、区切り文字をカンマからタブに変えるといった変更も簡単にできる。従来からあるバイナリモード(バイナリエディタモード)と合わせ、エディタとしての万能度が上がった、というところだ。

CSVファイルを通常のテキスト同様に開いたところ。テキストファイルとしては正しい表示だが、わかりにくい 表示をCSVモードに切り替えると、表計算ソフトのようにセル単位の表示となり、セル単位での編集が可能になる

●価格は半額に、ライセンスはゆるやかに

 MIFES 9でもう1つ大きく変わったのは、ライセンス体系と価格だ。個人ユーザーの場合、MIFES 9は1ライセンスで2台のPC(同一ユーザーが利用するメインマシンとサブマシン)へインストールできる。1台のマシン(ハードウェア)であれば、デュアルブートのOSそれぞれにインストールしても1ライセンス、ネイティブ環境と仮想環境の両方にインストールしても1ライセンスと数える。これに加えて、1コピーのUSBメモリ用のバイナリイメージを作成、出先のマシン等で利用することが可能だ。

 前バージョンのMIFES 8では、オンラインアクティベーションの導入(MIFES 9では廃止)、1人1台までのライセンス、60日ごとに作り直す必要のあるUSBメモリ用バイナリイメージと、あまりにも厳しすぎるライセンス体系に不満も聞かれた。が、今回のライセンス体系であれば、大きな不満はないのではないかと思われる。

 価格はMIFES 8の29,400円から、半額の14,700円に引き下げられた(パッケージ版)。ダウンロード版は12,800円で提供されており、さらにリーズナブルだ。上述のライセンス条件の緩和も考え合わせて、この価格であれば個人が購入するのもアリではないだろうか。

 最後に、この原稿をMIFES 9β2で作成した感想だが、すべて動作はこちらが予期した通りで、アレッ? と思うようなところ、動作に不安を抱くような部分は全くなかった。プログラムの安定性についても文句はない。このままの状態で製品化されても不思議はないレベルに達している。

 昔、PC-9801シリーズでMIFESを使っていた人だけではなく、大量の文章やプログラムを書く人たちは、一度、試して見てほしいソフトウェアだ。