元麻布春男の週刊PCホットライン

Microsoftの開発者イベント「PDC10」が開幕
〜IE9 Preview 6を公開



●開催内容が大きく変わったPDC

 10月28日(米国時間)、Microsoftの開発者向けイベントであるPDC10が開幕した。これまでPDCは、同社最大の開発者向けイベントとして、おおむね4日間、プレカンファレンスイベントも含めれば5日間の長大なイベントであったが、今回は2日間に短縮された。会場もワシントン州レドモンドにある同社キャンパス内の自社施設となり、ロスアンジェルスやデンバー、ニューオーリンズといった米国主要都市のコンベンションセンターを用いた、過去の開催内容から様変わりしている。おそらく参加者も、従来の5千〜6千人規模に対し、おそらくは数百人規模になったのではないかと思われる。

PDC10で基調講演を行なうバルマーCEO

 その代わり、基調講演をはじめとする主要イベントは、Silver lightによるライブWebキャストで世界同時中継された。スティーブ・バルマーCEOによると、ライブ中継を見ている開発者の数は約3万人と推定されるという。見方によっては、過去最大規模のPDCだとしている。この形式が来年以降も続くのかどうかは、フィードバック次第なのだと思うが、見ていてもイマイチ盛り上がりに欠ける感じは否めないところだ。

●Windows 7/IE9/Windows Phone 7がテーマ
デバイス側の話題をバルマーCEOが、クラウド側の話をマグリア事業部長が、それぞれ受け持った

 A New Era of Opportunityと題された基調講演は、CEOであるスティーブ・バルマー氏と、サーバー&ツールズ事業部の事業部長を務めるボブ・マグリア氏が務めた。バルマー氏が全体とクライアンント/デバイス側の話を、マグリア氏がサーバー/クラウド側の話を、それぞれ受け持ったが、すべての製品/プラットフォームをカバーするというより、クラウド戦略を中心に、主要なテーマをピックアップする、という感じであった。

 バルマーCEOが最初に取り上げたのは、やはり「Windows 7」である。これまでに2億4千万ライセンスを売り上げたWindows 7は同社の屋台骨の1つであると同時に、「最も人気のあるスマートデバイス」(バルマーCEO)だ。従来からあるフォームファクタ(デスクトップPC、ノートPC)に加え、ネットブックやタブレットなど、さまざまなフォームファクタで使われている。

 そのWindowsプラットフォームでクラウドコンピューティングのフロントエンドとなるのがIE(Internet Explorer)だ。現在開発中であるIE9のベータ版ダウンロードは、1千万を超えた。このIE9でMicrosoftは、HTML5標準の利用を推進し、IE9上のWebアプリケーションがWindows上のネイティブ・アプリケーションのように使える努力を続けていくとバルマーCEOは述べた。

IE9ではHTML5標準のサポートとアクセラレーションに力を入れる

 このIE9のデモでは、GPUやオーディオハードウェアによるアクセラレーションで、ブラウザ上のアニメーションが高速に動く様子が披露された。IE9により、従来のWebページからアクセラレーテッドページへ、と進化を遂げるというわけだ。

 また別のデモでは、ブラウザのタブをそのままタスクバーに登録する(ピンする)様子が公開された。アプリケーションをタスクバーに登録するのと同じ感覚でWebページを登録できる、つまり、IE9であなたのサイトはもっとアプリケーションライクになるというデモである。

 このキーノートと同時に、開発者向けのPreview 6が公開された。従来のPreview版より性能、品質ともに改善されているという。また、より広範なWeb標準のサポートが行なわれ、CSS3と2Dトランスフォームがサポートされたとのことであった。

 IE9の次に取り上げられたデバイスは、Windows Phone 7だ。2週間前に発表され、すでにいくつかの国で販売されているWindows Phone 7だが、米国での販売ももうすぐ始まる。バルマーCEOは、Windows Phone 7は、今までの電話とは全く異なる体験をユーザーに提供すると述べた。見た目が異なるし、動作も異なる、というわけだ。確かに、Windows Phone 7の見た目は、iPhoneやAndroidとは確実に異なる。

 またこのWindows Phone 7は広範な一貫性を持ったエコシステムの基盤となるプラットフォームであり、すでに30カ国、60以上のオペレーター(キャリア)に採用されているという。デベロッパーは、馴染みの深いVisual Studioを使ってWindows Phone 7対応アプリケーションを開発できるし、エミュレーターを含むツール類は無償で提供される。

Windows Phone 7デバイスの日本での発売は未定だ
●CGソフトをクラウド化

 バルマーCEOに続いて登壇したマグリア事業部長は、Microsoftのクラウド戦略の中心であるWindows Azureにフォーカスしたスピーチを行なった。Windows Azureは、クラウドの中でもPAAS(Platform as a service)と呼ばれるもの。アプリケーションの基盤を提供するサービスである。その特徴は、開発言語、フレームワーク、開発ツール等を自由に選択できることであり、Javaについても強力にサポートしていると述べた。

 現在もAzureの機能拡張は続けられており、新しいサービスとして、Windows Azure Virtual Machine Roleと、Server Application Virtualizationの2つが紹介された。前者は、現在Hyper-Vの上で動作しているWindows Server 2008 R2のイメージを、そのままWindows Azure上で動作可能にするもので、アプリケーションのクラウドへの移行を一層容易にする。Server Application Virtualizationは、現在MDOPで提供されているDesktop Application Virtualizationと同様の機能をWindows Azure上で利用可能とするもので、サーバーアプリケーションのインストールイメージを利用することで、Windows Azure環境へアプリケーションをインストールすることなく利用可能にするものだ。ほかにもIISの完全サポートやバーチャネルネットワークやリモートデスクトップのサポートなど、サービスの拡張も予定されている。

 このマグリア氏のスピーチでは、ゲストとして、PIXARのChris Ford氏が登壇した。PIXARと言えばAppleの現CEOであるステーブ・ジョブズ氏がCEOを務めていたことでも知られる。意外な組合せのようにも思えるが、PIXARは、同社のレンダリングソフトであるRenderManをAzureのプラットフォームとしてWindows Azureを採用した。RenderManは、アニメーションに限らず、SFXを使う映画の7〜8割で採用されているこの分野の標準とでも呼ぶべきソフトの1本であり、もちろんToy Story 3などPIXARが製作した映画でも使われている。そのRenderManのプラットフォームとしてWindows Azureを選んだ理由は、スケーラビリティ、サステナビリティ(持続可能性)、そしてちゃんと動くこと、の3つだという。

 Toy Story 3級のクオリティの映画では、1フレームをシングルプロセッサでレンダリングすると約8時間かかる。1秒間に24フレームとして1分間で1,440フレーム、103分間の映画であるToy Story 3では、148,320フレームが必要となる。3Dだと、左右の眼それぞれに対応したフレームが必要となるのでその2倍、296,640フレームが必要だ。これを上記のシングルプロセッサでレンダリングしていては、270年以上かかってしまう。

 この物量の問題を解決するために、大手のスタジオではレンダーファームと呼ばれるデータセンターを持っている。4,000〜6,000プロセッサ、あるいはそれ以上のプロセッサをサポートしたレンダーファームを用いても、最終的に映画を出力するには約1カ月かかる

 しかし、中小規模のスタジオでは、こうした大規模なデータセンターに投資することは難しい。RenderManがクラウド化することで、自前でデータセンターに投資できない中小規模のスタジオでも、RenderManによるレンダリングを利用することが可能になるという。

 Azureのスケーラビリティは、こうした大規模なアプリケーションに耐えられるということを、事業継続性を示すサステナビリティは、Windows Azureのバックに世界最大のソフトウェア会社がついていることによる安心感を示している。またFord氏によると、Windows HPCバージョンのRenderMan(C++アプリケーション)は、Windows Azureの上でちゃんと動いたという。

●タブレットデバイスやWindows 8には触れず

 さて、今回のキーノートでは、現在話題になっているいくつかのテーマについては、全く触れられることはなかった。例えばタブレットもその1つだ。タブレットに特化したアプリケーションを作成するような呼びかけはなかったし、タブレットデバイスそのものが紹介されることもなかった。Microsoftは、タブレットデバイスにWindows Phone 7に採用されているOSを展開することを望んでいないとも言われるが、そうであれば、なおのことWindows 7でタブレット専用アプリケーションを作成するよう呼びかける必要があると思うのだが、基調講演にそうした話題は存在しなかった。もちろん、Windows 8の話題もなしである。まだ2年は先と言われるWindows 8については、もっと時間が必要ということなのだろう。