山田祥平のRe:config.sys

au、ガラスマからグロスマへの脱皮最初の一歩?

 auが発表会を開催、2014年夏の新製品を発表した。端末としてはスマートフォン6機種と、タブレット2種だが、WiMAX 2+対応が数多くラインアップされている。その背景には一体何があるのだろう。

WiMAX 2+はグローバルスタンダード

 5月7日に開催されたソフトバンクの決算発表会における、孫正義社長の「(端末)発表会という形式は、終わったと認識している」という発言が話題になっている。

 iPhoneはAppleが発表するし、Androidは機能の差がない状況で、この夏モデルの披露に限らず、今後数年状況が変わるまでは端末発表会はやらない方針なのだそうだ。

 だが、auは、恒例の発表会を開催した。auとソフトバンク、どっちの方針がが正しいのかは時間が決めてくれるだろうけれど、とにかく、この日はスマートフォン6機種、タブレット2機種が、この夏の新機種としてお披露目された。

 スマートフォンを供給するベンダーは、LG、ソニーモバイル、Samsung、シャープ、京セラの5社だ。京セラは2機種を供給する。また、タブレットはソニーとASUSの2社となっている。これらのうち、WiMAX 2+に対応していないのはSamsungとASUS、そして2機種を提供する京セラも1機種が非対応となっている。

 図式としては、auがベンダー各社にWiMAX 2+対応機を開発するようにリクエストし、それに各社が応えたというように見える。少なくとも、過去のWiMAXの時代はそうだっただろう。ただ、WiMAXの時代とは異なり、WiMAX 2+は今やグローバルスタンダードなLTE規格の1つだ。日本でLTEといえばFD-LTEを指すことが多いが、WiMAX 2+はTD-LTE互換で、中国などではLTEといえばこちらを指すといってもいい。

 日本におけるWiMAX 2+は、UQコミュニケーションズによるデータ通信サービスのブランドだ。UQにとって、auを持つKDDIは筆頭株主だ。だから、データ通信のオフロードにWiMAX 2+を積極的に使うのはビジネスとしても当然だ。考えようによっては2つの通信事業者が合体したようなものと考えてもいいくらいだ。ソフトバンクとイー・モバイルの関係に似ているともいえる。

 そのWiMAX 2+は、実際にはFDとTDの違いこそあれ、LTEそのものだ。過去のWiMAXはWiMAX 2となってサービスインする予定だったが、WiMAX陣営は、2012年10月に大きな方針転換を行ない、WiMAX Release 2.1規格の採用をアナウンスした。それが現在のWiMAX 2+であり、UQは2013年末にサービスインさせている。

 その特筆すべき特徴が、標準化団体である3GPPが策定したTD-LTEとの互換性だ。すなわち、auがベンダーにWiMAX 2+対応機を特別に作ってもらわなくても、グローバルスタンダードなスマートデバイスの多くは、モデムチップの進化もあって、TDとFDの両LTEに対応させることは、それほど難しいことではなくなっている。実際、北米版のNexus 5は、TD-LTEのBand41に対応しているので、理論的にはUQのSIMを装着すれば、WiMAX 2+での通信もできるはずだ。つまり、機器としてのWiMAX 2+対応機は、今日、初お披露目されたわけでもなく、実際には、グローバルスタンダードなデバイスとして、すでに存在しているといってもいい。

 なお、今回発表されたXperiaでは、auのLTE、UQのWiMAX 2+のどちらに接続しているのかはユーザーにはわからない。スクリーン表示はいずれの場合も「4G」となるのだそうだ。そしてWiMAX 2+の利用によって追加料金は発生しない。auにとってWiMAX 2+は既存LTEの延長にすぎず、特別なものでもなんでもないということが分かる。

いろんな意味でおサイフからの訣別

 WiMAX 2+対応機は、海外のベンダーにとってはグローバル機を持って来やすく、日本のベンダーにとってはグローバルで売りやすくもある。少なくとも、これからはそういう時代になる。こうした流れを見ると、auは今後「日本独自の」といった冠を持つ機能を持った端末は、あまり作りたくないと思っているようにも感じられる。

 日本独自といえば、あとはワンセグ/フルセグとおサイフケータイだろうか。特におサイフケータイはNFCが主流の海外事情に対して、FeliCa搭載という追加のシカケが必要となる。1日に300万人を超えるような駅のラッシュ時にスムーズに改札口を通過するためには、今のところはFeliCaが必須だからだ。

 ところが、今回の発表会でauが発表した電子マネーサービス「au WALLET」 は、プラスチックカードが前提で提供されるもので、端末本体のFeliCa、つまり、おサイフケータイとは関係のないサービスだ。端末で使うアプリは提供されるが、現時点で分かっていることとして、オートチャージの設定や、残高確認ができるだけのもののようだ。

 おサイフケータイにau WALLETを実装しようと思えばできなくもなかったはずだ。でも、auはそうしなかった。

 スマートフォンがあれば、買い物ができて、電車にも乗れて、場合によってはマンションのドアも開けられる。だからもうサイフはいらない、というのがおサイフケータイだった。ところが、au WALLETは、スマートフォンのFeliCaやNFCではなく、プラスチックカードのNFCを利用する。これは、auのおサイフケータイへの訣別だというのは考えすぎだろうか。

 発表会では、このサービスのCMとして、街中で財布を捨てるシーンが描かれた映像が披露された。でも、財布を捨てるどころか、財布の中のカードがもう1枚増えるだけのような気もする。個人的にはあらゆるカードをスマートフォン1台に集約できるおサイフケータイは、実に重宝しているが、日本におけるiPhoneユーザーの数を考えれば、世の中にはおサイフケータイがなくても困らない層は少なくないということなのかもしれない。

ガラスマからグロスマへ

 TD-LTE対応とFeliCa非対応。それで端末の汎用性はグッと高まる。そして、それはガラスマからグロスマへの変身だ。国外ベンダーの参入動機にもなり、国内ベンダーにとっては海外進出の足がかりにもなるかもしれない。そこには、キャリアが端末の開発に関して、もうあまり口を出さないという暗黙の了解が潜んでいるようにも感じられる。

 もちろん、販売網としてのキャリアショップの存在は到底無視できるものではない。だから無理難題でなければ、ベンダーはできるだけ希望に添うように端末を仕上げるだろう。でも、これまでとは風向きが変わってきているのではないか。

 冒頭の話に戻ろう。孫正義氏は「(端末)発表会という形式は、終わったと認識している」という。それは、キャリアがベンダーの開発した端末を“AS IS”(そのまま)で仕入れて販売する時代の到来ではないか。まさにiPhoneやiPadがそうであるようにだ。

 来週は、ドコモの発表会が予定されている。同社はソフトバンクとauの打ち出す姿勢とは違う何かを提示してくれるのだろうか。価格競争のフェイズに入っているMVNOを大量に擁するドコモが打ち出す方向性にも注目したい。

(山田 祥平)