山田祥平のRe:config.sys

スマホときどきPC、ところによりタブレット

 レノボ・ジャパンの「YOGA Tablet 2 Pro」は、13.3型という、タブレットとしては巨大な画面を持つAndroidタブレットだ。このサイズ、さすがに普段の持ち歩きには持て余すが、タブレットというデバイスの使い方モデルを拡げる可能性も秘めている。今回は、その使い勝手について見ていくことにしよう。

片手で支えるのはつらいが据え置きなら問題なし

 13.3型ということで重量はそれなりにある。950gというのは、独特のグリップを装備して持ちやすいといっても、片手で支えて使うにはさすがに疲れてしまう。10型クラスのタブレットが400g台の前半に達しているので、その2枚分の重量だ。スマートフォンの画面が大型化する一方で、タブレットの画面サイズは10型超が主流になっていくのではないかと見ているが、さらに大きな13.3型というのはどうだろう。

 解像度は2,560×1,440ドットで、その縦横比は16:9だ。これについては16:10でもよかったのではないかと思う。縦位置で使う場合の縦横比として使いやすいからだ。

 画面の美しさとしては十分な水準にある。さらにこの製品には、プロジェクターを内蔵しているという特徴がある。約50型サイズに相当する投影ができるのだ。この機構は面白いとは思うし、実際に試してみると、YouTubeなどの動画サイトを複数人で楽しむ用途には抜群だ。さらに、ちょっとしたプレゼンテーションにも使えそうだ。

 ただ、13.3型という大きな画面は、それだけでも存在感があり、動画を複数人で見たり、ちょっとしたプレゼンで使うときにも重宝する。それに、リビングルームを筆頭に誰かとコンテンツを共有したいような場所にはたいてい大きなTVがあることを考えるとどうだろう。プロジェクター投影にどんな価値を求めるかにもよると思うが、個人的にはプロジェクター機構を省いて重量を減らし、少しでも軽くしてよかったのではないだろうかと思う。そうすれば、片手で支えて使うときの負担がちょっとでも軽くなる。

 片手で支えるのはつらいと書いた。でも、このタブレットは横位置が前提だが装備されたスタンドで自立する。ちなみにレノボ・ジャパンでは、「スタンド」、「ホールド」、「チルト」、「ハング」の4つのスタイルを提案している。「スタンド」は立てて使うオーソドックスなスタイル、「ホールド」はグリップ部をつかむスタイル、「チルト」は若干の傾きを与えて机の上などに平置きするスタイルだ。聞きなれない「ハング」というスタイルは、スタンドをもっとも開いた状態(170度)にし、その中央に開けられた孔を使ってフックなどに吊り下げる使い方だ。色々あるが、欲を言えば、縦位置でも自立できるような仕組みがあればもっとよかったと思う。

 こうして横位置で使うことを前提にした上で音にもこだわっている。JBLのスピーカーを装備し、さらにサブウーファーまで備えている。あまり大きな期待をしてはならないが、映画などを楽しむには十分な音質だ。

没入しないでタブレットを使う

 よく考えられているなあと思うのは、この製品のスケーリングだ。解像度2,560×1,440ドットという値を誇ろうとすれば、スケーリングを低くして、大量の情報を表示できることを誇示してしまいたくなるものだが、このタブレットはそうはなっていない。フォントは小、中、大、極大の4段階に調整できるが、極大にすると大きすぎると言ってもいいほどのサイズで文字類を表示できる。

 もしかしたら、このタブレットは、コンセプトとして手元で使うタブレットというよりも、ちょっと離れて使うパーソナルTV的なところを狙っているのではないかとも感じる。TVは10フィートUIとして、画面から3m程度離れて使えることが求められるが、そこまではいかないにしても、手を伸ばせば届くところに画面があってタッチできるというのが前提のように見える。

 大画面は没入型と言われることが多いが、映画館のスクリーンほど巨大ならともかく、家庭用のTV程度のサイズではそうはならない。実際には、スマートフォンの小さな画面の方が没入しやすいくらいだ。

 つまり、13.3型というサイズは、凝視するのではなく、周りの光景に溶け込んだ画面がふとしたきっかけで視界に入るというイメージだ。リビングサイネージ的と言ってもいいかもしれない。タブレットのパーソナルな世界に没入するのではなく、もうちょっと広い視野で、かといってパブリックな存在なものではなく、まさに、リビングルームで家族が好き勝手に思い思いに手に取り、場合によっては面白いコンテンツを、傍らの誰かに見せたりもし、飽きたら元の場所に置いておくような存在だ。

パーソナルとパブリックの狭間で

 パーソナルなことはスマートフォンに任せておけばいい。でも、旅行の計画を立てるたり、終わった旅行の写真を楽しんだり、飛行機やホテルの予約をしたりといった、ちょっと込み入った作業は、もうちょっと大きな画面でやりたい。

 普通なら、傍らのノートPCを手に取ったり、あるいは、TVにMiracastでPCの画面を投影したりといったことを思いつくが、YOGA Tablet 2 Proのようなデバイスがあれば、気軽に手元のスマートフォンからコンテンツをスイッチできる。レノボは、この製品にもプリインストールされている「SHAREit」というアプリを提供し、Wi-Fi Directでコンテンツを送受信できる環境を提案しているので、それを活用するのも良さそうだ。

 Androidタブレットとして、マルチユーザーに対応しているが、外に持ち出さないというのなら、家族それぞれのアカウントを切り替えて使うのではなく、できれば、家族が共用できるようなアカウントを取得し、普段はそれを使って、パスワードなしで運用するのがいいんじゃないだろうか。

 外出時の利用がまったく無理というかというとそうでもない。例えばクルマでの移動であれば、サイズや重量はまったく気にならないだろう。カーナビとして使っても重宝するし、ドライブ中に近隣のスポットを確認したりといった用途にもいい。視認性はバツグンだ。助手席で調べた結果が表示された画面を、ドライバーに見せるといった場合も、このサイズはいい。そして、行き先をセットして、そのままナビとして使えるのだ。

 出張のお供としても悪くない。出張先のホテルでちょっとした作業をしなければならない時にも、持参しているノートPCの傍らに立てかけて、メールやSNSといったアプリの画面を表示させておけばいい。ここでも没入ではなく、ながら見を許すコンセプトが効いてくる。画面内のコンテンツを凝視するのではなく、TVを見るでもいい、雑誌をめくるでもいい、ほかのことをしながら、たまにふと画面に目をやったときに、そこで起こっていることを知るといったイメージだ。スリープするまでの時間設定も最大30分と通常のAndroidタブレットよりも長いところにも、そんな使い方を想定している気配を感じる。

外には持ち出さないからこその点けっぱなし

 スマートフォンと同様に、リビングルームのTVも大型化の一途を辿っている。画面落差が大きすぎるようになってきているのだ。13.3型画面は、その間の存在として、これまでとはちょっと異なるさまざまな使い方のモデルを提案できるのではないかと思う。実はこの製品、海外向けとしてWindows版もアナウンスされている。仕事用途で使うにはWindows版は魅力だが、カジュアルな使い方をするならAndroid版の方がいいかもしれない。

 タブレットはiPadの登場以降、その存在感がどんどん高まってきた。その一方で、意外に持ち出されていないという事実も突き付けられている。もちろん、電車の中でもタブレットでゲームや電子書籍を楽しむ姿を頻繁に見かけるようになってはいるのだが、その背後には、持ち出されず、自宅で待機しているタブレットが山のようにあるということだ。

 だったら、持ち出されないことを前提にしたタブレットがあってもいいんじゃないか。この製品が狙っているのはそこじゃないか。そして、スマートフォンのパーソナルな領域にはあえて踏み込まずに、うまくスマートフォンを補完する新たな役割をかって出ようとしている製品だ。

 誰かにパーソナライズされた情報でもなく、かといってパブリックな情報でもない。ちょうどリビングルームのTVを見るとでもなく見ないとでもなく、点けっぱなしにしておくようなあの感じ。そんな役割を担うタブレットとして、この製品は、きっと新しいスマートデバイスの世界観をもたらしてくれるはずだ。

(山田 祥平)