山田祥平のRe:config.sys

いつまで続くモバイルルーターの時代

 モノのインターネットの時代には、個々のウェアラブルデバイスが単独でインターネットに接続し、互いにコミュニケーションするようになる。スマートフォン(スマホ)やPCがハブになって介在している今の状況も大きく変わるだろう。だが、個々のデバイスは、どうやってインターネットに接続するのだろう。これからのパーソナルインターネットゲートウェイのあり方について考えてみた。

auが示唆するこれからのインターネット接続サービス

 ソニーの「VAIO Duo 13」は、無線WANとしてauの高速通信サービス「4G LTE」に対応したPCだ。本体にはSIMスロットが装備され、出荷時にauのSIMがあらかじめ装着されている。そのため、この製品を購入したユーザーは、最短で、PCを買った当日からこのサービスを利用できる。

 接続プランは2種類ある。「LTEフラット for DATA(m)」と「先取り!データシェアキャンペーン」がそれだ。特に後者は、これからのキャリアが、エンドユーザーのインターネット接続をどのようにしていきたいと考えているかを象徴する野心的なプランだといえる。

 このプランは「4G LTEスマートフォン」や「4G LTEタブレット」を使っているユーザーが、2台目のデバイスとして「4G LTE対応PC」や「4G LTE対応タブレット」を使うと、2台目の基本使用料が最大2年間1,000円/月になるというものだ。

 早い話が、auのスマートフォンユーザーであれば、VAIO Duo 13のインターネット接続を1,000円/月で利用できるということになる。つまり、1,000円を追加することで、スマートフォンで7GB/月、VAIOで7GB/月を利用できるというわけだ。ただし、ISP料金としてLTE NET for DATAの500円/月が別途必要になるので、実質的には1,500円/月となる。

 なぜ「先取り!」なのかというと、このプランは、2014年6月以降「データシェアサービス」に移行する予定になっているからだ。データシェアではスマートフォンの7GBと追加デバイスの2GB、合計9GB/月を2台のデバイスで共有するようになる。

 いずれにしても、このVAIOのように、PCが他のデバイスに頼らず、単独でインターネットに接続できるというのは極めて便利だ。しかも、VAIO Duo 13は、InstantGo対応機なので、WAN接続のテザリングをオンにしておけば、スリープ中にも他のデバイスからその接続を共有できる。PCだけに大容量のバッテリを搭載しているので、テザリングによるバッテリ負担を心配する必要はほとんどない。

 これまで、WAN対応したPCの多くは、ドコモのネットワークを使うものがほとんどだった。WAN対応機では、ドコモのプランを利用できるのはもちろん、日本のMVNOのほとんどすべてはドコモのネットワークを使っているため、1,000円/月以下で利用できるサービスを利用することで、コストパフォーマンスの高いインターネット接続をPC単体で実現できてきた。同様のことが、3G、LTE対応タブレットデバイスでも言える。

 VAIO Duo 13とauのコラボレーションは、この状況に、一石を投じるものであると同時に、今後の各種デバイスのインターネット接続サービスが、これからどのようになっていくのか、サービスをどうしていきたいのかを示唆するものだともいえる。

ボリュームが解決するコスト問題

 WAN接続機能を内蔵したPCが、いかに便利か。それを教えてくれたのはWiMAXだ。なにしろ、ノートPCの液晶を開くだけで、すでにインターネットに接続した状態になっているのだ。一時はすべてのPCにWiMAXが内蔵されればいいのにとまで思っていた。

 だが、WiMAXを強力に推進していたIntelがハシゴを外した形になり、すべてのPCにWiMAXという夢は叶いそうになくなった。

 もちろん、コストの問題も立ちはだかる。WiMAX内蔵PCを購入したとしても、実際にWiMAXを契約するユーザーは、それほど多くはなかったと聞いているし、それに代わる3G、LTEなどのWAN対応もなかなか進まない。対応させるためにはどうしても、そのためのコストを上乗せしなければならない。通信デバイスそのもののコストはもちろん、キャリアの認証を取得するだけでも、相当のコストがかかるだろう。それが売価に直結する。だから、ユーザーは、少しでも安いWi-Fi専用モデルを選んでしまうのだ。

 ただ、明るい動きもある。

 iPadやiPhoneのように、FD-LTEとTD-LTEに両対応し、かなり多くの周波数帯に対応することで、SIMロックの問題は別として、全世界でハードウェア的に共通のものを提供できる可能性が出てきたこともその1つだ。そのボリュームメリットで、WAN内蔵のためのコストが圧縮されるかもしれない。

 さらに、WiMAXにも活路が出てきた。放って置いてもWiMAX対応の端末が出てくる可能性があるからだ。いわゆる勝手端末の登場だ。ご存じの通り、WiMAXは、WiMAX2+への移行の真っ最中だが、それはすなわちTD-LTEへの移行ということでもある。UQコミュニケーションズの胸先三寸ともいえるが、これらいわゆる勝手端末にサービスを開放するようなこともありえない話ではない。

 ハードウェアのベンダーにとって、通信事業者は通信網であると同時に販売網でもある。そのことは、ビジネス上、極めて重要な事実だ。従って、SIMロックについての問題はまだ残るものの、世界がLTEに向かって動いている中で、機能を搭載するという点でのハードルはコストを含め、次第に低いものになっていきそうだ。

モバイルルーターは過渡期のデバイス

 一方、今、モバイルルーターはインターネット接続共有のための有効な手段となっているが、早晩、スマートフォンのテザリングに置き換わっていくように思っている。個人の通信を集約するという点で、肌身離さず持ち歩くスマートフォンが、すべてのインターネット接続を引き受けるという使い方も現実的なものになってきている。

 スマートフォンのほとんどすべてがテザリングをサポートし、さまざまなデバイスをWi-FiやBluetoothでぶら下げることができる。スマートフォンのバッテリ駆動時間が伸びてきたことで、ずっとテザリングをオンにしたままで丸1日持ち歩いても、バッテリの残り容量を心配する必要もなくなりつつある。

 モバイルデータ通信を1つのデバイスに集約し、そのインターネット接続を共有する場合、残っている懸念は、現在各社が7GBを上限としているデータ転送量だ。1つの接続に対して複数のデバイスをぶらさげれば、使い方によっては7GBはアッという間だ。だからこそ、制限なしのWiMAXがサービスとして高く評価されているし、WiMAX2+も、その方針を維持して欲しいと望まれている。

 本当は、すべてのデバイスが独自に通信できるに越したことはない。それが理想だ。VAIO Duo 13を使ってみれば実感できるし、過去においてもWiMAX内蔵PCや、3G、LTE対応タブレットなどで感じてきた。

 でも、すべてのデバイスでそうなって欲しいと思っても、それがなかなか叶わない。auのデータシェアプランは、将来のマルチデバイス時代を先取りしたものだともいえるが、なかなかどうして、ユーザーはデバイスごとに複数の契約をすることに躊躇する。たとえ1,000円だって惜しいというのが人情だ。

 さらに、データ通信のためだけの専用のデバイスとしてモバイルルーターを携行し、そのために毎日バッテリを充電し、カバンやポケットの中の荷物を1つ増やすという手間をかけられるのは、ほんのわずかな層だけだろう。昨日はノートPC、明日はタブレット、今日は飲み会があるのでスマホだけ、というように、その日に応じて持ち歩くデバイスが異なる時代だ。でも、モバイルルーターの持ち出しを忘れることはあっても、スマートフォンは必ずポケットに入っている。だとすれば、そこに通信を集約したいと考えるのは当たり前だ。

 モバイルルーターを持ち歩くというのは、「スマホのバッテリがもたない」、「転送量上限がある」という2点を回避するためだ。それが解決するなら、キャリアとの別途契約が必要なモバイルルーターなど使いたくはない。WiMAX2+は、現時点でモバイルルーターが必須だが、今後、対応スマートフォンが登場することは間違いなく、そこでビジネスチャンスを拡げることになるだろう。

 あらゆるデバイスが無線WANをサポートするのが良いか、スマートフォンに接続を集約すれば十分なのか。人の多い場所でWi-Fi接続が困難になるといった懸念はあるものの、単独での無線WANサポートが難しいであろうIoTの時代の到来が、すぐそこにやってきている。そんな今、すべてのハブはスマートフォンになるというのが現実的な解となりそうだ。キャリアには、こうした時代にマッチする、魅力的でリーズナブルなプランを用意することを真剣に考えてほしいと思う。

(山田 祥平)