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元麻布春男の週刊PCホットライン

'99年を振りかえり、来年のメモリ動向を考える


■出荷遅れが続いた'99年

 '99年を一言で表せば、来る来ると言われていたものが来なかった年、ということになるだろう。空から恐怖の大王が降りて来なかったのはご同慶の至り? としても、製品スケジュールの遅延やロードマップの狂いは、ほめられたものではない。つい先日、製造にゴーサインが出たというニュースが流れたWindows 2000も、本来は'99年に出荷される予定だった。しかし予定は大幅に遅れ、結局出荷されるのは2月18日。何とか'99年度内に間に合ったのは、これまたご同慶の至りというところだろうか。

 ハードウェアで目算が狂ったものの代表は、Direct RDRAMだ。対応チップセットであるIntel 820の2度に渡る出荷延期が、完全に出鼻をくじいた。ようやく11月に 820がリリースされたものの、Direct RDRAMを用いたメモリモジュール(RIMM)の価格があまりにも高く、立ち上がりは鈍い。AKIBA PC Hotline!によると、PC800対応128MB RIMM(ECC対応)の平均価格が96,300円であるのに対し、PC100 SDRAM 128MB RIMM(ECC対応)の平均価格は18,800円。価格差は5倍を超える。これだけの差があっては、普及などするハズがない。だいいち今時9万円もあれば、Celeron搭載のPC一式がディスプレイ込みで買えるのである。


■RDRAM普及のネックは高価格

 なぜRIMMの価格がこれほど高いのか、その理由は良くわからない。特に汎用DRAMの価格は、市場で決まるものであり、単純にコスト(製造原価)だけで決まるものではないため、どの段階で高値がついているのかは不明だ。しかし、直販メーカーのデルが、PC本体購入時のメモリオプションとして設定しているRIMM価格(通常、最も安い)が、128MBで66,000円であることを考えると、Direct RDRAMの大口渡し価格もかなり高いものと推定される。

 はっきり言って、この価格水準であれば、Direct RDRAMへの移行は実現しないだろう(最大の問題は、技術やコストではなく価格である)。820ベースのマザーボードとして、MTHチップを併用することでSDRAM DIMMに対応したCC820を先行させたことから、一方の当事者であるIntel自身もそう考えていることがうかがえる。RIMMの価格は、IntelやRambusも直接コントロールできない要素に違いない。

 今後Direct RDRAMは、価格が劇的に安くなって普及するというシナリオを描くか、高いまま普及せずに終わるか、のどちらかしかないと思う(今の価格のまま広く受け入れられることは考えられないし、安くなったのに普及しないとも考えられない)。つまり販売店にとってRIMMは、暴落する(在庫に差損が生じる)か、消えて行く(在庫が不良在庫となる)か、のどちらかしかないわけで、在庫を持ちたくない商品の筆頭だと言っていい(当然、ユーザーも同じリスクを負う)。これもRIMM普及の足を引っ張る可能性がある。

 もう1つ厄介な要素は、現在のPCにおいてメモリが必ずしも性能を限定する要因、ボトルネックになっていない、ということだろう。純粋に技術的にはメインメモリがボトルネックになっている側面もあるかもしれないが、そのボトルネックを露呈させるアプリケーションが普及していない。だからこそ、7万円や8万円といった安価なPCが売れるのである。通常のオフィスアプリケーションを使っている限り、CeleronとPC66 SDRAMのシステムでも十分な性能が得られる。P6コアベースのプロセッサを使っている限り、メインメモリに高価なデバイスを使うのは合理的ではない。AGPは高価な(高速な)メモリの恩恵を受けられる可能性のある技術だが、AGPメモリが不可欠なキラーアプリケーションなど、(たとえゲームですら)ほとんど存在しないのが実情だ。


■DDR SDRAMにも可能性が

 だからといって、いつまでもPC100 SDRAMで良いと言っているわけではない。来年後半にはデビューするであろう次世代の32bitプロセッサ(Willamette)以降のプロセッサは、高速なメモリサブシステムが必要になる可能性がある。だが、そこまで次世代メモリの普及タイミングが遅くて良いのなら、Direct RDRAM以外の選択肢があるかもしれない。ビデオグラフィックスメモリとして使われ始めたDDR(Double Data Rate)メモリがその選択肢だ(今のところDDR SGRAMが用いられているが、DDR SDRAMもすでに量産されている)。これまでは、DDR SDRAMは到底次世代のPCには間に合わないと思われてきたが、ここにきて急速に規格化が進んでおり(その一端はDDRの規格化を推進するAdvanced Memory International Inc.のWebサイト、http://www.ami2.com/等でもうかがえる)、来年後半で良ければ間に合うかもしれない、と期待させるまでになっている。

 もちろん、現時点でDDR SDRAMをPCのメインメモリに使うことはメーカーの試作レベルで、実際に商品として購入可能なDirect RDRAMとはまだまだ大きな差がある。スケジュール的に先行していることに加え、Intel製チップセットによるサポートなど、Direct RDRAMの方が断然有利であることに変りはないが、価格がこうした利点のすべてをふっ飛ばしてしまいかねない。現時点でDDR SDRAMの価格は不明だが、GeForce 256ベースのビデオグラフィックスカードのSDRAM版とDDR SGRAM版の価格差が32MBあたり約3,000円と、思った以上に小さいことから、低価格を期待してしまうのである。

 DDR SDRAMは、RDRAMに比べバス幅が広く(=信号線が多い)、ノイズ等の点でよりシビアだと思われるが、今のRIMMの価格なら、DDR SDRAMベースのマザーボードを6層基板で作っても、4層基板のRIMMシステムより、トータルで安価になるだろう(AMI2では、4層基板でDDR SDRAMベースのシステムが実現できるとしているが)。果たして2000年はDirect RDRAMの年になるのかどうか。繰り返しになるが、そのカギはどの時点で価格がどれぐらい下がるか、にかかっている。

 最後にもう1つ、来る来ると言われながら来ないものを予想しておこう。それは、Y2K問題にともなう大きな社会問題だ。Y2K問題による混乱が全くないということもないのだろうが、一部で予想されているような大問題は起きないような気がする。また、起こって欲しくない、ということで、'99年を締めくくりたい。来年もよろしく。

□関連記事
鈴木直美の「PC Watch先週のキーワード」
・Direct RDRAM
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980610/key33.htm#Direct_RDRAM
・DDR SDRAM
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990121/key61.htm#DDR

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('99年12月22日)

[Text by 元麻布春男]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp