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第26回 : サービス中心のモバイル環境がやってくる



 この連載の第9回「モバイル向けのポータルを」第22回「要約することの必要性。モバイルにはモバイル向けのサービスを」という記事を書いていたのだが、どうやら企業向けにはサービス中心のモバイル事業が立ち上がりそうだ。

 今日の午後一番に行なわれたMicrosoftとNTT DoCoMoが出資するジョイントベンチャー「モビマジック」の発表は、無線通信網を通じて携帯端末に最適化したワイヤレスアクセスのサービスを提供していくのだという。MSNではMSN Mobileというサービスを開始している。それとは別に、3月にはMicrosoftとNTT DoCoMoの提携が発表されていたのだが、様々なパズルのピースが組み合わさるように新しいサービスを提供する会社が、これほど早期に誕生するとは思わなかった。


■ いつでも、どこでも、最新の情報にアクセス

 今回の発表によると、MicrosoftとNTT DoCoMoはお互いに50%づつ出資し、モビマジック株式会社を設立。役員も同じ人数を出し、モバイル向けの情報サービスを準備し、将来的に商用サービスを提供する予定だ。

 サービスの内容はモバイルアクセス用のデータセンターを構築し、データセンターを企業の情報ネットワークに接続することにより、無線通信網に最適化した電子メール、スケジュール、住所録などのグループウェア、および顧客情報や製品情報などのイントラネットアプリケーションの環境をユーザーに提供するというもの。社内に情報インフラを持たない企業向けにも、Exchange 2000(Windows 2000対応の次期Exchange)によるホスティングサービスを提供する予定という。
 また米国ではすでに立ち上がっているMSN Mobileを日本でもサービスインし、情報アクセスを行なうためのカスタマイズ可能なポータルサービスとして利用する。MSN Mobileでは、モバイルユーザー向けに最適化した経済および株式情報、レストランガイド、電車の経路案内、時刻表といったサービスへのアクセスと、企業内データへのアクセスをシームレスに利用できる。

 サービスへのアクセスは、マイクロブラウザを内蔵するPHS/携帯電話、パームサイズPCやハンドヘルドPCなどのWindows CEをベースとする携帯端末、Windowsが動作するノートPCから行なう。当初は64Kbps対応のPHSを通信インフラとして想定するが、将来的にはPDCやPDC-P、さらにW-CDMAなどワイヤレス通信のインフラを拡大していく。
 マイクロブラウザを内蔵した電話機、Windows CEデバイス、ノートPCは、それぞれ異なる表示環境を持つわけだが、それらデバイスの能力の違いはデータセンター側で吸収し、それぞれの端末に最適化して表示されるようになる。
 情報は唯一、社内のグループウェアもしくはホスティングするデータセンター内サーバに蓄積され、それをあらゆる端末でアクセスできるため、外出先と社内とで参照できる情報が異なってしまう、あるいは外出先からは社内情報にアクセスできず仕事にならない、といった状況を避けることができる。最近は様々なアプリケーションにおいて、データを同期させてポータビリティを持たせる技術が利用されるが、そうした技術に対してもリアルタイム性の面で異なる魅力を提供するものになるだろう。
 いつでも、どこでも、最新の情報に、簡単にアクセスできる環境が整うならば、これは大変歓迎すべきことだ。個人的には、モバイルコンピューティングは道具に依存するのではなく、モバイルユーザーに対するサービスこそに価値があると考えている。つまり、ノートPCであっても、携帯電話であっても、もしくは携帯端末であったとしても、道具そのものは好みや自分がおかれている環境、仕事や生活のスタイルで選べばいい。重要なのは、それらをつかって、どのような情報にアクセスできるか。もしくはどのようなサービスを受けることができるのかだ。


■ モビマジックは始まりでしかない

 もっとも、モビマジックが全く新しいコンセプトのサービスを提供する、非常にユニークなコンセプトを持つ会社だと持ち上げるつもりはない。インターネット、ワイヤレス通信のインフラが整い、携帯端末や携帯電話の能力が向上するなど、周辺の状況がそろってきたからこそモビマジックが登場したのであって、考え方そのものは新しいとは思わない。

 しかし状況がそろったタイミングで、素早く将来の市場が期待されるサービスに目を付けるところは、Microsoft、NTT DoCoMoともにさすがだ。合弁会社設立の舞台裏までは知る由もないが、モビマジックが謳うビジョンよりも、これだけのスピードでサービスを提供する事業を立ち上げようとする対応の早さを強く感じる。
 モビマジックが提供するサービスは、当面企業向けを視野に入れたものであり、個人向けサービスは(将来的な視野には入っていたとしても)考慮していない。記者会見では個人向けサービスについて「iモードで提供されているような個人向けサービスも」とのコメントが聞かれたが、会場での雰囲気を読みとる限り、まずは企業向けサービスで事業を立ち上げることが優先される。
 モビマジックが成功を収め、将来的に個人向けサービスへと発展するか否かは神のみぞ知ることだが、同様の考え方でモバイル向けサービスおよびそのインフラ環境を提供するベンダーは今後登場してくる可能性はある。もちろん、そのためには企業向け事業がきちんとした形で成立し、インフラの整備が進むことが前提となるが、サービスに関わるコストが下がり、ノウハウが蓄積されてくれば、個人向けサービスも十分に可能性があると思うからだ。

 その中には、個人ベースでも仕事と趣味、家庭内の情報、ショッピングなど、様々なサービスに対して、あらゆる機器からアクセスできるものも登場するかもしれない。家庭内のPC、携帯電話、デジタルテレビ、PC、そして個人向け携帯端末。あらゆる機器が、ネットワーク上で提供される同一の情報ホスティングサービスにアクセスできるようになる時代は、そう遠くない未来のことかもしれない。

□マイクロソフトのニュースリリース
http://www.microsoft.com/japan/presspass/releases/102699mobi.htm
□NTT DoCoMoのニュースリリース
http://www.nttdocomo.co.jp/new/contents/99/whatnew1026.html

[Text by 本田雅一]


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