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ノートPCを買おうと思っているなら、ちょっと待った方がいい。ノート向けMPUは、今後半年で劇的に高クロック化し、さらに価格もあっと驚くほど下落するからだ。
IntelのモバイルMPU攻勢の第1弾は、10月末のモバイルPentium IIIプロセッサ(Coppermine:カッパーマイン)だ。Coppermineは450/500MHzで登場、FSB(フロントサイドバス)も66MHzから100MHzに、メモリも66MHz SDRAMからPC100 SDRAMへと移行する。つまり、最高クロックが400MHzから500MHzに上がった以上に、システム性能が向上する可能性がある。
Coppermineは0.18ミクロンのプロセスで製造するため消費電力を下げられる。しかし、10月のバージョンは、残念ながらそうはならない。それは、コア電圧が当初予定されていた1.35Vではなく、1.6Vでの提供になったからだ。これは、8月の段階では、1.6Vをかけないと500MHzまで動かないマスクで行くしかないと踏んでいたためだろう。
1.6Vになって困るのは発熱だ。OEM筋によると、500MHz版の熱設計電力(Typical)は11Wを越えるという。従来のモバイルPentium IIプロセッサノートの熱設計電力は10W程度だった。つまり、最初のモバイルPentium IIIは「速いけれども熱い」MPUで、Pentium IIノートと較べて、原理的にはより冷却が必要になり、バッテリ駆動時間も短くなるわけだ。米国で主流の比較的筺体が大きなノートPCでは対応は容易だろうが、日本のように薄型ノートが主流の場合は対応がなかなか難しいところだ。
そのため、Intelでは低消費電力版として1.35Vにコア電圧を落とした400MHz版Coppermineを出すようだ。500MHz版の消費電力からこの低電圧400MHz版の熱設計電力を逆算すると、約6.5Wとなる。これは、PCメーカーの支持を得られずにいるモバイルPentium II(Dixon:ディクソン)の低電圧版266MHzよりも少し電力が多いだけで、日本のA4薄型ノートに十分搭載できる数値だ。薄型ノートはこちらに流れることになるだろう。
●来年頭にはGeyservilleで650MHzへ
だが、この状況は長くは続かない。Intelは早くも来年1月ごろにはモバイルPentium IIIの600/650MHz版を出すと言われているからだ。
600/650MHzは、新テクノロジ「Geyserville(ガイザービル)」を使ってクロックを向上させるバージョンだ。Geyservilleは、AC電源に接続時にはクロックと電圧を上げて性能をアップし、バッテリ駆動時にはクロックと電圧を下げて消費電力を抑える。OEMメーカーからの情報によると、コア電圧は、バッテリ駆動時に1.35Vで500MHz、AC電源時に1.6Vで600/650MHzになるという。熱設計電力は、計算上は500MHz/1.35V時が8W、650MHz/1.6V時が14.5Wになる。ノートPCメーカーは、すでにIntelと協力して、Geyserville対応で16Wの熱設計電力対応の筺体と冷却の設計を進めている。筺体が大きめのノートがほとんどになるだろう。
また、Intelはこの時点で1.35V版の500MHz版も投入するらしい。Geyserville版600/650MHzの電圧を見てわかる通り、この時点でのCoppermineのダイは、コア電圧を1.35Vに落としても十分500MHzで駆動できるようになっている。そもそも、1.35V版こそ、当初Intelが予定していた500MHz版で、夏前までは、ノートPCメーカーもこれをターゲットに開発を進めていたはずだ。熱設計電力は8Wなので、薄型ノートも含めて多くのノートに載せられるようになるだろう。日本では、Geyservilleよりこちらの方が支持を集めるかもしれない。また、1.6V版の500MHzは、すぐに廃れてしまう可能性が高い。
Intelはこのように1.35V低電圧版を提供し続ける。しかし、今年2月のIDFで明らかにしたような1.1Vの超低電圧版を来年前半に投入するという野心的なプランは、今のところないようだ。当初のバージョンが1.6Vでの提供に変わってしまったことでも明らかなように、Intelは低電圧化で苦しんでいるようだ。1.35Vでも、500MHz版になるとA4薄型ノートがぎりぎりで、性能を落とさずに薄型/ミニノートに入れ込むことはなかなか難しい。また、Intelは昨秋のIDFで、2000年のミニノートの熱設計電力を5Wに抑えるという公約を掲げていたが、これも実現できそうにない。
●来年中盤には750MHz、後半には133MHz FSBも
Intelは、来年前半にわたってGeyservilleによるクロック向上を続ける。第2四半期に700MHz(バッテリ時550MHz)、第3四半期に750MHz(同600MHz)に引き上げると見られる。熱設計電力は、計算上は550MHzが1.35Vで8.8W、700MHzが1.6Vで15.7Wになる。依然として16Wの枠に収まる。しかし、750MHz時に1.6Vだと16Wを越えてしまう。この時点で、熱設計ガイドラインを変えるか、電圧を落とすか、何らかの変更が必要となるだろう。
750MHz発表時のデスクトップPentium IIIの上限は800MHzで、ノートとデスクトップの差はほぼなくなる。さらに、今の予定では来年後半には133MHz FSBのノートMPUも提供することになっている。クロックも、さらに引き上げることが可能かもしれない。また、Intelは来年中盤には、600MHz/1.35V駆動でGeyservilleなしの設定のバージョンも出すようだ。
●600MHzへ向かうモバイルCeleron
Pentium IIIが750MHzへ向けて駆け上がる一方、モバイルCeleronも0.18ミクロン化で600MHzへ向かう。業界関係者からの情報によると、Intelは0.18ミクロン版Celeron(Coppermine-128K)を、来年頭に450/500MHzで投入するという。Coppermine-128Kは、Pentium III(Coppermine)と同じダイ(半導体本体)で、256KBの2次キャッシュのうち半分を使えないようにしたバージョンだと見られている。この時点で、FSBは100MHzになり、ストリーミングSIMD拡張命令(SSE)も搭載されるようだ。つまり、FSBが同じになるため、モバイルではPentium IIIとCeleronの差別化の要素が少なくなる。
では、どうやって差別化をするのか。それは単純明快だ。GeyservilleありがPentium III、GeyservilleなしがCeleronになる。また、モバイルCeleronは基本的に1.6Vで提供するので、熱設計電力も大きくなる。
現在、モバイルCeleronはPentium IIをクロックで追い抜いてしまっているが、この不均衡はPentium IIIの登場で解消される。CeleronはCoppermine-128Kになり、来年頭に450/500MHz、第2四半期に550MHz、第3四半期に600MHzと上がって行くと言われている。計算上の熱設計電力は、500MHzで11W、600MHzでは14.5Wにものぼる。薄型ノートには入らない数値だ。また、消費電力も多くなるはずで、モバイル向けとはあまり言えないノートになりそうだ。
すでに現在の466MHzの段階で、Intelは、モバイルCeleronの熱設計のガイドラインを15Wに変えているという。Intelは、Celeronを省スペースデスクトップ的な使い方をするノートPC向けと割り切ったようだ。もっとも、ややこしいことに、モバイルCeleronでも低電圧版を提供する。1.35Vで、400MHz版と500MHz版をPentium IIIの低電圧版より後に提供する見込みだ。こちらは、低電圧版Pentium III搭載ノートの下位モデルで使われることになるだろう。
●500MHz以下のモバイルMPUはバーゲンに
急激なモバイルMPUの高クロック化。それは、同時に低価格化ももたらす。業界筋の情報によると、Intelは高クロック品がどんどん出てくるにつれて、その下のクラスのMPUの価格を、バーゲン価格に引き下げるらしい。例えば、モバイルPentium III 500MHzは500ドル以上で登場すると言われているが、それが来年頭には半額に、さらに来年第2四半期には200ドル以下になってしまうと言われている。モバイルCeleronも同じで、初めから500MHzが150ドル以下、450MHzが100ドル以下のバーゲン超特価で登場するらしい。
これまで、IntelのモバイルMPUは価格が高かった。それは、熱設計のバリヤがあるため、できるだけ低い電圧でできるだけ高クロック駆動できるチップを選別しなければならなかったからだ。そのため、高クロック化が難しく、高クロック品の採れる量も少ない場合があった。しかし、Geyservilleのおかげで状況は変わり、モバイルでも高クロック品をどんどん出せるようになる。そのため、一気に製品層が上へと厚くなり、価格もガガっとスライドするというわけだ。これを考えると、ノートPCの買い時は来年、それもGeyserville版Pentium IIIが発表されてからということになりそうだ。
('99年9月29日)
[Reported by 後藤 弘茂]