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Athlonに対抗できるのか?
~Pentium III 600MHzとCeleron 500MHz~



 インテルの最新CPUであるPentium III 600MHzとCeleron 500MHzが8月2日に正式発表されたが、それに先立つ7月31日には秋葉原のパーツショップでは国内正規代理店公認のフライング販売が行なわれたのは先週のAKIBA PC Hotline!でお伝えした通りだ。今回はこれら2製品の投入された背景と、そのお買い得度などについて考えていきたい。


●ショートリリーフのPentium III 600MHz

 今回リリースされたPentium III 600MHzは、「登板予定が無かったのに、急遽登板したショートリリーフ」という表現がぴったり来るだろう。なぜかと言えば、今年の初め頃のインテルの青写真では、600MHzのPentium IIIを製造プロセスが0.18μmのCoppermineコアおよび、FSB133MHzの設定で出荷する予定だったからだ。

 本誌読者にはCoppermineの名前はおなじみだと思うが念のために解説しておくと、Coppermineは製造プロセスを0.18μmに微細化した次世代Pentium IIIのコードネームだ。Coppermineは現在発売されている0.25μmのKatmaiコアのPentium IIIに比べると、L2キャッシュの容量が半分の256KBになるもののCPUコアに内蔵され、動作クロックはKatmaiコアの倍となり、CPUの内部クロックと同等になる(KatmaiコアはCPUコアクロックの1/2)。容量が128KBと小さいながらも、一般のビジネスアプリケーションでは同クロックのPentium IIIにせまる処理速度を出すL2キャッシュ内蔵のCeleronの例を見てもわかるように、L2キャッシュの動作速度を上げることは、一般的なビジネスアプリケーションの処理速度に大きな影響を与える整数演算性能を大きく向上させる。このため、Coppermineの登場により、Pentium IIIの整数演算性能は大幅に向上すると見られており、期待しているユーザーも多かった。だが、「Pentium IIIの設計段階で若干コアを手直しする必要が生じた」(インテル日本法人)ため、結局11月に延期になってしまった(このあたりの経緯や理由などについては後藤氏の「後藤弘茂のWeekly海外ニュース」が詳しいので、そちらを参照していただきたい)。

 また、FSBのクロックを133MHzにあげる計画もコードネームCaminoの名前で知られるIntel 820チップセットの出荷予定が6月から9月へ変更になったおかげで、これまた大きな狂いを見せた。現在のインテルのミッドレンジ、ハイエンド向けのチップセットであるIntel 440BX AGPsetはFSB 133MHzには対応しておらず、FSB 133MHzに対応するのはIntel 820以降だと言われている。本来であれば、6月にIntel 820がリリースされていたはずなので、FSB 133MHzに対応したCPUも既にリリースされているはずだった。しかし、前述のようにIntel820は9月に出荷延期となり、対応する(インテルの)チップセットがない以上、FSB 133MHzのCPUをリリースすることはできない。

 だが、Coppermineコアの出荷やFSB 133MHzへの対応を延期したからといって、インテルも立ち止まっている訳にはいかない。なぜならば、Pentium IIIにはこれまでにはなかった強敵が登場している。言うまでもなく、AMDのAthlonだ。AthlonはこれまでK7の名前で呼ばれていたCPUで、6月24日にOEM向けの出荷が正式にアナウンスされており、InfoWorld Electricの報道によると正式なアナウンスが月曜日に行なわれ、そこでインテルばりのブランド戦略などが明らかにされるという。AMDは6月24日のプレスリリースの中で、Athlonの製品ラインが600MHz、550MHz、500MHzという3製品であることを明らかにしており、対抗上インテルも600MHzのCPUを出さざるを得ないのは言うまでもない。

 そこで、リリースされたのが今回紹介するPentium III 600MHzだ。Pentium III 600MHzはKatmaiコアの0.25μmプロセスのCPUコアを採用しており、FSBは100MHzに設定されている。つまり、これまで発売されてきたPentium III 450MHz、500MHz、550MHzの単なる高クロックバージョンと言い換えてもいいだろう。非常に強力なインパクトを持っている新世代のCPUであるAthlonに対して、あまりインパクトのない現在の世代の高クロック版で対応せざるを得ないあたりが、インテルの苦しい立場を象徴しているとも言えるだろう。


●Mendocinoコアの正常進化版Celeron 500MHz

 従来CPUの高クロック版という意味ではCeleron 500MHzも同様であると言えるかもしれない。CPUコアには128KBのL2キャッシュをCPUコアに統合した、0.25μmプロセスのMendocinoコアを採用している。FSBも従来と同じように66MHzのままで、噂されていた500MHzからFSBが100MHzになるという話はどこかへ行ってしまったようだ(上位モデルであるPentium IIIが100MHzにとどまっているのだから、もし本当にそういう予定であったとしても変更されてしまったのは無理もない話だと言える)。

 ただ、ライバルであるAthlonにやや遅れをとっていて、後手後手の投入であるように思えるPentium IIIと比較すると、Celeron 500MHzの投入はライバルを引き離す前向きな存在に思える。なえならば、ローエンド向けのセグメントに投入されているCPUで、500MHzを投入できているのはインテルのみだ。AMDのローエンドCPUの最高クロックは475MHzのK6-2だし、性能面ではL2キャッシュをCPUコアに統合したK6-III/450だろう。後述するが、Celeron 500MHzは性能面ではK6-III/450に匹敵する性能を持っており、値段はK6-III/450MHzよりも安価である。このことからも、これまでAMDに対して遅れをとっていると言われていたインテルのローエンドCPUだが、既にAMDと互角あるいは上回ることができているといえるだろう。

左がCeleron 300MHz、右がCeleron 500MHzのCPUクーラー
 なお、Celeron 500MHzは前述のようにFSBのクロックは66MHzなので、倍率は7.5倍になっている。これでは事実上クロックアップはかなり難しいと考えていいだろう。例えば、100MHzにすると、750MHzになってしまいなんと250MHzものクロックアップになる。いくらCeleronがクロックアップの耐性が高いといっても、これだけのクロックアップはまず不可能だ。ABITのBP6のように66~100MHzの間のFSB設定が多く用意されているマザーボードを使えば、もう少し成功確率があがる可能性が高いがかなり難しい。むしろ、333MHzなどより低いクロックのCeleronを入手した方が成功確率は上がるだろう。余談だがCeleronのリテールパッケージについているCPUクーラーはCeleron 466MHz以降はヒートシンクがやたら巨大な新タイプに変更されている。わざわざCPUファンをコストのかかる大きなタイプに変更するからにはそれなりの理由(発熱量が大きく、従来のCPUクーラーでは冷却できない)がある訳で、そうでなければ、コストアップになる新CPUクーラーは採用しないだろう。そうしたことからもCeleron 500MHzにはあまりクロックアップは期待しない方がいいだろう。


●Pentium III 600MHzと550MHzの差は5%以下

 今回はPentium III 600MHzとCeleron 500MHzのパフォーマンスをチェックするために、Officeスイートなどのビジネスアプリケーション、CADやフォトレタッチなどのハイエンドアプリケーション、動画再生などのマルチメディアアプリケーション、そして3Dゲームに代表されるゲームアプリケーションという4種類のアプリケーションベンチマークを利用して性能を計測してみることにした。今回は比較のために、Pentium IIIの各クロックとCeleron 333MHz以上の各クロック、K6-III/450を用意した。

 ビジネスアプリケーションにおける処理速度を計測するのに利用したのがZiff-Davis,Inc.のアプリケーションベンチマークテストであるWinstone 99 Version 1.1に含まれるBusiness Winstone 99だ。Business Winstone 99はMicrosoft Office 97、Lotus SmartSuite(日本ではSuperOfficeに相当)、Netscape Navigatorなどの著名なビジネスアプリケーションの本物のプログラムコードを走らせるテストで、ユーザーの体感に近い数値を出すと定評がある。Business Winstone 99の結果を見る限りではPentium III 550MHzとPentium III 600MHzの違いは4.6%程度とさほど大きくない。同じように、Celeron 500MHzに関しても5.4%とやはり大きくないと言っていいだろう。

 続いて同じくWinstone 99 Version 1.1に含まれるHigh-End Winstone 99をテストした。High-End Winstone 99もPhotoshopやPremiereなど実在のフォトレタッチソフトや動画編集ソフトなどのプログラムコードを走らせてパフォーマンスを計測するアプリケーションベンチマークで、プロフェッショナルユースのアプリケーションを使う時のユーザーの体感に近い結果がでると定評がある。こちらでも同じように、Pentium III 600MHzと550MHzの違いは4%とあまり大きくなかった。また、Celeron 500MHzとCeleron 466MHzの違いも3.5%とやはりわずかな差であるといっていいだろう。

Business
Winstone 99
High-End
Winstone 99
Pentium III 600MHz34.028.2
Pentium III 550MHz32.527.1
Pentium III 500MHz31.025.7
Pentium III 450MHz29.624.3
Celeron 500MHz29.023.6
Celeron 466MHz27.822.8
Celeron 433MHz27.522.1
Celeron 400MHz26.821.8
Celeron 366MHz25.720.2
Celeron 333MHz22.217.0
K6-III/45032.024.7

 動画再生やオーディオ再生などにおける処理能力を計測するテストであるFutureMarkのMultimediaMark99では若干異なる傾向の結果が出ており、Pentium III 600MHzと550MHzの違いは7.8%と他のテストに比べるとやや大きな差となっている。

MultimediaMark99
Pentium III 600MHz1,824
Pentium III 550MHz1,692
Pentium III 500MHz1,565
Pentium III 450MHz1,422
Celeron 500MHz1,125
Celeron 466MHz1,061
Celeron 433MHz1,001
Celeron 400MHz 937
Celeron 366MHz 871
Celeron 333MHz 794
K6-III/450 949

 3Dゲームにおける総合的な処理性能とCPUのジオメトリ演算能力を計測するFutureMarkの3DMark99 Maxでは最も性能アップ率が小さかった。3DMark99 Maxでは、3Dゲームで行なわれるジオメトリ演算(物体の位置などを計算することで、多くの3DゲームではCPUを利用して行なわれる)の性能を計測する3D CPUMarkとレンダリング(物体を描画したり、テクスチャ=模様を張ったりすること)までを含めて総合的な3D描画性能をはかる3DMarkの2つのテストが用意されている。両テストとも1%程度のパフォーマンスアップでしかなかった。

【3DMark99 Max】
3DMark3D CPUmark
Pentium III 600MHz2,6408,122
Pentium III 550MHz2,6328,040
Pentium III 500MHz2,6147,717
Pentium III 450MHz2,6077,018
Celeron 500MHz2,4384,377
Celeron 466MHz2,4264,170
Celeron 433MHz2,4063,954
Celeron 400MHz2,3723,732
Celeron 366MHz2,2353,474
Celeron 333MHz2,2123,204
K6-III/4502,2197,146

【テスト環境】
マザーボード:ASUSTeK Computer P2B(Pentium III、Celeron)
       MSI MS-5169(K6-III)
メモリ:128MB(PC/100、CL=3)
HDD:Quantum Fireball EX6.4A
ビデオカード:カノープス SPECTRA 3200 R2
サウンドカード:YMF-724搭載ノンブランド
解像度:Winstone99/MultimediaMark99
    1,024×768ドット/16bitカラー/100Hz
    3DMark99 Max
    1,024×768ドット/32bitカラー/100Hz


●コストパフォーマンスでCeleron、絶対パフォーマンスでPentium III

 結論から言えば、MultimediaMarkを除き、ほとんどのテストにおいてもPentium III 600MHzとPentium III 550MHzの差は5%以内となり、クロック分(9%)すらもパフォーマンスが向上していないことがわかる。

 それでは、インテルのCPU全般を見渡して、どのCPUが最もお買い得と言えるだろうか? 今回はビジネスアプリケーションで利用する場合に限ったときにどのCPUがお買い得かを出すために、以下の計算式で7月31日付けのAkiba PC Hotline! CPU最安値情報を元に1万円当たりのWinstone 99スコアを算出してみた。

 Business Winstone99のスコア÷CPUの最安値価格×10,000

Business
Winstone 99
7月31日付け
最安値
1万円あたりの
Winstone 99
Pentium III 600MHz34.080,800  4.21
Pentium III 550MHz32.579,600  4.08
Pentium III 500MHz31.051,300  6.04
Pentium III 450MHz29.627,890 10.61
Celeron 500MHz29.021,999 13.18
Celeron 466MHz27.815,800 17.59
Celeron 433MHz27.512,800 21.48
Celeron 400MHz26.89,790 27.37
Celeron 366MHz25.78,480 30.31
Celeron 333MHz22.28,300 26.75
K6-III/45032.023,800 13.45

 結論から言えば、Pentium IIIで最もよいスコアを残したのがPentium III 450MHzだが、それでもCeleronに比べると圧倒的にコストパフォーマンスが悪いのは一目瞭然だ。同じように、3DMark99 MaxのCPU 3DMarkの1万円当たりのスコアを計算してみた。

 CPU 3DMarkのスコア÷CPUの最安値価格×10,000

3DMark99 Max
3D CPUmark
7月31日付け
最安値
1万円当たりの
3DMark
Pentium III 600MHz8,12280,8001,005
Pentium III 550MHz8,04079,6001,010
Pentium III 500MHz7,71751,3001,504
Pentium III 450MHz7,01827,8902,516
Celeron 500MHz4,37721,9991,990
Celeron 466MHz4,17015,8002,639
Celeron 433MHz3,95412,8003,089
Celeron 400MHz3,7329,7903,812
Celeron 366MHz3,4748,4804,097
Celeron 333MHz3,2048,3003,860
K6-III/4507,14623,8003,003

 こちらは若干Pentium IIIが挽回していて、Celeronとの差がWinstoneの時よりも小さくなっている。これは3DMark99 Maxがインターネット・ストリーミングSIMD拡張命令(SSE)に対応していることに関係があるだろう。このように、SSEに対応しているアプリケーションでは若干話が変わってくるが、それでもコストパフォーマンスでCeleronがお買い得であるという事実にはかわりがないようだ。

 以上のように、コストパフォーマンスを追求するユーザーには圧倒的にCeleronやK6-IIIがお奨めであるのは、上記の2つの結果を見ていただければ納得してもらえるだろう。そのCeleronの最高クロックCPUとして、若干お買い得度は低いクロックのCPUに劣るものの、少なくともどのクロックのPentium IIIよりはお買い得と言えるCeleron 500MHzは悪くない選択と言えるだろう。標準的なユーザーであれば、現時点ではCeleronを購入するのがお奨めといっていいだろう(予算に限りがあって、コストパフォーマンス重視ならお買い得度が高いCeleron 433MHz、400MHzがお奨めだ)。

 もちろん、Pentium III 600MHzの存在価値がないということを言うつもりはなく、現時点で入手できるx86系CPUの最高性能を発揮するCPUとして価値はある。常に性能重視のユーザーであれば、(少なくとも現時点では)Pentium III 600MHzは最も優れた選択だと言える。また、若干の性能差でも仕事の能率に影響を与える企業ユーザーにとっても悪くない選択だろう。例えば、デザイン事務所やプログラマなどではこうした最高速度のCPUは意味がある。プログラマにとってはこれまでコンパイルにかかっていた時間を5%でも節約できれば、その分をコーディングにかけることが可能で、たとえ数万円高かったとしてもその5%の時間分ソフトを作って利益につなげれば十分取り返せるコストと言える。しかも、意外なことにPentium III 600MHzとPentium III 550MHzのリテールパッケージにおける最低価格の差は1,200円でしかない。平均価格でも3,366円でしかなく、少なくとも550MHzを購入するよりは600MHzを購入した方が得になっている。少なくとも550MHzか600MHzかでは迷うことなく600MHzを購入した方がいいだろう。

 ただ、この評価もAMDがAthlonを正式にリリースするまでの可能性が高い。既にAMDのサイトにはAthlonとPentium IIIのベンチマーク比較結果がアップロードされているが、その結果を見る限りでは同じクロックのAthlonとPentium IIIではAthlonの方が高い性能を発揮している。Athlonが入手できていない現状ではAMDのサイトに載っている結果が本当かどうかは確かめようはないが、基本的にはこうした傾向を示す可能性が高い。となると、筆者が述べたようなPentium IIIの存在意義に大きな影響を与える可能性もあり、Athlonが登場した時にもう一度そのあたりの評価をやり直す必要があるだろう。

□AKIBA PC Hotline! 関連記事
【7月31日号】Celeron 500/Pentium III 600の公認フライング販売開始
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/990731/etc_c5p6.html


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[Text by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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