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Intel、600MHz Pentium IIIを夏に、Socket 370版Pentium IIIを年内に投入

●IntelがMPU戦略を大幅修正

 Intelは、MPU戦略をまた軌道修正したようだ。それも、ますますアグレッシブに。

 業界筋の情報によると、まず、新しい戦略ではデスクトップの高クロック化をさらに前倒しし、この夏にPentium IIIプロセッサの600MHz版を出すことにしたらしい。また、IntelはPentium IIIのソケット化も年内には始めるという。第1段階として、Socket 370版Pentium IIIを投入、さらに来年には新しい418ピン(!)のソケット対応Pentium IIIを投入すると言われる。

 一方、バリューPC向けのCeleronプロセッサは、66MHz FSB(フロントサイドバス)ベースのまま533MHz以上の製品を投入してゆくと伝えられている。となると、SSE搭載Celeron(Coppermine-128K)の投入は、来年中盤ごろになりそうだ。また、来年後半からは、グラフィックス統合型MPU「Timna」も出す計画でいるという情報もある。

 Intelはサーバー/ワークステーション分野でも戦略を修正した。当初ハイエンド向けに登場するとされていたMercedは、バーゲン価格となりミッドレンジ向けにも投入されるらしい。

 今回は、IntelのMPU戦略のうち、Pentium IIIに関する最新情報をまとめてみたい。

●0.25ミクロン版Pentium IIIで600MHzを緊急投入

 Intelは、9月に0.18ミクロン版Pentium III(Coppermine)をデビューさせる計画だと言われている。Intelも、公式に第3四半期中に立ち上げると言っており、このスケジュールはほぼ確実だ。そして、Pentium IIIは、このCoppermineで初めて600MHzに到達すると見られていた。

 だが、同社は高クロック化の予定を1カ月ほど繰り上げたらしい。IntelのOEMなどの情報によると、同社は夏にPentium III 600MHzを出荷することに変更したようだ。しかし、このPentium IIIは、Coppermineではなく0.25ミクロン版Pentium III(Katmai)で、しかも133MHz FSBではなく100MHz FSBになるという。

 Katmaiコアが、600MHzでもある程度の量は採れることは予想されていたことなので、技術的には驚くことではない。興味深いのは、なぜこんな製品ロードマップを混乱させるチップを急に出すことにしたのか、という点だ。 混乱と言っているのは、このKatmai 600MHzが、9月にはCoppermine 600MHzに置き換えられていたはずだからだ。Intelは、Coppermine 600MHzでは100MHz FSBと133MHzFSBの両バージョンを出すと言われている。となると、Coppermineがすんなり出るなら、Katmai 600MHzの居場所はない。

●推測できる2つの理由

 そこで考えられるのは、(1)Coppermineの歩留まり向上で苦しんでいて、Katmai600MHzを穴埋めに出そうとしている可能性と、(2)マーケティング的な理由で600MHzの製品をどうしても早く出したいという可能性の2つだ。

 (1)に関しては可能性はある。Intelの0.18ミクロンプロセス自体は、MobilePentium IIを見るかぎり順調に立ち上がっている様子だが、Coppermineダイの歩留まりはまだわからない。600MHz以上のクロック品が十分な量採れるように、クリティカルパスをつぶしていかなければならないからだ。これが間に合わないと、Coppermine600MHzが十分な数量を出せない可能性も出てくる。その穴埋めにKatmai 600MHzを投入するというのもありうる。しかし、Intelはこのところ歩留まり向上に関してはミスがほとんどないので、この可能性は低いと思われる。

 (2)は、「600MHzの製品をどうしても8月に出したい」ワケがあるという可能性だ。じつは、こちらはかなりありうる。というのは、8月には、AMDのK7プロセッサの出荷が始まると言われているからだ。K7は、最高600MHzのクロックで登場する。つまり、これがCoppermineの前に登場すると、一瞬であってもIntelは最高クロックのPC用MPUの冠を奪われてしまうのだ。それを避けるために、Coppermineの用意が整う前に、とりあえずKatmai 600MHzを投入して、K7 600MHzを迎え撃たせるというマーケティング上の判断を行なったというのは、十分ありえるだろう。

 IntelがKatmai 600MHzは限定された数量しか出荷しないと、メーカーに伝えているという情報も、このチップがマーケティング製品的な位置づけにあることを裏付ける。Intelは、Katmai 600MHzをゲームユーザーなど、コンシューマPCのハイエンド層にとくにフォーカスして投入すると言われているが、これもK7が当初ターゲットにする層と、ぴったり重なる。

●Pentium IIIのソケットは2種類に?

 Intelは、Coppermine登場以降は、Pentium IIIのソケット化も進める。2次キャッシュSRAMを外付けではなくチップに統合してしまうことで、PGAパッケージに収めることが可能になるからだ。現在のPentium IIIのSECC2パッケージよりもPGAパッケージの方が製造コストは10ドル程度低いと言われている。そのため、Pentium IIIがSECC2からPGAへ移行するのは自然な流れと見られていた。

 さて、Intelは、Pentium III(Coppermine)用にFC-PGAと呼ぶパッケージを用意すると、OEMメーカーなどは伝える。これは、フリップチップ版PGAの意味だと思われる。

 当初、このFC-PGAはPGA370、つまりSocket 370用のパッケージで提供されると見られていたが、ここへ来て、IntelがSocket 370以外の新しいソケットを検討しているという報道が相次いでいる。このあたりの情報は錯綜していてよくわからないが、どうやら、Intelは2種類のパッケージを考えているらしい。

 ひとつは、現在Celeron用に使われているPGA370と同じピン配列のパッケージ。こちらは100MHz FSBで予定通り年内、それもクリスマス商戦に間に合う時期までに登場し、シングルプロセッサだけのサポートされると言われている。また、このパッケージのCoppermineのクロックは550MHzと600MHzの2種類という情報も入っている。しかし、これは、Coppermineのクロックが600MHz以上という従来の情報とは矛盾するため、まだわからない。

 一方、Intelは、133MHz FSB用には新しくピン数を418に増やしたパッケージを、来年に向けて考えているとある業界関係筋は伝える。こちらは、詳細な情報が入っていないのでこれ以上はわからないが、Coppermineは基本的に133MHz FSBへと移行する方向にあることを考えると、こちらのパッケージが本命だと思われる。

●PGAパッケージの互換性は?

 Intelのソケット版Pentium IIIのパッケージが、現在流れている情報の通り2種類に分かれるとすると、その意図が気になるところだ。ピン数を増やさないと133MHzFSB化が難しいという理由かもしれないが、マーケティング的な配慮という可能性もある。

 まず、年内に登場すると言われるPGA370版Pentium IIIは、どうやらかなり限定されたものになりそうだ。じつは、4月頃にすでに、ソケット版Pentium IIIを年内は限定された数しか出さないし、価格もSECC2版よりも高くなるとIntelが通告しているという情報が入っていた。ソケット版Pentium IIIは、グラフィックス統合チップセットとの組み合わせで、FlexATXの新しいフォームファクタにフォーカスしたものになるという話だったという。

 だとすると、最初からIntelは、PGA370のPentium IIIはメインストリームではないとクギを刺していたことになる。もし、OEMに限定した量しか出さないとなると、少なくとも年内は秋葉原などでリテールに大量に出回るかどうかわからない。

 そもそもPGA370のPentium IIIは、PGA370のCeleronと共通のマザーボードを使えるのだろうか。電気的には、この2つは互換だと考えられるので、技術的には可能だと思われる。ただし、Intelが自社のチップセットで公式にサポートするかどうかはわからない。

 Intelは、次のグラフィックス統合チップセット「Intel 810e」と次の次の統合チップセット「Solano」で、Pentium IIIとCeleronの両対応を正式にすると言われている。おそらく、このあたりのチップセットのマザーボードでは両対応を正式にアピールするものが出てくるだろう。実際、マザーボードメーカーなどはそういう製品計画でいるようだ。

 PGA418が登場した場合は、さらに話はややこしくなる。PGA370とPGA418の互換性はどうなるのか。Intelが418ピン化する時に、ピンのピッチを狭くすると互換性は失われる。しかし、ピッチが同じなら、Intelが418ピンソケットでPGA370もサポートできるようにしさえすれば、互換性を保つことも可能だろう。このあたりは、Pentium IIIとCeleronの間にあくまでも壁を設けるのか、それともユニバーサルマザーボードを作れるようにするのかというマーケティング的な判断になりそうだ。Pentium IIIもPGA370で出すことを考えると、おそらく互換性を確保する方向にいくのではないだろうか。

●133MHz FSBへの移行がより確実に

 このほかPentium IIIの新情報としては、100MHz FSBと133MHz FSBの並列が予定されている期間が短くなった。Intelは、昨年はCoppermineからは133MHz FSBに移行するとしていたが、今年に入ってからCoppermineを100MHz FSBと133MHz FSBの2ライン化する計画を、OEMメーカーに伝えていた。その際の製品発表計画は以下の通りだったと言われている。

'99Q3'99Q42000Q1
133MHz FSB600MHz667MHz733MHz
100MHz FSB550MHz650MHz700MHz

 だが、このうちの700MHzはどうやらなくなったらしい。それだけ並列する期間は短くなったことになる。現在の予定は、どうやら次のようになっているようだ。

'99Q3'99Q42000Q1
133MHz FSB600MHz667MHz733MHz
100MHz FSB600MHz650MHz

 これは、Intelが133MHz FSB移行にそれだけ確信を持ったことを意味している。このあたりは、チップセット戦略とも絡んできそうだ。

 以上がPentium IIIについて、現在わかっている情報だ。Celeronに関しては、次回のコラムでお届けしたい。また、サーバー/ワークステーションMPUとモバイルMPUに関しても、近日中に紹介したいと思う。


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('99年6月21日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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