一ヶ谷兼乃の「PCパーツ天国」

中・上級者向けパーツレビュー

一ヶ谷兼乃の「PCパーツ天国」 第10回

K6-III試用レポート

~ Socket 7起死回生なるか! ~


■最近のSocket 7ってどうなの?

 現在、自作系のPCショップに行くと、多種多様なマザーボードが販売されている。その中でも、CPU自体が低価格で、クロックアップも楽しめるCeleronや、新しい命令を搭載したPentium IIIなどの順調な売れ行きにともなって、Slot 1やSocket 370対応マザーボードが好調だ。それとは対照的に、今一つ元気の無いのがSocket 7対応マザーボード。対応CPUの低迷が、マザーボードの売れ行きにも密接に関係しているようだ。


■Socket 7陣営の起死回生のK6-III

 そんな今一つ元気のないSocket 7陣営の起死回生を狙って登場したのが、AMD-K6-IIIだ。K6-IIIはCPUコアと同クロックで動作する64KBの1次キャッシュと、256KBの2次キャッシュを内蔵し、3DNow!に対応しているのが大きな特徴。AMDの発表では、同じ動作周波数のPentium IIIと同等か、それ以上のパフォーマンスが得られるとしている。

 今回は、このSocket 7対応最新CPU K6-IIIを試用レポートする。



■400MHz版 K6-III

K6-III
 K6-III/400。コア電圧2.4V、FSB 100MHz、内部倍率4倍で動作する。
 4月に入れば、450MHz版も発売される予定になっているが、現在発売されているK6-IIIは400MHz版のみである。400MHz版 K6-IIIの定格動作は、FSB 100MHz、内部4倍の400MHzとなっている。

 今回、K6-IIIを動作させたマザーボードは、ASUSTekP5Aだ。FSBを60MHzから120MHz、動作電圧も2.0Vから3.5Vまで設定でき、チップセットにはALIAladdin 5 AGPsetを採用している。このマザーボードに、PC-100仕様のSDRAMを128MB搭載。また、手に入れたK6-IIIはバルク版なので、別途CPUファンも用意した。用意したファンは、特別なものではなく、自作系PCショップでみられる標準的なサイズのものだ。そして、OSにはWindows 98をインストールした。

 まず最初にチェックしたのは、内部倍率の設定である。とりあえずFSBを100MHzにして、3.5倍の設定(350MHz動作)から始めてみた。当然ではあるが、この設定では問題無くWindows 98が起動。次はメーカー推奨の400MHzで起動。これも、Windows 98が起動し、アプリケーションも問題無く動作した。さらに、メーカ保証外の450MHz(内部4.5倍)に設定してみた。これも、あっけなくWindows 98、アプリケーションともに正常動作した。そこで5.0倍設定(500MHz)も試してみたが、エラーとなり起動できなかった。

P5A Aladdin 5 AGPset
 ASUSTek P5A。FSB 60MHz~120MHz、動作電圧 2.0V~3.5Vまで設定できる  ASUSTek P5Aは、チップセットにAladdin 5 AGPsetを採用している。


■K6-IIIのパフォーマンスは?

 次に、K6-IIIのパフォーマンスを調べるために、数種類のベンチマークソフトで計測してみた。比べてみたのは、Celeron 300AをFSB 100MHzのオーバークロックで動作させた450MHz動作のものである。これでK6-IIIを450MHz動作させた場合と内部倍率、FSB、コアクロック周波数が同じ条件になる。なお、Celeronのシステムは、マザーボードにAbit BH6、ビデオカードにはATI XPERT 98を選択した。

【Super_PI 104万桁】
CPU時間(分)
K6-III 400MHz 3rd無し6:34
K6-III 400MHz 3rdあり6:46
K6-III 450MHz 3rd無し6:08
K6-III 450MHz 3rdあり6:04
Celeron 450MHz4:04

 まずは、円周率の計算を行なう「スーパーπ Ver 1.1」の結果を見て欲しい。3rdキャッシュ有りと記述しているものは、マザーボード上の512KBのキャッシュメモリを有効にしているもの、3rdキャッシュ無しとは、マザーボード上のキャッシュを無効にしたものだ。これを見る限りではK6-III 450MHzがCeleron 450MHzの1.5倍の時間を要しており、AMDがいうようなPentium IIIと同程度のパフォーマンスがあるとは思えない。

 しかし、他の2つのベンチマークソフト「WinTune98」、「HDBENCH」の結果を見ると、どちらも整数演算に関しては、同クロックのCeleronよりも2~4割程度優れた結果となっている。それに反して、浮動小数点演算に関してはCeleronより結果は悪く、その差はWinTune98では僅かだが、HDBENCHでは大きな差になっている。また、このベンチマーク結果で特徴的なのはWinTune98のMMXの項目で、K6-IIIのほうが45%も速いとでている。

【WinTune98 CPU】
CPUDhrystone
time(秒)
Whetstone
time(秒)
Integer
time(秒)
Floating
time(秒)
MMX
time(秒)
K6-III 400MHz 3rdあり1.90.0214.36.95.3
K6-III 450MHz 3rdあり1.70.0194.06.24.9
Celeron 450MHz1.50.0197.56.58.8

【HDBENCH CPU】
CPU浮動小数点整数演算
K6-III 400MHz 3rdあり25,12431,074
K6-III 450MHz 3rdあり28,27234,967
Celeron 450MHz37,48929,750

 なぜ、スーパーπの結果が、Celeronに大きく水をあけられたか原因を調べてみると、メモリのパフォーマンスが比較的低く、これが足を引っ張っているようだ。CPU自体というよりは、マザーボードやチップセットでの差ともいえるが、AMDの性能評価で使用されているマザーボードでの動作結果であり、単にマザーボードの問題だといって無視することはできない。今回使用したP5Aよりも、K6-IIIのパフォーマンスを引き出せるマザーボードが存在すればいいのだが……。

 さて次に、K6-IIIの一般的なアプリケーションのパフォーマンスはどうだろうか。当然のことながら、ExcelやWordといったオフィスアプリケーションを動作させるには全く問題のないパフォーマンスであった。そこで、よりCPUパワーの必要なアプリケーションを動作させてみた。最近話題になっているソフトウェアDVDプレーヤーである。ビデオカードは最新ではないものの、動画再生では定評のあるATI XPERT@Play(PCI版)を使用した。プレーヤーはCyberLinkPowerDVD体験版だ。まずは、K6-III 400MHz動作でDVD再生を行なったところ、再生はできるものの多少ギクシャクしてしまうところがある。450MHz動作になると、まったくコマ落ちがないわけではないが、鑑賞していて気になるようなところは無くなった。ビデオカードの問題もあるにせよ、ソフトウェアDVDプレーヤーを動かすには、450MHz以上での動作が望ましいという結果となった。ちなみに450MHz動作のCeleronでは、PowerDVDでコマ落ちを感じることはなかった。ビデオカードに搭載されているビデオチップが同等であることを考慮すると、Celeronのシステムのほうが、多少ではあるがDVD再生に有利そうだ。ただ、筆者は、AV機器のDVDプレーヤーでの再生画面を見慣れているために、評価が全体的に辛目であることを付け加えておく。


■結局K6-IIIは買いなのか?

 現在K6-IIIは、少なくとも今回いくつかのアプリケーションをテストした限りでは、CPUの持つパワーを十分発揮されているとは思えなかった。価格も今のところ400MHz版K6-IIIは、同周波数のPentium IIよりも若干安い程度である。CPUのパフォーマンスを考えると、妥当な価格なのかもしれないが、CPU単体のK6-IIIの予算があれば、Slot 1やSocket 370対応マザーボードとCeleronといった組み合わせでも十分購入できてしまう。

 つまり、今Socket 7対応マザーボードを使っているから、“Socket 7対応CPU「K6-III」を選択しなければならない”という図式にはならないということだ。

 まぎれもなくK6-IIIは、Socket 7対応CPUでバツグンのパワーを持ったCPUである。ただ、既にSlot 1に移行していれば、わざわざSocket 7システムを組む人は少ないだろう。つまり、現在のSocket 7ユーザーがK6-IIIを受け入れるか否かが、K6-IIIとSocket 7の将来を左右するのではないだろうか。

 もちろん、現在パワーのあるSocket 7対応CPUを探しているのであれば、K6-IIIを積極的に購入するのは正しい選択だ。しかし、すぐに飛びつかずに、販売価格の値下がりも期待しつつ自分の使っているPCをどのようにパワーアップしていくのか十分検討してから、購入するのも一つの方法だろう。

□関連記事
【2月23日】AMD、L2キャッシュ内蔵、L3キャッシュまで対応したK6-III
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990223/amd.htm

[Text by 一ヶ谷兼乃]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp