日本アイ・ビー・エム株式会社 パーソナル・システム事業部 竹村 譲氏 ThinkPad 220以後のThinkPad製品の企画開発を担当。'99年はPCコンパニオン製品に注力されるようで、どんな周辺機器が出てくるか期待だ |
ボイスのほうはほとんど、マイクロフォン以外はソフトウェアの製品なんで、IBMで売ることにほとんど問題はなかったんです。でも、CrossPadはまず、ペンとか、パッドとか、そういうものが要ります。また、その販路を考えると、米国の倉庫のような文具店って、店鋪も広いですし、パソコンとかも平気で置いてあるんです。日本の文房具店みたいに、家族でやってるようなところはほとんどないんですよ。そんなわけで、Office Depotとか、Staplesというような大型店鋪があるんですが、そういうところで販売するのが自然だろうということになりました。
また、どうしてCross社かというと、IBMはお客様に配ったりするのにCrossのボールペンをたくさん買ったりしていて、もともとCross社とは良い関係を持っていたんです。また、CrossさんもiPenというパッド、俗にいうスタイラスのデジタイザですね。そういう製品をたまたま持っていた。彼らも今後は文房具からテクノロジー製品にいかなくてはいけない、というのがありました。
聞き手:塩田紳二氏 CrossPadを米国Web通販サイトから直輸入。その後はノートPCに代わってCrossPadを常に携帯している塩田氏。CrossPad XPを購入(やはり米Web通販で)してからは、XPを持ち歩いている。自宅の環境はサービス開始まもなくからOCNを導入、PC Unixサーバーを立てているなど、かなりマニアック(というか、もともと古くからのUnixユーザーなのだが) |
ところが日本で販売することを考えると、文具屋さんは厳しい。それはもう、みなさんおわかりになると思いますけれど、日本でこれを売れる文具屋さんというと、ハンズさんと伊東屋さんくらいで、ほとんど不可能ですよね。ですから日本では文房具屋さんよりもパソコンショップで売る方がいいだろうということになりました。
パソコンショップで扱っていただくときに、IBMの製品として出すのもいいですけど、Crossさんの製品として販売しても特に悪いことはないですし、ぼくたちもペンでお世話にならなくちゃならないし。そういう観点で、日本では販売はIBMでやるけれども、Crossさんのロゴのままでやろうということに決めたんですよ。
ですから実際にはInk Managerとか、Ink Transferなどは全部IBMのコピーライトですし、ほとんどすべてがIBMの開発物なんですよね。実際にはCrossさんに、こういう形で作ってください、と。作るのはどこでCrossさんがやられてもけっこうですよ、これはCrossさんのものですから、と。まあそれをいただいて、日本でも売りますよと、そういうことなんですよ。
ユーザーインターフェイスの段階 |
パソコンて、人間から見ると小さな子供なんですよ。いまパソコンは何でもできる、表計算は縦のマトリックスが5,000行あっても計算するといっても、単純計算ができるだけなんですよ。パソコンてのは小さな子供で、だからこちらがしゃがんで話しかけてやらなくてはわからない。指をさして、あそこに何があるね、その隣にお買い物にいっておいで、と言わなくてはわからない。それも、たとえば“ショッピング”というとわからないけれども“お買い物”とか“お使いに行ってね”といえばわかる、というように、言葉も選ばなければならない。そういうのが全部僕たちから見ると『キーボード』なんですよ。
こうしたツールの開発をIBMはなぜやっているかというと、ボイスで話して、手書きでコンピュータに伝えたい。図の中央では、小さな女の子が成長してけっこう大きな女の子になってきているんですね。ですからこの絵ではテーブルで表わしているのが、僕たちがブリッジング・ハードウェアとかデバイスと呼んでいる、音声や手書き入力ツールなんですが、そのブリッジング・ハードウェアを介して、彼女には、口と、目とのコミュニケーションができる。要するに、オーラル&アイコミュニケーションができるようになると、いうのがこの中央の絵です。
そして、これからさらに進んでいくと、背の高さは、ほとんど人間と等身大になってきて、そうすると、まったくそういうブリッジング・デバイスも要らなければ、言葉なしでもできるようになる、というのが右の絵です。変な話、この絵のように女の子が抱きついちゃうというくらい、普通に以心伝心できるようになる、というストーリーで考えて、いまこのまん中まで来ているわけですね。
テクノロジーによってユーザーインターフェイスを改善していって、どんどん人間に近付けて、コンピュータを誰でも自然に使えるような環境を目指す、というのが僕たちの一番のベースなんですよ。
ですからこの製品が唐突に出てきたというわけではなくて、インターフェイスを改善するひとつの要素としてやっていこうということなんです。IBMではいろんなものを今後やる予定で、立体スキャナとしてのデジカメとか、スキャナでもオフラインで使えるものとか、最近は出ていますよね。そういうものとか。あとはPDAで、単体で使えて、くっつくといいと。そういう製品を僕たちいくつか考えてるんです。
最終的にはコンパニオンという名前にしているのは、非常にまあ安易な名前なんで逆にみなさんが抵抗なく言えるというのがひとつですね。それと、コンパニオンというのは、辞書ひかれると書いてあるのが、友達とか親友とか伴侶とか、ですよね。で、PCの伴侶、ということはつまり、もちろん使うのは人間ですから、人間とPCの、どちらからみても友達と思えるような、そういうような製品をやっていこうと、そういうことなんです。
ですからコンパニオンというからには、コンセプトがないといけません。僕たちは、コンパニオンに3つだけ要素を作って、ひとつは“インテリジェント”ということがあります。まず、単体で使えなくちゃいけない。2つめに、その製品がグローバルであること。たとえ日本だけで売っているとしても、世界的に出せるもの、世界的な背景がある、方言の製品ではないもの、ということです。3つめは、インテリジェントの性能を、繋いだ時、コネクティビティを持ったときかあるいは転送したときか、あるいは一緒に動かしたときに、相乗効果があること。必ず1+1が2以上にならなくてはならない。その3つの要素を持っている製品をコンパニオンと呼ぼうということにしました。
たとえば、今後はスキャナとかがもっとインテリジェンスをもって、便利なものになってくる。カメラだって多分、'99年以後のカメラはIPアドレスを持っているとか、インターネットに繋がるとかイーサネットに繋がるとか、そうなってくるはずなんですよ、確実に。単体で使えるようになってくる。
日本の周辺機器メーカーさんは、世界でもまれに見るほどに優秀なんですよ。ただ周辺機器メーカーさんがどうしても、パソコンありきでものを考えている傾向があるんです。それは間違いじゃないかと。日本の周辺機器メーカーさんにも考え方を変えてほしいなあというのがありますね。そういう、周辺機器は今後はもう中心なんだと。エプソンさんなんかはもう、そう思っていると思うんですよね。ですからエプソンさんとか、最近オフラインで出るプリンタとかを作られてますね。傾向として、今後そうなってくると思います。
そういう方向に行かないと、パソコンは誰がどう作っても、インテルさんとマイクロソフトさんでやってるから、同じものしか出てこないんですよ。パソコンは次のモデルを作るのに、6カ月あれば、あるいは3カ月あれば作れる。でも、デジタルカメラを1から作ろうと思ったら、16カ月とか、あるいは20カ月とかかかるんですよ。これは、アーキテクチャを作るからですね。パソコンはアーキテクチャは作らなくていいんですよ。もうATがあったから、またマイクロソフトがあったから。だから時間がかからない。
そういった意味で、今後のPC市場では周辺機器が本命で、周辺機器がインテリジェンスを持ち始めて、単体で使えて、PCと接続すると便利というように進化していくと思います。そういうものを僕たちはいろいろなメーカーさんに期待もしたいし、いいものがあればそれをピックアップしてうちで出すとかもやりたいという感じなんですよ。そういう一連の流れの中の、ひとつの製品なんですよ、このCrossPad自体が。そういうふうに考えていただければ、僕たちがいま何を考えているか、何をしたいかがわかっていただけると思います。
認識くらい簡単にできるじゃないか、という人はザウルスを考えているわけですね。ザウルスは入力の枠が決まっていて、その中に書いていますから、あの認識はわりと簡単なんです。日本語では漢字のへんとつくりをくっつけて見るか離して見るかで違ってきますから、あの入力枠は、へんとつくりをひとつの文字としてみるための枠なんですよね。CrossPadではその枠がない。そうすると、そのへんとつくりをどうコントロールするか。そういう問題が、日本語には絶対ついてまわるんですよ。それに対していいテクノロジーというか、コンセプチュアルなものがなかなか無いんですよね。現実にいま、IBMもそういうものを持ってはいるんですけれども、それでどこまで精度が出るかという観点から、もうひとつはっきりしない。方向としてはやりたいんですけども。
もうひとつ、文字認識を強く打ち出したくないというのがあるんですよ。これは溢れるくらい自由なアイディアを、めちゃくちゃに書いても、適当なキーワードで、どんなに大量になっても探してくれる、というのがベースの製品なので。文字認識をやると、そこが誤解されて一部のユーザーにあれはViaVoiceの手書き版だと、思われるのがいちばん嫌なんですよ。
とくに、使ったことがなくて、はじめて見た人は、全部OCRできたらいいな、と考える傾向が、日本人は強いんですよ。漢字に苦労してますから(笑)。それはできるだけ避けたい。どちらかというと、イマジネーション、絵とか、そういうものが混在した世界をうまく保存して、それをキーワードで検索して、ネットワークで誰かのものを検索してと、そういう製品なんです。
基本的な方向性としては、やりたいと思っています。ただあんまりそこに力を入れてお金がかかって製品が高くなってしまうとまずいですし。僕たちはいま、これは機能的には複雑にせずに、安く薄く軽く、というのが当面の3つのテーマなんですよ。それ以外のところは、現在はそれより優先順位として低い、ということなんです。その3つ以外では、文字認識はもちろんもっとも大事な課題のひとつですし、エンジニアもOCRとかみんなやりたがっていますので、もちろん視野にはつねにあります。
僕個人としては、これはユーザー層の違いから、Mac版はぜひともやりたいと思っているんですけどね。Mac版に対応するとしても、それは何年もかかるというプロジェクトではないですが、それをやった分だけ、本当に売れるかどうか、がキーなんですよ。ですからこれは、Macユーザーの人ががんがん言ってくれればできると思うんです。これはもう、いろんな人から言われてますから。実際、デザイナーの方とか、実際に買われた方とかとお話しするんですけども、やっぱり、Mac版をやってくれと言われますね。
編集部では、CrossPadについてのご意見などお待ちしております。編集担当者あて、サブジェクトは[Crosspad]でお送りください。
[Interview by 塩田紳二/Text by hiroe@impress.co.jp]