プロカメラマン山田久美夫の

「キヤノン PowerShot Pro70」β機ファーストインプレッション

  キヤノンから待望のハイスペックモデル「Power-shot Pro70」が11月にようやく発売される。今回は画質評価可能なベータ版モデルが届いたので、早速その実写データとファーストインプレッションをお届けしよう。恒例の定点撮影では、比較しやすいように、ライバル機である「オリンパス C-1400XL」、「SONY Cyber-shot PRO」の実写画像も同時に掲載する。


 


 

●大柄なボディー

 すでにいくつかのイベントで手にしている本機だが、実際に手元に来て撮影に持ち歩いてみると、ボディーが結構大柄であることにあらためて気付く。とくに、レンズ部がかなり太めで、グリップ部も大きいこともあって、手の小さな私には余計に大きく感じられた。なお、レンズ部は周囲が金属素材でできているため、手にするとヒンヤリとした感触がある。このあたりは同社のA5に似た雰囲気も感じる。しかし、なんとも不思議なデザインであり、機能的ではあるが、個人的には美しいとは思えない。

 ホールド感は良好で、光学ファインダーで撮影する場合はカメラブレは少ない。ただ、液晶ファインダーを使うときにはカメラを体から離してホールドすることもあって、ホールディングが安定しない。

 また、これだけボディーが大きいのに、ストロボが内蔵式ではないのは疑問だ。同社では中途半端な光量のストロボを内蔵するよりも、ストロボ使用時には外付け式の本格的なものを利用するべきだという判断という。しかし、内蔵ストロボがあって困ることはない。日常的な撮影や逆光時の補助光、屋内撮影などには便利なものであり、あえて除外する必要はないと思う。

定点撮影
ワイド端 35mm相当の画角 テレ端
キヤノン PowerShot Pro70
ワイド端 35mm相当 テレ端
ソニー Cyber-Shot PRO
ワイド端 35mm相当 テレ端
オリンパス C-1400XL
ワイド端 テレ端
注:ワイド端が35mmカメラ換算で35mmより広い機種は、他機種と比較しやすいように35mm相当の画角でも撮影。
今回の3機種では、C-1400XLのみワイド端が36mm相当。

●ボタンだらけの煩雑な操作性

屋外曇天
花(キヤノン) 花(ソニー)
キヤノン PowerShot Pro70 ソニー Cyber-Shot PRO

 操作性は特徴的で好みが分かれるところだ。本機は、メインスイッチ兼用のモードスイッチはダイアル式になっているが、それ以外の操作はすべてボタン操作になっている。しかも、細かな設定機能が盛り込まれているため、ボタンの数も多めで煩雑な印象だ。

 とくに、詳細な機能設定の際は、何回もボタンを押して、メニューの階層をたどってゆく必要があり面倒だ。逆に、露出補正やマクロモード切替など、使用頻度の高い機能にはボタンが割り当てられ、ワンタッチで操作できるので、撮影時の使用感は意外にいい。

●明るく見やすい光学ファインダー

 本機の場合、画質を最優先させるため、レンズ光学系とCCDの間に画質低下の原因になる要素を持ち込みたくないということから、あえて光学式ビューファインダーを採用したという。

 光学ファインダーの見え味は良好。視野も明るくクリアで、なかなか気持ちのいい見え味だ。だが、やはり近距離での撮影ではパララックス(視差)の影響が大きいうえ、近距離撮影時の補正指標もないため、きちんとしたフレーミングをしたい場合には液晶ファインダーがメインとなる。

 この液晶モニターの見え味は、あまり感心しない。明るさは比較的明るいのだが、表示品質は今一つ。レスポンス自体はいいのだが、表示時の階調が粗く、ハイライトが飛んだように表示される。もちろん、実際に撮影されたデータを見ると、液晶表示ほどはハイライトは飛んでいないのだが、撮影中に不安感を感じてしまう。また、液晶表示の色調も全体にクリアさがなく濁った感じだ。

 製品版では改良される可能性もあるが、15万円以上もする高価なモデルなのだから、液晶モニターの品質にもきちんと気を配って欲しい。

 また、今回は標準装備のニッケル水素バッテリーで撮影したが、フル充電状態でも液晶モニターを多用すると、驚くほど電池の消耗が早い。液晶ファインダーメインで30枚くらい撮影すると、早くもバッテリー警告が表示されてしまった。このあたりはベータ機ならではの症状かもしれないが、製品版では改良されることを望みたい。

屋外晴天
田園 家屋 夕景

●起動時間は3秒、記録は約5秒

 気になるカメラの起動時間は約3秒と十分なレベル。また、記録時間はラージの高画質モードで4~5秒とまずまず実用レベル。だが、他社の最新モデルでは、大容量バッファメモリによる高速な連続撮影機能が主流であり、待ち時間なしに撮影できるのが常識となっていることを考えると、この待ち時間(記録時間)は納得しにくい。

 また、オートフォーカスの測距時間も比較的長めだ。これはPower-shotシリーズのAFモデルの悪しき伝統ともいえるもので、従来機ほどは遅くないが、それでも平均すると約2秒と、C-1400XLの2倍近い時間がかかる。しかもファインダーが一眼レフ方式ではないので、ピントを合わせている過程がユーザーに伝わらず、数値以上に遅く感じる。また、AFの測距音も機械的であまり品のいい音ではない。もっとも、AFの測距精度は十分に高く、その点は安心だ。

●素直で自然な画質

 「画質にとことんこだわった」とメーカー側が謳うだけあって、画質はなかなか良好だ。とはいっても、本機の場合、撮影条件がいいシーンでの画質には目を見張るものがあるが、苦手な条件下では予想外の結果になるケースもある。

 1/2インチの168万画素CCD搭載機であり、高解像度の専用レンズを採用しているだけあって、解像度という点では、現行のパーソナル機でトップレベルの実力を備えている。

 だが、画像を詳細に見てゆくと、ベータ機ゆえか、ノイズっぽい感じをうけるケースがある。しかも、画面全体がざらつく感じのノイズではなく、画面上に横方向の虹色の細かな縞状のノイズが散在している点が気になる。また、画面周辺部のハイライト付近には色収差と見られる、色の滲みが明確に見られるシーンもあった。前者はCCDや内部処理、後者はレンズ性能が原因と思われるが、画質最優先をうたうモデルとしては、やや力不足な感じがある。このほか、JPEG記録時の圧縮率が全体に高めで、JPEG圧縮時のノイズが気になる部分もあった。

 同じシーンを撮影しても、Cyber-shot PROのHモード(JPEG記録で圧縮率が一番少ないモード)では700KB台なのに対して、よりピクセル数の大きなPower-shot PROでは、画質優先となるJPEG記録での高画質モードでも300KB前後と2倍前後の開きがある。ここはやはり、JPEG圧縮率がより低いモードを追加し、3モードにするべきだったのではないだろうか。非圧縮のCCD RAWモードはあるにせよ、常用するのはJPEG記録モードになるだけ に、この圧縮率の高さは気になるところだ

 色再現性はPower-shotシリーズらしく、見た目に近い自然な色調に仕上がっている。もっとも、シーンによっては、全体に色がやや浅めに感じられるケースもあり、撮影した画像データを処理せずに、そのまま利用する人にとっては、もう少しメリハリが欲しい。

 また、明暗の再現域は意外に狭め。とくに、ハイライト側は白飛びは少ないものの、白飛びする寸前で無理矢理トーンを制限している感じがあり、やや不自然な印象が残る。まあ、このあたりになると、善し悪しというよりも好き嫌いという世界だけに、好みが分かれるだろう。

 このクラスのモデルになると、ピントがあった前後のボケが自然などうかという点も気になるが、レンズ設計に無理があるせいか、ボケ味に素直さがなく、ややささくれだった感じになる傾向も見られた。とくに本機には、絞り優先AE機能があるので、機能的にはボケ味を使った作画ができることもあって、このクセのあるボケ味は好ましいものとは思えない。

室内
屋内 応接間 マクロ(椅子部分)

●オート専用のホワイトバランス

 このほか、写りに大きく関係する露出制御も、基本的には正確だが、かなり厳密な制御をしているようで、同じシーンをAFロックをし直して、何度か撮影すると、大きく露出が変わってしまうケースもあった。

 画質面で、一番不満な点は、ホワイトバランスがオート専用であることだ。通常のシーンでは明らかにおかしな色調になるケースは少なかったが、それでも他機種でデーライト固定モードなどで撮影したカットに比べると、色調に不満を感じることも少なくなかった。

 実際、同社の最新モデルである「A5ZOOM」ではホワイトバランスのマニュアル設定モードが追加されている、本機が基本的には初代の「A5」と同時期に設計されたものであることを考えれば、この仕様も不思議ではない。しかし、現時点の、このクラスのモデルで、ホワイトバランスのマニュアル設定機能が装備されていないというのは理解に苦しむといわざるをえない。

ホワイトバランス
PowerShot Pro70
オート
Cyber-Shot PRO
オート
Cyber-Shot PRO
デーライト固定
バイク1 バイク1 バイク1
バイク1 バイク1 バイク1

●さらなるリファインを

 「Power-shot Pro70」の発売は11月26日と、当初の「今夏」という予定から約半年遅れた。その間に、「C-1400XL」や「Cyber-shot PRO」といった最新のライバル機が続々登場しているだけに、そのポジションは微妙なものがある。

 これらのライバル機とは価格差があるものの、年末のパーソナル・ハイエンドクラス市場はこの3機種、または「ミノルタ Dimage EX」を含めた4機種の争いになるわけだ。その意味でも本機は、注目されるモデルといえる。

 だが今回、ベータ版モデルを使用した感じでは、スペック的に未消化な部分や、発売が半年遅れたことによる基本設計の古さを感じさせる部分があった。世界有数のカメラメーカーであるキヤノン自らが、製品名として“PRO”を名乗るには、やや力不足な感じもある。個人的には“パワーちょっと”というニックネームをあえて復活させたい思いだ。発売まで残された時間は短いが、さらにリファインされた形で登場することを期待したい。

実写データ(再掲)
バイク1 バイク2 子供
【353KB】 【314KB】 【176KB】

植物1 植物2 植物3
【120KB】 【98.9KB】 【102KB】

 

□キヤノンのホームページ
http://www.canon.co.jp/
□製品情報
http://www.canon-sales.co.jp/Product/PowerShot/ps70.html
□関連記事
【9月22日】フォトキナレポート「キャノン PowerShot Pro70ワーキングモデルなど」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980922/p_kina3.htm
デジタルカメラ関連記事インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/digicame/dindex.htm

■注意■

('98年10月26日)

[Reported by 山田久美夫]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp